- 本の概要
- この本で学べること
- 科学の分野は細分化したが、広い視野を持つことは重要
- 生物とは何かという疑問には古くから様々な意見がある
- 科学に推論は欠かせず、演繹と推論がある。推論は100%正しいわけではないが、知識を広げることができる
- 外界との仕切りを担う細胞膜は全ての生物にみられる
- 生物は非平衡でありながら、定常状態を維持する
- 2体の複製を作ることで性能が良いものが生き残るようになった
- 生物は多様性で自然環境に適応する
- 遺伝子の違いからそれぞれの種の近縁さを知ることができる
- 生物の優劣は人の尺度で測れるものではない
- 植物は背の高いほうが光合成に有利になる
- 動物の大きな特徴は前後(口と肛門)があること
- 直立2足歩行は人類でしか見られず、欠点も多い
- 2足歩行によって両手が空いて食量を運びやすくなった
- 生態系をまもるには生物多様性が必要
- 進化と進歩はイコールではない
- DNAは塩基の情報を基にタンパク質を合成する
- 花粉症は免疫反応
- がんは進化する
- アルコールが脳に入るとダメージとなる
- iPS細胞は体細胞から幹細胞を作ることができる
- 多くの分野に興味をもつと世界は美しく見える
本の概要
現代の科学は巨大になり、一人で幅広い範囲で活躍することは難しい。それでも分野ごとは密接に絡み合っているため、幅広い視点を持つことは重要。
科学には推論が欠かせないが、推論には演繹と推測の2種がある。演繹は100%正しいが結論が根拠に含まれるため、知識が広がらない。推測は演繹の逆のため100%の正しさは得られないが、知識が広がっていく。
生物の進化におけるシンギュラリティは2体の複製をつくりはじめたとき。自然選択によって性能の良いものが生き残るようになり、加速的に性能があがる。
ただし、自然選択による進化は得意な環境が違うだけで必ずしも優れているわけではない。
環境変化によって生態系を崩壊させないためにも多様性、冗長性は重要。
進化とは世代を超えて伝わる変化。進化=進歩という見方はなりたたず、あくまでも自然に対応して起こる変化。
どんなものにも美しい部分があり、そのことに興味を持つことでその人が見る世界はまえより美しくなるはず。生物を学ぶことで自然や地球を見る目が変わる。
この本で学べること
- 生物学の基本、様々な分野に触れる意味
- 進化とは何か。進歩とはなにがちがうのか
- 花粉症、がん、iPS細胞などのメカニズム
科学の分野は細分化したが、広い視野を持つことは重要
レオナルド・ダ・ヴィンチやゲーテやフックなどは広い分野で活躍した「万能の天才」だが、近年は科学が巨大化し一人ですべての分野に精通することは出来ない。
しかし、いくら巨大化しても科学は一つでそれぞれの分野は密接に絡み合っている。そのため広い視野を持つことが重要となる。
生物とは何かという疑問には古くから様々な意見がある
地球を生物と考える人はたくさんいた。ダヴィンチもその一人。
血液と骨が水と岩石にあたると想定していた。生物と地球の違いは色々あるが、子孫を残さないという違いがある。ダヴィンチは子孫を残さないことを重要視しなかったが現在では重要視されている。
この例からも「生物とはなにか」については様々な意見がある。
科学に推論は欠かせず、演繹と推論がある。推論は100%正しいわけではないが、知識を広げることができる
科学で重要なことに推論がある。推論とは根拠と結論を含む主張をつなげるもの。推論には演繹と推測の二種類がある。
演繹は根拠がなりっていれば必ず結論が導かれる。結論が根拠の中に含まれるためいくら繰り返しても知識は広がらない。
推論は100%正しいわけではないが、結論は根拠の中にないため、知識が広がっていく。
科学では推測によって仮説を立て、観察や実験で検証を行う。仮説が支持されればより良い仮説となり、何度も支持されれば理論、法則と呼ばれる
