この記事で分かること
- ペロブスカイト太陽電池とは:ペロブスカイト構造の物質を発電層に使う次世代の太陽電池です。軽くて柔軟性があり、フィルムや壁面などにも設置可能です。製造コストが低く、効率も高いため、新しいエネルギー源として期待されています。
- ペロブスカイト太陽電池の製造に必要な要素;塗布・成膜装置と封止装置が主に必要です。塗布・成膜には、材料をインクのように基板に塗るためのスピンコーターや印刷装置が使われます。耐久性を高めるための封止には、真空貼合装置などが不可欠です。
ペロブスカイト太陽電池製造での中小企業の参入
ペロブスカイト太陽電池は、日本発の技術であり、その特性から次世代太陽電池として期待されています。その実用化・量産化に向け、大企業だけでなく、中小企業が独自の強みを生かした部品や製造装置の開発に参入する動きが増えています。
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この背景には、ペロブスカイト太陽電池が従来のシリコン太陽電池とは異なる製造プロセスや材料を使用するため、新たなサプライチェーンが構築されつつあるという状況があります。中小企業は、特定の分野での高い技術力や柔軟性を活かし、この新しい市場で存在感を示しています。
ペロブスカイト太陽電池とは何か
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造という特定の結晶構造を持つ化合物を光吸収層に用いた次世代の太陽電池です。従来のシリコン系太陽電池とは異なり、軽量で柔軟性が高く、薄膜にできることが最大の特長です。
仕組み
ペロブスカイト太陽電池は、太陽光が当たると、ペロブスカイト層でプラスの電荷を持つ正孔(ホール)と、マイナスの電荷を持つ電子が生成されます。
これらの電荷は、それぞれ対応する層(正孔輸送層、電子輸送層)を介して電極へと輸送され、電流として取り出されることで発電します。この一連のプロセスは、シリコン太陽電池と同様に、光エネルギーを電気エネルギーに変換するものです。
メリットとデメリット
メリット
- 軽量・薄型・柔軟: フィルム状の基板に印刷技術で製造できるため、曲げることができ、従来の太陽電池の設置が難しかった場所(ビルの壁面、窓ガラス、電気自動車の屋根など)への設置が期待されています。
- 製造コストの低減: シリコン太陽電池のように高温・高真空のプロセスを必要とせず、材料をインクのように塗布・印刷して作れるため、製造に必要なエネルギーや設備投資を抑えられ、低コストでの大量生産が可能です。
- 高い変換効率: 比較的安価な材料でありながら、シリコン太陽電池に匹敵する高い変換効率を達成しています。
- 低照度でも発電: 従来の太陽電池に比べて、曇りの日や室内光のような弱い光でも効率的に発電できます。
デメリットと課題
- 耐久性: ペロブスカイト材料が水分や紫外線に弱く、劣化しやすいという課題があります。現在は、高機能な封止材や新たな材料開発によって、この問題の克服が進められています。
- 安定性: 大面積での均一な発電性能を安定して確保することが難しいとされています。
- 有害物質: 一部の材料に鉛やヨウ素などの有害物質が含まれているため、環境負荷への配慮やリサイクル技術の確立が今後の課題です。
これらの課題を解決するための研究開発が、日本を中心に世界中で活発に進められています。

ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造の物質を発電層に使う次世代の太陽電池です。軽くて柔軟性があり、フィルムや壁面などにも設置可能。製造コストが低く、効率も高いため、新しいエネルギー源として期待されています。
製造装置にはどのようなものが必要なのか
ペロブスカイト太陽電池の製造には、従来のシリコン太陽電池とは異なる、独特な製造装置が必要です。特に、薄膜を形成するプロセスと、その後の封止プロセスが重要になります。
塗布・成膜装置
ペロブスカイト太陽電池は、材料をインクのように基板に塗布して薄膜を形成する製造方法が主流です。そのため、高精度な塗布・成膜装置が不可欠となります。
- スピンコータ: 基板に材料液を垂らし、高速で回転させて均一な薄膜を作る装置。研究開発段階で広く使われています。
- 印刷装置: インクジェット、スクリーン印刷、スロットダイコーティングなど、様々な印刷技術が応用されます。これにより、大面積への塗布や複雑な形状への製造が可能になります。
- 真空蒸着装置: 溶液塗布とは異なる方法として、材料を真空中で加熱し、蒸気にして基板に付着させて薄膜を形成する装置も用いられます。均一で高品質な膜を作るのに適しています。
封止装置
ペロブスカイト材料は、水分や酸素に非常に弱いため、高い耐久性を確保するためには、完全に外部環境から遮断する封止が必要です。
- 真空貼合装置: 太陽電池の素子を封止材やガラスなどの保護層で挟み込み、真空下で熱圧着して一体化させる装置です。水分の侵入を防ぎ、長期間の安定性を保つために極めて重要です。
- 封止材塗布装置: 封止材を精密に塗布するための装置です。
これらの装置は、材料の特性を最大限に引き出し、製品の性能や耐久性を左右する重要な役割を担っています。特に、精密な塗布や真空技術、そして厳格な品質管理を可能にする装置の開発が、中小企業が貢献できる大きな分野となっています。

