この記事で分かること
- BYDの強み:バッテリー(ブレードバッテリー)を核とする技術開発力と、部品の約9割を内製する垂直統合戦略です。これにより、高い安全性を確保しつつ、圧倒的なコスト競争力と幅広い車種の展開を実現しています。
- 海外展開状況:東南アジアやヨーロッパを中心に海外展開を加速しており、タイやハンガリーでEV工場を建設中です。現地生産化で関税を回避し、海外販売台数は急増。長期的には販売の半分を海外で得る目標を掲げています。
BYDのバッテリーEV4四半期連続でテスラ超え
2025年第3四半期までのデータでは、バッテリーEVについて、BYDがテスラを上回る販売を続け、4四半期連続でリードしていると報道されています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-10-04/T3L1YLGP493400
BYDの強みは何か
BYDの強みは、主に以下の3つの柱に集約されます。これは、EV市場におけるテスラとの激しい競争を勝ち抜くための、BYD独自の大きな競争優位性となっています。
1. 垂直統合型のビジネスモデル(内製化率の高さ)
BYDの最大の強みは、EVの主要部品の約9割を自社グループ内で開発・生産する垂直統合戦略にあります。
- コスト競争力:
- 部品を外部サプライヤーから購入するコストを大幅に削減できるため、他社より低価格で車両を提供できます。これが中国市場における激しい価格競争で有利に働いています。
- 供給安定性とスピード:
- バッテリー、モーター、EVを制御する半導体(自社製)など、主要な部品の供給を自社でコントロールできるため、サプライチェーンが強靭です。2020年の世界的な半導体不足の際も、BYDは比較的安定した生産を維持できました。
- 部品開発から車両生産までを一体化できるため、開発サイクルが速く、市場のニーズに迅速に対応できます。
2. 世界トップクラスのバッテリー技術
BYDは元々バッテリーメーカーとして創業しており、EVの「心臓部」であるバッテリー技術に非常に強みを持っています。
- ブレードバッテリー (Blade Battery):
- BYD独自のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池技術で、刀のような薄いセル形状を特徴とします。
- 安全性: 業界で最も厳しいとされる釘刺し試験をクリアしており、発火・爆発のリスクが低いとされています。
- コストと資源: 希少金属(コバルトなど)の使用が少ないLFP素材を採用しているため、製造コストを抑えられます。
- 構造: バッテリーを車台と一体化する「CTB (Cell to Body)」構造により、車体剛性の強化、省スペース化、広い室内空間の確保を実現しています。
3. 多様な車種ラインナップと幅広い価格帯
テスラが主に高価格帯の車種に特化しているのに対し、BYDは非常に幅広い車種と価格帯を展開しています。
- PHV(プラグインハイブリッド車)との両輪:
- BEVだけでなく、PHVも主力製品として生産しており、電動車(NEV)全体の販売台数ではテスラを圧倒しています。PHVは航続距離の不安が少ないため、EVへの移行期にある消費者にとって大きな選択肢となります。
- 低価格帯モデルの強さ:
- 超低価格帯の小型EV(例:Seagull)など、手が届きやすいモデルから高級車ブランドまで、多様な消費者のニーズに応えるラインナップを用意し、特に中国国内で圧倒的なシェアを獲得しています。
これらの強み、特にバッテリー技術と垂直統合によるコスト競争力が、BYDが世界のEV市場で急速に台頭し、テスラと並び、あるいは上回る存在となった主要因です。

