坂口志文教授へのノーベル生理学・医学賞授与 どのような業績での受賞なのか?制御性T細胞とは何か?

この記事で分かること

授賞理由:坂口氏は、生体内の過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」を発見した功績が認められ、共同受賞となりました。

制御性T細胞とは:免疫システムにおいて「ブレーキ役」を担うリンパ球で、過剰な免疫反応を抑制し、自己免疫疾患の発症を防ぐなど、体内の免疫のバランス(免疫寛容)を維持する重要な役割を果たします。

自己免疫疾患とは:本来体を守る免疫システムが、誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気の総称です。

免疫反応を抑える方法:抑制性サイトカイン(IL-10など)の分泌や、他のT細胞の増殖に必要なIL-2を奪うことで、免疫細胞の活性化を直接的に抑え、過剰な免疫反応にブレーキをかけます。

坂口志文教授へのノーベル生理学・医学賞授与

 2025年のノーベル生理学・医学賞が、坂口志文大阪大学栄誉教授に授与されることが発表されました。

 坂口氏は、生体内の過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」を発見した功績が認められ、共同受賞となりました。

制御性T細胞とは何か

 制御性T細胞(Regulatory T cells, Treg)は、私たちの体を守る免疫システムにおいて、過剰な免疫反応を抑制し、免疫のバランスを保つ「ブレーキ役」を担う特殊なリンパ球です。


制御性T細胞の機能と役割

 主な機能は以下の通りです。

  1. 自己免疫疾患の予防(免疫寛容の維持)
    • 免疫システムが誤って自分の体を攻撃してしまう現象(自己免疫反応)が起きないように、他の免疫細胞の活動を抑えます。これにより、関節リウマチ、1型糖尿病などの自己免疫疾患の発症を防ぐ上で重要な役割を果たします。
  2. 免疫の恒常性の維持
    • 感染などに対して免疫細胞が過剰に活性化し、体に害を及ぼすような「暴走」が起こるのを防ぎ、免疫システムを落ち着いた状態(恒常性)に保ちます。

医療分野での重要性

 制御性T細胞の機能が低下すると、免疫のブレーキが効かなくなり、自己免疫疾患などを引き起こす可能性があります。逆に、この細胞が過剰に働くと、がん細胞に対する免疫の攻撃を抑制してしまい、がんの増悪につながる可能性があります。

このため、その働きを操作することで、以下のような応用研究が進められています。

  • 自己免疫疾患・アレルギー治療:制御性T細胞を増やすことで、過剰な免疫反応を抑える。
  • がん免疫療法:制御性T細胞の働きを抑制または除去することで、がん細胞に対する免疫の攻撃力を高める。
  • 臓器移植:制御性T細胞を利用して、移植された臓器への拒絶反応を抑える。

制御性T細胞は、免疫システムにおいて「ブレーキ役」を担うリンパ球で、過剰な免疫反応を抑制し、自己免疫疾患の発症を防ぐなど、体内の免疫のバランス(免疫寛容)を維持する重要な役割を果たします。

自己免疫疾患とは何か

 自己免疫疾患とは、本来は細菌やウイルスなどの「異物」を排除して体を守る役割を持つ免疫システムが、誤って自分自身の正常な細胞や組織を「異物」と認識して攻撃してしまう病気の総称です。

 この誤った攻撃により、全身や特定の臓器に慢性的な炎症や障害が引き起こされ、様々な症状が現れます。

代表的な病気

 自己免疫疾患には多くの種類があり、攻撃される組織によって病名が異なります。

全身性(全身の様々な臓器に影響が出るもの)

  • 関節リウマチ(関節が攻撃される)
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)

臓器特異的(特定の臓器が攻撃されるもの)

  • 1型糖尿病(膵臓のインスリン産生細胞が攻撃される)
  • 橋本病・バセドウ病(甲状腺が攻撃される)

自己免疫疾患とは、本来体を守る免疫システムが、誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気の総称です。この異常な反応が、全身や特定の臓器に慢性的な炎症や障害を引き起こします。

制御性T細胞はどのように免疫反応を抑制するのか

 制御性T細胞(Treg)は、主に以下の4つの主要なメカニズムを通じて、他の免疫細胞(特にヘルパ ーT細胞やキラーT細胞など)の活性化と増殖を抑制し、過剰な免疫反応に「ブレーキ」をかけます。


1. 抑制性サイトカインの放出

 Tregは、免疫反応を弱める特定のタンパク質(サイトカイン)を分泌します。

  • インターロイキン-10(IL-10):他の免疫細胞の活性化や、炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑制します。
  • TGF-(トランスフォーミング増殖因子-):免疫細胞の増殖を抑えたり、別の種類のT細胞への分化を抑制したりします。

2. 栄養源(IL-2)の奪い合い

 Tregは、IL-2(インターロイキン-2)という、他のT細胞の増殖と生存に必須な物質を非常に効率よく取り込む高い受容体(CD25)を持っています。

  • Tregが活性化すると、周囲のIL-2を大量に消費するため、免疫応答を担う他のT細胞(エフェクターT細胞)はIL-2不足に陥り、増殖や生存が抑制されます。

3. 細胞表面分子による直接的な抑制

 Tregは、細胞の表面に存在する特別な分子を使って、他の免疫細胞や抗原提示細胞(免疫細胞に異物を教える細胞)の働きを直接的に抑制します。

  • CTLA-4:この分子が抗原提示細胞上の分子(CD80/CD86)と結合することで、エフェクターT細胞への重要な活性化シグナル(共刺激)を奪い取り、T細胞の活性化をブロックします。

4. 標的細胞の細胞障害(キラー活性)

 場合によっては、Tregはグランザイムパーフォリンといった分子を放出し、過剰に活性化している他のT細胞を直接破壊(アポトーシスを誘導)することで免疫反応を停止させます。

これらのメカニズムが組み合わさることで、Tregは、自己を攻撃する細胞病原体排除後に不要になった細胞の活動を抑え込み、体の免疫のバランス(免疫寛容)を維持しています。

制御性T細胞は、抑制性サイトカイン(IL-10など)の分泌や、他のT細胞の増殖に必要なIL-2を奪うことで、免疫細胞の活性化を直接的に抑え、過剰な免疫反応にブレーキをかけます。

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