ガラスの製法の発展:鋳造法、吹きガラス技法 それぞれの手法の特徴は何か?

この記事で分かること

  • 鋳造法とは:溶かしたガラスを、あらかじめ作った鋳型(いがた)に流し込み、冷やし固めて成形する技法です。複雑な立体作品の製作に適しています。
  • 吹きガラス技法とは:高温で溶かしたガラスを、中空の吹き竿に巻き取り、息を吹き込んで風船のように膨らませて器や作品を成形します。

ガラスの製法の発展:鋳造法、吹きガラス技法

 ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。

 そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。

 この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。

 前回はガラスの初期の歴史についての記事でしたが、今回は、その後に生まれた鋳造法や吹きガラス技法に関する記事となります。

ガラスの製造法

 古代に発明された技法は、古代ローマの衰退とともにヨーロッパで一時停滞したものの、イスラム圏で発展を続け、その後中世ヨーロッパで板ガラスの製造技術が進歩しました。


1. 古代ローマ時代:吹きガラスの普及

 紀元前1世紀頃に発明された吹きガラス技法(宙吹き・型吹き)は、古代ローマ帝国の拡大とともに全域に広まりました。

  • 特徴: 吹き竿を用いてガラスを膨らませることで、それまでのコア成形法に比べ、より安価に、かつ大量に、様々な形の容器(食器や保存容器など)を製造できるようになりました。
  • 板ガラスの原型: ごく一部で窓用にガラスが使用されましたが、主に鋳型に流し込んで成形する鋳造法で作られており、厚みが不均一で透明度も低いものでした。

2. 中世(シリア・ヨーロッパ):板ガラスの進化

 中世に入ると、吹きガラスを応用した、窓用の板ガラスを製造する技法が開発されました。

クラウン法(シリア・中世ヨーロッパ)

 紀元4世紀~7世紀頃にシリアで発明されたとされ、後にヨーロッパで普及しました。

  • 製法: 吹き竿の先に付けたガラスの塊を膨らませてから切り離し、遠心力を使って回転させ、平らな円盤状の板ガラスを作ります。
  • 用途: 中央に竿の跡(ポンテ跡)が残るため、小さな断片に切り分けてロンデル窓ステンドグラスとして教会や上流階級の住宅の窓に使われました。

円筒法(シリンダー法)(中世ドイツ・ベネチア)

 11世紀頃のドイツで登場し、13世紀頃にベネチアで完成度が高まったとされる技法です。

  • 製法: 溶けたガラスを吹いて大きな円筒形に成形し、その両端を切り落とした後、円筒を縦に切り開いて再加熱し、平らな板状に広げます。
  • 用途: クラウン法よりも大きなサイズの板ガラスを作ることが可能になり、中世の窓ガラス製造の主流となりました。

3. イスラム圏での発展

 ローマ帝国の衰退後、ヨーロッパのガラス技術は一時停滞しましたが、東ローマ帝国やササン朝ペルシャ(ササンガラス)、そしてその後のイスラム圏(イスラムガラス)では、ローマの技術を受け継ぎながら、カット装飾が施された高品質なガラス製品が引き続き製造・発展しました。

古代ローマ時代に発明された吹きガラスが普及し、安価な容器の大量生産が可能になりました。中世になると、窓ガラスを作るため、吹きガラスを応用したクラウン法(遠心力で円盤に広げる)や円筒法が発達しました。

鋳造法とは何か

 鋳造法(ちゅうぞうほう、キャスティング)とは、溶融したガラスをあらかじめ作っておいた鋳型(いがた)に流し込み、冷やし固めることで成形する技法です。

 この方法は、紀元前100年頃の古代ローマ時代から用いられてきた基本的なガラス製造技術の一つで、現代のガラス工芸分野でも用いられています。鋳造法は、金属の鋳造(いもの作り)と基本的な原理は同じで、以下の特徴があります。

1. 成形プロセス

  1. 鋳型の製作: 粘土、石膏、砂、または金属などで、目的のガラス製品の形をした型(雌型)を作ります。
  2. 流し込み(キャスティング): 高温で溶かした状態のガラスを、その鋳型に流し込みます。
  3. 冷却・徐冷: ガラスをゆっくりと冷やし固めます(徐冷)。特に複雑な形状の場合、ガラスに歪みが残らないように時間をかけて冷やします。
  4. 仕上げ: 固まったガラスを型から取り出し、必要に応じて研磨などの加工を施して完成させます。

2. 歴史的・現代的な用途

  • 古代:
    • 古代ローマ時代には、板状のガラスを製造するのに使われ、建物の窓ガラスの初期の形となりました。
    • 装飾性の高い器や皿、モザイクガラスの製造にも使われました。
  • 現代:
    • パート・ド・ヴェール (Pâte de verre): フランス語で「ガラスの練り粉」の意味。ガラスの粉や粒を型に詰めて焼成する技法で、繊細な色や柔らかな質感の作品が作られます。
    • キルンキャスト (Kiln Casting): 炉(キルン)の中でガラスの塊や粒を溶かし、型に流し込んで重厚感のある立体的な作品を作る技法。
    • サンドキャスト (Sand Casting): 湿らせた砂に原型を押し付けて型を作り、そこにガラスを流し込む技法。

