この記事で分かること
- 好調の理由:主にAIアクセラレーター「MI300」への強い需要と、クラウド向けEPYCサーバーCPUの採用拡大によるデータセンター部門の大幅な成長に牽引されています。PC市場の回復も貢献しています。
- 株価下落の理由:AIチップ(MI300)の本格的な収益化のスピードが、過熱した予想に追いつかなかったため、アナリストの期待していた数値には至らなかったためです。
- AMDの強み:AI向けMI300チップの価格競争力と大容量メモリ、そしてサーバーCPU(EPYC)とGPUを両方提供できる統合的なエコシステムが特に対エヌビディアでの強みです。
AMDの第4四半期増収見込み
AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)が示す10~12月期(第4四半期)の25%増収見通しを発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0505W0V01C25A1000000/
この高い増収見通しは、特にAI分野への投資増強と、それに伴うAI向け製品の売上拡大に対する市場の期待を反映しているといえます。その一方で、市場の希望には届かなかったのか、株価は3%ほど下落しています。
好調の理由は何か
AMDが10~12月期に25%の増収を見込んでいる好調の主要な理由は、主にAI分野への積極的な投資と、それに伴うデータセンター向け高性能製品の需要拡大にあります。
1. AIアクセラレーターへの期待と需要
- 「Instinct MI300」シリーズへの強い期待:
- NVIDIAが独占的な地位にあるAI向けGPU市場において、AMDの次世代AIアクセラレーターであるInstinct MI300シリーズに対する顧客(特にMicrosoftやGoogleなどのクラウド大手)の関心と需要が非常に高まっています。
- MI300シリーズは、生成AIのトレーニングや推論に必要な高い演算効率と大容量メモリ(HBM3)を提供し、NVIDIAに対抗できる唯一の製品として注目されています。
- AI分野への投資増強:
- AMDは、AI関連の製品開発やサービスへのAI機能統合を加速させるため、研究開発費を含む営業費用を増やしており、これが将来の収益拡大に繋がると見られています。
2. データセンター向けCPU「EPYC」の好調
- 高性能なサーバー向けCPUであるEPYC(エピック)プロセッサーの採用が、クラウドサービスプロバイダーや大企業のデータセンターで継続的に拡大しています。
- EPYCは、競合製品と比較してコストパフォーマンスや電力効率に優れている点が評価され、データセンター部門の売上を牽引しています。
3. PC市場の回復
- クライアント部門(PC向け)では、以前の在庫調整局面を脱し、新しい世代のRyzenプロセッサーの販売が堅調に推移していることも、全体の増収に貢献しています。
4. ゲーム機向けカスタム半導体の安定
- ゲーム部門では、ソニーのPlayStation 5やマイクロソフトのXbox Series X/Sといった主要なゲーム機に供給しているカスタムSoCの売上が、安定した収益基盤を提供しています。
特にAIアクセラレーター「MI300」の出荷開始と、クラウド大手による採用の見込みが、市場予想を上回る25%増収という強気な見通しの最大の牽引役となっています。

AMDの好調な増収見通しは、主にAIアクセラレーター「MI300」への強い需要と、クラウド向けEPYCサーバーCPUの採用拡大によるデータセンター部門の大幅な成長に牽引されています。PC市場の回復も貢献しています。
アナリストの希望に届かなかった理由は何か
AMDの業績が好調にもかかわらずアナリストの希望に届かなかった(あるいは株価が下落した)理由は、主に以下の3点に集約されます。
1. AIチップへの「過熱した期待」の未達
- データセンター部門の売上ミス:
- 最も成長が期待されていたデータセンター部門(特にAIアクセラレーター「MI300」関連)は、過去最高の売上を達成し、前年同期比で大幅に成長したにもかかわらず、一部のアナリストが設定した非常に高いコンセンサス予想には届きませんでした。
- アナリストや投資家は、NVIDIAの独壇場となっているAI市場で、AMDがより急激なペースで市場シェアを獲得し、売上を伸ばすことを短期的に期待しすぎていました。
- 過剰な「買い方」の期待:
- AMDはAIチップの2024年の売上見通しを引き上げましたが、一部のバイサイド(機関投資家)の非公式な期待値は、会社側の見通し(ガイダンス)よりも遥かに高かったと報じられています。
2. 一部コア事業の需要減速
- ゲーム部門の不振:
- ゲーム機向けのカスタム半導体(Semi-Custom)の需要が、ゲーム機の販売サイクル成熟により減速し、前年同期比で大幅な減少となりました。
- 組み込み部門の在庫調整:
- 産業機器などに使われる組み込み(Embedded)部門でも、顧客が抱える在庫の調整が進み、売上が減少しました。
3. 翌四半期の弱いガイダンス
- 短期的な成長の鈍化懸念:
- 発表された次の四半期(第1四半期)の売上ガイダンス(見通し)が、季節的な要因やゲーム・組み込み部門の継続的な弱さから、アナリスト予想を下回りました。
AIの成長は力強かったものの、それに対する市場の期待値が「完璧」を求めるレベルにまで高まりすぎたことと、成長の柱ではないが収益基盤であるゲーム・組み込み部門が想定以上に弱含んだことが、目標未達と評価された主な理由です。

