この記事で分かること
- シリンダー法とは:1800年頃に普及した板ガラスの製造法です。吹き竿で巨大なガラスの筒を吹き上げ、両端を切断後に縦に切り開き、再加熱して平らに押し広げることで、大型化が可能です。
- シリンダー法でのガラスの用途:建築用の窓ガラスとして利用されました。クラウン法に比べ生産性が高かったため、産業革命期以降、窓の大型化やガラスの一般への普及に大きく貢献しました。
シリンダー法
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回はクラウン法に関する記事でしたが、今回は、シリンダー法に関する記事となります。
シリンダー法とは何か
シリンダー法(Cylinder Method)とは、ガラスの板ガラスを製造するために用いられた技法で、手吹き円筒法(てぶきえんとうほう)とも呼ばれます。
この技法は、中世ヨーロッパで考案され、1800年頃の産業革命初期に改良・普及し、それまでのクラウン法よりも大きなサイズの板ガラスを製造することを可能にしました。
製造手順
シリンダー法は、吹きガラスの技術を応用し、以下の手順で板ガラスを成形します。
- 円筒の成形: 職人(ガラス吹き)が吹き竿に溶けたガラスを巻き取り、特殊な型や水切り台の上で振ったり、息を吹き込んだりする操作を繰り返し、巨大な円筒状(シリンダー)のガラスを形成します。
- 両端の切断: できあがった円筒の両端(吹き竿側と先端側)を切り落とし、開口します。
- 縦割り: 円筒を冷却した後、ダイヤモンドなどの鋭利な道具で長手方向(縦)にまっすぐな切り込み(スコア)を入れます。
- 展開(平坦化): この縦に割れ目を入れた円筒を、窯に入れて再び加熱し、柔らかくなったところで開口部から押し広げ、平らな長方形の板ガラスにします。
特徴と意義
- 大型化の実現: クラウン法では遠心力の限界から円盤サイズに制限がありましたが、シリンダー法では大きな筒を吹き上げることで、当時としては格段に大きな長方形の板ガラスを製造できました。
- 均一性の向上: 円筒を広げるため、クラウン法のような中心部のポンテ跡(王冠の跡)がなく、比較的均一な厚みを持つ板ガラスが得られました。
- 課題: 平らに押し広げる工程で、ガラスの表面に歪みや波打ちが生じやすく、完全な平坦さを得るためには、後から表面を研磨する手間が必要でした。
シリンダー法は、近代的な機械製造法(フルコール法、フロート法など)が発明されるまで、板ガラス製造の主要な方法の一つとして広く用いられました。

シリンダー法(円筒法)は、1800年頃に普及した板ガラスの製造法です。吹き竿で巨大なガラスの筒を吹き上げ、両端を切断後に縦に切り開き、再加熱して平らに押し広げることで、クラウン法よりも大きな長方形の板ガラスを製造できました。
シリンダー法で製造されたガラスの利用方法
クシリンダー法で製造されたガラスは、主に窓ガラスとして利用されました。この技法は、それまでのクラウン法よりも大きく、長方形の板ガラスを比較的多く生産できたため、近代の建築物における窓の大型化と普及に貢献しました。
シリンダー法の主な用途
- 大型窓ガラスの製造
- シリンダー法は、ガラスを筒状に吹き広げてから展開するため、クラウン法のような円形ではなく、大きな長方形の板ガラスを作ることができました。
- これにより、住宅や商業施設など、広い面積を覆う窓ガラスの需要に応え、窓の大型化を可能にしました。
- 建築用ガラスの普及
- 産業革命期に普及したことで、ガラスの生産効率が向上し、価格が下がりました。これにより、ガラスは富裕層だけでなく一般にも広く使われるようになり、近代建築においてセメントや鉄と並ぶ重要な建材としての地位を確立しました。
- 質が均一なガラスの供給
- ガラスを縦に展開して平らにするため、クラウン法のような中心部の大きな歪み(ポンテ跡)がなく、比較的均一な品質の板ガラスを供給できました。ただし、完全な平滑さを得るためには、しばしば後の研磨作業が必要でした。

