この記事で分かること
- 分析方法:PFASに反応して発光するように改変された微生物(センサー)を水試料に添加し、その発光シグナルの強度を専用のモバイル機器で測定して濃度を算出します。
- 微生物がPFASと応答する理由:PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)を検知する特定のタンパク質を持っています。PFASが結合すると、スイッチが入り、光を発するように設計されています。
栗田工業のPFASモバイル分析キット
栗田工業は、PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)の濃度を測定するためのモバイル分析キットについて、カナダのFREDsense Technologies社と協業を推進しています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000132866.html
この協業は、FREDsense社のPFAS濃度測定用モバイル分析キット「FRED-PFAS™」の水処理装置への実装と普及を目的としています。
どのように分析するのか
栗田工業が協業を推進しているPFAS濃度測定キット「FRED-PFAS™」(FREDsense Technologies社製)は、一般的に以下のようなバイオセンサー技術を利用していると考えられます。
分析原理:バイオセンサー技術
FREDsense社の技術は、微生物などの生物学的要素を利用して特定の化学物質の存在や濃度を検出するバイオセンサーを基盤としています。
- 遺伝子改変微生物: 特定のPFAS(PFOS/PFOAなど)に反応するように遺伝子改変された微生物(バクテリア)が使用されます。
- PFASとの結合と発光:
- 水中のPFASがこれらの微生物に結合または取り込まれると、微生物の内部で特定の代謝反応や遺伝子の発現が誘発されます。
- この反応の結果、微生物が光(蛍光など)を発するように設計されています。
- シグナル測定: モバイルキットの専用リーダー(測定器)がこの発光シグナルの強度を測定します。
- 濃度換算: シグナルの強度は水中のPFAS濃度に比例するため、このデータからPFASの濃度が迅速に算出されます。
分析の一般的な手順(推定)
現場で迅速に測定するために、キットは以下のような簡単な手順で設計されていることが多いです。
- サンプリング: 測定対象の水試料を専用の容器(バイアル)に採取します。
- 試薬・センサーの添加: 採取した水試料に、キットに含まれる凍結乾燥された微生物センサーなどの試薬やバッファーを添加し、混合します。
- インキュベーション: センサー微生物がPFASに反応するまでの反応時間(インキュベーション)を待ちます(通常、数十分程度)。
- 測定: 混合液をモバイル分析機器(リーダー)にセットします。機器が発光シグナルを読み取り、PFAS濃度をデジタル表示します。
この方法の利点は、従来の分析手法(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析計:LC-MS/MSなど)と比べて、現場で迅速に、かつ専門的なラボ機器なしに測定できる点にあります。

栗田工業が協業するPFAS測定キット「FRED-PFAS™」は、バイオセンサー技術を利用しています。PFASに反応して発光するように改変された微生物(センサー)を水試料に添加し、その発光シグナルの強度を専用のモバイル機器で測定して濃度を算出します。
微生物はなぜPFASと反応するのか
栗田工業が協業するキットで使われる微生物は、人工的にPFASに応答するように遺伝子改変されているため、PFASの存在を検出できます。
PFAS測定キットにおける微生物(バイオセンサー)がPFASと反応する基本的なメカニズムは以下の通りです。
応答のメカニズム:遺伝子改変による「スイッチ」
この種のバイオセンサーでは、天然の微生物の機能を利用しつつ、人工的に「検出」と「報告(発光)」の機能を持たせています。
- 検出機構(レセプター)
- 微生物の遺伝子の一部を操作し、PFAS(例:PFOSやPFOA)が細胞内に入ると結合する特定のタンパク質(レセプター)を作らせます。
- このレセプターにPFASが結合すると、微生物の特定の遺伝子の発現をONにする(スイッチを入れる)シグナルが伝達されます。
- 報告機構(レポーター遺伝子)
- スイッチがONになったときに発現する遺伝子として、蛍光や発光を担う遺伝子(レポーター遺伝子)を微生物に組み込みます。
- PFASが検出機構に結合すると、このレポーター遺伝子が働き、微生物が光(蛍光など)を放ちます。
- シグナル増幅
- PFAS濃度が高ければ、より多くの微生物が反応し、より強い光のシグナルが得られます。モバイル分析器はこの光の強度を測定し、PFASの濃度へと換算します。
背景:天然の反応と人工的な利用
一部の天然の微生物は、PFASを分解したり、特定の代謝経路で利用したりする能力を持つことが知られており、この難分解性の化学物質に自然に応答する性質を持っています。
バイオセンサーは、こうした微生物が持つ特定の化学物質に応答する能力を、「光」という明確で測定しやすいシグナルに変換するために、遺伝子工学の技術を用いて改良したものと言えます。

微生物は遺伝子改変により、PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)を検知する特定のタンパク質を持っています。PFASが結合すると、スイッチが入り、光を発するように設計されているため反応します。
どのような場面で使用されるか
栗田工業が協業するPFAS濃度測定キット「FRED-PFAS™」は、主に現場(オンサイト)での迅速なPFAS濃度測定が必要とされる場面で使用されます。
特に、同社の専門分野である水処理に関連した場所での活用が期待されます。
1. 水処理装置の運転管理・最適化
このキットの最も重要な用途は、栗田工業の水処理装置への実装と普及です。
- 除去性能の監視: PFAS除去装置(吸着材など)の入口と出口のPFAS濃度をその場で測定し、除去性能が維持されているか、または吸着材の交換時期が来たかを迅速に判断します。
- 薬剤注入の最適化: 水処理薬剤を使用する場合、PFAS濃度に応じて注入量をリアルタイムで調整し、コスト削減と効率的な処理を目指します。
2. 環境水のモニタリングと緊急対応
PFAS汚染が懸念される環境水(地下水、河川水など)の迅速なスクリーニング検査に使用されます。
- 汚染源の特定: 広範囲のサンプリング地点で初期濃度を素早く測定し、汚染源の特定や拡散状況の把握を迅速に行います。
- 緊急時の対応: 事故や突発的な汚染が発生した場合に、数時間以内に濃度を把握し、対策を講じる際の判断材料として利用されます。
3. 工場や事業所からの排水管理
PFASを使用または排出する可能性のある工場や事業所での自主管理や規制対応に使用されます。
- 排水基準の確認: 排水処理後の水が、国や自治体の定めるPFASの排出基準を満たしているか、ラボ分析の結果を待たずに日常的にチェックします。
4. 浄水場や水道事業
浄水場における原水や浄水のPFAS濃度の日常的なチェックや、PFAS除去設備を導入する際の事前調査に使われます。
メリット
このモバイルキットは、従来のPFAS分析(LC-MS/MSなど)のように専門的な分析機関に依頼し、結果が出るまでに数日から数週間かかるのに対し、現場で数時間以内に結果を得られる点が大きな利点です。これにより、迅速な意思決定と水処理の効率化が可能になります。

栗田工業が協業するPFAS測定キットは、主に水処理装置の運転管理や性能監視に使われます。また、汚染が懸念される地下水や環境水の迅速なスクリーニング、および工場排水の自主管理など、現場での素早い濃度確認が必要な場面で使用されます。
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