この記事で分かること
- SSDとは:NAND型フラッシュメモリという半導体素子にデータを記録するストレージデバイス(記憶装置)です。HDDと違い物理的な駆動部分がないため、高速で、静音性や耐衝撃性に優れています。
- 速度の向上が重要な理由:、生成AIなどの大規模データ処理で、GPUへのデータ供給のボトルネックを解消し、AIサーバーの演算効率とコスト効率を飛躍的に高めるために必要です。
- 速度向上の方法:GPUに直接接続する新アーキテクチャを採用し、CPUを介す遅延を排除します。また低遅延なXL-Flash、HBFなどの高速メモリ技術の採用も検討されています。
キオクシアの100倍速SSD
キオクシアが開発を進めている「100倍速SSD」は、AIサーバー向けのGPU直結型の超高性能SSDで、従来のSSDの概念を覆す革新的なストレージソリューションです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC124LU0S5A910C2000000/
このSSDの開発はNVIDIAからの要望によるもので、AIなどでのデータ供給のボトルネックを解消し、AIサーバーの演算効率とコスト効率を飛躍的に高めるために必要なものです。
SSDとは何か
SSDとは、Solid State Drive(ソリッド・ステート・ドライブ)の略称で、データを記憶・保存するストレージデバイスの一種です。
HDD(ハードディスクドライブ)と異なり、USBメモリなどにも使われるNAND型フラッシュメモリという半導体素子にデータを記録します。このため、HDDのような物理的な駆動部分がなく、電気的にデータの読み書きを行います。
SSDの主なメリットとHDDとの違い
SSDは物理的な駆動部分がないため、HDDと比較して以下のようなメリットがあります。
- 読み書き速度が速い
- HDDが磁気ディスクを回転させて磁気ヘッドでデータを読み書きするのに対し、SSDは電気的にメモリチップへ直接アクセスするため、データの読み込みや書き込みが非常に高速です。これにより、OSやアプリケーションの起動時間を大幅に短縮できます。
- 静音性に優れている
- 駆動部分がないため、HDDで発生するようなディスクの回転音やシーク音(カリカリ音)がありません。
- 衝撃に強い
- 物理的な部品がないため、外部からの衝撃や振動による故障リスクが低いです。ノートパソコンなど、持ち運びの多い機器に適しています。
- 消費電力が少ない
- モーターなどの駆動部分が不要なため、消費電力が少なく、発熱も低く抑えられます。
SSDの主なデメリット
- 容量あたりの価格が高い
- 同じ容量で比較した場合、HDDよりもSSDの方が高価になる傾向があります。
- 書き込み回数に上限がある
- フラッシュメモリには書き込み回数に寿命があり、無限にデータを書き換えることはできません。ただし、一般的な使用においては問題になることはほとんどありません。

SSDは、NAND型フラッシュメモリという半導体素子にデータを記録するストレージデバイス(記憶装置)です。HDDと違い物理的な駆動部分がないため、高速で、静音性や耐衝撃性に優れています。パソコンやサーバーの起動速度を大幅に向上させます。
SSDの速度の向上が必要な理由は
SSDの速度向上が必要とされる主な理由は、AI(人工知能)技術の爆発的な発展と、それによるデータセンターの処理能力のボトルネック解消にあります。
キオクシアとNVIDIAの「100倍速SSD」開発は、特に以下の2点に集約されます。
1. AI・HPC(高性能計算)におけるデータ処理のボトルネック解消
現在のAIサーバーは、GPU(グラフィックス処理ユニット)の演算能力が飛躍的に向上した一方で、そのGPUに対してデータを供給するストレージ(SSDやメモリ)がボトルネックとなり、GPUの性能を最大限に引き出せていない状況です。
- 大規模データの高速処理:
- 生成AI(大規模言語モデルなど)の学習や推論には、テラバイト級の膨大なデータを瞬時に読み出し、何度も繰り返して処理する必要があります。
- 従来のSSDではこの速度に追いつけず、GPUの「待ち時間」が増えてしまい、システム全体の効率が低下します。
- ランダムアクセス性能の極端な向上:
- AIワークロードでは、特定の場所にまとまったデータを読み出す「シーケンシャルアクセス」よりも、バラバラに存在するデータを頻繁に読み出す「ランダムアクセス」の性能が極めて重要です。
- 1億 IOPS(1秒あたりの入出力処理回数)という100倍速SSDの目標は、このランダムアクセス性能を文字通り桁違いに高め、AI処理の効率を飛躍的に向上させることを目指しています。
2. コスト効率とメモリ容量の課題解決
AIサーバーでGPUが超高速なデータ処理を行うために、従来はHBM(High-Bandwidth Memory)という超高価なメモリが使われていましたが、これには課題があります。
- 高価なHBMの部分的代替:
- HBMは高性能ですが、非常に高コストであり、容量も制限があります。
- 100倍速SSDは、より汎用的なNANDフラッシュメモリをベースに、超高速化することで、高価なHBMをすべて使うのではなく、一部を代替する役割を担います。これにより、AIサーバー全体のコストパフォーマンス(TCO: 総所有コスト)を大幅に改善できます。
- GPU直結による低遅延化:
- このSSDはGPUに直接接続されるアーキテクチャを採用することで、CPUやシステムメモリを経由する従来の経路を回避し、データ転送の遅延(レイテンシ)を極限まで削減します。これは、データの高速アクセスが求められるAI推論や学習において不可欠な要素です。
これらの理由から、SSDの速度向上は、単なるパソコンの起動高速化に留まらず、AI時代のデータセンターのインフラを根底から変えるために必要不可欠な技術革新と位置づけられています。

