この記事で分かること
- 寸法安定性とは:温度や湿度などの環境変化や外部からの力を受けた際、材料や製品が形状や大きさ(寸法)を一定に保ち、変化しにくい性質のことです。半導体や精密機器では信頼性の鍵となります。
- 2.5次元実装で重要な理由:微細な接続(マイクロバンプ)の信頼性を確保するため重要です。温度変化による異なる材料間の歪み(CTEミスマッチ)が接続部にストレスを与え、断線を防ぐ鍵となります。
- 各材料の寸法安定性:シリコンとガラスが有機材より極めて優れます。これは、シリコンやガラスの低い熱膨張係数 (CTE) が、温度変化によるパッケージの歪みや接続(バンプ)へのストレスを抑えるためです。
寸法安定性
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。
複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は熱伝導率に関する記事でしたが、今回は2.5次元実装の基板に必要な物性である寸法安定性に関する記事となります。
寸法安定性とは何か
寸法安定性とは、材料や部品が外部環境の変化や外部からの力を受けた際に、形状や大きさ(寸法)を安定して保つ性質のことです。半導体パッケージや精密機器の分野では、特に重要視される特性です。
寸法安定性を左右する主な要因
寸法安定性に影響を与える主要な要因は以下の通りです。
1. 温度変化による影響
- 熱膨張・収縮:
- 物質は温度が上がると膨張し、下がると収縮します。この変化の度合いを示すのが熱膨張係数 (CTE) です。
- 特に複数の材料を組み合わせた構造体(例:2.5次元実装のインターポーザとチップレット)では、構成材料間のCTEが大きく異なると、温度変化によって内部に応力が発生し、反りや歪みが生じやすくなります。
2. 湿度変化による影響
- 吸湿・乾燥:
- 一部の材料(特に有機材料や繊維製品)は、湿度が高くなると水分を吸って膨張し、乾燥すると収縮します。
- この吸湿による膨張・収縮も寸法変化の大きな原因となります。
3. 外部からの力による影響
- 剛性(Stiffness):
- 材料が外部からの力(荷重)に対して変形に抵抗する能力です。剛性が高い材料は、荷重がかかっても元の形状を維持しやすく、寸法安定性が高いと言えます。
- 剛性の低さは、弾性率(ヤング率)や部品の設計形状(板厚など)に依存します。
4. 経時変化(エージング)
- 材料の安定性:
- 時間の経過とともに、材料内部の残留応力が解放されたり、化学的な変化(例:硬化の進行)が起こったりして、わずかに寸法が変化することがあります。
なぜ寸法安定性が重要か
- 機能の維持: 部品が熱や湿気でわずかでも変形すると、電子回路の接続不良、機械部品の噛み合わせ不良、光学機器の焦点ズレなどが発生し、製品の性能や信頼性が低下します。
- 高精度な製造: 半導体パッケージのように微細な接続(マイクロバンプなど)を用いる場合、ごくわずかな寸法のズレ(例えば数マイクロメートル)が歩留まりの低下や接続の破断に直結します。
寸法安定性を確保するためには、用途に応じてCTEの小さい材料や、剛性の高い材料を選定し、製造工程で発生する残留応力を低減するための設計とプロセス管理が必要になります。

寸法安定性とは、温度や湿度などの環境変化や外部からの力を受けた際、材料や製品が形状や大きさ(寸法)を一定に保ち、変化しにくい性質のことです。半導体や精密機器では信頼性の鍵となります。
2.5次元実装で寸法安定性が重要な理由は何か
2.5次元実装で寸法安定性が重要である理由は、超微細な接続の信頼性と異なる材料間の熱応力が、パッケージ全体の長期的な動作保証に直結するからです。
2.5次元実装は、複数のチップレット(ダイ)をインターポーザと呼ばれる高密度配線層上に横並びに配置する技術であり、以下の要因により寸法安定性が極めて重要になります。
寸法安定性が不可欠な理由
1. マイクロバンプの接続信頼性(信頼性の確保)
2 .5次元実装のチップレット間の接続は、非常に微細なピッチのマイクロバンプに依存しています。
- 熱疲労: 製造工程や実際の動作時において、温度が変化すると、パッケージ全体に反り(Warpage)や歪みが生じます。
- このわずかな歪みであっても、微細なマイクロバンプには大きな熱応力(Stress)がかかります。寸法安定性が低いと、この応力が繰り返しかかり、バンプが疲労破壊を起こし、接続不良(断線)につながります。
- 高密度実装になればなるほど、バンプは小さく、この熱応力に対する許容度が低くなります。
2. 異種材料間のCTEミスマッチ(機械的ストレスの最小化)
2.5次元パッケージは、CTE(熱膨張係数)が大きく異なる複数の材料で構成されています。
- 構成材料の例: チップレット(シリコン、低CTE)、インターポーザ(シリコンまたは有機材料)、パッケージ基板(有機材料、高CTE)。
- 特にシリコンと有機材料ではCTEが大きく異なるため、温度変化による膨張・収縮の差が構造体全体の歪みを生み出します。
- 寸法安定性が高い(つまり、CTEのミスマッチが少ない、または剛性が高い)材料を選び、パッケージの反りを抑制することが、接続部の機械的ストレスを減らす唯一の方法です。
3. 高精度な製造・アライメント(歩留まりの維持)
複数のチップレットをインターポーザ上に高精度で配置・接合(ボンディング)するためには、製造プロセス全体で厳密な寸法制御が求められます。
- 位置合わせの精度: インターポーザの寸法が温度や湿度でわずかでも変化すると、チップレットのボンディング時に正確な位置合わせ(アライメント)が不可能になり、製造歩留まりが大幅に低下します。
寸法安定性は2.5次元実装の微細な配線構造を熱や応力から守り、長期的な製品寿命を保証するために不可欠なのです。