シリンダー法は、大型の長方形板ガラスの製造を可能にし、主に建築用の窓ガラスとして利用されました。クラウン法に比べ生産性が高かったため、産業革命期以降、窓の大型化やガラスの一般への普及に大きく貢献しました。
どのように研磨作業されていたのか
シリンダー法(円筒法)で製造されたガラスは、製造過程で表面に生じる波打ちや歪みを取り除くために研磨されました。基本的な研磨手順は、手作業または初期の機械装置を用いて、粗い研磨材から細かい研磨材へと段階的に磨き上げる方法でした。
シリンダー法のガラス研磨手順
シリンダー法では、ガラスの筒を熱して平らに押し広げる際に、表面の平坦さ(平面性)が損なわれることが主な課題でした。
- 固定と準備:
- 展開して平らになった板ガラスを、安定した作業台(テーブル)の上に石膏などで固定します。
- 粗削り(研削):
- まず、表面の大きな凹凸や波打ちを削り取るため、ガラス表面に粗い砂(金剛砂など)や水を供給します。
- 手作業または初期の機械的な研磨装置を用いて、ガラスの上を平坦な板(ラップ盤)で繰り返し擦り、表面を均一に削り取ります。
- 仕上げ研磨(ポリッシング):
- 粗削り後のガラス表面に残った微細な傷や曇りを取り除きます。
- より粒子の細かい研磨材(例:酸化鉄、酸化セリウム)と、柔らかい素材(例:フェルト、バフ)を使用し、ガラス表面を磨き上げます。
- この工程により、ガラスは透明度と光沢のある**鏡面(鏡のような滑らかな表面)**に仕上がります。
この研磨作業は非常に手間と時間がかかりましたが、シリンダー法によって大きな板ガラスが製造可能になったことで、この「みがき」の工程を経て、高品質な磨き板ガラスが建築用途に供給されました。

シリンダー法で作られたガラスは、表面の波打ちや歪みをなくすため、板を固定し、粗い砂から酸化セリウムなどの微細な研磨材へと段階的に変えながら、手作業または初期の機械で擦り合わせることで磨き上げられました。
シリンダー法はどのように発見され、進化したのか
シリンダー法は、特定の単独の人物によって発明されたというよりは、長期間にわたる技術の進化の結果、中世から近代にかけて確立・改良されました。
シリンダー法の発展経緯
シリンダー法は、紀元前1世紀頃に発明された吹きガラス技法の応用として、徐々に発展しました。
1. 中世の萌芽 (12〜13世紀頃)
シリンダー法の原型は、ドイツやノルマンディ地方(フランス)で現れました。職人たちが、通常の容器を作る要領でガラスを細長い袋状、つまり円筒状に吹き広げる手法を試み始めたのが始まりです。
これは、当時の主流であったクラウン法よりも大きな窓ガラスを作ろうという要求に応えるためでした。
2. 17〜18世紀の確立
この手作業による円筒法がイギリスやフランスで確立し、広く使われるようになりました。巨大なガラスの筒を吹き、それを切り開いて平らにする方法は、クラウン法では難しかった大きな長方形の窓ガラスの製造を可能にしました。
3. 近代の機械化 (19世紀初頭)
19世紀初頭の産業革命期になると、アメリカの技術者らが中心となり、職人の肺活量に頼らず圧縮空気や機械を使って巨大な円筒を吹き上げる「機械吹き円筒法(ラバース法など)」が開発されました。これにより、ガラス製造は工業化され、より大きく、より安価な板ガラスが大量生産されるようになりました。
シリンダー法は、このように手作業から始まり、徐々に技術が洗練され、最終的に機械化されることで、近代における窓ガラスの普及に決定的な役割を果たしました。

シリンダー法は、特定の発見者ではなく、紀元前1世紀の吹きガラス技法の応用として中世に誕生しました。窓ガラスの大型化の要求に応えるため、職人たちがガラスを円筒状に吹き広げる手法を長期間にわたり試行錯誤し、徐々に確立・改良されました。

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