この記事で分かること
- 開発内容:日東電工とIBMは、高分子材料と先端パッケージ材料を共同開発します。これらの材料は、半導体パッケージの熱膨張や反りを抑制し、微細な配線間のクロストークノイズを低減することを目的としています。
- 熱膨張、反りの低減が重要な理由:半導体チップや配線へのストレスを減らし、接続不良を防ぐためです。これにより、製造歩留まりと製品の信頼性が向上します。異なる材料間の膨張率のミスマッチが原因で起こる問題を解決する上で不可欠です。
- 熱膨張、反りの低減方法:熱膨張係数が低い材料を採用することとや応力を緩和する積層構造を設計するが挙げられます。
日東電工とIBMの半導体パッケージ材料の共同開発
日東電工は、米IBMと半導体パッケージ材料の共同開発に関する契約を締結しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF098480Z00C25A9000000/
この提携は、日東電工が持つ高分子材料や先端パッケージ材料に関する技術と、IBMの半導体技術や知見を組み合わせることで、次世代半導体の性能向上と小型化に対応を目指します。
どのような材料を開発するのか
日東電工とIBMの共同開発では、高分子材料と先端パッケージ材料が開発されます。
この共同開発は、次世代半導体の課題を解決するために、以下の技術的目標を掲げています。
- パッケージ基板の熱膨張・反りの抑制: 半導体の高性能化に伴う発熱に対応するため、熱による膨張や反りを抑える材料技術。
- 微細配線間のクロストークノイズ低減: 配線の微細化によって発生する信号干渉(ノイズ)を低減する技術。
具体的な材料名については公表されていませんが、日東電工のプレスリリースによると、「高分子材料に加え、日東電工が開発する先端パッケージ材料」を共同研究開発の対象としています。
このことから、半導体パッケージにおける絶縁材料や封止材料などの分野で、新しい素材や技術が生まれることが期待されます。
絶縁材料とは何か
半導体パッケージにおける絶縁材料とは、半導体チップや配線などの電子部品同士が直接接触してショートするのを防ぎ、電気的な干渉を遮断するための材料です。
この材料は、半導体の性能と信頼性を維持するために不可欠な役割を担っています。
絶縁材料の主な役割
半導体パッケージ内の絶縁材料は、主に以下の3つの重要な役割を果たします。
- 電気的ショートの防止: チップや配線が密集して配置されるパッケージ内で、意図しない電流の流れ(ショート)を防ぎます。
- 信号の保護(クロストーク抑制): 高速で複雑な信号がやり取りされる際、隣接する配線からの信号干渉(クロストークノイズ)を低減し、信号の劣化を防ぎます。
- 外部環境からの保護: 湿気、化学物質、物理的な衝撃からチップを保護し、デバイスの耐久性と寿命を向上させます。
絶縁材料の例
半導体パッケージで使われる絶縁材料には、様々な種類があります。
アンダーフィル材: チップと基板の隙間に充填される液状の樹脂で、チップと基板の接続部(はんだバンプ)を補強し、電気的絶縁性を確保します。
封止材(モールド材): チップ全体を覆い、外部環境から保護する樹脂材料で、主にエポキシ樹脂が用いられます。
層間絶縁フィルム: パッケージ基板の多層配線間に挟み込まれ、配線層同士を絶縁する薄いフィルムです。代表的なものに、味の素が開発したABF(Ajinomoto Build-up Film)があります。

半導体パッケージにおける絶縁材料は、チップや配線間の電気的ショートを防ぎ、信号干渉(クロストーク)を抑制する材料です。チップを湿気や衝撃から守る役割も持ちます。主な種類には、封止材や層間絶縁フィルムなどがあります。
熱膨張と反りの抑制が必要な理由は何か
半導体パッケージにおいて熱膨張と反りを抑制する必要があるのは、主に半導体チップや配線に物理的なストレスを与え、デバイスの信頼性や製造歩留まりを著しく低下させるためです。
熱膨張と反りのメカニズム
半導体パッケージは、シリコン製のチップ、有機材料の基板、金属配線など、異なる熱膨張係数を持つ多様な材料で構成されています。
半導体は製造プロセスや動作中に高温にさらされるため、これらの材料はそれぞれ異なる割合で膨張・収縮します。
この熱膨張率のミスマッチが原因で、パッケージ全体に物理的な応力(ストレス)が生じ、これがパッケージの反りを引き起こします。
抑制が必要な理由
熱膨張と反りは、以下の深刻な問題につながります。
- 接続不良(オープン不良): 反りが発生すると、チップとパッケージ基板、またはパッケージとマザーボードを接続しているはんだが剥がれたり、断線したりする可能性があります。これにより、デバイスが機能しなくなるオープン不良が発生します。
- 製造歩留まりの低下: パッケージの反りは、組み立て工程(特にリフローはんだ付け)で位置ずれや接続不良を引き起こし、製品の不良率を高めます。これは生産コストの増加に直結します。
- 信頼性の低下: 熱による膨張・収縮が繰り返されることで、パッケージ内部の応力が蓄積し、疲労破壊につながることがあります。これは製品の長期的な信頼性を損ない、寿命を縮める原因となります。
したがって、AIやデータセンター向けの高性能半導体では、発熱量が非常に大きくなるため、これらの物理的な問題を解決するために熱膨張と反りを抑制する技術が不可欠となっています。

