この記事で分かること
- 空中映像投映技術とは:特殊な光学素子(ミラーやレンズ)を用いて、光源(ディスプレイ)からの光を空中の特定の位置に集め、裸眼で見える実像として映像を浮かび上がらせる技術です。
- メリット:高い訴求力とエンターテイメント性や非接触操作による衛生・感染症対策とメンテナンスの容易さです。
- 応用例:上記のメリットを生かした医療現場の操作パネル、公共施設の非接触端末、近未来的なデジタルサイネージなどです。
三菱電機の空中映像投映技術
三菱電機は、空中に映像を浮かび上がらせる「空中映像投映技術」や「空中ディスプレイ」を開発しています。特に近年では、高輝度・高精細な映像を裸眼で3D表示できるディスプレイ「CielVision™(シエルビジョン)」を発表するなど、技術開発を進めています。
この技術は、非接触操作を可能にするなど、衛生面やメンテナンス面でメリットがあり、様々な分野での応用が期待されています。
空中映像投映技術とは何か
空中映像投映技術とは、特殊なスクリーンやメガネを使用せず、何もない空間(空中)に映像や画像を浮かび上がらせる技術のことです。「空中ディスプレイ」や「空中結像技術」とも呼ばれます。
この技術は、光の反射や屈折といった光学原理を利用して、光源(ディスプレイなど)から発せられた光線を空中の特定の位置に集め、実像として結像させることで実現されます。
主な原理・仕組み
空中映像投映技術にはいくつかの方式がありますが、代表的なものは以下の通りです。
1. 2面直交リフレクタ(またはコーナーリフレクタ)方式
- 仕組み: 2枚のスリットミラーを直交させた「2面直交リフレクタ」をアレイ状に配置した光学素子を用います。
- 光源から出た光がこの光学素子に斜めに入射し、2回の反射を経て、光学素子に対して面対称な位置に空中映像が結像します。
- レンズのような収差(歪み)が生じにくく、システム設計が比較的容易という特徴があります。
2. 再帰反射(AIRR: Aerial Imaging by Retro-Reflection)方式
- 仕組み: ビームスプリッター(ハーフミラー)と再帰反射素子(入射光を入射した方向へ反射する特性を持つ)を組み合わせて構成されます。
- 光源からの光がビームスプリッターで反射し、再帰反射素子に入射します。再帰反射された光が再びビームスプリッターを透過することで、光源と面対称の位置に実像(空中像)が形成されます。
3. マイクロレンズ方式
- 仕組み: 表示素子から出射された光線が、微小なレンズを規則的に並べたレンズアレイにより集光され、空間に実像として結像されます。
- 他の方式に比べて、高輝度な映像を生成しやすいという特徴があります。
特徴
- 非接触インターフェース: 空間に浮かぶ映像に、赤外線センサーなどの空間タッチセンサーを組み合わせることで、触れずに操作できる空中タッチディスプレイ(空中スイッチ)として利用できます。
- 実像表示: 空中に形成される像は実像であるため、特殊なメガネを必要とせず、裸眼で立体感のある映像を見ることができます(方式によっては裸眼3Dも実現)。
- 衛生面・メンテナンス: 非接触操作により、公共の場や医療現場などでの衛生対策に有効であり、画面が汚れたり傷ついたりするのを防ぎ、メンテナンス負荷を軽減できます。

空中映像投映技術は、特殊な光学素子(ミラーやレンズ)を用いて、光源(ディスプレイ)からの光を空中の特定の位置に集め、裸眼で見える実像として映像を浮かび上がらせる技術です。センサーと組み合わせることで非接触のタッチ操作も可能になります。
なぜ今までは実現が難しかったのか
空中映像投映技術(空中ディスプレイ)の実現が難しかった主な理由は、以下に示すような「映像の品質(輝度・解像度)」、「視野角の制約」、そして「システムの大型化」という、光学技術と実用性の両面における技術的な課題にありました。
1. 映像品質の低下(暗さ・ゴースト像の発生)
多くの空中映像技術は、光を反射・透過させる光学素子(ビームスプリッター、再帰反射材など)を利用して実像を結びます。
- 光損失: 特に再帰反射方式では、光が反射・透過のプロセスを複数回経るため、光の利用効率が低下し、最終的な映像が暗くなるという大きな課題がありました。例えば、透過率50%のハーフミラーを2回使う場合、映像の輝度は光源の約25%程度まで落ちてしまいます。
- 迷光とゴースト像: 不要な反射(迷光)が発生しやすく、これがゴースト像(虚像)となって空中映像に重なり、視認性を低下させていました。
2. 視野角の狭さ
- 特定の角度からの観察: 従来の方式では、光の結像原理や光学素子の特性(マイクロレンズやコーナーリフレクタなど)の制約から、空中に映像が表示される視野角が狭く、見る位置が少しずれると映像が見えなくなってしまうことがありました。
- 立体視の難しさ: 裸眼での立体視や、見る角度に応じた自然な奥行き(運動視差)の再現が難しく、不自然な映像になりがちでした。
3. システムの大型化とコスト
- 物理的な制約: 空中に大きな映像を映し出すためには、映像と光学素子の間に一定の距離が必要となり、また、光学素子自体も大型化しがちでした。これにより、装置全体が大きく(「鏡餅」のように分厚く)なり、設置場所が限られるという実用上の課題がありました。
- 高コスト: 高精度な光学素子や、複雑な光学配置、加えて空中操作を実現するための高感度なセンサーを組み合わせる必要があり、システム全体の製造コストが高くなる傾向がありました。
4. 操作性の課題(空中タッチの場合)
- 奥行き認識の難しさ: 空中に浮かぶ映像に触れようとしても、「どこがボタンの面なのか」「本当に押せたのか」という奥行き感や触覚フィードバックが乏しく、直感的な操作が困難でした。これを解決するために超音波による触覚フィードバック技術が研究されていますが、装置のさらなる大型化や消費電力増加の課題がありました。
三菱電機が開発した「CielVision™」などの最新技術は、独自の光学技術やデジタル映像処理技術を導入することで、これらの課題、特に「輝度・解像度の向上」や「装置のスリム化」を克服しつつあります。