寸法安定性は、微細な接続(マイクロバンプ)の信頼性を確保するため重要です。温度変化による異なる材料間の歪み(CTEミスマッチ)が接続部にストレスを与え、断線を防ぐ鍵となります。
シリコン、ガラス、有機材の寸法安定性は
2.5次元実装で用いられる主要なインターポーザ材料であるシリコン、ガラス、有機材の寸法安定性を比較すると、一般に以下の順になります。
シリコン≒ガラス>有機材
寸法安定性は主に熱膨張係数 (CTE) と剛性によって決まります。シリコンとガラスはCTEが低く、熱による寸法変化が少ないため、最も優れています。
各材料の寸法安定性と特性の比較
| 特性 | シリコン (Si) インターポーザ | ガラス (Glass) インターポーザ | 有機材 (Organic) インターポーザ |
| 寸法安定性 | 極めて高い | 非常に高い | 比較的低い |
| CTE (熱膨張係数) | 非常に低い (約 2.5ppm/K) | 低く、調整可能 (約 3~8ppm/K | 高い (約 12~18ppm/K以上) |
| シリコンとのCTE整合性 | 完璧に近い | 非常に良い (調整可能) | 悪い (ミスマッチ大) |
| 熱安定性 | 非常に高い (温度変化に強い) | 非常に高い | 低い (製造プロセスで歪みやすい) |
| 微細配線への適性 | 最高(微細ピッチ対応) | 非常に高い | 低い(寸法不安定性で限界がある) |
| 製造可能なサイズ | ウェハサイズに制限(高コスト) | パネルサイズに対応(大面積化、低コスト化に有利) | パネルサイズに対応 |
1. シリコン (Si) インターポーザ
- 寸法安定性: 最も優れています。半導体チップ(ダイ)自体がシリコンでできているため、チップとのCTEミスマッチがほぼなく、熱応力が非常に少ないです。
- 利点: 寸法変化が極めて小さいため、最も微細な配線や接続ピッチ(マイクロバンプ)に対応でき、高い信頼性を誇ります。
- 課題: 製造コストが非常に高く、製造可能な最大サイズがウェハサイズに制限されるため、大規模なパッケージには不向きです。
2. ガラス (Glass) インターポーザ
- 寸法安定性: 非常に高いです。シリコンに次ぐ安定性があります。
- 利点:
- CTE調整: ガラスの組成を調整することで、CTEをシリコンチップに近く合わせることができます(約 3 \~7ppm/K。これにより、シリコンとの接続信頼性が高まります。
- 大型化: シリコンと異なり、パネルレベルの大型基板として製造できるため、コスト削減とパッケージの大型化に有利です。
- 平坦性: 表面の平坦性に優れており、微細配線(RDL)形成や高精度なチップ実装に適しています。
- 課題: ガラスの熱伝導率がシリコンに比べて低いため、高発熱チップの熱管理に課題が残ります。
3. 有機材 (Organic) インターポーザ
- 寸法安定性: 最も劣ります。
- 課題:
- 高CTE: シリコンやガラスに比べてCTEが非常に高いため、温度変化によって大きな膨張・収縮が発生しやすく、パッケージに大きな反り(Warpage)や歪みが生じやすいです。
- この寸法不安定性が、微細なマイクロバンプ接続に大きなストレスを与え、信頼性を低下させる主因となります。
- 利点: 最も安価であり、既存のパッケージング技術や製造設備を流用できるため、コストと製造のスケーラビリティに優れています。しかし、微細化の限界に直面しています。

2.5次元実装における寸法安定性は、シリコンとガラスが有機材より極めて優れます。これは、シリコンやガラスの低い熱膨張係数 (CTE) が、温度変化によるパッケージの歪みや接続(バンプ)へのストレスを抑えるためです。
有機材の寸法安定性が低い理由は何か
有機材(特に2.5次元実装で使われる有機インターポーザや基板)の寸法安定性が低い主な理由は、その材料の性質と製造プロセスに起因する以下の2点です。
1. 熱膨張係数 (CTE) が高い
- 高いCTE: 有機材は、シリコン(約 2.5ppm/K)やガラス(約 3~8ppm/k)といった無機材料に比べて、熱膨張係数 (CTE) が非常に高い(通常 12~20ppm/K以上)です。
- 熱変化への弱さ: 温度が変化すると、無機材に比べて大きく膨張・収縮します。この大きな寸法変化が、パッケージの反りや歪みを生じさせ、特に微細な接続(マイクロバンプ)に大きなストレスをかけます。
2. 吸湿による膨張がある
- 高い吸湿性: 有機材の多くは、水分を吸収しやすい性質を持っています。
- 湿度変化への弱さ: 空気中の湿度や、製造プロセスでの洗浄・乾燥工程などにより材料が吸湿・乾燥すると、水分量の変化に伴って膨張・収縮します。
- この湿気による寸法変化は、特に大面積の基板において、高精度な配線パターンや接続パッドの位置ずれ(レジストレーションミス)を引き起こす主要因となります。

有機材は、高いCTEによる熱的な不安定性と、高い吸湿性による湿度的な不安定性の両方を持ち合わせているため、シリコンやガラスといった無機材に比べて寸法安定性が低くなります。この点が、微細化が求められる2.5次元実装における歩留まりと長期信頼性の大きな課題となっています。

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