この記事で分かること
- 黄銅とは:主に銅と亜鉛の合金で、真鍮(しんちゅう)とも呼ばれます。金色に似た美しい光沢と優れた加工性、耐食性が特徴です。
- 金に似た光沢となる理由:光の赤~黄色の波長を強く反射する銅と、それを調整する亜鉛の合金です。この組成が、純金が持つ独特の黄味がかった色調と、金属特有の強い光沢を両立させるためです。
- 耐食性に優れる理由:銅が空気や水に触れることで、表面に緻密な酸化皮膜(緑青など)を形成するからです。この安定した皮膜が内部の金属を保護し、鉄のような激しい腐食を防ぎます。
黄銅
合金は、2種類以上の金属、または金属と非金属を混ぜ合わせて作られた物質です。
この混合物は、元の成分とは異なる新しい特性を持ち元の金属にはない、より優れた強度、硬度、耐食性といった特性を持つことがあります。身近な例として、鉄に炭素を混ぜた鋼や鉄にクロムなどを混ぜたステンレス鋼があり、様々な用途で利用されています。
今回は銅と亜鉛の合金である黄銅に関する記事となります。
黄銅とは何か
黄銅とは、銅と亜鉛の合金です。
特に亜鉛が20%以上のもの真鍮(しんちゅう)とも呼ばれ、JIS(日本産業規格)では黄銅という名称が使われますが、一般的には真鍮と呼ばれることが多いです。
主な特徴
- 色調: 金に似た美しい黄色の光沢を持ちます(貧者の金とも呼ばれることがあります)。
- 加工性: 適度な硬さと伸ばしやすさ(展延性)を持ち、切削加工や鋳造加工、鍛造加工などに優れています。
- 耐食性: 鉄鋼材に比べて錆びにくく、空気中では表面が酸化して皮膜となり内部が保護されます。
- 導電性: 電気伝導性が比較的高いです(純銅には劣ります)。
用途例
- 五円硬貨
- 金管楽器(トランペット、サックスなど)
- 仏具、装飾品
- 水栓金具、バルブ部品
- コネクター、コンセントなどの電気部品
- 薬莢、火気厳禁の場所で使う工具(火花が出にくいため)

黄銅(おうどう)は、主に銅と亜鉛の合金で、真鍮(しんちゅう)とも呼ばれます。金色に似た美しい光沢と優れた加工性、耐食性が特徴です。五円硬貨、金管楽器、装飾品などに広く使われています。
なぜ金に似た光沢になるのか
黄銅(真鍮)が金に似た光沢を持つのは、主にその組成(銅と亜鉛の比率)と、金属特有の光の反射の仕組みによるものです。
1. 銅と亜鉛の比率による色の決定
黄銅は銅 (Cu) と亜鉛 (Zn) の合金ですが、この比率によって色が変化します。
- 銅の性質: 銅は、光の赤やオレンジ色の波長を強く反射する性質があるため、本来は赤みを帯びた色をしています。
- 亜鉛の役割: 銅に亜鉛を加えることで、その赤みが薄まり、明るい黄色味が増します。
- 「金色」の発色: 銅と亜鉛の比率を調整することで、ちょうど純金が持つ、赤みを帯びた独特の黄色に近い色調が生まれます。亜鉛の含有量が多くなるほど色は薄く、黄金色に近づく傾向があります。
2. 金属光沢の仕組み
すべての金属は、その表面に存在する自由電子の働きにより強い光沢(金属光沢)を持ちます。
- 光が金属表面に入射すると、自由電子がそのエネルギーを受けて振動します。
- 振動した電子が、再び光としてエネルギーを放出(反射)します。
- このとき、ほとんどの光が表面で反射されるため、鏡のような強い輝き(光沢)となるのです。
黄銅は、この強い金属光沢に加えて、上述の銅と亜鉛の比率によって金に近い色味を持つため、「金色に似た光沢」となります。

黄銅は、光の赤~黄色の波長を強く反射する銅と、それを調整する亜鉛の合金です。この組成が、純金が持つ独特の黄味がかった色調と、金属特有の強い光沢を両立させるためです。
加工性に優れる理由は何か
黄銅(真鍮)が加工性に優れる理由は、主にその組成と物理的な特性によります。特に、展延性、熱間鍛造性、そして特定の成分添加による切削性の高さが挙げられます。
1. 優れた塑性(展延性)
黄銅は、主成分である銅の高い展延性(伸ばしたり広げたりできる性質)を引き継いでいます。
- 冷間加工: 常温でも粘り気があり、壊れずに曲げたり、薄い板や細い線にしたり(圧延や線引き)といった塑性加工が容易です。これにより、ホックやファスナーなどの部品製造に適しています。
2. 熱間鍛造性の高さ
黄銅は、比較的低い温度(約)で軟化し、変形させやすい特性(熱間鍛造性)を持っています。
- 複雑な形状: 加熱して鍛造することで、複雑な形状の部品を容易かつ瞬時に作ることができ、高密度の製品を得られます。これはバルブや継手などの製造に利用されます。
3. 高い切削加工性(快削性)
黄銅は非鉄金属の中で特に切削加工性が良い素材の一つです。
- 快削黄銅の存在: 一般的な黄銅に鉛(Pb)を少量添加した快削黄銅(例:C3604)は、鉛が切りくずを細かく分断しやすくし、工具との摩擦を減らす潤滑剤のような役割を果たします。
- メリット: これにより、高速での精密切削加工が可能になり、切りくず処理が容易で、工具の摩耗が少なくなり工具寿命も延びます。ねじや歯車などの精密部品の量産に極めて適しています。
これらの特性により、黄銅は鋳造、鍛造、切削、プレス加工といったあらゆる加工方法に対応できる、非常にバランスの取れた「万能素材」となっています。