BYDの最大の強みは、バッテリー(ブレードバッテリー)を核とする技術開発力と、部品の約9割を内製する垂直統合戦略です。これにより、高い安全性を確保しつつ、圧倒的なコスト競争力と幅広い車種の展開を実現しています。
BYDの海外展開はどんな状況か
BYDは現在、積極的かつ多角的に海外展開を加速させており、その状況は以下の通りです。
1. グローバルな展開地域
BYDは現在、60カ国以上、100都市超でEV販売を展開しています。
- 東南アジア: 最も注力する市場の一つです。
- タイ:東南アジア初のEV工場が稼働しており(年間生産能力15万台)、右ハンドル車市場向けの主要な生産・輸出ハブとなっています。
- インドネシア、マレーシア、カンボジアなどでも工場建設を推進または計画しています。
- ヨーロッパ: 現地生産により関税対策を講じながら市場に食い込んでいます。
- ハンガリー:欧州初のEV組立工場を建設中です(2025年10月稼働予定)。
- トルコ:工場建設計画があります。
- ノルウェーなどでは既にSUVモデルが人気を博し、販売台数でテスラと肩を並べる実績もあります。
- 南米: ブラジルで工場を建設・計画しており、現地生産を強化しています。
- 日本: 2023年1月に乗用車市場に本格参入し、販売拠点を増やしていますが、日本の国内大手メーカーへの忠誠心の高さなどから、現在のところ販売台数では苦戦が続いています。
2. 成長目標と実績
- 海外販売の急増: 2024年上半期(1月〜6月)の海外販売台数は前年同期比132%増と急増しており、BYDの成長を牽引しています。
- 目標: 2025年には海外売上高の割合を全出荷台数の約20%に達すると予測しており、長期的には世界販売台数の約半分を海外市場から得ることを目指しています。
3. 海外進出の戦略
- 現地生産による関税回避: EUの対中関税や、今後懸念される関税障壁を回避するため、タイ、ハンガリー、ブラジルなど、主要な地域で現地生産工場の建設を急いでいます。
- 自社運搬船(RORO船): 大量の車両を効率的に輸出するため、自動車運搬船を自社で保有・運用し、物流面での競争力を高めています。
- 商業車(バス)からの実績: 過去から電動バスの分野で、ロンドンやロサンゼルスなど世界各地で採用されており、「電動化のパイオニア」としての信頼と実績を既に持っています。

BYDは東南アジアやヨーロッパを中心に海外展開を加速しており、タイやハンガリーでEV工場を建設中です。現地生産化で関税を回避し、海外販売台数は急増。長期的には販売の半分を海外で得る目標を掲げています。
テスラ不振の理由は何か
テスラの不振(販売台数の伸び悩み、特に2024年の世界販売台数が前年割れを記録したこと)の理由は、主に以下の要因が複雑に絡み合っていると指摘されています。
1. 激化するEV市場の競争(特に中国)
- BYDなどの台頭: 最大市場である中国で、BYDをはじめとする現地メーカーが垂直統合による低コスト生産を武器に、テスラ車と競合する価格帯で高品質なEVを大量投入しています。
- 低価格帯モデルの不在: テスラは主力モデル(Model 3/Y)の価格帯よりさらに安価な大衆向けEV(低価格モデル)の投入が遅れており、BYDなどの廉価EVに市場シェアを奪われています。
- 製品競争力の低下: 中国のEVメーカーは、大型スクリーン、冷蔵庫、セルフィーカメラなど、現地消費者の嗜好に合わせた独自のスマート機能を搭載しており、テスラのモデルが「古く見える」「モデルチェンジが少ない」と感じられ、製品の魅力が相対的に低下しています。
2. 世界的なEV需要の減速
- 初期需要の一巡: EVの初期の熱狂的な需要が一巡し、補助金の削減や撤廃が行われる国が増えたことで、EV全体の販売成長率が鈍化しています。
- ハイブリッド車(HV)への回帰: EVへの移行に慎重な消費者層が、航続距離の不安が少ないHVやPHEVを選ぶ傾向が強まっており、EV専業であるテスラには逆風となっています。
3. イーロン・マスクCEOの言動と政治的影響
- ブランドイメージの毀損: マスク氏の政治的・社会的なSNSでの発言や行動が、テスラを支持していたリベラル層や欧米の一部顧客の反感を買い、不買運動やブランド離れの一因になっていると指摘されています。
- 政治リスク: 米国や欧州における中国への高関税政策などが、テスラのグローバルなサプライチェーンやコスト戦略に影響を与えています。
4. アフターサービスや新モデルの遅れ
- サービス網の不足: テスラは伝統的なディーラー網を持たないため、アフターサービス体制の悪さについて、既存の自動車メーカーと比べて顧客からの不満が出やすい傾向にあります。
- 新モデルの投入遅れ: 主力車種であるModel 3とModel Yへの依存度が高く、市場が待望する低価格モデルや、その他のセグメントの新車種の投入が遅れています。
これらの要因により、テスラはこれまで独走してきたEV市場で、価格競争力と製品の多様性を強みとするBYDなどのライバルに追い上げられ、苦境に立たされています。

テスラ不振の主因は、BYDなど中国勢による価格競争の激化と、安価な大衆向けモデル投入の遅れです。また、イーロン・マスク氏の言動によるブランドイメージの悪化も影響しています。
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