日亜化学の深紫外LEDの開発 深紫外LEDとは何か?なぜ強い殺菌作用があるのか?

この記事で分かること

  • 深紫外LEDとは:波長280nm以下の紫外線を発するLEDです。細菌やウイルスのDNAを破壊する強力な殺菌作用を持ち、水銀ランプの代替として、水や空気の殺菌・浄化に幅広く利用されています。
  • 殺菌効果を持つ理由:深紫外LED(UV-C)の光が、細菌やウイルスのDNA・RNAに吸収され、それらを構成する塩基を異常結合(ダイマー形成)させるためです。これにより、増殖能力を破壊(不活化)し、殺菌効果を発揮します。

日亜化学の深紫外LEDの開発

 日亜化学工業(日亜化学)は、深紫外(UV-C)LEDの新規光源技術を開発し、その出力密度を従来の約2倍に向上させました。この高出力化された深紫外LEDが、三浦工業水殺菌装置に採用されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92367780U5A101C2LCC000/

 この技術開発は、水銀ランプを使用しない「脱水銀社会」の実現を目指す動きの一環です。

深紫外LEDとは何か

 「深紫外LED(しんしがいエルイーディー)」とは、紫外線(UV)のうち、特に波長の短い深紫外領域の光を発するLED(発光ダイオード)のことです。

 この光は、強力な殺菌・不活化効果を持つため、近年、従来の殺菌灯(水銀ランプ)の代替として、急速に普及が進んでいます。


深紫外LEDの基本

1. 波長と殺菌効果

  • 深紫外線の定義: 一般的に、波長が280nm(ナノメートル)以下の短い波長の紫外線を指します。
    • この波長域は「UV-C」とも呼ばれます。
  • 殺菌メカニズム: 深紫外線の光は、細菌やウイルスのDNAやRNAに直接吸収され、それらの増殖能力を破壊(不活化)します。
    • 微生物に対して最も高い殺菌効果を示す波長は265nm付近とされていますが、製品では275nm〜280nmの波長帯が多く使われています。

2. 水銀ランプとの違い

 深紫外LEDは、環境負荷が高い水銀を使用していた低圧水銀ランプ(殺菌灯)の代替技術として開発されました。

特徴深紫外LED水銀ランプ(殺菌灯)
水銀不使用(環境負荷が低い)使用(水俣条約などで規制対象)
サイズ非常にコンパクト、小型化が容易大型で設置場所に制約がある
寿命長寿命(約20,000時間以上)数千時間程度
起動瞬時に点灯・点滅が可能予熱時間が必要
発光波長単一波長に近く、殺菌に最適な波長を選べる特定の波長(主に254nm)が中心

主な用途

 深紫外LEDは、そのコンパクトさと殺菌効果の高さから、非常に幅広い分野で応用が進んでいます。

  • 水の殺菌・浄化:
    • 浄水器、ウォーターサーバー、加湿器、浴槽の循環水、工業用水の殺菌装置(前述の三浦工業の装置など)。
  • 空気の殺菌・除菌:
    • エアコン、空気清浄機、空調設備内での空気の除菌。
  • 表面殺菌:
    • 医療機器、調理器具、歯ブラシ、スマートフォン、エレベーターのボタンなど、物体表面の殺菌。
  • 工業用途:
    • 特定の樹脂やインクを瞬時に固めるUV硬化(プリンター、3Dプリンティング、接着剤)。
  • 分析・計測:
    • DNA/RNAの濃度測定など、分光分析機器の光源。

 深紫外LEDは、水銀ランプの規制が進む中で、「安心・安全」と「環境配慮」を両立する次世代の殺菌光源として注目を集めています。

深紫外LEDは、波長280nm以下の紫外線(UV-C)を発するLEDです。細菌やウイルスのDNAを破壊する強力な殺菌作用を持ち、水銀ランプの代替として、水や空気の殺菌・浄化に幅広く利用されています。環境に優しく、小型で長寿命です。

殺菌効果を持つ理由は何か

 深紫外LED(UV-C)が殺菌効果を持つ理由は、その光のエネルギーが、細菌やウイルスなど微生物の遺伝情報(DNAやRNA)を直接破壊するからです。

 これは、微生物が深紫外領域の光を非常に効率よく吸収するという特性に基づいています。


殺菌メカニズム

 深紫外LED(主に波長が280nm以下)の光が微生物の細胞に照射された際に、細胞内で起こる現象は以下の通りです。

1. 遺伝情報への吸収と損傷

  • 最大の吸収帯: 細菌やウイルスが持つDNA(デオキシリボ核酸)RNA(リボ核酸)は、特に深紫外線の波長(約265nm付近がピーク)を最も効率よく吸収する特性(吸収ピーク)を持っています。
  • エネルギーの伝達: 深紫外線の高いエネルギーが、遺伝情報を構成する塩基(チミン、シトシンなど)に吸収されます。

2. 二量体(ダイマー)の形成

  • 異常な結合: 遺伝情報にエネルギーが吸収されると、DNA鎖上の隣り合ったピリミジン塩基(特にチミン)同士が異常に結合し、「ピリミジン二量体(ダイマー)」という構造を作ります。

3. 増殖能力の不活化

  • 複製と転写の阻害: この異常な二量体ができると、微生物は増殖に必要なDNAの複製(コピー)や、タンパク質合成に必要なRNAへの転写を正確に行えなくなります。
  • 不活化(死滅): 結果として、微生物は増殖能力を失い、病原性を発揮できなくなり(不活化)、最終的に死滅します。