主に、映像が暗くなる(光の損失)、ゴースト像による視認性の低下、映像を見られる視野角の狭さ、および装置の大型化という光学技術と実用性の両面で、技術的な課題を克服する必要があったためです。
解像度が上がった理由はなにか
空中映像投映技術で解像度が上がった主な理由は、光学系(ミラーなど)の改良による光の利用効率の向上と、デジタル映像処理による歪み補正技術の導入の2点です。従来の技術では、光の損失や迷光(ゴースト像)の発生が解像度を低下させる主な要因でした。
1. 独自の光学設計による光利用効率の向上
従来の再帰反射方式では、光が複数回反射・透過する過程で大きく損失し、映像が暗くなることで相対的に解像感も低下していました。
- 新光学系の採用(自由曲面ミラーなど): 三菱電機の「CielVision™」などで採用されている独自の空中プロジェクション光学技術(自由曲面ミラー1枚のみの使用など)により、光の利用効率が大幅に向上しました。
- 高輝度化: 映像が明るくなることで、細部まで鮮明に映し出され、結果として従来の課題であった解像度の低下が解消され、高い視認性を実現しています。
2. デジタル映像処理による歪曲補正
光学素子を用いる方式では、原理的に映像に歪み(収差)が生じやすいという課題があり、これが実質的な解像度(鮮明さ)を下げていました。
- ソフトウェア補正: 光学系で発生する映像の歪曲を、事前にデジタル映像処理技術で正確に計算し、補正をかけた画像を光源(ディスプレイ)に表示します。
- これにより、空中に結像した映像は歪みがなくなり、高精細でリアルな映像として認識できるようになりました。
これらの技術革新により、光損失の課題を克服し、光学的な歪みをデジタルで補正できるようになったことが、空中映像の解像度を飛躍的に向上させた要因です。

解像度向上は、主に自由曲面ミラーなどの独自の光学技術による光の利用効率向上と、デジタル映像処理による結像時の歪曲補正技術を融合し、鮮明な映像表示を実現したためです。
空中映像投映技術のメリットと応用例は何か
空中映像投映技術(空中ディスプレイ)の最大のメリットは、非接触操作による衛生面の確保と、近未来的な映像表現による高い訴求力です。
1. 衛生・非接触操作
- 高い衛生レベルの維持: 画面に直接触れる必要がないため、不特定多数の人が触れることによる接触感染(ウイルス・細菌など)のリスクを大幅に低減できます。特に、新型コロナウイルス流行以降、公衆衛生の観点から注目されています。
- 汚染防止: 医療現場や食品・医薬品工場、クリーンルームなど、衛生管理が厳しく求められる場所で、操作端末の汚染を防ぎ、作業環境の清潔さを保てます。
- メンテナンス負荷の軽減: 画面に手油や汚れ、傷が付かないため、清掃・除菌の手間やコストが削減されます。また、手袋やグローブをしたままでも操作が可能です。
2. 映像表現と利便性
- 高い訴求力とエンターテイメント性: 空中に浮かぶ映像は、従来のディスプレイにはない近未来的かつユニークな表現が可能で、広告やデジタルサイネージ、アミューズメント施設などで高い注目を集めます。
- 裸眼3D/立体感: 特殊なメガネや装置なしに、肉眼で立体的な映像を見ることができ、利用者へ強い臨場感を提供します。
- セキュリティの強化: 技術によっては、特定の視野角からしか映像が見えないように設計できるため、ATMの暗証番号入力などでの**覗き見防止(情報セキュリティ)**にも役立ちます。
応用例
空中映像投映技術は、主に非接触操作のニーズが高い分野や、高いエンターテイメント性が求められる分野で応用が進んでいます。
応用分野 | 具体的な活用例 |
医療・ヘルスケア | 手術室・無菌室の操作端末(高い衛生レベルの維持)、待合室・受付の非接触チェックイン/案内端末(感染予防)。 |
公共・商業施設 | 駅や空港の案内サイン、エレベーターの非接触ボタン、公衆トイレのウォシュレット操作パネル。 |
小売・飲食 | キャッシュレスセルフレジの操作画面(非接触タッチパネル)、レストランの非接触注文端末、近未来的な店舗ディスプレイ。 |
産業・製造 | 工場(クリーンルーム含む)の操作盤(手袋着用時の操作や汚染防止)、産業機械の操作インターフェース。 |
エンターテイメント | ライブ・イベントでの立体的な空中アバターや演出、観光地での非接触案内マップ(それ自体が観光の目玉に)。 |
車載機器 | カーナビゲーションや操作パネルの非接触化(衛生・安全性向上)。 |

空中映像投映技術のメリットは、非接触操作による衛生・感染症対策とメンテナンスの容易さです。応用例は医療現場の操作パネル、公共施設の非接触端末、近未来的なデジタルサイネージなどです。
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