この記事で分かること
- プリント基板とは:電子部品を固定し、電気的に接続するための板です。絶縁体の板に銅などの配線パターンが形成されており、スマートフォンやパソコンなど、あらゆる電子機器の回路の土台として使われています。
- 脱中国の理由:地政学リスクの分散、人件費の高騰、そして新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱が主な理由です
- タイが選ばれる理由:政府の積極的な投資優遇策、地理的な優位性、そして自動車産業を中心とする既存の産業集積があるためです。
プリント基板メーカーのタイ進出
タイは現在、中国や台湾を中心としたプリント基板(PCB)メーカーの進出ラッシュが起きています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB056UL0V00C25A9000000/
これは地政学リスクの分散やサプライチェーンの多角化を目指す「中国プラスワン」の動きが背景にあり、タイ政府も投資優遇策を講じて誘致を強化しているためです。
プリント基板とは何か
プリント基板(Printed Circuit Board、略してPCB)とは、電子部品をはんだ付けして固定し、部品間を電気的に接続するための回路が形成された、電子機器の土台となる板のことです。
仕組みと役割
プリント基板は、電気を通さない絶縁体の板(エポキシ樹脂とガラス繊維の複合材など)の表面や内部に、電気を通す銅などの導体パターン(配線)が形成されています。これにより、複雑な電子回路を効率的かつコンパクトにまとめることができます。
主な役割は以下の通りです。
- 電子部品の固定: 抵抗やコンデンサ、ICチップといった電子部品を物理的に固定する土台となります。
- 電気的な接続: 基板上の配線を通して、各電子部品に電力を供給したり、電気信号を伝達したりします。
- 回路の小型化・量産化: 従来の電線を使った手作業の配線に比べ、プリント基板を使うことで回路を密集させて配置でき、製品の小型化や大量生産が可能になります。
種類と用途
- プリント基板には、製品の用途や求められる性能に応じて様々な種類があります。
- リジッド基板: 硬い素材で作られた一般的な基板で、コンピュータや家電製品など多くの電子機器に使われています。
- フレキシブル基板: 柔らかい素材で作られており、折り曲げたり、ねじったりすることができるため、スマートフォンやデジタルカメラなど、複雑な形状の機器や可動部分に使用されます。
- 多層基板: 複数の配線層を重ねて作られた基板で、パソコンやサーバーなど、高密度な配線が必要な高性能機器に使われます。
ほとんどの電子機器、たとえばスマートフォン、パソコン、テレビ、自動車、医療機器などに、このプリント基板が使われています。

プリント基板は、電子部品を固定し、電気的に接続するための板です。絶縁体の板に銅などの配線パターンが形成されており、スマートフォンやパソコンなど、あらゆる電子機器の回路の土台として使われています。これにより、製品の小型化や大量生産が可能になります。
脱中国を進める理由は
近年、多くの企業が生産拠点を中国から他の国へ移す動き、いわゆる「脱中国」や「チャイナプラスワン」を進めています。この背景には、単一国に生産が集中するリスクを回避し、サプライチェーンの安定化を図るという明確な意図があります。
地政学リスクの高まり
米中貿易摩擦の激化により、米国が中国製品に高関税を課すなど、政治的な対立が経済活動に直接影響を及ぼすようになりました。台湾情勢の緊迫化といった地政学リスクも懸念されており、企業はサプライチェーンが分断されるリスクを避けるために、中国以外の生産拠点を確保しようとしています。
コスト上昇と競争環境の変化
かつて「世界の工場」と呼ばれた中国も、人件費や不動産コストが近年大きく上昇しています。さらに、中国政府による環境規制の強化や法人税率の引き上げも、企業にとってのコスト増大要因となっています。加えて、中国国内企業の技術力向上により、市場競争が激化していることも、脱中国を進める理由の一つです。
新型コロナウイルスによる教訓
新型コロナウイルスのパンデミックは、中国の「ゼロコロナ政策」によるロックダウンや生産停止が、世界のサプライチェーンに深刻な混乱を招くという現実を突きつけました。これにより、単一の国に生産拠点を集中させることの脆弱性が明らかになり、リスク分散の重要性が再認識されました。
これらの理由から、企業は中国に依存しすぎる体制を見直し、東南アジア諸国(ベトナム、タイ、インドネシアなど)やインド、メキシコなどに生産拠点を多角化する動きを加速させています。これは単なるコスト削減のためだけでなく、企業のレジリエンス(回復力)を高め、不確実な世界経済の中で事業の安定性を確保するための戦略的判断と言えるでしょう。

