アメリカのISM製造業景気指数の低下 ISM製造業景気指数とは何か?低下の要因は何か?

この記事で分かること

  • ISM製造業景気指数とは:米国製造業の景況感を示す先行指標であり、50%を上回ると景気拡大、下回ると景気後退と判断されます。
  • 低下の要因;世界的な需要の低迷、高金利政策による消費抑制、原材料・エネルギーのコスト高、および地政学リスクによる不確実性の高まりです。
  • 他国の状況:世界的な傾向として、多くの主要国・地域で製造業部門の活動が低迷しています。

アメリカのISM製造業景気指数の低下

 米国の2025年9月のISM製造業景気指数(Manufacturing PMI)が、景気の拡大・縮小の分かれ目である507カ月連続で下回っています。

 https://jp.reuters.com/markets/japan/W5RJGDU4WJLEFMY4YM4R3BDHCY-2025-10-01/

 製造業が経済の約10%を占める中で、活動縮小が長期化していることは、経済成長の重荷となる可能性があり、市場には悲観的な見方が広がりやすい材料となります。

ISM製造業景気指数とは何か

 ISM製造業景気指数(ISM Manufacturing PMI: Purchasing Managers’ Index)とは、米国の製造業における景況感を示す、非常に重要な経済指標の一つです。

 正式には、全米サプライマネジメント協会(Institute for Supply Management: ISM)が毎月発表する「製造業景況報告(Manufacturing Report On Business)」の総合指数を指します。

1. 指標の目的と意味

項目詳細
発表機関全米サプライマネジメント協会(ISM)
調査対象米国全土の製造業約300社以上の購買担当役員
指標の意味製造業の景気の良し悪しを判断する
発表時期毎月第1営業日に前月分を発表
特徴多くの主要経済指標に先駆けて発表されるため、景気の先行指標として特に注目される。

2. 判断の基準(拡大・縮小の分かれ目)

 指数は0から100のパーセンテージで示されます。

  • 50%を上回る:製造業の活動が拡大している(景気拡大局面)
  • 50%を下回る:製造業の活動が縮小している(景気後退局面)
  • 50%:前月から変化なし(横ばい)

 50からどれだけ離れているかで、景気拡大・縮小の勢いの強さがわかります。

3. 算出方法(5つの主要項目)

 ISM製造業景気指数は、購買担当者へのアンケート結果のうち、以下の5つの項目をそれぞれ20%ずつ加重平均して算出される総合指数(DI:景気動向指数)です。

  1. 新規受注 (New Orders):新規の注文が増えているか(需要の動向)
  2. 生産 (Production):生産量が増えているか(活動の水準)
  3. 雇用 (Employment):雇用者数が増えているか
  4. 入荷遅延 (Supplier Deliveries):サプライヤーからの納期が遅延しているか(通常、納期の遅延は景気過熱時の需要増を示唆しますが、それ以外の要因の場合もあります)
  5. 在庫 (Inventories):在庫水準が増えているか

 アンケートでは、各項目について「良くなっている」「同じ」「悪くなっている」の三者択一で回答を求め、その結果を基に各指数の数値が算出されます。

4. 市場への影響

 この指数は速報性が高く、景気の先行指標とされるため、特に金融市場で大きな注目を集めます。

  • 予想より高い(50超え):景気拡大期待から、株価にはポジティブ米ドルは買われやすくなります。
  • 予想より低い(50割れが続く):景気後退懸念から、株価にはネガティブ米ドルは売られやすくなります。

米国製造業の景況感を示す先行指標です。全米供給管理協会(ISM)が毎月発表し、50%を上回ると景気拡大、下回ると景気後退と判断されます。

製造業の景況感が悪い理由は何か

 製造業の景況感が悪い主な理由は、世界的な需要の低迷に加え、コスト高地政学的な不確実性など、複数の要因が複合的に絡み合っているためです。

 特に現在の景況感悪化の要因として、以下の点が挙げられます。


1. 世界的な需要の低迷と在庫調整

  • 新規受注の減少: 特に自動車や電子部品・デバイスなどの分野で、世界的な需要の頭打ちや顧客の支出抑制により、新規受注が減っています。
  • 在庫調整の長期化: 景気の先行き不透明感から、顧客側が慎重になり、在庫水準を引き下げる動きが強まっています。これにより、製造業は生産を抑制せざるを得ない状況が続いています。