 このように、深紫外LEDは化学薬品を使わず、物理的に微生物の生命活動を停止させるため、あらゆる種類の細菌、ウイルス、カビなどに有効な殺菌手段となります。

深紫外LED(UV-C)の光が、細菌やウイルスのDNA・RNAに吸収され、それらを構成する塩基を異常結合(ダイマー形成)させるためです。これにより、増殖能力を破壊(不活化)し、殺菌効果を発揮します。

水殺菌装置に採用された理由は何か

 水殺菌装置に深紫外LEDが採用された主な理由は、環境性能・安全性と、高出力化による処理能力の向上を両立できる点にあります。

 日亜化学の高出力LEDと三浦工業の技術が融合することで、特に以下の3点が実現し、従来の殺菌灯(水銀ランプ)からの切り替えを加速させています。


1. 環境負荷と安全性の低減(水銀フリー)

 最も重要な理由として、国際的な規制(水俣条約など)により規制される水銀を一切使用しない水銀フリー」を実現できる点が挙げられます。

  • 環境への配慮: 水銀ランプの代替となり、環境汚染リスクを低減し、脱水銀社会の実現に貢献します。
  • 薬剤不要: 殺菌に化学薬剤を使わないため、有害な副生成物が発生せず、水質を変化させることもありません。
  • 高い安全性: 水銀ランプのようなランプ破損時の水銀飛散リスクがなく、より安全な運用が可能です。

2. 高出力化と高効率による性能向上

 日亜化学の新規光源技術による高出力化が、殺菌装置の性能を大幅に向上させました。

  • 処理水量の拡大: LEDの出力密度が向上したことで、水銀ランプに匹敵、またはそれを上回る大流量の水を効率よく殺菌できるようになりました。これにより、従来の製品より処理水量を大幅に向上(例:同一サイズで10m³/hから25m³/hへ)させることが可能になりました。
  • 省エネ性: 高い電力変換効率(光への変換効率)を実現したため、消費電力の削減とエネルギー効率の向上に貢献します。

3. LEDならではの機能性とメンテナンス性

 LEDはランプに比べて小型で、高い機能性と利便性を提供します。

  • コンパクト化: LEDは非常に小型なため、装置をコンパクトに設計でき、設置場所の自由度が向上します。
  • 長寿命: 殺菌灯に比べはるかに長寿命(数万時間以上)であるため、交換頻度が減り、メンテナンスの手間とコストが削減されます。
  • 即時点灯: スイッチを入れた瞬間に殺菌効果のある光が最大照度で得られるため、待ち時間が発生しません

 これらの理由から、深紫外LEDは次世代の水殺菌装置の標準光源として採用が拡大しています。

水銀不使用で環境に優しく、高い安全性があるためです。また、日亜化学の高出力化技術により、従来の殺菌灯よりコンパクトかつ大流量の水効率よく殺菌できるようになったため、採用されました。

出力密度を従来の約2倍に向上した方法は

 日亜化学工業が深紫外LEDの出力密度を従来の約2倍に向上させた方法は、主に「新規光源技術」と表現されています。

 この技術の具体的な詳細(半導体構造やパッケージングの革新など)は企業秘密に関わるため、完全には公開されていませんが、公開情報からは以下の技術的要素を総合的に進化させたものと推測されます。


出力密度向上のための推測される技術的要素

 高出力化と高密度化を両立するためには、LEDチップ自体の性能向上と、その熱を効率よく逃がす技術が不可欠です。

1. LEDチップの基本性能向上

 深紫外LEDのチップは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)などの材料を用いて製造されますが、この半導体構造を改良することで、光の生成効率を高めています。

  • 内部量子効率(IQE)の向上: 電流を注入した際に、実際に光に変換される割合を高めるための、発光層(活性層)の結晶品質や構造の最適化。
  • 電子注入効率の改善: 電流の漏れ(リーク)を防ぎ、発光層へ効率よく電子を送り込むための多重量子障壁(MQB)などの電子ブロック層の改良。

2. 光取り出し効率の劇的な改善

LEDチップ内で生成された光が、半導体材料に吸収されたり反射されたりせずに、外部へ効率よく取り出されるようにする技術です。

  • ナノフォトニック光取り出し技術の応用: 表面に微細な凹凸構造(ナノ構造)を導入することで、光の閉じ込めを防ぎ、外部への取り出し効率を大幅に向上させます。
  • パッケージング技術の改良: 光の吸収が少ない材料の採用や、反射構造の最適化により、パッケージ内で光が失われるのを防ぎます。

3. 放熱性能の改善

LEDは電流を流すと熱を発生し、この熱がチップの寿命や光の出力を低下させる最大の要因となります。日亜化学は今回の技術で放熱性能を約20%改善したと発表しています。

  • 熱抵抗の低減: 熱伝導性の高い基板材料や放熱経路を採用し、チップから外部への熱の逃がしやすさ(熱抵抗)を極限まで低くしています。
  • 新規パッケージ構造: 高密度にLEDチップを配置しつつ、熱が集中しないよう、パッケージの構造や部材配置を最適化しています。

これらの複合的な技術改良、特に高効率な光取り出し熱マネジメントの進化により、限られた面積(密度)から従来比2倍の光出力を取り出すことに成功したと考えられます。

新規光源技術により、半導体結晶構造光取り出し効率を改善し、チップの発光効率を向上させました。加えて、放熱性能を約20%改善し、発熱による出力低下を防ぎ、高密度配置下での高出力を実現しました。

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