NIMSのリチウム空気電池のカーボン電極開発 リチウム空気電池とは何か?カーボン電極の利点と問題点は何か?

この記事で分かること

  • リチウム空気電池とは:負極に金属リチウム、正極に空気中の酸素を利用する次世代の電池です。酸素を外部から取り込むため、正極活物質が不要となり、大幅な軽量化と高エネルギー密度を実現できます。
  • カーボン電極の利点:カーボン電極の多孔質構造は、表面積を増やし、空気中の酸素とリチウムの反応効率を高めるため、電池の大容量化に貢献します。また長寿命化にも貢献可能です。
  • カーボン電極の問題点:充電時に高い電位にさらされることでの電極自体の劣化が起き、電池のサイクル寿命が短くなります。また、電極内部への酸素ガスの拡散が不十分な場合、反応速度が遅くなり、十分な出力が得られないことも課題です。

NIMSのリチウム空気電池のカーボン電極開発

 NIMS(物質・材料研究機構)は、次世代電池として注目されているリチウム空気電池の性能向上を目指し、特にカーボン電極の開発に力を入れています。

電力量1Wh級の積層型リチウム空気電池を開発、NIMSら
物質・材料研究機構(NIMS)は、「高出力、長寿命、大型化」を同時に実現する「カーボン電極」を東洋炭素と共同開発し、これを用いて電力量が1Wh級の積層型リチウム空気電池を試作し、安定動作することを確認した。

 リチウム空気電池は、理論上、既存のリチウムイオン電池の数倍のエネルギー密度を持つ「究極の二次電池」とされています。

 NIMSは、このカーボン電極の構造を最適化することで、これまでのリチウム空気電池が抱えていた主要な課題を克服しようとしています。

リチウム空気電池とは何か

 リチウム空気電池は、次世代の二次電池として期待されているバッテリーの一種です。負極に金属リチウムを、正極に空気中の酸素を利用するのが最大の特徴です。このユニークな構造により、既存のリチウムイオン電池の理論エネルギー密度を大幅に上回る超大容量を実現できると考えられています。


仕組みと特徴

 リチウム空気電池の仕組みと特徴は以下の通りです。

  • 正極(カソード):空気中の酸素を直接利用するため、リチウムイオン電池のように正極活物質を内部に保持する必要がありません。これにより、電池全体の軽量化と高エネルギー密度化が可能になります。
  • 負極(アノード):金属リチウムを使用します。リチウムは非常に軽いため、ここでも軽量化に貢献します。
  • 放電:負極の金属リチウムがイオン化して電解液中を移動し、正極で空気中の酸素と反応して酸化リチウムや過酸化リチウムを生成します。この化学反応によって電気エネルギーが発生します。
  • 充電:放電時とは逆の反応が起こり、正極の生成物が分解されてリチウムイオンと酸素に戻り、リチウムイオンは再び負極へ戻って金属リチウムとして析出します。

課題と今後の展望

 リチウム空気電池は高いポテンシャルを持つ一方で、実用化にはいくつかの大きな課題があります。

  • サイクル寿命:充放電を繰り返すうちに、正極で生成された物質が電極の表面に堆積したり、電極自体を劣化させたりするため、充電できる回数が少ないのが現状です。
  • 安全性:負極に反応性の高い金属リチウムを使用するため、特に充電時に「デンドライト」と呼ばれる樹枝状の結晶が形成され、短絡(ショート)や発火の原因となるリスクがあります。
  • 反応速度と出力:酸素の拡散が遅いため、充放電の反応速度が遅く、十分な出力が得られにくいという問題があります。

 これらの課題を解決するため、正極の材料(多孔質のカーボンなど)の改良、電解液やセパレーターの最適化など、世界中で活発な研究開発が進められています。

 これらの技術が確立されれば、電気自動車やドローン、家庭用蓄電池など、幅広い分野でリチウムイオン電池を凌駕する次世代バッテリーとなることが期待されています。

リチウム空気電池は、負極に金属リチウム、正極に空気中の酸素を利用する次世代の電池です。酸素を外部から取り込むため、正極活物質が不要となり、大幅な軽量化と高エネルギー密度を実現できます。理論上、リチウムイオン電池を凌ぐ超大容量が期待されています。

カーボン電極使用のメリットは何か

 リチウム空気電池において、カーボン電極は正極(空気極)として使用され、その多孔質な構造と高い導電性が大きなメリットをもたらします。

高容量・高出力の実現

 カーボン電極は、その表面に無数の微細な孔(細孔)を持つ多孔質材料です。この孔が反応の場となり、空気中の酸素とリチウムイオンが効率的に反応することで、より多くのエネルギーを蓄えられます。特にカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンなどの特殊なカーボン材料を用いると、表面積が飛躍的に増大し、超高容量化や高出力化が可能になります。

