この記事で分かること
- 超ワイドバンドギャップ半導体材料とは:従来のSiやSiC、GaNよりさらにバンドギャップが広い(通常4 eV以上)次世代材料です。高い耐圧と低電力損失を実現可能です。
- 二酸化ゲルマニウムのバンドギャップが大きい理由:ゲルマニウムと酸素の電気陰性度の差が大きく、結合が強いイオン性を持つためです。これにより、電子が原子に強く束縛され、伝導帯へ移るのに大きなエネルギーが必要となるからです。
- 二酸化ゲルマニウム半導体の問題点:高品質な大口径単結晶基板の製造が難しいこと、そして熱伝導率が比較的低いため、高電力動作時の発熱対策が大きな課題となることです。
Patentixの超ワイドバンドギャップ半導体材料
立命館大学発スタートアップのPatentix(パテンティクス)が、シリーズAラウンドで総額約7億1,900万円の資金調達を実施しました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000128234.html
この資金は、次世代パワーデバイスに不可欠な超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体材料「二酸化ゲルマニウム(GeO₂)」の研究開発と社会実装を加速するために使われます。
超ワイドバンドギャップ半導体材料とは何か
超ワイドバンドギャップ(UWBG: Ultra-Wide Bandgap)半導体材料とは、従来のシリコン(Si)や、既に実用化が進んでいるワイドバンドギャップ(WBG)半導体である炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)よりも、さらに大きなバンドギャップを持つ半導体材料のことです。
これらの材料は、次世代のパワー半導体や高周波デバイスにおいて、従来の材料の性能を大きく超える特性を実現するために研究・開発が進められています。
UWBG半導体の主な特徴
UWBG半導体の最大の強みは、その大きなバンドギャップ(通常4エレクトロンボルト(eV)以上)に由来する優れた物性にあります。
- 高耐圧・低損失:
- 絶縁破壊電界強度が非常に高いため、同じ耐圧を得るのに必要なドリフト層(電流を流す層)をより薄く、高濃度にすることができます。
- これにより、デバイスのオン抵抗(電力が流れる際の抵抗)が大幅に下がり、電力損失の劇的な低減と高効率化が可能です。
- 高温動作の実現:
- バンドギャップが大きいほど、熱によって電子が活性化して漏れ電流が増える現象(キャリアの熱励起)が起きにくくなります。
- そのため、高温環境下でも安定して動作し、冷却機構の簡素化や小型化に貢献します。
- 高周波特性の向上:
- 優れた電子移動度や飽和電子速度を持つ材料が多く、高速スイッチングが可能になるため、高周波・高出力の電子デバイスに適しています。
主要なUWBG半導体材料
現在、UWBG半導体として特に注目されている材料には、以下のようなものがあります。
- 酸化ガリウム : 特にバンドギャップが約$4.8eVのGa2O3知られ、低コストでの大口径単結晶成長が期待されています。
- ダイヤモンド : 約$5.5eVと非常に大きなバンドギャップを持ち、優れた熱伝導性も兼ね備える「究極の半導体材料」とも呼ばれます。
- 窒化アルミニウム : 約$6.2 eVのバンドギャップを持ち、特に高周波・高出力デバイスへの応用が期待されています。
- 二酸化ゲルマニウム : 立命館大学発スタートアップのPatentixが開発を進めている材料で、他のUWBG候補では難しいとされるp型とn型の両方を作成できる可能性に注目が集まっています。
応用分野
UWBG半導体は、その高性能から、以下のような次世代の技術分野で「ゲームチェンジャー」となることが期待されています。
- パワーエレクトロニクス: 電気自動車(EV)のインバーター、データセンターの電源、再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電)の電力変換装置など、電力変換効率の向上が求められる分野。
- 高周波・通信: 5G/6G通信の基地局、レーダー、衛星通信などの高周波・高出力を必要とするデバイス。
- 高温・宇宙: 航空機、宇宙開発、原子力発電など、極限環境での動作が求められる機器。

