コバール合金 熱膨張が低い理由は何か?どのように利用されるのか?

この記事で分かること

  • コバール合金とは:鉄にニッケルとコバルトを添加した合金です。その最大の特長は、ガラスやセラミックスと熱膨張率が近いことです。
  • 熱膨張率が低い理由:コバール合金の熱膨張率が低い理由は、鉄、ニッケル、コバルトという特定の元素比率によって、原子の熱振動による膨張と、磁気的な性質による収縮が相殺されるインバー効果という現象が起こるためです。
  • 用途:コバール合金は、ガラスやセラミックスと熱膨張率が一致する特性を活かし、電子部品の気密封止に用いられます。具体的な用途には、半導体パッケージや電子真空管、医療用センサーなどがあり、内部の繊細な部品を保護する役割を果たします。

コバール合金

 金は、2種類以上の金属、または金属と非金属を混ぜ合わせて作られた物質です。

 この混合物は、元の成分とは異なる新しい特性を持ち元の金属にはない、より優れた強度、硬度、耐食性といった特性を持つことがあります。身近な例として、鉄に炭素を混ぜた鋼や鉄にクロムなどを混ぜたステンレス鋼があり、様々な用途で利用されています。

 今回はニッケルと鉄、コバルトの合金であるコバール合金に関する記事となります。

コバール合金とは何か

 コバール合金は、鉄にニッケルとコバルトを添加した合金で、ガラスやセラミックスと熱膨張率を一致させるために使用されます。この特性から、電気真空管や半導体パッケージなどのガラス対金属封止に広く用いられています。

特徴

 コバール合金の最大の強みは、その熱膨張率です。

 室温から約450℃までの温度範囲で、硬質ガラス(ホウケイ酸ガラスなど)の熱膨張率とほぼ同じ挙動を示します。

 この類似性により、ガラスとコバールを接合して加熱・冷却しても、両者の間に大きな応力が発生しにくいため、気密性の高い封止が可能となります。また、高い耐食性と加工性を持ちます。

主な用途

 コバール合金は、その特異な熱膨張特性から、以下のような精密な電子部品に不可欠な素材です。

  • 電気真空管: ガラスと金属電極を封止する部分
  • 半導体パッケージ: ICチップを保護する気密性の高いケース
  • X線管: 管の窓部分
  • レーザー部品: レーザー発振器の気密封止
  • 電子センサー: 高温環境下で使用されるセンサーの封止部分

歴史と組成

 コバール合金は、1940年代にウェスチングハウス社で開発されました。この合金は「コバルト」と「バリアブル(可変)」を組み合わせた造語から名付けられたといわれています。標準的な組成は以下の通りです。

  • 鉄 (Fe): 約54%
  • ニッケル (Ni): 約29%
  • コバルト (Co): 約17%

 この組成比率によって、望ましい熱膨張特性が実現されます。また、微量の炭素やケイ素などが含まれることもあります。

コバール合金は、鉄にニッケルとコバルトを添加した合金です。その最大の特長は、ガラスやセラミックスと熱膨張率が近いことです。この特性を活かし、電気真空管や半導体パッケージなどのガラス対金属封止に用いられ、高い気密性を保つことができます。

熱膨張率がガラスと近い理由は

 コバール合金がガラスと熱膨張率が近い理由は、鉄、ニッケル、コバルトという特定の合金組成にあります。特に、この組成が約450℃までの温度範囲で、ガラスの熱膨張率とほぼ同じになるように調整されているためです。

詳細な説明

 コバール合金の熱膨張特性は、金属結晶の格子構造と密接に関係しています。通常、金属は温度が上がると原子間の距離が広がって膨張します。しかし、コバール合金は、特定の温度範囲でこの膨張が緩やかになります。これは、ニッケルとコバルトが持つ磁気的な性質が影響しているとされています。

  • ニッケル (Ni): 磁気転移点(キュリー温度)が354℃付近にあり、この温度を超えると磁気的な性質が失われ、原子間の結合が変化します。
  • コバルト (Co): 同様に、磁気転移点が1127℃付近にあり、ニッケルと組み合わせることで熱膨張率の曲線が調整されます。

