この記事で分かること
- サイエンスパークの特徴:台湾の成功例を参考に、研究・生産施設に加え、住宅や商業施設を一体整備する「産官学一体型の街づくり」を進め、ハイテク人材を惹きつけるイノベーション創出拠点を目指します。
- シリコンアイランドとの違い:シリコンアイランドでは国内企業主導の垂直統合型でしたが、現在はTSMCなど海外トップ企業を核とした水平分業型への組み込みです。また、産官学一体で生活環境まで整備する街づくりが大きな違いです。
三井不動産のサイエンスパーク
三井不動産は、九州(特に熊本)と東北(東北大学周辺など)において、半導体産業の集積や産学連携を図る「サイエンスパーク」の整備支援を進めています。

これは、台湾の成功事例を参考に、企業・政府自治体・研究機関が一体となった「産官学一体モデル」の日本での実現を目指すものです。
台湾のサイエンスパークとは何か
台湾のサイエンスパークは、ハイテク産業の集積とイノベーション創出を目的として、政府が強力に推進・管理する大規模な産業団地です。特に半導体産業の発展を牽引する「台湾のシリコンバレー」として機能し、台湾の経済成長の核心となっています。
台湾サイエンスパークの主な特徴と成功要因
台湾には、新竹サイエンスパーク(HSIP)、中部サイエンスパーク(CTSP)、南部サイエンスパーク(STSP)の三大サイエンスパークがあり、それぞれが地域のハイテク産業を支える拠点となっています。
1. 産官学一体の強力なエコシステム
- 政府による強力な管理(官):国家科学及び技術委員会が政策を立案し、サイエンスパーク管理局がワンストップで企業の事業運営に関わる行政ニーズに対応します。これにより、企業は迅速かつ効率的に事業を進めることができます。
- 大学・研究機関との近接(学):特に新竹では、工業技術研究院(ITRI)や国立清華大学、国立陽明交通大学などの有名大学が近隣に立地しています。これにより、企業は優秀な人材を確保しやすく、産学連携による共同研究開発や技術のスピンオフが活発に行われます。
- 産業クラスターの形成(産):TSMCやUMCといった世界的なファウンドリ(半導体受託製造)企業を核として、関連する材料、装置、設計企業などが集積し、強固なサプライチェーンと競争環境が生まれています。
2. 充実した優遇措置とインフラ
- 投資優遇制度:パーク内の企業は、低法人税率の適用や、研究開発費用の税額控除、また、保税地域として輸入設備や原材料の関税・貨物税が免除されるなど、手厚い優遇措置を受けられます。
- 安定したインフラ:企業が安定的に操業できるよう、電力、水資源、廃水処理施設などのインフラ管理体制が当局によってしっかりと整備されています。
- 土地の賃貸方式:当局が取得した土地を企業に売却せず賃貸することで、企業の初期コストを抑え、進出を促進しています。
3. 生活環境との融合(街づくり)
- 人間性豊かな環境:単なる工業団地ではなく、ハイテク人材を誘致するため、研究、生産、仕事、生活、娯楽の全てが集約された人間性溢れる環境の整備を目指しています。住宅や商業施設、学校などのコミュニティ機能が充実している点も大きな特徴です。
台湾のサイエンスパークは、政府主導のもと、高度な技術、優秀な人材、手厚い支援、そして快適な生活環境を一体的に提供することで、世界的な競争力を持つハイテク産業(特に半導体)を育成してきました。