アナリストの期待が高騰していたAIチップ(MI300)の本格的な収益化のスピードが、過熱した予想に追いつかなかったためです。さらに、ゲーム機向けや組み込み部門といった非AI事業の需要が減速したことも、期待未達の要因となりました。
AMDの強みは何か
AMDがライバルであるNVIDIAと比較した際の最大の強みは、「コストパフォーマンス(価格競争力)」と「x86 CPUとの統合的なエコシステム」、そして現在最も重要な「AIアクセラレーター市場への戦略的な参入」です。
NVIDIAとの比較におけるAMDの主な強み
1. コストパフォーマンスと価格競争力
- GPU(Radeon): 一般的に、同等性能クラスのNVIDIA製GPU(GeForce)と比較して、価格が手頃な傾向にあります。予算を抑えつつ高いゲーミング性能やクリエイティブ性能を求めるユーザーに有利です。
- AI/HPCアクセラレーター(Instinct MI300):
- NVIDIAのフラッグシップAIチップ(例: H100)が極端な高価格で取引される中、AMDのMI300Xは、性能差はあれど大幅に低い価格で提供されています。これは、AI開発に巨額のコストをかけるクラウド大手にとって大きな魅力となります。
- 高いメモリ容量: MI300XはNVIDIA H100よりも多いメモリ(HBM3)を搭載しており、大規模言語モデル(LLM)の推論など、大容量メモリを必要とするワークロードで優位性を持つことがあります。
2. CPUとGPUの統合的なエコシステム
- 唯一のx86 CPUとGPUの提供者: AMDは、高性能なサーバー向けCPU「EPYC」とAI/HPC向けGPU「Instinct」の両方を自社で提供できる唯一の企業です。(NVIDIAはCPUを持たず、IntelはGPU市場で立ち上がり途上です。)
- 統合設計(APU/CDNA):
- Instinct MI300Aは、CPUとGPUを統合したAPU (Accelerated Processing Unit) 設計を採用しており、データ転送のボトルネックを解消し、特定のHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)ワークロードで高い効率を発揮します。
- Smart Access Memory (SAM) など、AMD製CPUとGPUを組み合わせることでパフォーマンスを向上させる独自機能も提供しています。
3. オープンなソフトウェア戦略
- NVIDIAがCUDAという独自の強力なソフトウェアプラットフォームで市場を独占しているのに対し、AMDはROCm (Radeon Open Compute Platform) というオープンなエコシステムを推進しています。
- ROCmはまだCUDAほどの成熟度や普及度はありませんが、オープンソースであるため、特定の企業に依存したくない顧客や、より柔軟な開発環境を求める研究機関などからの支持を集める可能性があります。
NVIDIAとの比較
| 強み | AMD | NVIDIA |
| 価格/コスパ | ✅ 優位 (より安価で高いメモリ容量) | ❌ 非常に高価 |
| データセンターCPU | ✅ EPYCによる市場で強い競争力 | ❌ なし (ArmベースのGraceはある) |
| AIソフトウェア | ❌ ROCmは立ち上がり途上 | ✅ CUDAによる圧倒的な市場支配力 |
| GPU性能(ハイエンド) | ❌ 従来のハイエンド市場では劣勢 | ✅ ウルトラハイエンドで独壇場 |
| リアルタイムレイトレーシング | ❌ 追従中 | ✅ 優位 (RTコア搭載) |
| 市場シェア/実績 | ❌ 低い | ✅ 圧倒的なシェアと実績 |
AMDは「コスト効率」「CPU・GPUの統合力」「AI市場におけるNVIDIAの独占に対抗する代替性」を武器に、AI時代のデータセンター市場で存在感を増しています。

AMDの強みは、AI向けMI300チップの価格競争力と大容量メモリ、そしてサーバーCPU(EPYC)とGPUを両方提供できる統合的なエコシステムです。NVIDIAのCUDA独占に対抗する代替性も魅力です。

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