SSDの速度向上は、生成AIなどの大規模データ処理で、GPUへのデータ供給のボトルネックを解消し、AIサーバーの演算効率とコスト効率を飛躍的に高めるために必要です。
どのように速度を向上させるのか
SSDの速度を劇的に向上させる(特にAI用途で100倍速を目指す)ためのアプローチは、主に「接続方式の革新」と「フラッシュメモリ技術の進化」の二つの側面で進められています。
1. 接続方式の革新: GPU直結とバス高速化
従来のサーバーアーキテクチャのボトルネック(CPU経由のデータ転送による遅延)を解消するため、GPUに直接データを送る経路を確立します。
- GPU直結 (Direct Connect):
- SSDをCPUを経由せず、GPUにピアツーピア(P2P)方式で直接接続します。
- これにより、データ転送の遅延(レイテンシ)とオーバーヘッドが大幅に減少し、GPUがデータを待つ時間を最小化します。(これはNVIDIAのGPUDirect Storage技術などの活用が背景にあります。)
- インターフェースの超高速化:
- 次世代規格である PCI Express (PCIe) 7.0 の採用を検討しています。これは、現在の主流であるPCIe 5.0と比較して理論上4倍の帯域幅を持ち、膨大なデータの転送速度を物理的に引き上げます。
2. フラッシュメモリ技術の進化
SSDの心臓部であるNANDフラッシュメモリ自体の性能と構造を改善します。
低遅延・高耐久性NANDの採用:
- 通常のTLC/QLC NANDよりも読み書き速度が速く、低遅延で高耐久性を持つ XL-Flash(SLC/MLCベース)などのメモリ技術を採用し、ランダムアクセス性能(IOPS)を向上させます。
高帯域幅フラッシュ (HBF) の検討:
- 複数のNANDチップをTSV (Through-Silicon Via) という技術で積み重ね、コントローラーと接続する High Bandwidth Flash (HBF) アーキテクチャが検討されています。
- これにより、複数のメモリチップへの並列アクセスが可能になり、圧倒的な並列性とスケーラビリティを実現し、超高速なランダムアクセス性能(1億IOPS)を達成する鍵となります。HBM(高帯域幅メモリ)に近い性能を、NANDの大容量・低コストで実現することを目指します。

SSDの速度向上は、GPUに直接接続する新アーキテクチャを採用し、CPUを介す遅延を排除します。また、次世代規格PCIe 7.0や、低遅延なXL-Flash、HBFなどの高速メモリ技術の採用で、データ転送性能を大幅に高めます。
High Bandwidth Flashとは何か
High Bandwidth Flash (HBF) は、NANDフラッシュメモリの大容量と、HBM (High Bandwidth Memory) のような超高帯域幅(高速性)を両立させるために開発されている次世代のメモリ・アーキテクチャです。
これは、特に生成AI(ジェネレーティブAI)の推論(インファレンス)ワークロードにおいて、高価で容量が限られるHBMの制約を補うことを目的としています。
HBFの仕組みと特徴
1. 構造の革新:3D積層と並列アクセス
HBFは、HBMと同様に、複数のメモリチップを「縦に」積み重ねる(3Dスタッキング)構造を採用しています。
- TSV(Through-Silicon Via)の利用:
- 複数の高性能なNANDフラッシュコアチップを、TSV(シリコン貫通電極)という配線技術を使って積み重ねます。
- ロジック層による超並列化:
- 基板の底部にはロジック層のチップを配置し、NANDチップの複数のサブアレイに同時にアクセスできるように制御します。
- この設計により、従来のNANDの単一コントローラーを介したアクセスと比べて、圧倒的な並列性が実現され、超高帯域幅を獲得します。
2. HBMとの主な違いとメリット
特徴 | HBF (High Bandwidth Flash) | HBM (High Bandwidth Memory) |
メモリの種類 | NANDフラッシュ (不揮発性) | DRAM (揮発性) |
強み | 超大容量と高帯域幅の両立 | 極限の超高速な帯域幅と低レイテンシ |
容量/スタック | 512GB~(計画) | 24GB~36GB程度 |
主な役割 | HBMを補完する大容量・高速なAIデータ用メモリ | GPUに直結された超高速作業台 |
コスト | HBMに比べると容量あたりのコスト効率が良い | 容量あたりのコストが非常に高価 |
HBFは、HBMの持つ「高速性」に迫りながら、NANDの持つ「大容量・低コスト」のメリットを享受することで、大規模なAIモデルの重み(パラメーター)やデータセットをより安価かつ高速にGPUへ供給することを目指しています。

HBFは、NANDフラッシュメモリを3D積層し、GPU直結で超高帯域を実現する次世代のメモリ技術です。高価なHBMの代わりに、大容量と高速性を両立させ、AI処理を効率化します。
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