3. 利点と問題点

  • 利点: 吹きガラスでは作れない厚みのある立体的な形状や、複雑な模様をガラスの内部に表現するのに適しています。
  • 問題点 一点ずつ型を壊して取り出す場合が多く、大量生産には不向きでした(ド・ヌーのキャスティング法など、後に量産化を試みる技法も登場)。また、古代の鋳造ガラスは厚みと表面の粗さから透明度が低いという課題がありました。

鋳造法は、溶かしたガラスを、あらかじめ作った鋳型(いがた)に流し込み、冷やし固めて成形する技法です。古代ローマ時代から容器や初期の板ガラス製造に用いられ、複雑な立体作品の製作に適しています。

鋳造法はなぜ透明度が低いのか

 鋳造法(キャスティング)で作られた初期のガラスは、現代のガラスに比べて透明度が低い主な理由は、ガラスの厚み不純物(特に鉄分)の多さ、そして表面の平滑性の低さの3点にあります。

1. ガラスの厚みと不純物

  • 厚さの不均一性: 鋳造法は溶けたガラスを型に流し込んで成形するため、特に大きな板ガラスの場合、厚さが均一になりにくく、厚い部分が多く残ります。
  • 鉄分の影響: 古代のガラスの原料(珪砂など)には、現在ほど精製されていないため、鉄分などの不純物が多く含まれていました。この鉄分が光を吸収するため、ガラスが厚くなるほどその色が濃く見え(主に青緑色)、結果として透明度が低下しました。

2. 表面の平滑性の不足

  • 表面の粗さ: 鋳造法で成形されたガラスの表面は、現代のフロート法のように鏡のような平滑性(滑らかさ)を持っていませんでした。
  • 光の乱反射: 表面に凹凸や歪みがあると、光がまっすぐ通過せず、様々な方向に乱反射するため、ガラスの向こう側が歪んで見えたり、曇って見えたりして、透明度が低く感じられました。

 吹きガラスの技法が発明され、ガラスを薄く膨らませることができるようになって初めて、色の影響が薄まり、より高い透明性が得られるようになりました。

鋳造法は、ガラスを型に流すため、厚みが不均一になりやすく、表面も滑らかさに欠けます。さらに原料に不純物(鉄分)が多く、厚い部分で光が吸収・乱反射されるため、現代のガラスに比べて透明度が低くなりました。

吹きガラス技法とは何か

 吹きガラス技法(ふきガラスぎほう)とは、高温で溶融したガラスを、中が空洞の吹き竿(ふきざお)と呼ばれる金属管の先に巻き取り、その反対側から息を吹き込んで成形する技法です。

 この技法は紀元前1世紀頃に東地中海沿岸(シリア・パレスチナ地方)で発明され、ガラス工芸における最も基本的かつ代表的な成形方法であり、古代ローマ時代から現在に至るまでほとんど変わらず受け継がれています .


1. 原理

  • ガラス種の巻き取り: 約1,200℃に溶けたガラス(ガラス種やタネと呼ばれる)を、吹き竿の先端に少量巻き取ります。
  • 膨張と成形: 竿の反対側から息を吹き込むことで、ガラスが風船のように丸く膨らみます。
  • 道具による調整: 職人(グラスブロワー)は、この柔らかいガラスを、紙りん(しりん)ジャック木板などの様々な道具と、重力や遠心力を巧みに利用して、グラス、花瓶、皿など様々な形に整えていきます。

2. 主な種類

 吹きガラスには、主に以下の2つの技法があります。

  • 宙吹き(ちゅうぶき): 型を使用せず、空中で息を吹き込み、道具と職人の技術のみで形を成形する技法。自由で芸術性の高い作品に向いています。
  • 型吹き(かたぶき): あらかじめ用意した鋳型(木型、金型、石膏型など)の中にガラスを吹き込み、型の模様や形状をガラスに転写して成形する技法。同一形状のものを効率よく作るのに適しています。

3. 歴史的意義

 吹きガラスの発明により、それ以前の鋳造法コア成形法では難しかった薄く透明度の高いガラス製品を、比較的短時間で大量に製造することが可能になり、ガラスが一部の特権階級の宝物から一般市民にも普及するきっかけとなりました。

吹きガラス技法は、紀元前1世紀頃に発明されたガラス工芸の基本技法です。高温で溶かしたガラスを、中空の吹き竿に巻き取り、息を吹き込んで風船のように膨らませて器や作品を成形します。これにより、薄く多様な形のガラス製品の大量生産が可能になりました。

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