パワー半導体分野における中国勢の台頭 台頭の理由は何か?日本企業の対抗策は何か?

この記事で分かること

  • パワー半導体とは:電気エネルギーを効率よく制御するための半導体です。主に電力の変換(AC/DC)やスイッチングを行う機能を担っています。
  • 中国勢の台頭の理由:EV市場の爆発的需要と、政府による巨額の財政・税制支援が最大の理由です。特にSiCなど次世代技術に集中的に投資し、巨大な国内需要を基盤にコスト競争力を確立しました。
  • 日本企業の対抗策:SiCなど次世代半導体への巨額投資と高信頼性技術で差別化しつつ、政府支援を活用した企業連携・再編で量産力を強化することで対策を行いっています。

パワー半導体分野における中国勢の台頭

 パワー半導体分野における中国勢の台頭は、EV(電気自動車)再生可能エネルギー市場の急成長を背景に顕著になっています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2510/17/news018.html

 中国政府の強力な支援と国内の巨大な需要を追い風に、中国メーカーは特にSiC(炭化ケイ素)などの次世代パワー半導体分野で急速に力をつけており、国際競争が激化しています。

 リチウムイオン電池市場で起きたような価格下落が起きる可能性もあり、日本企業も対応が必要となっています。

パワー半導体とは何か

 パワー半導体とは、電気エネルギーを効率よく「制御(コントロール)」するための半導体です。主に電力の変換(直流と交流の変換など)変圧(電圧の上げ下げ)、スイッチング(電流のオン/オフ)といった役割を担い、家電製品から産業機器、電気自動車(EV)に至るまで、あらゆる電力利用の場面で使われています。


パワー半導体の仕組みと役割

特徴詳細
役割大電流や高電圧の電力を扱うことに特化しており、モーターの速度調整や、バッテリーから供給される直流電力を家庭用の交流電力に変換するなど、電力の流れを正確に制御します。
構造トランジスタ、ダイオード、サイリスタなどの半導体素子で構成されていますが、一般的な情報処理用の半導体(LSIやCPUなど)と比べて、より厚い層独自の構造を持ち、大電力に耐えられるように設計されています。
目的省エネルギー高効率化です。電力を無駄なく必要な形に変換・供給することで、機器の消費電力を減らし、発熱を抑える役割を果たします。

主な用途

 パワー半導体は、現代社会の省エネ電動化を支える中核部品です。

  1. 電気自動車(EV)
    • バッテリーの直流電力をモーターを動かすための交流電力に変換するインバータ
    • 充電時の電力変換(オンボードチャージャー)。
  2. 家電製品
    • エアコンや冷蔵庫のインバータ制御(モーター回転数の効率的な調整)。
    • IH調理器や電源回路。
  3. 産業機器
    • 工場のモーター駆動装置。
    • 鉄道やエレベーターの制御システム。
  4. 電力インフラ
    • 太陽光や風力発電の直流電力を系統電力(交流)に変換するパワーコンディショナ
    • 送電網における高圧直流送電(HVDC)システム。

次世代パワー半導体(SiC・GaN)

 近年、従来のシリコン(Si)を用いた半導体に加え、より高性能な新しい材料を用いたパワー半導体の開発と普及が進んでいます。

材料特徴主な用途
SiC(炭化ケイ素)シリコンに比べ、耐圧・耐熱性が高い。電力損失が極めて少なく、高効率化小型化が可能。EVのインバータ、鉄道、産業用電源
GaN(窒化ガリウム)SiCよりもさらに高速なスイッチングが可能で、小型化しやすい。スマートフォンの急速充電器、基地局の電源、データセンター

 これらのSiCGaNは、EVの航続距離向上や、電源アダプターの劇的な小型化に貢献しており、パワー半導体分野における主要な技術競争の焦点となっています。

パワー半導体は、電気エネルギーを効率よく制御するための半導体です。主に電力の変換(AC/DC)やスイッチングを行い、EVのインバータや家電の省エネ化など、あらゆる電力利用機器の高効率化と小型化を支える中核部品です。

中国はなぜ台頭しているのか

 パワー半導体分野で中国勢が台頭している主な理由は、「国内の巨大市場による需要」「政府による強力な戦略的支援」の2点に集約されます。


1. 巨大な国内市場と需要の爆発的増加 🇨🇳

A. EV市場の牽引

 中国は世界最大の電気自動車(EV)市場であり、EVシフトが急速に進んでいます。EVの基幹部品であるインバータには、高効率な電力を制御するためのパワー半導体(特にSiC)が不可欠です。

 この巨大かつ急速に拡大する国内EVメーカーの需要を、中国のパワー半導体メーカーが取り込み、生産能力と技術を磨く絶好の機会となっています。EVメーカーであるBYDが自社グループ内でパワー半導体の内製化を進めているのはその象徴です。

