この記事で分かること
- 低温硬化性とは:従来の硬化プロセスで必要とされていた高温条件ではなく、熱応力の発生を抑えたり、熱に弱い部品を保護したりするために低温(例えば150°C以下、または100°C以下)で化学反応を完了させることです。
- 重要となる理由:熱応力やパッケージの反りを抑制し、チップとインターポーザ間の接合信頼性を高めるために重要です。これにより、高温に弱い部品の保護と製造効率の向上が図れます。
- 冷却時に熱残留応力が発生する理由:構成材料間で熱膨張係数(CTE)が異なるため、収縮の度合いに差が生じます。このCTEミスマッチにより、互いに引っ張り合い・押し合う力が熱残留応力として発生します。
2.5次元実装での低温硬化性
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は平坦性に関する記事でしたが、今回は2.5次元実装の基板に必要な物性である低温硬化性に関する記事となります。
2.5次元実装における低温硬化性とは何か
2.5次元実装(2.5Dパッケージング)において低温硬化性は、実装の信頼性や製造プロセス効率の観点から非常に重要な技術課題となっています。
1. 低温硬化が必要とされる背景
2.5次元実装は、主にシリコンインターポーザ上に複数の半導体チップ(ダイ)を並べて配置し、高密度配線で接続する技術です。この実装プロセスにおいて、低温での硬化が求められる主な理由は以下の通りです。
- 熱応力の低減:
- 半導体チップやインターポーザ、基板など、実装を構成する材料間には熱膨張係数(CTE)のミスマッチが存在します。
- 硬化温度が高いと、冷却過程で大きな熱残留応力が発生し、はんだ接合部や材料にクラックや剥離といった損傷を引き起こすリスクが高まります。
- 低温で硬化することで、この熱応力を抑制し、特に車載向けなど高い実装信頼性が求められる分野での品質向上に貢献します。
- 部品へのダメージ回避:
- 搭載される精密部品(センサーなど)や有機インターポーザなどの材料が、高温に弱い場合があります。
- これらの熱に敏感な部品を保護し、性能劣化を防ぐために、低温でのプロセスが不可欠です。
- パッケージの反り(Warpage)抑制:
- 特に薄型化が進む半導体パッケージでは、熱による材料間の収縮差が原因でパッケージの大きな反りが発生しやすくなります。
- 低温硬化は、この反りの発生を低減し、次工程での接合不良を防ぐ上でも重要です。
- 製造効率の向上:
- 低温での短時間硬化は、全体の製造スループット向上に繋がる場合があります。
2. 低温硬化技術と材料
低温硬化性の実現は、主にアンダーフィル材やRDL(再配線層)の誘電体材料など、実装に用いられる樹脂材料の技術開発によって支えられています。
- アンダーフィル材:
- フリップチップ接合部(はんだバンプ)の隙間に充填され、熱応力を緩和する役割を持ちます。
- 80℃などの低温で硬化しつつ、硬化後のガラス転移温度(Tg)は140℃以上といった高い耐熱性(高温での安定性)を両立した材料が開発されています。
- これにより、はんだボールへのストレスを低減し、厳しい温度サイクル環境下での信頼性を確保します。
- RDL誘電体材料(ポリイミドなど):
- 再配線層に使用される誘電体材料も、従来の高温(300℃以上)ではなく、180~230℃程度の低温で安定した膜特性が得られるように改良されています。
- これもパッケージの反りや残留応力を最小限に抑えることを目的としています。
3. 今後の動向
AIやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けなど、より高性能で複雑な2.5次元/3次元パッケージングの需要が高まるにつれて、低温硬化技術の重要性はさらに増しています。
- 低温での高品質な特性実現: 低温硬化を維持しつつ、高いTg、低CTE、優れた電気特性、高い信頼性といったトータルな材料性能の向上が求められています。
- 真空キュアシステム: 真空環境下での硬化システムが、残留溶剤の完全除去や均一な温度管理、反りの抑制などに効果を発揮し、採用が進んでいます。
2.5次元実装の進化には、材料技術とプロセス技術の両面からの低温硬化性の追求が不可欠です。

