この記事で分かること
- ガラスの科学的な性質:液体を急速に冷却することで結晶化させずに固化させた、非晶質(アモルファス)の物質状態です。熱力学的には過冷却液体が極度に粘度を高めて凍結した準安定状態とされます。
- 二酸化ケイ素が非晶質になりやすい理由:強い共有結合によるSiO4四面体の複雑な網目構造を持つため、溶融状態でも極めて高い粘度を示します。この高い粘度により、冷却時に原子が規則正しく並ぶ結晶化が妨げられるため非晶質になりやすいです。
- 非晶質物質の種類:非晶性プラスチック、ゴム、アモルファス合金(金属ガラス)、アモルファス半導体(a-Si)などがあります。
非晶性物質
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回は無アルカリガラスに関する記事でしたが、今回はガラスの科学的な特性に関する記事となります。
ガラスとは科学的にどのような状態なのか
ガラスは科学的に、「非晶質固体(アモルファス固体)」または「ガラス状態」と呼ばれる特殊な状態にあります。
これは、液体を急速に冷却(過冷却)した結果、分子が無秩序な(ランダムな)配列のまま凍結し、非常に粘度が高くなった状態です。
1. 結晶構造を持たない(非晶質)
- 通常の固体(結晶):原子や分子が規則正しく周期的な構造(結晶構造)で配列しています(例:氷、食塩)。
- ガラス:原子や分子が液体のように不規則(ランダム)に配列した状態のまま固まっています。このため「非晶質」と呼ばれます。
2. 過冷却液体が凍結した状態
- 液体を冷却すると、通常は融点(凝固点)で原子や分子が規則的に並び始め、結晶性の固体に変化します。
- ガラスを形成する物質(ガラス形成物質)の場合、冷却速度が速いなどの条件では、融点以下になっても結晶化できず、液体と同じ無秩序な構造を保ったまま冷却が進みます。この状態を過冷却液体と呼びます。
- さらに温度が下がり、物質の粘度が極端に高くなって流動性が事実上失われた状態がガラス状態です。
3. 熱力学的に非平衡な準安定状態
- 結晶は熱力学的に最も安定な状態(平衡状態)ですが、ガラスは冷却過程で「結晶になるための時間」がなかったため、熱力学的には不安定な「非平衡状態」にあります。
- しかし、その粘度が非常に高いため、私たちの通常の時間スケール(数年〜数千年)では流動性を持たず、固体として振る舞います。非常に長い時間をかければ、理論上はより安定な結晶へと変化する(失透)と考えられていますが、その変化は極めて遅いです。
ガラスは、「硬さや形の安定性という点では固体」ですが、「分子の配列が無秩序という点では液体に近い」、固体と液体の中間的な特徴を持つユニークな物質状態と言えます。

ガラスは、液体を急速に冷却することで結晶化させずに固化させた、非晶質(アモルファス)の物質状態です。熱力学的には過冷却液体が極度に粘度を高めて凍結した準安定状態とされます。
なぜ、二酸化ケイ素は非晶質になりやすいのか
二酸化ケイ素(SiO2)が非晶質(ガラス状態)になりやすい主な理由は、その特有の網目構造と共有結合の強さにあります。
網目構造の柔軟性と複雑さ
二酸化ケイ素は、一つのケイ素(Si)原子が四つの酸素(O)原子と結合したSiO4四面体を基本単位としています。このSiO4四面体が、角を共有しながら三次元的に無限に連なった網目構造を形成します。
- 構造の複雑さ:結晶(石英など)では、この網目が規則正しく配列しますが、網目構造自体が非常に複雑で多様な結合角度やねじれを持ちやすい性質があります。
- 結晶化の困難さ:溶融状態(液体)から冷却する際、この複雑な網目全体が厳密な規則性を持つ結晶構造に並び直るためには、大きなエネルギー障壁と時間が必要です。
- 非晶質への移行:冷却が速い場合、SiO4四面体の無秩序な(ランダムな)配置がそのまま凍結し、不規則な網目構造を持つ非晶質(シリカガラス)が形成されます。
強い共有結合による高い粘度
- 共有結合の強さ:Si原子O原子は非常に強い共有結合で結ばれています。この強い結合のため、SiO2の融点は約1,700℃と非常に高いです。
- 高い粘性:融点付近でも、この強い網目構造は簡単には破壊されず、液体状態(溶融状態)であっても非常に高い粘度を持ちます(ドロドロしています)。
- 分子の移動の抑制:粘度が高いと、原子や分子が結晶の核を作り、規則正しく並ぶために必要な移動(再配列)が極度に抑制されます。このため、融点以下に冷却されても、結晶化が起こらず、液体の無秩序な構造がそのまま固定化されてガラス状態になりやすいのです。
「原子がガッチリと結合しすぎていて、結晶になるための整列が間に合わない」ため、非晶質になりやすいということです。