地政学リスクの分散、人件費の高騰、そして新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱が主な理由です。企業は、中国一国に生産拠点が集中するリスクを回避し、事業の安定性を確保するために、他の国へと拠点を移す動きを加速させています。
PCBの生産でタイが選ばれる理由は
主な理由は、タイ政府の積極的な投資優遇策、地理的な優位性、そして自動車産業を中心とした既存の産業集積です。これにより、中国や台湾のPCBメーカーが生産拠点を分散させる「脱中国」の受け皿として選ばれています。
積極的な投資優遇策
タイ政府の投資委員会(BOI)は、PCB産業を国の重要産業と位置づけ、外国企業に対する手厚い優遇措置を提供しています。具体的には、最大8年間の法人所得税の免除や、機械・原材料の輸入関税免除などがあり、これにより初期投資や生産コストを抑えることができます。
地理的・産業的な優位性
タイは東南アジアの中心に位置しており、主要な港や空港へのアクセスが良く、物流面で有利です。また、すでに自動車やハードディスクドライブ(HDD)といった分野で強力な製造業基盤を持っており、既存のサプライチェーンや熟練した労働力が一定程度存在していることも大きな魅力です。

タイがPCB生産拠点として選ばれる理由は、政府の積極的な投資優遇策、地理的な優位性、そして自動車産業を中心とする既存の産業集積があるためです。これらが、中国から生産拠点を分散させたい企業にとって魅力的な条件となっています。
実際にどんな企業が進出しているのか
タイへのPCB生産進出は、特に台湾と中国のメーカーが中心となっています。近年、「脱中国」の動きを背景に、大規模な工場投資が相次いで発表されています。
台湾企業
- ジンディン・テクノロジー(Zhen Ding Tech Group): 台湾の大手PCBメーカーで、タイに大規模な工場を建設する計画を進めています。
- ユニマイクロン: 2025年以降の本格稼働を目指し、タイに新工場を建設。車載やゲーム機器、低軌道衛星、サーバー用などの多層基板の生産を計画しています。
- WUS: 台湾のPCBメーカーで、すでにアユタヤで新工場を稼働させており、サーバー用高密度多層板などを供給しています。
- コンペック: サムットプラカーンに新工場を建設し、2024年末から稼働を開始しています。車載やデータセンター向けの製品を量産しています。
中国企業
- VGT(江西威爾高電子): 2024年にタイ工場を稼働させ、EV(電気自動車)メーカー向けに多層基板の生産を開始しました。
- AOSHIKANG TECHNOLOGY CO.,LTD(ASKPCB): アユタヤに新工場を建設し、2024年末から車載基板の量産を始めています。
- 崇達技術(サンタック): プラチンブリ県に工場を建設する計画です。
- 吉安満坤科技: プラチンブリ県に現地法人を設立し、両面基板や多層基板を生産する計画です。
日系企業
日系企業では、以前からフジクラ、日本メクトロン、キョウデン、日本CMKなどがタイに進出しており、自動車産業向けなどを中心に事業を展開しています。
これらの企業は、タイの優位性や政府の支援を活用し、今後の需要拡大が見込まれるAI、5G、EVといった分野向けの高機能基板の生産を強化しています。
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