2.5次元実装における低温硬化性は、熱応力やパッケージの反りを抑制し、チップとインターポーザ間の接合信頼性を高めるために重要です。これにより、高温に弱い部品の保護と製造効率の向上が図れます。
冷却過程で大きな熱残留応力が発生する理由は
冷却過程で大きな熱残留応力が発生する主な理由は、以下の2点に集約されます。
1. 異なる材料間の「熱膨張係数(CTE)のミスマッチ」
半導体実装(特に2.5次元実装)のように、複数の異なる材料(シリコンチップ、インターポーザ、基板、アンダーフィル材など)を接合して使用する場合に最も大きな原因となります。
- 現象: 材料が硬化温度などの高温から室温へ冷却される際、それぞれの材料は熱収縮します。このとき、材料ごとに熱膨張係数(CTE)が異なるため、収縮する「度合い」が違ってきます。
- 結果: 熱収縮が大きい材料と小さい材料が互いに拘束し合って引っ張り合う、または押し合い、材料内部に引張応力や圧縮応力が発生します。これが熱残留応力として残ります。
- この応力は、はんだ接合部への負荷となり、クラックや疲労破壊(遅れ破壊)の原因となります。
2. 同一材料内部における「不均一な冷却速度と体積変化」
熱処理や急冷プロセスなど、材料全体が均一に冷却されない場合に発生します。
- 現象: 材料の表面は内部よりも早く冷却され、収縮が先行します。
- 結果:
- 先に収縮した表面は、後から収縮しようとする内部に引っ張られ、引張残留応力が発生しやすくなります。
- 一方、遅れて収縮する内部は、既に固まった表面から拘束され、圧縮残留応力が残ることがあります。
この不均一な体積変化が材料内部の応力バランスを崩し、残留応力として蓄積されます。

冷却時に、構成材料間で熱膨張係数(CTE)が異なるため、収縮の度合いに差が生じます。このCTEミスマッチにより、互いに引っ張り合い・押し合う力が熱残留応力として発生します。
アンダーフィル材での低温で硬化を実現する方法は何か
アンダーフィル材で低温での硬化を実現する主な方法は、使用する樹脂材料の設計、特に硬化剤の技術開発にあります。
1. 独自の「潜在性硬化剤」の活用
低温硬化の実現において最も重要なのが、潜在性硬化剤(Latent Hardener)の採用です。
- 潜在性硬化剤とは: 通常、エポキシ樹脂と硬化剤を混ぜるとすぐに硬化が始まってしまいますが、潜在性硬化剤は特定の条件(例:80℃などの低温)に達するまで硬化機能が発現しないように設計されています。
- メカニズム:
- 硬化剤をマイクロカプセル化するなどして、常温での反応性を抑えます。
- 特定の温度に加熱されたときにのみカプセルが破壊されたり、硬化剤そのものが活性化したりするように、反応性制御技術が適用されます。
- メリット: これにより、ポットライフ(可使時間)を長く保ちながら、必要な工程では比較的低温(例:80℃、100℃など)で短時間に硬化させることが可能になります。
2. 高反応性の硬化促進剤の最適化
エポキシ樹脂と潜在性硬化剤の反応を低温で効率よく進めるため、硬化促進剤が重要になります。
- 役割: 硬化促進剤は、硬化剤と主剤(エポキシ樹脂)の反応開始温度を引き下げたり、反応速度を高めたりする役割を果たします。
- 技術: 特定の酸無水物やアミン類などの高反応性の促進剤を、他の材料成分と配合性を考慮しながら最適量添加することで、80℃などの低温でも、最終的に高いガラス転移温度(Tg)(例:140℃以上)を実現する高性能なネットワーク構造を形成します。
3. 低温硬化と高Tgの両立
低温硬化を実現するだけでは不十分で、硬化後のアンダーフィル材には車載向けなどに求められる高い実装信頼性が必要です。
- 課題: 一般に、硬化温度を下げると、形成される樹脂の架橋密度が低くなり、Tg(ガラス転移温度)も低下しがちです。Tgが低いと高温環境下で材料が軟化し、応力緩和効果が失われやすくなります。
- 解決: 上記の独自の樹脂設計技術(特に硬化剤の選定と設計)により、低温で硬化させつつ、強固な架橋構造を形成し、高いTg(高耐熱性)を両立させています。この両立が、低温硬化型アンダーフィル材の技術的なポイントです。

アンダーフィル材は、潜在性硬化剤の採用や高反応性硬化促進剤の最適化により低温硬化を実現します。これにより、ポットライフを保ちつつ、低い温度で短時間に高いガラス転移温度(Tg)を両立した硬化が可能です。

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