化学的安定性の向上

 カーボン材料は、リチウムや酸素との反応性が比較的低いため、電極自体の劣化を抑え、電池の長寿命化に貢献します。また、特定の構造(例:エッジサイトを減らしたグラフェン)を持つカーボンを用いることで、充放電時の過酸化リチウム(Li₂O₂)による電極の腐食を抑制し、耐久性を向上させることが可能です。

低コスト・軽量化

 カーボンは豊富に存在し、比較的安価に製造できるため、希少な金属を使用する正極材に比べて低コスト化に貢献します。さらに、その軽量性により、電池全体の重量エネルギー密度が向上し、ドローンや電気自動車など、軽量化が求められる用途に特に有利です。

カーボン電極の多孔質構造は、表面積を増やし、空気中の酸素とリチウムの反応効率を高めるため、電池の大容量化に貢献します。また、高い導電性と化学的安定性により、充放電の効率を向上させ、長寿命化も期待できます。さらに、材料が安価で軽いため、コスト削減と軽量化にも繋がります。

カーボン電極の問題点は何か

 リチウム空気電池におけるカーボン電極には、主に以下の2つの問題点があります。

1. 充放電による劣化

 リチウム空気電池の充電時に、正極のカーボン材料は、生成された過酸化リチウム (Li₂O₂) が分解する際の高い電位にさらされます。この高い電位は、カーボン自体の酸化・分解を促進し、電極を劣化させる主な原因となります。

 結果として、電池のサイクル寿命が短くなるという課題に繋がります。この劣化を抑制するためには、カーボン材料の構造や表面状態を制御する研究が進められています。


2. 酸素拡散の制約

 従来のカーボン電極は、カーボン粒子が密に充填されていることが多く、電極内部への酸素ガスの拡散が十分に行われませんでした。

 これにより、反応が一部の表面に限られてしまい、全体として放電速度が遅く、十分な出力が得られないという問題がありました。この課題を解決するため、カーボンナノチューブ(CNT)などの材料を用いて、電極に高空隙率(たくさんの隙間)を持たせることで、酸素の拡散を改善し、出力の向上を図る研究が進められています。

カーボン電極の主な問題点は、充電時に高い電位にさらされることによる電極自体の劣化です。これにより、電池のサイクル寿命が短くなります。また、電極内部への酸素ガスの拡散が不十分な場合、反応速度が遅くなり、十分な出力が得られないことも課題です。

NIMSのカーボン電極の問題点の克服方法は

 NIMSは、カーボン電極の抱える問題を克服するため、主に電極の構造制御材料の改良に注力しています。

1. 劣化の抑制と長寿命化

 従来のカーボン電極は、充電時に発生する高い電位によって酸化・分解が進み、劣化しやすいという問題がありました。NIMSは、この問題に対して、以下のようなアプローチで克服しています。

  • グラフェンメソスポンジ(GMS)の活用:岡山大学などとの共同研究では、グラフェンメソスポンジという新しいカーボン材料を使用することで、従来のカーボン電極に比べて充放電サイクル寿命を大幅に向上させました。GMSは、劣化の原因となる**過酸化リチウム(Li₂O₂)**の副反応を抑える効果があるとされています。

2. 酸素拡散の改善と高出力化

 もう一つの課題である酸素拡散の制約を克服するため、NIMSと成蹊大学の研究チームは、電極の構造を根本的に見直しました。

  • 高空隙率のカーボンナノチューブ(CNT)電極:電極にカーボンナノチューブを使用し、その構造を最適化することで、電極内部に大きな隙間(空隙)を確保しました。これにより、酸素ガスが電極の奥深くまで効率的に拡散できるようになり、反応面積が大幅に増加しました。この技術によって、従来のリチウム空気電池に比べて出力電流が10倍以上に向上しました。これにより、ドローンなど高出力を必要とする用途への道が開かれました。

 これらの研究成果は、カーボン電極の性能を飛躍的に向上させ、リチウム空気電池の実用化に向けた大きな一歩となっています。

NIMSは、グラフェンメソスポンジといった新しいカーボン材料で電極の劣化を抑え、充放電サイクル寿命を延ばしました。また、カーボンナノチューブを使用して電極内に多くの隙間(空隙)を作り、酸素ガスの拡散を促すことで、出力電流を大幅に向上させています。

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