黄銅の優れた加工性は、主に次の点によります。特に鉛を添加したものは、切削性(削りやすさ)が非常に高いです。展延性(柔らかさ)が高い銅を主成分とし、常温での曲げ・絞り加工が容易です。熱間鍛造性に優れ、加熱すると複雑な形状に加工しやすいです。
耐食性に優れる理由は何か
黄銅(真鍮)が耐食性に優れる主な理由は、表面に強固な保護膜が形成されるメカニズムによるものです。
1. 酸化による保護皮膜の形成
黄銅は、空気中や水中で酸素と接触すると、その表面に主成分である銅の酸化物が生成されます。
- この酸化物層は、緻密で安定した保護皮膜(不動態皮膜)として機能し、金属の内部がさらに酸素や水分と反応するのを防ぎます。
- これにより、鉄のように全体がボロボロに腐食していく(赤錆)のではなく、表面の変色(黒ずみや緑青)で進行が止まり、内部の金属組織が守られます。
2. 鉄(Fe)を含まない
黄銅は銅と亜鉛の合金であり、鉄を主成分としません。
- 一般的な「錆び(赤錆)」は、鉄が酸素と水と反応してできる酸化鉄(Fe₂O₃など)ですが、黄銅は鉄が含まれないため、この種類の激しい腐食(錆び)は発生しません。
この保護皮膜の働きにより、黄銅は湿気や水にさらされる環境、特に一般的な水環境や屋内環境に対して優れた耐久性を持っています。
ただし、黄銅は万能ではなく、特定の環境下では腐食の問題が起こることがあります。
- 脱亜鉛腐食: 高温水や塩素を含む水、酸性の環境下では、合金中の亜鉛が選択的に溶出する現象が起きることがあります。これにより、金属が脆くなることがあります。
- 対策: このような環境で使用する場合、錫などを添加して耐食性を高めたネーバル黄銅や脱亜鉛腐食対策黄銅(DZR)などが用いられます。

黄銅の耐食性は、含まれる銅が空気や水に触れることで、表面に緻密な酸化皮膜(緑青など)を形成するからです。この安定した皮膜が内部の金属を保護し、鉄のような激しい腐食を防ぎます。
黄銅はどのように作られるのか
黄銅(真鍮)は、基本的に主成分である銅と亜鉛を溶かし合わせて合金化することで作られます。この製造工程は、大量生産される素材(ビレットや棒材など)を作る段階と、それから部品や製品を作る段階に分かれます。
1. 合金素材の製造(溶解・鋳造)
黄銅素材(インゴット、ビレットなど)を大量に作る際の主要な工程です。
- 原料の配合:用途に応じた配合比率(例:銅 60%~70%、亜鉛 30%~40%)で、純粋な銅や亜鉛、あるいはスクラップ材(ダライ粉など)を準備します。強度向上などの目的で、鉛、錫、鉄などの微量元素が添加されることもあります。
- 溶解:これらの原料を炉に入れ、融点(約 900℃~100℃程度)に加熱して溶かし、完全に均一な溶湯(溶けた金属)を作ります。
- 鋳造:作られた溶湯を型に流し込み、冷やし固めて、次の加工工程に適した形状(ビレットやインゴットなど)にします。
2. 製品・部品への加工
鋳造された黄銅素材は、その後の用途に応じてさまざまな加工法で成形されます。
加工方法 | 特徴 | 主な用途 |
押出加工 | 加熱したビレットをダイス(金型)から押し出し、棒や管などの長い形状に成形する。 | パイプ、棒材、線材 |
切削加工 | 旋盤やマシニングセンタで削り出し、精密な形状に仕上げる。特に快削黄銅が使われる。 | ボルト、ナット、精密機械部品 |
熱間鍛造 | 金属を赤熱(約 | バルブ、継手、ガス器具部品 |
圧延・プレス | 常温で圧力をかけて薄板や箔にしたり、打ち抜いたり、曲げたりする。 | 五円硬貨、バネ、端子コネクタ |
鋳造(再溶解) | 製品の最終形状に近い型に溶湯を流し込んで成形する。 | 仏具、装飾品 |

黄銅は、主に銅と亜鉛のインゴットやスクラップを炉で溶かし合わせ、所定の比率の溶湯を作ります。その後、その溶湯を型に流し込む鋳造や、金型から押し出す押出加工などで、棒や板の素材に成形されます。
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