仮説を支えてるのは証拠からの仮説形成と新しい事項からの予測のふたつ。しかしこの二つは演繹の逆となる。ある主張の逆は必ず正しいとは限らない。そのため100%の正しさを得ることは出来ない。
外界との仕切りを担う細胞膜は全ての生物にみられる
現在の知識での生物の定義は以下の3つ
- 外界と膜で仕切られている。
- 代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。
- 自分の複製を作る
膜は細胞膜(生体膜)のこと。生物は水中で生まれたと考えられるため、仕切りを作るには水に溶けないもので作る必要がある。親水基と疎水基を持てば水中にいつつ、仕切りをつくることができる。実際に生体膜はリン脂質からできている。
水中で集まったリン脂質は親水基を外側に向け、疎水基を内側に向ける。さらに内側も水にするためリン脂質を二重膜として、疎水基同士を向かい合わせる。このような構造をベクシルという。
細胞膜にはタンパク質が刺さっていて、その部分がドアの役割をし物質のやり取りも行う。
細胞膜は何10億年もの間進化していない。現在の地球上全ての生物がリン脂質二重膜を使っている。
生物は非平衡でありながら、定常状態を維持する
生物の体には物質が流れ込み、流れ出ている。生物は多くの部分が入れ替わっているが全体のカタチはあまり変わらない。このような機構を散逸構造という。
散逸構造の特徴は流れのある非平衡状態にもかかわらず、定常状態である。
2体の複製を作ることで性能が良いものが生き残るようになった
シンギュラリティは技術的特異点のことで、人工知能が自分の能力を超える人工知能を生み出すようになった時点のこと。
生物の進化では2体の複製をつくりはじめたときが、シンギュラリティに相当する。自然選択によって2体のうち性能の良いものが生き残るようになるため。
生物は多様性で自然環境に適応する
自然選択は環境の変化を追いかけるように生物を変化させることができる。多様性を持たせることで環境の変化での絶滅も避けることができる。一方で地球よりもより安定な環境があれば自然選択と無関係で複製を作らない生物がいるかもしれない。
宇宙のどこかには地球の生物の特徴をもたないが生物みたいなものがいるかもしれない。それらはインターネット上に生まれる可能性も有る。
遺伝子の違いからそれぞれの種の近縁さを知ることができる
系統がそれほど遠くない生物は体のカタチから系統を推測可能。牛と鹿とトカゲを比べるとすべて肢を持つ。このよう形質を相同な形質という。一方、牛と鹿は蹄を持つがトカゲにはない。そのため牛と鹿はトカゲに比べ近縁といえる。
しかし、ヒトとキノコとアメーバになると相同な形質を決めるのは難しい。そこでDNA上の全ての生物が持つ遺伝子の違いから近縁関係を知ることができる。
その結果、細菌とは別のアーキアというグループがあることがわかってきた。つまり生物は真核物、アーキア、細菌の3つのグループに分けられる。
アーキアは以前は多様性がなく分類する意味がないという意見もあった。しかし光合成を例にとると真核生物の光合成はすべて酸素を発生させるタイプの光合成を行う。アーキアや細菌では酸素を出さない光合成や化学合成を行うものもいる。
真核生物は基本的特徴が同じ範囲でいろいろな種類がいるにすぎず、ある意味多様性が低いと言える。
生物の優劣は人の尺度で測れるものではない
植物は神経を持たないが、動物とは異なるやり方で電気信号による情報伝達を利用している。
植物は動物より長生きのものも多いが、その中心部は死んでおり、生きている部分は外側に移動している。また、接ぎ木も考えると寿命は永遠になる。
人の尺度で何でも測れるわけではない。素晴らしい多様性があることは確か。
植物は背の高いほうが光合成に有利になる