B. 再生可能エネルギーの普及

 太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー分野でも、発電した電力を系統に接続するためのパワーコンディショナにパワー半導体が大量に使われます。中国における環境・エネルギー政策の推進が、この分野での需要をさらに高めています。

2. 政府による強力な国家戦略と支援

A. 国策としての国産化推進

 中国政府は「中国製造2025」などの国家戦略に基づき、半導体の国内自給率を向上させることを最重要課題としています。

 パワー半導体は、技術的な参入障壁が比較的に低く、かつ戦略的に重要であるため、この国産化の重点分野とされています。

B. 資金・税制面での優遇措置
  • 大規模なファンド(投資基金):政府や地方自治体が巨額の資金を投じて投資ファンドを設立し、国内半導体企業の研究開発や大規模な設備投資を支援しています。
  • 税制優遇:特定の条件を満たした企業に対し、企業所得税の免除軽減税率の適用など、手厚い優遇措置を提供しています。
  • 補助金:先端技術を持つ企業や戦略的製品分野に補助金を集中させています。

3. 次世代技術(SiC/GaN)への集中投資

 従来のシリコン(Si)半導体の技術で先行する日米欧に追いつくため、中国勢は電力効率に優れるSiC(炭化ケイ素)GaN(窒化ガリウム)といった化合物半導体(次世代パワー半導体)分野に集中的に投資しています。

 この分野では、ウェーハからデバイス製造までの垂直統合(IDM)モデルを構築しようとする動きも見られ、コスト効率の高い製品を市場に投入することで、国際的な価格競争力を高めています。

中国の台頭は、EV市場の爆発的需要と、政府による巨額の財政・税制支援が最大の理由です。特にSiCなど次世代技術に集中的に投資し、巨大な国内需要を基盤にコスト競争力を確立しました。

日本の有力メーカーと中国台頭への対抗策は

 日本のパワー半導体メーカーは、中国勢の台頭と激化する国際競争に対し、強みである高信頼性次世代技術への巨額投資によって対抗しています。


日本の有力メーカーと強み

 日本企業は、世界市場の売上高ランキングにおいてトップ10に複数社が名を連ねるなど、パワー半導体分野で高い競争力を維持しています。

メーカー名特徴・強み
三菱電機産業機器や鉄道向けの大容量パワーモジュールに強み。高い信頼性が評価されている。
富士電機産業用やEV向けIGBTモジュールで実績があり、SiC製品にも積極的に投資。
ロームSiCパワー半導体の分野で世界的に先行しており、ウェーハからデバイスまでの一貫生産体制を強化。
東芝デバイス&ストレージシリコン系の幅広いパワー半導体を手掛け、車載や産業分野に注力。
ルネサスエレクトロニクスマイコン(MCU)との組み合わせによるソリューション提案に強み。SiCへの投資も加速。

 日本のメーカーは、長年にわたる品質管理と製造技術の蓄積により、特に信頼性耐久性が重視される車載用産業用の分野で優位性を保っています。


中国台頭への対抗策

 中国勢の強みである「コストと量産能力」に対し、日本勢は「技術と連携」を軸に対抗策を進めています。

1. 次世代半導体(SiC・GaN)への集中投資と差別化

  • SiCへの巨額投資:ロームや富士電機などは、SiC分野で数千億円規模の設備投資を公表し、生産能力を大幅に増強しています。特にSiCは、EVの高性能化に不可欠であり、技術的優位性を確立することで中国との差別化を図ります。
  • ウェーハ・素材からの垂直統合:ロームのようにSiCウェーハの自社開発・生産を強化し、品質とコスト競争力を高める戦略をとる企業もあります。

2. 企業間連携と再編の推進

  • 国内連携の強化:中国や欧米勢に対抗するため、国内メーカー間の提携や事業再編の動きが加速しています。例えば、ロームと東芝のパワー半導体事業における提携の動きや、富士電機とデンソーなどの連携が、政府の支援も得て進められています。
  • モジュール技術での優位性:単体の半導体素子(ディスクリート)だけでなく、複数の素子を組み合わせたパワーモジュールにおいて、日本勢が得意とする高度なパッケージング技術や放熱技術で高性能化を図り、製品単価アップと高付加価値化を目指しています。

3. 政府の支援策の活用

 経済産業省は、国際競争力の強化と安定供給確保のため、パワー半導体分野を戦略的重要技術に位置づけ、大規模な投資(原則2,000億円以上)に対して補助金を支給する支援策を講じています。 

 これは、巨額の国家支援を受ける中国勢との競争条件を是正し、日本企業の大胆な投資を後押しするものです。

日本の主力は三菱電機、富士電機、ローム等です。中国への対抗策は、SiCなど次世代半導体への巨額投資高信頼性技術で差別化しつつ、政府支援を活用した企業連携・再編で量産力を強化することです。

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