熱膨張と反りを抑えるのは、半導体チップや配線へのストレスを減らし、接続不良を防ぐためです。これにより、製造歩留まりと製品の信頼性が向上します。異なる材料間の膨張率のミスマッチが原因で起こる問題を解決する上で不可欠です。
熱膨張と反りの抑制をする方法は
半導体パッケージの熱膨張と反りを抑制する方法は、主に材料の選定と構造の最適化の2つに大別されます。
1. 低熱膨張係数材料の採用
最も根本的な対策は、半導体チップに近い熱膨張係数(CTE)を持つ材料を使用することです。これにより、製造プロセスや動作中の温度変化による材料間の膨張率のミスマッチを最小限に抑え、応力の発生と反りを抑制します。
- 基板材料: 熱膨張係数が低い樹脂やガラスクロスを用いた材料(例:BTレジン、フッ素樹脂)が開発されています。日東電工とIBMの共同開発も、このような材料技術を応用すると考えられます。
- 放熱基板: 放熱性が高く、熱膨張率が低いセラミックスや金属(例:銅タングステン合金)などの複合材料が、ヒートスプレッダや放熱基板として使用されます。
2. パッケージ構造の最適化
材料だけでなく、パッケージ自体の設計を見直すことも重要です。
- 積層構造の工夫: 異なる材料を積層する際、応力を分散・緩和させるための層(応力緩和層)を設ける技術が用いられます。これにより、特定の場所にストレスが集中するのを防ぎます。
- 厚みと剛性の調整: パッケージの厚みを適切に設計することで、反りに対する剛性を高めることができます。薄型化が進む中で、このバランスをとることが課題となります。
- 熱処理: 製造プロセスにおいて、基板やパッケージを特定の温度で焼成することで、材料内部の残留応力を除去し、反りを軽減する手法も一般的です。

熱膨張と反りの抑制は、熱膨張係数が低い材料を採用することと、応力を緩和する積層構造を設計することで実現します。これにより、製造時や動作中の温度変化によるストレスを軽減し、接続不良を防ぎます。
日東電工の強みは何か
今回の開発における日東電工の強みは、長年にわたって培ってきた高分子材料に関する技術力と、それを応用した粘着技術や塗工技術です。
これは、単に材料を提供するだけでなく、薄いフィルムやシートとして、高度な機能を持たせることを可能にします。
日東電工の強みが活かされる点
- 熱膨張率の制御: 日東電工が持つ高分子材料設計のノウハウは、半導体チップと熱膨張率を一致させる、もしくは応力を緩和するような材料の開発に直結します。
- 微細な層間絶縁: 高度な塗工技術により、極めて薄く、かつ均一な絶縁層を形成するフィルムを製造できます。これにより、配線間の距離が縮まっても、クロストークノイズを効果的に抑制できます。
- 工程の効率化: 日東電工の「剥離技術」も大きな強みの一つです。特定の温度や光で粘着力がなくなるシートは、半導体製造プロセスの効率化に貢献し、IBMのような顧客の生産性向上に繋がります。
このように、日東電工は単一の材料ではなく、高分子化学を基盤とした複合的な技術を駆使することで、次世代半導体パッケージの課題解決に貢献できるのです。

日東電工の強みは、高分子材料と粘着技術・塗工技術です。熱膨張率を制御できる材料や、微細な配線間のノイズを抑える薄い絶縁フィルムを製造する技術に優れており、これらが次世代半導体の課題解決に貢献します。
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