生物は形を保ちながら、動き続けるため常にエネルギーが必要となる。動物はエネルギーを得るために必要な有機物を作ることができないが、植物は光合成によって必要なエネルギーを得ている。
植物は太陽光をつかって光合成を行うので、背の高いほうが有利。植物は水分子同士がくっつく凝集力を利用し、水を吸い上げている。
裸子植物と被子植物では水の吸い上げる機構が異なる。裸子植物のほうが安定性がたかい機構を持つため、背が高くなりやすい。
被子植物は裸子植物よりも後に現れたが、優れているわけではない。得意な環境が違うだけ。
動物の大きな特徴は前後(口と肛門)があること
動物の特徴の一つは前後があること。動物は食物を食べる必要がある。そのため受精卵が成長したときに消化管の両側に穴(口と肛門)をもつ構造をもつようになる。
海綿動物はこれらの特徴を持たず、初期の動物に似ているとされる。
ただし、海綿動物も他の動物と分岐しており進化している。祖先的な動物ではあるが下等な動物というわけではない。
直立2足歩行は人類でしか見られず、欠点も多い
人は類人猿に属している。チンパンジーから見るとボノボが最も近縁で次がヒト、次がゴリラとなる。実際の見た目はヒトよりもゴリラのほうがチンパンジーに似ているように見える。ヒトが類人猿から分かれるときに大きな変化があった。
ヒトの特徴で初めに進化したのは「直立2足歩行」と「牙を失ったこと」。
人類以外に直立2足歩行をする動物はいない。空を飛ぶのはより難しいが4回別々に進化したが、直立2足歩行は一回のみ。
直立2足歩行は利点もあるが、走るのが遅いという大きな弱点がある。
2足歩行によって両手が空いて食量を運びやすくなった
人類には他の類人猿と違い牙がない。牙がなくなったのは武器を使い始めたからという説もあったが、一夫一妻的な社会によってメスを巡る争いが減ったことが原因とされている。
一夫一妻制は直利二足歩行の利点の一つである、両手が空くため食料が運べる恩恵を受けやすい。子供が自分と血がつながっている可能性が高く、食べ物を受け渡すことが子孫を残すのに有利に働く。
自然選択で進化するのは子供の数を増やす特徴のみ。両手が空くことは子供増やすことに直接影響するため、直立二足歩行を後押しした。
生態系をまもるには生物多様性が必要
どんな生物でも一人で生きていくことができない。必ず生態系の中で生きている。だから、生物にとっては生態系が崩壊せずに安定して存在し続けることが大切。
生態系を崩壊させないためにも多様性が重要となる。多様性があれば環境変化に対する影響を小さくできる。
進化と進歩はイコールではない
ダーウィンと同時代の進化論者は進化を進歩とみなしていた。その背景には生物の中で人が最上位という考えがあった。一方で、ダーウィンは進化を世代を超えて伝わる変化としていた。
進化論ではダーウィンが有名だが、中身は進化=進歩とみなす考えが一般的になっている。
しかし、何を進歩と捉えるかで優劣は変化する。ある条件で優れていることはある条件では劣っていることでしかない。
自然選択は二つに分けられる。
- 安定化選択
- 方向性選択
安定化選択は平均的な固体が一番子供を多く残す場合。生物を変化させないように働く。方向性選択は極端な変異を持つ個体が子供を多く残す場合。生物を変化させないように働く。
ダーウィンは方向性選択を発見しが、それ以前から安定化選択は知られていた。
方向性選択が働けば、生物は自動的に環境に適応としようとする。生物の進化に目的地はない。それゆえ進化と進歩は無関係とダーウィンは気づいた。
DNAは塩基の情報を基にタンパク質を合成する
生物はDNAの塩基情報を伝えることで、遺伝を行える。DNAの塩基情報をもとにタンパク質合成を行う。
核の中の染色体はDNAの塩基配列以外の情報をつたることもある。これをエピジェネティクスという。環境要因で後天的に獲得した形質が遺伝する可能性も有る。