台湾のサイエンスパークは、政府主導で整備されたハイテク産業集積地です。特に半導体産業の企業、研究機関、大学が集まり、手厚い優遇策と一体的な生活環境のもと、イノベーションと人材育成を強力に推進する産官学一体の拠点です。
三井不動産の手掛けるサイエンスパークの特徴は何か
三井不動産が手掛けるサイエンスパーク(熊本・東北)の最大の特徴は、台湾の成功モデルを参考に、不動産開発の知見を活かした「産官学一体型の街づくり」を目指している点にあります。
以下に示すように単なる工業団地の造成に留まらず、研究・生産活動の場と、それを支える生活環境の整備を一体的に進めることで、ハイテク人材を惹きつけ、イノベーションを継続的に創出できるエコシステムの構築を狙っています。
1. 台湾モデルを参考にした「産官学一体」の共創拠点
- お手本は台湾: 台湾の新竹サイエンスパークなどの成功事例を深く研究し、企業・大学・政府機関が密接に連携する「産官学一体モデル」を日本で実現することを目指しています。
- 「共創の場」の構築: 特に東北大学サイエンスパーク構想(愛称:MICHINOOK)では、大学と企業、企業同士のネットワーキングに留まらず、「イノベーションを生み出すコミュニティ」を共に創出する「共創の場」を提供します。
2. 産業と生活が融合した「街づくり」
- 総合的な開発力: 不動産デベロッパーとしての強みを活かし、半導体関連の工場、研究施設、オフィス、ロジスティクス施設といった「活動の場」だけでなく、周辺に住宅、商業施設、学校、交通インフラなどの「生活の場」も一体的に整備する計画です。
- 人材誘致: 外国籍技術者やその家族も暮らしやすいよう、インターナショナルスクールや多言語対応の医療機関、生活インフラの充実を図り、国内外の優秀な人材を惹きつける環境を整えます。
3. 大学の強みを活かした「研究開発機能」
- 東北の「知」の活用: 東北大学が持つ半導体(スピントロニクス)、量子/グリーン、宇宙、ライフサイエンスなどの世界トップレベルの研究開発力と設備(大規模クリーンルーム、試作ライン)を企業に開放し、最先端技術の社会実装を促します。
- 人材育成: 産学連携を通じて、産業界のニーズに合った即戦力となる人材育成にも貢献する場を設けます。
4. 複数の機能を担う「分散型サイエンスパーク」(熊本)
- 熊本でのアプローチ: TSMC進出で集積が進む熊本では、サイエンスパークに必要な機能を単一の拠点ではなく、複数の拠点で分担する「分散型サイエンスパーク」の概念を取り入れています。これにより、立地企業間や大学・研究機関との共同研究を促す有機的な繋がりを実現することを目指しています。

三井不動産は、台湾の成功例を参考に、研究・生産施設に加え、住宅や商業施設を一体整備する「産官学一体型の街づくり」を進め、ハイテク人材を惹きつけるイノベーション創出拠点を目指します。
シリコンアイランドとの違いは何か
シリコンアイランドとは、1980~90年代に九州が日本の半導体産業の一大拠点として栄えた際の呼称です。国内大手メーカーの工場が集中し、垂直統合型でDRAMなどのメモリ製品を生産しました。しかし、国際競争で後れを取り衰退しました。
三井不動産などが推進する現在の「半導体パーク構想」と、かつての九州の「シリコンアイランド」には、いくつかの決定的な違いがあります。
かつての「シリコンアイランド」が衰退した要因を踏まえ、今回の構想は国際的な分業体制への組み込みと産官学一体の街づくりを核としています。
過去の「シリコンアイランド」との主な違い
| 特徴 | 過去の「シリコンアイランド」(1980年代〜1990年代) | 現在の「半導体パーク構想」(三井不動産支援) |
| 産業構造 | 垂直統合型(IDM): 設計から製造まで国内メーカーが一貫して行う。 | 水平分業型への組み込み: TSMCのようなファウンドリ(受託製造)を核とし、世界的なサプライチェーンの一部となる。 |
| 主体 | 国内の大手総合電機メーカーが主導。 | 政府・自治体の強い主導のもと、海外トップ企業(TSMCなど)と国内デベロッパー(三井不動産)が連携。 |
| 連携 | 企業単体の工場進出が主。企業間の連携や大学との連携は限定的。 | 「産官学一体」のエコシステム構築を重視。大学(東北大など)や台湾の研究機関との強力な連携を前提とする。 |
| 街づくり | 工場集積が主眼で、生活環境整備は二の次だった。 | 人材誘致を最大の目標とし、住宅、商業、教育まで含めた街づくり」と一体で推進。 |
| 市場対応 | メモリなど汎用性の高い製品に強かったが、パソコンやスマホなどマーケットの変化への対応が遅れた。 | 最先端プロセス(TSMC)や次世代技術(東北大のスピントロニクスなど)に焦点を当て、高付加価値な分野を狙う。 |
過去の「シリコンアイランド」衰退要因
過去の九州のシリコンアイランドは、以下の要因が重なり、競争力を失っていきました。
- 日米半導体協定: 日本の半導体市場の開放を求められ、国内企業の競争力を削ぐ要因となった。
- 市場変化への対応遅れ: パソコンやスマートフォンの時代になり、品質よりも安価で大量生産が求められる水平分業体制(台湾、韓国の台頭)に乗り遅れた。
- 開発投資の不足: 総合電機メーカーの一部門であったため、不況時の思い切った戦略的投資が難しかった。
現在の構想が目指すもの
現在の三井不動産支援による半導体パーク構想は、これらの反省を踏まえ、国際的な分業体制に深く入り込み、世界水準の投資と人材を惹きつけることに重点を置いています。特に、三井不動産が「街づくり」の面で生活基盤を整備することにより、優秀な技術者が長期的に定着できる環境を整えることが大きな強みとなっています。

以前は国内企業主導の垂直統合型でしたが、現在はTSMCなど海外トップ企業を核とした水平分業型への組み込みです。また、産官学一体で生活環境まで整備する街づくりが大きな違いです。

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