マイクロンの広島工場への大規模投資 どんな製品を製造するのか?日本政府の投資内容は?

この記事で分かること

  • 製造する製品:AIや自動運転向けの次世代DRAMチップを製造します。具体的には、ワンガンマノードの最先端メモリー半導体を量産する計画です。
  • ワンガンマノードとは:DRAM製造技術の最先端世代です。EUV(極端紫外線)技術を導入し、前世代よりビット密度と速度を大幅に向上させつつ、消費電力を削減したAI・データセンター向けの高性能メモリー技術です。
  • 日本政府の投資内容:最先端DRAMの安定供給のため、マイクロンの広島新工場に対し、複数回にわたり巨額の補助金を交付しています。最新の計画では、最大5,360億円を支援する方針です。

マイクロンの広島工場への大規模投資

 米国の半導体大手マイクロン・テクノロジーは、広島工場において次世代DRAMチップの生産に向けた大規模な投資計画を進めています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00764240

 数年で最大5,000億円(またはそれ以上、報道により変動あり)を投資する計画が発表されています。最近では、2029年度末までに1兆5,000億円を投じる計画や、経済産業省がこれに対し最大5,360億円を支援するとの発表もあります。

どんな製品を製造するのか

 米マイクロンの広島新工場で製造される主要な製品は、以下のような特徴を持つ次世代のDRAM(Dynamic Random-Access Memory)です。

  • 製品: ワンガンマノードと呼ばれる、最先端のプロセス技術を用いたDRAMチップです。
  • 用途: AI(人工知能)、データセンター、自動運転技術といった、高い性能が求められる分野での利用を想定しています。
  • 技術: 日本国内で初めて、最先端の半導体製造装置であるEUV(極端紫外線リソグラフィ)技術を導入して量産される計画です。

マイクロン広島新工場では、AIや自動運転向け次世代DRAMチップを製造します。具体的には、日本で初めてEUV(極端紫外線)技術を導入したワンガンマノードの最先端メモリー半導体を量産する計画です。

ワンガンマノードとは何か

 ワンガンマノードとは、米マイクロン・テクノロジーが開発した最先端のDRAM(Dynamic Random-Access Memory)製造技術の世代を表す名称です。

これは、DRAMの微細化技術を示すロードマップ上の進化の一つであり、回路線幅が10nm(ナノメートル)クラスに属する技術ノードです。


ワンガンマノードの主な特徴

 ワンガンマノードは、前世代のワンベータノードと比較して、以下のような大幅な性能向上を実現しています。

  • 極端紫外線(EUV)技術の導入:
    • このノードの最大の特徴の一つは、EUV(極端紫外線リソグラフィ)という最先端の露光技術をDRAM製造プロセスに本格的に導入している点です。EUVにより、さらに微細で複雑なパターンをシリコンウェハー上に形成できるようになりました。
  • 高性能化と低消費電力化:
    • 前世代と比較して、ビット密度が30%以上向上し、ウェハー当たりのメモリー容量が増加します。
    • 最大転送速度が向上し、電力効率も高まり、消費電力を最大20%削減します。
  • 用途:
    • この高性能と電力効率の改善により、AI(人工知能)データセンター、高性能なモバイルデバイス自動車向けアプリケーションなど、データ処理量の多い次世代のコンピューティング分野で不可欠なメモリー技術となります。

 マイクロンは、このワンガンマノード技術を用いたDRAMを、日本の広島工場で量産する計画を進めています。

ワンガンマノードは、DRAM製造技術の最先端世代です。EUV(極端紫外線)技術を導入し、前世代よりビット密度と速度を大幅に向上させつつ、消費電力を削減したAI・データセンター向けの高性能メモリー技術です。

メモリでも微細化がもとめられる理由は何か

 ロジック(CPUやGPU)だけでなく、メモリ(DRAMやNANDなど)でも微細化が求められる主な理由は、「大容量化」「低コスト化」「高速化」「省電力化」という4つの重要なメリットを同時に追求するためです。

 特にDRAMにおいて、微細化は単位面積あたりの記憶容量を増やすための基本的な手段となります。


メモリの微細化が不可欠な理由

1. 大容量化・高集積化(Capacity)