2. コストの高騰と収益圧迫

  • 原材料・エネルギーコストの高騰: ウクライナ紛争などの国際情勢や世界的なインフレの影響で、原材料費やエネルギー費が依然として高水準で推移しており、製造業の収益を圧迫しています。
  • 人件費・金利負担の増加: 賃金の上昇や利上げ(金利上昇)による利払い負担の増加も、特に中小企業にとって大きなコスト増要因となっています。
  • 為替変動の影響: 円安は輸出競争力を高める一方で、原材料や部品の輸入コストを大幅に押し上げ、製造業全体のコスト構造を悪化させています。

3. 地政学リスクと不確実性

  • 貿易摩擦・関税政策: 米国などの関税措置による不確実性が、企業の設備投資意欲やサプライチェーンの計画を慎重にさせています。特に影響を受けやすい業種(鉄鋼、自動車など)では、景況感が悪化しています。
  • サプライチェーンの混乱: 経済対立や紛争、パンデミックなどの複合的な要因により、グローバルなサプライチェーンが不安定になり、生産の停滞リスクが高まっています。

 製造業は景気の動向を敏感に反映する性質(景気のバロメーター)を持つため、これらの複合的なマイナス要因が重なり、景況感の悪化が長期化していると考えられます。

景況感が悪い主な理由は、世界的な需要の低迷、高金利政策による消費抑制原材料・エネルギーのコスト高、および地政学リスクによる不確実性の高まりです。

他国の状況はどうか

 製造業の景況感の悪化はアメリカだけの問題ではありません。世界的な傾向として、多くの主要国・地域で製造業部門の活動が低迷しています。

 景況感の悪化は、主に世界的な需要の減速高インフレと金利上昇の影響、および地政学的な不確実性といった共通の要因によって引き起こされています。主要な国・地域における製造業の現状は以下の通りです。

1. ユーロ圏 (欧州)

 ユーロ圏も製造業の景況感が弱い状況にあります。

  • 現状: ユーロ圏の製造業PMIは、一時的な改善が見られた後、再び拡大・縮小の分岐点である50を下回る(活動縮小領域に後退する)動きが見られています。
  • 要因: 新規受注の減少が顕著であり、特に輸出市場の低迷が全体を押し下げています。需要の弱さから、企業は雇用を削減したり、購買活動を縮小したりしています。

2. 日本

 日本においても、製造業の景況感は伸び悩んでいます。

  • 現状: 日本の製造業PMIも、縮小領域(50未満)で推移していることが多く、業況の悪化が報告されています。
  • 要因: 新規受注数の減少、特に海外からの新規輸出受注の低迷が主な原因とされています。多くの企業が、低調な市場環境が顧客の需要を押し下げていると指摘しています。

3. 中国

 中国の製造業景況感は、時期によって変動がありますが、世界経済の動向に強く影響を受けています。

  • 現状: 中国の製造業PMIは、他の地域と同様に50前後で推移することが多く、回復力が弱い状況がしばしば見られます。
  • 要因: 世界経済の減速、特に欧米市場からの需要の弱さが、中国の輸出に依存する製造業活動の重荷となっています。

アメリカの製造業景況感の悪化(ISM指数7カ月連続50割れなど)は注目されていますが、その背景には、主要な貿易相手国・地域全体で製造業の活動が縮小、または減速しているという世界的なトレンドがあります。

特に景況感の悪い製造業の業界は

 現在、景況感が特に悪い製造業は、輸送用機械(自動車関連)鉄鋼・金属製品、および化学製品です。

 これらの産業が特に厳しい状況にある主な要因は、以下の通りです。

1. 輸送用機械・器具(自動車関連)

 世界的な景気減速による個人消費の低迷が直接的な影響を与えています。また、主要国(特に米国)の関税政策による不確実性も大きく、サプライチェーンや生産計画に悪影響を及ぼしています。部品メーカーを含め、広範囲に景況感の悪化が見られます。

2. 鉄鋼・金属製品

 輸送用機械産業と同様に、関税政策の影響を強く受けています。また、世界的な建設需要の鈍化や、在庫調整の動きも重なり、鋼材市況が低迷しています。企業からは「関税が経営を圧迫している」といった声も上がっています。

3. 化学製品

 化学製品は、他の多くの製造業(自動車、家電、繊維など)に原材料として供給されるため、景気の先行指標的な役割を果たします。この分野の景況感悪化は、今後さらなる製造業全体の減速を示唆するリスクとして懸念されています。

 これらの産業は、単一の要因だけでなく、需要減退、コスト高、そして地政学的な貿易政策といった複数の逆風に同時に直面しているため、他の分野よりも景況感が顕著に悪化していると考えられます。

現在、特に景況感が悪い製造業は、輸送用機械(自動車関連)鉄鋼・金属製品、および化学製品です。世界的な需要低迷に加え、高コストや関税政策が重なり、厳しい状況が続いています。

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