UWBG(超ワイドバンドギャップ)半導体材料とは、従来のSiやSiC、GaNよりさらにバンドギャップが広い(通常4 eV以上)次世代材料です。高い耐圧と低電力損失を実現し、EVやデータセンター向けの高効率なパワーデバイスを可能にします。
二酸化ゲルマニウムはなぜ、大きなバンドギャップを持つのか
二酸化ゲルマニウム(GeO2)が大きなバンドギャップ(超ワイドバンドギャップ:UWBG)を持つ主な理由は、構成元素の電気陰性度の差と、それによる強いイオン結合性にあります。
具体的には、GeO2の特定の結晶構造(特にルチル型)におけるゲルマニウム(Ge)原子と酸素(O)原子の電子的な結びつきが非常に強いためです。
1. バンドギャップの基本原理
半導体のバンドギャップとは、電子が原子に強く束縛された状態(価電子帯)から、自由に動き回れる状態(伝導帯)へ移るために必要なエネルギーの差(エネルギーの壁)を指します。
- 絶縁体: バンドギャップが非常に大きく、電子が伝導帯に移動しにくいため、電気を通しにくい(例:GeO2、ダイヤモンド)。
- 半導体: バンドギャップが中程度で、熱や光などのエネルギーを与えることで電気を通すようになる(例:Si、SiC)。
- 導体: バンドギャップがない、または非常に小さく、電子が常に自由に動けるため電気を通しやすい。
2. GeO2のバンドギャップが大きい理由
GeO2が大きなバンドギャップを持つのは、主に以下の要因によります。
結合の強さとイオン性
GeO2は、従来の半導体であるシリコン(Si)の酸化物であるSiO2(二酸化ケイ素)と同様に、共有結合性とイオン結合性を併せ持っています。
- 酸素(O)はゲルマニウム(Ge)よりも電気陰性度が非常に高い元素です。
- この大きな電気陰性度の差により、Ge原子からO原子へ電子が強く引き寄せられ、結合に強いイオン性が生まれます。
- 電子がO原子によって強く束縛されるため、束縛状態(価電子帯)から自由な状態(伝導帯)へ移動するためには、より大きなエネルギー(つまり、大きなバンドギャップ)が必要になります。
結晶構造(ルチル型 r-GeO2)
GeO2にはいくつかの結晶構造がありますが、超ワイドバンドギャップ半導体として注目されているのは主にルチル型(r-GeO2)です。
- ルチル型構造は、結晶格子の電子的なポテンシャルが電子を非常に強く閉じ込める構造であるため、伝導帯のエネルギー準位が高くなり、結果的に大きなバンドギャップ(約4.5 eV〜4.9 eV)を示します。これはシリコン(1.12 eV)の4倍以上です。
この大きなバンドギャップこそが、GeO2に高耐圧性と低損失という、次世代パワー半導体にとって重要な特性をもたらす源となっています。

二酸化ゲルマニウム(GeO2)が大きなバンドギャップを持つのは、ゲルマニウムと酸素の電気陰性度の差が大きく、結合が強いイオン性を持つためです。これにより、電子が原子に強く束縛され、伝導帯へ移るのに大きなエネルギーが必要となるからです。
二酸化ゲルマニウム半導体の問題点は何か
二酸化ゲルマニウム(GeO2)半導体が実用化と普及に向けて抱える主な問題点(技術的課題)は、「結晶成長・品質」と「熱特性」、そして「製造技術の確立」の3点です。
1. 結晶成長と品質の課題
実用的な半導体デバイスを製造するには、欠陥が少なく、大口径で高品質な単結晶基板が必要です。
- 高品質なバルク基板の合成難しさ: GeO2はルチル型(r-GeO2)など、複数の結晶構造を持ちます。特に優れた特性を持つ結晶構造において、大口径で欠陥の少ないホモエピタキシャル成長(均一な薄膜成長)のための基板を安定的に合成・供給する技術がまだ確立途上にあります。
- 製造コスト: 結晶成長や薄膜製造の技術がまだ確立されていないため、現状では製造コストが高くなる傾向があり、既存のSiCやGaN半導体に対するコスト競争力を確保することが課題です。
2. 熱特性の課題
半導体デバイスは動作時に熱を発生するため、優れた熱伝導率が不可欠です。
- 熱伝導率の低さ: GeO2は、他の超ワイドバンドギャップ半導体候補(ダイヤモンド、窒化アルミニウムなど)や、実用化が進む$\text{SiC}$と比較して熱伝導率が低い可能性があります。
- 放熱設計の複雑化: 熱伝導率が低いと、デバイス内部に熱がこもりやすく、高電力動作時の発熱とそれに伴う性能劣化や寿命低下を防ぐために、より複雑で大規模な放熱設計(ヒートシンクなど)が必要になる可能性があります。
3. 製造技術(プロセス)の課題
新しい半導体材料が市場に受け入れられるには、既存の技術と同等かそれ以上の製造技術が必要です。
- pn接合の難しさ: GeO2はp型とn型の両伝導制御が可能であるという理論的利点がありますが、実際にデバイスとして安定した性能を発揮するpn接合やドーピング技術の確立が求められています。
- トランジスタ構造の確立: ダイオードだけでなく、電流のオン/オフを制御するトランジスタ(MOSFETなど)の製造プロセス(酸化膜の形成、電極の形成など)において、GeO2に最適化された信頼性の高い技術を確立する必要があります。

二酸化ゲルマニウム半導体の主な問題点は、高品質な大口径単結晶基板の製造が難しいこと、そして熱伝導率が比較的低いため、高電力動作時の発熱対策が大きな課題となることです。
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