ペロブスカイト太陽電池の製造には、塗布・成膜装置と封止装置が主に必要です。塗布・成膜には、材料をインクのように基板に塗るためのスピンコーターや印刷装置が使われます。耐久性を高めるための封止には、真空貼合装置などが不可欠です。
どのような中小企業が関わっているのか
ペロブスカイト太陽電池の製造装置には、大企業だけでなく、特定の技術に強みを持つ中小企業が多数関わっています。主な関与分野と企業例は以下の通りです。
1. 精密塗布・印刷装置
ペロブスカイト太陽電池は、材料を基板に塗布・印刷して薄膜を形成するため、高い精度が求められます。この分野では、長年培ってきた技術を持つ中小企業が活躍しています。
- 長州産業株式会社: エネルギー機器や有機デバイス製造装置に強みを持ち、ペロブスカイト太陽電池向けの真空装置などを提供しています。
- ヒラノテクシード株式会社: 印刷・塗布機械の専門メーカーで、ペロブスカイト太陽電池の製造工程に用いられる精密コーティング技術に貢献しています。
- 倉元製作所: 薄膜形成技術に強みを持つ企業で、ペロブスカイト太陽電池の製造ライン構築に関与しています。
2. 真空・精密加工装置
ペロブスカイト薄膜を形成したり、耐久性を高めるための封止プロセスには、高精度な真空技術や精密加工技術が不可欠です。
- 昭和真空: 真空装置の専門メーカーで、ペロブスカイト太陽電池の製造工程に必要な真空蒸着装置などを提供しています。
- 三星ダイヤモンド工業株式会社: ダイヤモンド工具や超精密加工技術を持つ企業で、太陽電池製造における高精度な加工部分で貢献しています。
3. 精密貼合・封止技術
ペロブスカイト太陽電池の最大の課題である耐久性を克服するためには、素子を外部環境から完全に遮断する封止技術が重要です。
- 株式会社フジプレアム: 精密な貼合技術を強みとし、車載ディスプレイなどで培った技術を活かして、ペロブスカイト太陽電池の封止工程に関わっています。
- MORESCO: 高機能な封止材を開発する化学メーカーで、ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に貢献しています。
これらの企業は、自社の特定の得意分野を活かし、ペロブスカイト太陽電池のサプライチェーンに深く関わることで、実用化と量産化を後押ししています。
機能性材料にはどのようなものがあるのか
ペロブスカイト太陽電池の性能や耐久性を左右する機能性材料には、主に以下のものが挙げられます。中小企業や化学メーカーがそれぞれの得意分野を活かして開発を進めています。
1. 光電変換層
- ペロブスカイト材料:太陽光を吸収して電子と正孔を生成する最も重要な層です。一般的には、ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)などの有機・無機ハイブリッド化合物が使われます。この材料は、組成を調整することで発電効率や特性を変えることができます。
2. 電荷輸送層
- 正孔輸送層 (HTL):光電変換層で生成された正孔を効率的に電極まで運ぶ役割を担います。通常は、有機分子や高分子材料が使われ、その種類によって太陽電池の安定性や効率が大きく影響されます。
- 電子輸送層 (ETL):光電変換層で生成された電子を効率的に電極まで運ぶ役割を担います。酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの半導体材料が使われることが多いです。
3. 電極
- 透明電極:基板側の電極で、光を透過させる必要があります。主にITO(酸化インジウムスズ)やFTO(フッ素ドープ酸化スズ)が用いられます。薄膜技術を持つ中小企業が、これらの電極材料や成膜プロセスに関わっています。
- 対向電極:反対側の電極で、主に金や銀などの金属が使われます。軽量化やコスト削減のため、カーボン材料を用いる研究も進められています。
4. 封止材
- 封止材:ペロブスカイト太陽電池の最大の弱点である水分や酸素の侵入を防ぎ、耐久性を高めるための保護層です。高分子フィルムやガラスが使用され、特に高いバリア性能を持つフィルムの技術は日本企業が強みを持っています。
- 積水化学工業や三井化学といった企業が、液晶ディスプレイなどの分野で培った封止技術や材料を応用し、ペロブスカイト太陽電池の長期信頼性向上に貢献しています。

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