花粉症は免疫反応
世界で初めて発見された抗生物質はペニシリン。ペニシリンは細菌の外側にある細胞壁を作る過程を阻害することで細菌を殺している。
病原菌が体の中に入ると白血球が病原菌を排除することが免疫で、免疫には自然免疫と獲得免疫がある。
自然免疫は病原体の種類を白血球の持つ受容体で区別している。自然免疫が全体の大部分(95%という説もある)を占めている。獲得免疫が見分けられる病原菌の種類は、自然免疫の数十種類に対して、数十億ともいわれている。
免疫が働かない状況をアナジー、働き過ぎる状況をアレルギーという。花粉症はアレルギー反応。花粉が体内に入ると対応する抗体を作り、マスト細胞という白血球の一種と結合する。
次に花粉が入ってくると抗体は花粉と結合しますと細胞はヒスタミンを放出する。このヒスタミンがくしゃみ、鼻水、鼻つまり目のかゆみを引き起こす。
がんは進化する
単細胞生物はがんにならない。単細胞生物は1匹が二匹になることを繰り返しているだけであるため、一方、多細胞生物は細胞がたくさん集まった細胞だが、単一の細胞が集まっているわけではない。
細胞には子孫に受け継がれる生殖細胞と受け継がれない体細胞の二つがある。単細胞生物は自身が生殖細胞のようなもの、多細胞生物は2種類の細胞を持つ生物といえる。
体細胞はいろいろな役割を持つ細胞に特化していく。生殖細胞が体細胞のように特殊化していくことを分化という。
体細胞は一定以上分裂を起こさない。しかし体細胞の遺伝子は突然変異が起きることがある。
場合によっては未分化の状態に戻ることもある。未分化の状態に戻ると単細胞生物のように分裂を繰り返す。この単細胞生物ががんと呼ばれる。
がんは体細胞に比べて分裂が多いため、突然変異が起こりやすい免疫や抗がん剤などでも治療が難しいのはそのため。
がん細胞は免疫細胞のひとつである、キラーT細胞によって破壊するができる。しかし、がん細胞はキラーT細胞の表面につき出しているたんぱく質と結合し、攻撃をやめさせている。
キラーT細胞のつき出しているタンパク質と結合する抗体を結合させておけば、キラーT細胞はがん細胞を攻撃し続けることができる。この抗体の一つが本庶氏のPD-1。
アルコールが脳に入るとダメージとなる
アルコールは体に入るとまず胃に入る。胃はアルコールを30%。残りを小腸で吸収する。お酒を飲むときに食べ物を食べると、しばらくアルコールが留まるので血中アルコール濃度が上がりにくくなる。逆に空腹時はアルコールが素通りし小腸で急速に吸収されるため、血中アルコール濃度は急激に上昇する。
アルコールは脳内にもはいっていってしまう。神経細胞が抑制されるため酔いという現象となる。
子供や胎児にアルコールが悪いのは脳の神経細胞の発達中であるためよりダメージが大きい。
iPS細胞は体細胞から幹細胞を作ることができる
細胞には分裂時に自己複製と分化を行うものがある。このような細胞を幹細胞と呼ぶ。
幹細胞の中でも受精卵はどのような細胞にも分化できる。受精卵は5日ほどで胚盤胞になる。胚盤胞内の細胞を取り出して特定の条件で培養すると幹細胞になる。
このような細胞はES細胞と呼ばれ、どんな細胞にもなれるため医学での利用が期待されるが
- 発生を始めている胚を壊す必要がある倫理的な問題
- 免疫による拒絶の可能性という技術的な問題
があった。
一方でiPS細胞は体細胞から幹細胞作ることができるため、上記の問題が少ない。
多くの分野に興味をもつと世界は美しく見える
現代の科学は巨大になり多くの分野に細分化されている。しかし多くの分野に興味を持つことは出来る。どんなものにも美しい部分があり、そのことに興味を持つことでその人が見る世界は前より美しくなるはず。
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