二酸化ケイ素は、強い共有結合によるSiO4四面体の複雑な網目構造を持つため、溶融状態でも極めて高い粘度を示します。この高い粘度により、冷却時に原子が規則正しく並ぶ結晶化が妨げられるため非晶質になりやすいです。
二酸化ケイ素以外の非晶質物質にはどのようなものがあるか
二酸化ケイ素(シリカガラス)以外にも、多くの物質が以下のように非晶質(アモルファス)状態をとります。
1. 有機物・高分子
- プラスチック(非晶性樹脂)
- ポリスチレン (PS)
- ポリ塩化ビニル (PVC)
- ポリカーボネート (PC)
- アクリル樹脂(PMMA)
- これらの高分子は、分子鎖が絡み合ったまま固定化されており、ゴムも非晶質の代表例です。
- 糖類
- 水飴、べっこう飴などの飴(砂糖の過冷却液体が固化したもの)。
2. 無機物(ガラス・セラミックス以外)
- アモルファス半導体
- アモルファスシリコン (a-Si):薄膜トランジスタや太陽電池などに利用されます。
- カルコゲン化物ガラス:硫黄やセレン、テルルなどを含むガラスで、光メモリ材料などに使われます。
- 天然の非晶質鉱物
- オパール(一部)
- 珪藻土(非晶質シリカの総称)
3. 金属
- アモルファス合金(金属ガラス)
- 鉄、ニッケル、コバルトなどの金属元素に、ホウ素 やケイ素 などを加えて急速冷却することで作られます。
- Fe-Si-B系合金:優れた磁気特性を持ち、変圧器の鉄心(アモルファス変圧器)などに利用されています。
- ジルコニウム系合金:高強度で柔軟性に優れる「金属ガラス」として知られています。

二酸化ケイ素以外の非晶質物質には、主に非晶性プラスチック、ゴム、アモルファス合金(金属ガラス)、アモルファス半導体(a-Si)など、幅広い材料があります。
非晶質の物質にはどんな特徴があるのか
非晶質(アモルファス)の物質は、原子や分子が規則正しく配列していない(無秩序な配列のまま凍結している)固体であり、結晶性の物質とは異なるいくつかの特徴を持ちます。
1. 構造的な特徴
- 無秩序な原子配列(長距離秩序の欠如)
- 結晶のように原子や分子が周期的な格子構造を持たず、液体に近い無秩序な配列のまま固定されています。
- X線回折像では、結晶のような鋭いピークではなく、ハローパターン(ぼんやりとした輪)が現れます。
- 準安定状態
- 熱力学的に最も安定なのは結晶状態ですが、非晶質は冷却が急であったために結晶化できなかった非平衡な準安定状態にあります。そのため、ゆっくり加熱すると安定な結晶へ転移(結晶化)することがあります。
- 等方性(方向によらない均質さ)
- 構造がランダムで方向性がないため、硬さ、熱伝導率、電気伝導率、光学特性などの物性が方向によらず均一です(等方性)。結晶(異方性を示すことが多い)とは対照的です。
2. 物理的な特徴
- 明確な融点がない
- 結晶は特定の融点で急激に液体に変化しますが、非晶質は加熱すると、ある温度範囲(ガラス転移点)を境に徐々に軟化し、粘度が連続的に変化しながら液状になります。
- 高い加工性
- 軟化する温度範囲があるため、加熱により容易に望む形状に加工(成型)しやすいです(例:ガラス、プラスチック)。
- 透明性が高い
- 結晶粒界(結晶と結晶の境目)がないため、光の散乱が少なく、透明性の高い物質が多いです(例:ガラス、非晶性プラスチック)。
3. その他の応用上の特徴
- 高い溶解性
- 結晶状態に比べ高いエネルギー状態にあるため、水や溶媒に対する溶解度が高い傾向があり、難溶性薬物の溶解性改善などに利用されます。
- 優れた磁気特性
- 金属合金を非晶質化したアモルファス合金(金属ガラス)は、結晶粒界がないため、磁気特性に優れ(透磁率が高く、鉄損が小さい)、変圧器などに利用されます。

非晶質の物質は、原子や分子が規則性のない(無秩序な)配列で固化しており、明確な融点を持たず徐々に軟化します。構造が均一なため、等方性を示し、ガラスのように透明度が高いものが多いです。

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