 メモリの最大の役割はデータを記憶することです。微細化により、1つのメモリセル(記憶素子)のサイズが小さくなるため、同じチップ面積により多くのセルを詰め込むことができます。

  • メリット: コンピュータ、スマートフォン、データセンターなどで求められるより大きな記憶容量を実現できます。

2. 低コスト化(Cost Reduction)

 半導体はウェハーと呼ばれる円盤状の基板から切り出されます。微細化が進むと、1枚のウェハーから取れるチップ(ダイ)の数が増えるため、チップあたりの製造コストが大幅に下がり、市場の厳しい価格競争に対応できます。

3. 高速化(Performance)

 メモリセル内のトランジスタや配線が微細化すると、電子が移動する距離が短縮されます。

  • メリット: 電気信号の遅延が減り、データの読み書き速度(アクセス速度)が向上します。これは、AIや高性能コンピューティング(HPC)において特に重要です。

4. 省電力化(Power Efficiency)

 微細化によってトランジスタの動作に必要な電圧や電流を下げることができます。

  • メリット: チップ全体の消費電力が減り、発熱が抑制されます。これにより、ノートPCやスマートフォンではバッテリー持続時間が延び、データセンターでは冷却にかかるコストを削減できます。

DRAM特有の課題と微細化

 ロジックと比較して、DRAMには「キャパシタ(コンデンサ)」という電荷を蓄える部分があり、微細化の際に課題が生じます。

  • セルが小さくなると、キャパシタの面積も小さくなり、静電容量が低下します。
  • 容量が小さすぎると、リーク電流(電荷の漏れ)によってデータが失われやすくなります(リフレッシュ回数が増える)。

 この問題を克服するため、DRAMでは単純な平面的な微細化だけでなく、キャパシタを立体的に積層したり(スタック型)、高誘電率材料を使ったりすることで、面積を小さくしても容量を維持する工夫が続けられています。

 最新のEUV露光技術は、こうした複雑な立体構造を高精度に形成するために導入されています。

メモリの微細化は、単位面積あたりの大容量化製造コストの低減が最大の理由です。加えて、チップ内の信号伝達距離短縮による高速化と、動作電力削減による省電力化も同時に実現します。

日本政府の投資内容は何か

 日本政府(経済産業省)は、米マイクロン・テクノロジーの広島工場における次世代DRAMの生産計画に対し、巨額の補助金という形で投資・支援を行っています。

 この支援は、経済安全保障上の重要性が高まる先端半導体の国内での安定供給体制を強化することを主な目的としています。


支援・投資の具体的な内容

 日本政府によるマイクロンの広島工場への支援は、複数の段階に分けて行われており、その規模は増加しています。

1. 補助金の総額

  • 過去の認定: 2022年には、次世代のワンベータDRAMの生産計画に対し、最大約465億円の補助金交付が決定されています。
  • 追加・最新の支援: その後、ワンガンマノードを含む最先端メモリーの量産計画に対し、大規模な追加支援が決定されています。
    • 2023年: 最大1,920億円の補助が発表され、以前の支援と合わせて総額約2,400億円規模となりました。
    • 2025年(最新の報道に基づく): 2029年度末までの1兆5,000億円の追加投資計画に対して、経済産業省は最大5,360億円を補助すると発表しました。これは、生産ラインへの設備投資総額の約3分の1に相当します。

2. 支援の根拠と目的

  • 根拠法: 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」(特定半導体生産施設整備等計画)に基づき認定されています。
  • 目的:
    • 先端半導体の安定供給: AI、データセンター、自動運転といった最先端技術に必要な高性能DRAMを国内で量産し、サプライチェーンの強靭化を図る。
    • 技術開発の推進: EUV(極端紫外線)技術を国内に導入するなど、次世代メモリーの研究開発と製造技術の高度化を後押しする。

 日本政府の支援は、マイクロンの大規模な投資(1兆5,000億円規模)の一部を補助することで、国内での最先端半導体製造を確実に実現させるための公的な「投資」と位置づけられます。

日本政府(経産省)は、最先端DRAMの安定供給のため、マイクロンの広島新工場に対し、複数回にわたり巨額の補助金を交付しています。最新の計画では、最大5,360億円を支援する方針です。

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