 これらの元素の組み合わせが、ガラスが固まる温度(徐冷点)付近から常温までの熱膨張率をガラスのそれと意図的に一致させるように設計されているため、加熱・冷却を繰り返しても両者の間に大きな応力が発生せず、気密性の高い接合が実現されるのです。この精密な熱膨張率の一致が、コバール合金がガラス対金属封止に不可欠な理由です。

コバール合金は、鉄・ニッケル・コバルトの特定の配合によって、硬質ガラスの熱膨張率とほぼ同じになるように意図的に調整されています。これにより、加熱・冷却時の膨張・収縮の差が少なくなり、ガラスとの間に応力が生じず、気密性を保てるためです。

ガラスの封止とは何か

 ガラスの封止とは、ガラスと別の材料(主に金属やセラミックス)を溶着させ、密閉状態にすることです。これにより、外部からの水分、ガス、埃などの侵入を防ぎ、内部の電子部品や真空状態を長期にわたって保護します。


目的

 ガラス封止の主な目的は、電子部品や機器の信頼性と耐久性を高めることです。特に、以下のような場面で不可欠な技術です。

  • 気密性の確保: 外部の湿気やガスが内部に侵入すると、半導体チップや真空管の性能劣化や故障の原因となります。ガラスで密閉することで、これらの要因から部品を守ります。
  • 電気絶縁: ガラスは高い電気絶縁性を持つため、導電性の材料をガラスで封止することで、信号や電流を外部から内部へ安全に伝える「フィードスルー」が可能になります。
  • 物理的保護: 衝撃や振動から繊細な内部部品を保護します。

種類と材料

 ガラス封止には主に2つの方法があります。

1. 整合封止 (Matched Seal)

 ガラスと封止する金属材料の熱膨張率をほぼ一致させて接合する方法です。加熱・冷却の際に両者の膨張・収縮が同じように起こるため、接合部に大きな応力がかからず、信頼性の高い封止が可能です。

  • 材料: コバール合金(コバルト、ニッケル、鉄の合金)と、これに熱膨張率が近いホウケイ酸ガラスなどが用いられます。

2. 圧縮封止 (Compression Seal)

 ガラスと金属の熱膨張率を意図的にずらして接合する方法です。金属の方がガラスよりも熱膨張率が大きいため、冷却時に金属が大きく収縮し、ガラスを圧縮します。ガラスは圧縮力に強い性質があるため、この圧縮応力によって非常に強固な封止が実現します。

  • 材料: 軟質ガラスや炭素鋼、ステンレスなどが使われます。

 これらの技術は、ICパッケージ、センサー、LED、X線管、光ファイバー部品など、高い信頼性が求められる多くの分野で利用されています。

ガラスの封止とは、ガラスと金属などを熱で接合し、気密性や電気絶縁性を保つ技術です。これにより、外部の水分やガスから電子部品や真空を保護し、高い信頼性を必要とする電子機器の耐久性を向上させます。

ガラス封止の利用例は

 ガラス封止は、高い気密性や電気絶縁性が求められる様々な電子部品や機器で利用されています。これは、外部環境(湿気、ガス、埃など)から内部の繊細な部品を保護するために不可欠な技術です。


代表的な利用例

  • 半導体パッケージ: ICチップやトランジスタを保護するために、金属やセラミック製のケースにガラス窓やリード線が封止されます。これにより、チップの性能劣化や故障を防ぎます。特に、レーザーダイオードや赤外線センサーなど、光学部品を内蔵するパッケージでは、気密性の高いガラス窓が不可欠です。
  • 電子真空管: 昔ながらのブラウン管やX線管、真空管アンプなどでは、内部の真空を維持するために、金属電極とガラス管の接合部にガラス封止が施されます。コバール合金が開発された当初の主な用途もこれでした。
  • センサー: 高温や高圧、腐食性ガスなどの厳しい環境下で使用されるセンサー(圧力センサー、ガスセンサー、温度センサーなど)では、外部から信号を取り出すための電気フィードスルー(気密端子)にガラス封止が用いられます。これにより、外部環境の影響を受けずに正確な計測が可能になります。
  • 医療機器: 体内に埋め込まれるペースメーカーや補聴器などの医療機器では、生体内の水分や体液から内部の電子回路を保護するために、非常に高い信頼性が求められるガラス封止が使用されます。
  • バッテリー: リチウムイオン電池などの一部のバッテリーでは、電解液の漏れや外部からの湿気侵入を防ぎ、安全性を高めるためにガラス封止が利用されます。

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