この記事で分かること
- 支援の内容:発電効率向上や出力増加のための調査費用や、実際の設備改修・更新にかかる費用の一部を補助することで、老朽化対策と再生可能エネルギーの導入促進を図っています。
- 支援を強化する理由:多くの水力発電設備が老朽化し、故障リスクや発電効率の低下が課題です。また、脱炭素社会の実現とエネルギー自給率向上に向けた動きでもあります。
- 設備の更新による改善内容:老朽化した水車や発電機を、高効率な最新モデルに交換することで、発電量を増やします。また、水の流れをスムーズにする導水路の改修も行い、水が持つエネルギーを最大限に電気へ変換することで効率を大幅に上げます。
経産省の水力発電への支援
経済産業省は、水力発電設備の更新を促進するため、様々な支援制度を設けています。これは、多くの既存水力発電所が建設から長い年月を経ており、設備更新の時期を迎えていること、また、最新の技術を導入することで、発電効率の向上や出力増加を図ることができるためです。
どのような支援を行うのか
経済産業省は、水力発電の設備更新を支援するために、主に補助金という形で財政的な支援を行っています。具体的な支援内容は、事業によって異なりますが、代表的なものとして「水力発電導入加速化事業費補助金」があります。
この補助金は、以下の2つの事業を対象としています。
- 水力発電の既存設備の増出力又は増電力量の可能性調査
- 古くなった水力発電所の発電効率を向上させたり、出力を増強したりする可能性を検討するための調査費用を補助します。
- これにより、具体的な設備更新計画を策定するための初期段階の費用負担を軽減します。
- 水力発電の既存設備の増出力又は増電力量を図る事業
- 調査の結果、増出力や増電力量が可能であると判断された場合に、実際に設備を更新・改造する工事費用を補助します。
- 例えば、高効率の新しい水車や発電機への交換、水路の改修などが対象となります。
これらの事業は、水力発電の既存設備を最大限に活用し、再生可能エネルギーである水力発電の導入を加速することを目的としています。
また、水力発電設備の更新は、エネルギー消費効率の向上にもつながるため、「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」の対象となる可能性もあります。この補助金は、省エネルギー化に資する設備導入を支援するもので、水力発電設備もその中に含まれ得ます。
これらの支援制度は、水力発電事業者が設備更新にかかる多額の費用を負担するのを助け、日本のエネルギー安定供給や脱炭素化に貢献することを意図しています。

水力発電の設備更新に対し、経済産業省は主に補助金で支援しています。具体的には、発電効率向上や出力増加のための調査費用や、実際の設備改修・更新にかかる費用の一部を補助することで、老朽化対策と再生可能エネルギーの導入促進を図っています。
なぜ今支援を強化しているのか
経済産業省が水力発電の設備更新支援を強化している背景には、主に以下の3つの理由が挙げられます。
- 老朽化対策と発電効率の向上
- 日本の水力発電所の多くは、高度経済成長期に建設されたもので、運転開始から60年以上経過しているものが半数以上を占めます。これらの設備は老朽化が進んでおり、故障リスクの増大や発電効率の低下が課題となっています。
- 最新の技術を導入して設備を更新することで、発電効率を向上させ、既存の設備でより多くの電力を生み出すことが可能になります。これは、新たな発電所を建設するよりも効率的で、費用対効果の高い方法です。
- 脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの主力化
- 2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けて、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの導入拡大は喫緊の課題です。
- 水力発電は、太陽光や風力と異なり、天候に左右されにくく、安定的な電力供給が可能な貴重な純国産エネルギーです。既存設備の更新・増強は、新たな導入拡大と並んで、この安定電源を最大限に活用し、日本のエネルギー自給率を高める上で非常に重要です。
- エネルギー自給率の向上と災害への備え
- ロシアによるウクライナ侵攻などを契機に、化石燃料の価格高騰や供給不安が顕在化し、日本のエネルギー自給率の低さが改めて課題として認識されました。
- 水力発電は国内の豊かな水資源を活用する純国産エネルギーであり、その設備を増強することは、エネルギー自給率の向上に直結します。
- また、設備更新によって耐震性や災害時の自立運転機能などが強化されることもあり、災害に強いエネルギー供給体制を構築する上で貢献します。
これらの理由から、経産省は老朽化対策と同時に、脱炭素化・エネルギー安全保障という国の重要課題を解決するため、水力発電の設備更新支援を強化しているのです。

多くの水力発電設備が老朽化し、故障リスクや発電効率の低下が課題です。また、脱炭素社会の実現とエネルギー自給率向上に向け、純国産で安定したクリーンエネルギーである水力発電を最大限に活用する必要があるため、設備更新支援を強化しています。
設備の更新による効率向上の内容は
水力発電所の主要な設備である水車と発電機を最新のものに交換することで、発電効率を大幅に高めることができます。
- 高効率な水車への交換 水車は、水の持つ位置エネルギーや運動エネルギーを回転力に変える装置です。水の流量や落差に適した最新の水車(例:フランシス水車、カプラン水車、ペルトン水車)に更新することで、水のエネルギーを無駄なく利用し、発電量を増加させることができます。
- 高効率な発電機への交換 水車の回転力を電気エネルギーに変える発電機も、技術の進歩で効率が向上しています。電気抵抗による損失や摩擦による損失を低減する設計の最新発電機に交換することで、発電量を増やすことができます。
- 付帯設備の改修 取水口から水車まで水を導く導水路や、水をきれいに保つ除塵機なども効率に影響します。これらの設備を改修・最適化することで、水の流れをスムーズにし、より多くの水を効率的に水車に送ることが可能になります。
水力発電の利点と欠点は
水力発電には、環境面や経済面で多くの利点がある一方、大規模開発に伴う課題も存在します。
利点
- 温室効果ガスを排出しない: 発電時に化石燃料を燃やさないため、二酸化炭素(CO2)やその他の温室効果ガスをほとんど排出しません。地球温暖化対策に大きく貢献する、クリーンなエネルギー源です。
- 発電効率が極めて高い: エネルギーの変換効率が約80%と非常に高いことが特徴です。火力発電の約40%や太陽光発電の約15%~20%と比較すると、その効率の高さが際立っています。
- 安定した電力供給: 太陽光や風力とは異なり、天候に左右されにくいため、安定的に電力を供給できます。ダム式の発電所は、水の量を調整することで電力需要の増減にも柔軟に対応できます。
- 運用コストが安い: 一度設備を建設してしまえば、燃料費がかからないため、発電・維持管理にかかるコストが比較的安価です。
- 純国産エネルギー: 国内の水資源を利用するため、海外の化石燃料に依存しない、エネルギー自給率の向上に貢献する貴重な電源です。
欠点
- 初期費用と建設期間: 大規模なダムや発電所を建設するには、莫大な初期投資と長い建設期間が必要です。この点が、導入の大きな障壁となることがあります。
- 環境への影響: ダムの建設は、河川の流れや生態系を大きく変化させます。魚の遡上を妨げたり、周囲の森林を水没させたりする可能性があり、環境問題や住民の移住といった社会的な課題を引き起こすこともあります。
- 降水量への依存: 水力発電は水の流れを利用するため、長期的な渇水が続くと発電量が大幅に減少するリスクがあります。
- 地理的制約: 水力発電に適した場所(十分な水量や落差がある場所)が限られているため、どこでも自由に建設できるわけではありません。

利点
- 温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギー
- 発電効率が非常に高い
- 天候に左右されにくく安定供給が可能
欠点
地理的な制約が大きい
大規模な開発が必要で初期費用と建設期間が長い
自然環境や生態系に影響を与える
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