太洋テクノレックスのFPC基板の微細化 FPC基板に微細化が必要な理由は何か?微細化を実現した方法は?

この記事で分かること

  • FPC基板とは:ポリイミドなどの柔軟なフィルムを基材とし、曲げたり折り曲げたりできる回路基板です。電子機器の小型・薄型化や、可動部での配線接続を可能にし、省スペース化に不可欠な技術です。
  • 微細化が必要な理由:スマートフォンやウェアラブル機器の小型・薄型化に必須です。また、高密度な電子部品の実装を可能にし、高速・大容量信号の伝送品質を確保することにも貢献するため必要となっています。
  • 微細化の実現方法:MSAP(修正セミアディティブ法)を導入したためです。これは、高精度な露光技術と電気メッキで配線を積層することで、エッチングによる側面の削れ(アンダーカット)を防ぎ、高密度で均一な細線を実現しました。

太洋テクノレックスのFPC基板の微細化

 太洋テクノレックスは、フレキシブル基板(FPC: Flexible Printed Circuits)において、配線幅0.03mm(30μm)という微細配線技術を実現しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00765192

これは、同社の主要な技術の一つであり、より高密度で小型化が求められる電子機器に対応するために開発されました。

フレキシブル基板とは何か

 フレキシブル基板(FPC)とは、柔軟性があり、曲げたり折り曲げたりできるプリント基板のことです。 FPC (Flexible Printed Circuits) と略して呼ばれることも多く、現代の電子機器の小型化・軽量化に不可欠な存在です。


1. 柔軟性と薄さ

 通常の硬いプリント基板(リジッド基板)がガラスエポキシなどの硬い素材を使うのに対し、FPCは主にポリイミドやポリエステル(PET)などの薄くて柔らかいプラスチックフィルムを絶縁体(ベースフィルム)に使用しています。

 これにより、曲げても電気的特性が変化せず、回路として機能し続けます。

2. 基本構造

 ベースフィルムの上に接着層を介して銅箔などの導体層があり、ここに微細な電気回路パターンが形成されています。回路の上層は、保護のためのカバーレイ(保護フィルム)で覆われています。


FPCの主なメリット

  • 高い柔軟性・曲げられる:電子機器の可動部(折りたたみスマートフォンのヒンジなど)や、三次元的な複雑な空間に、コネクタなどを使わずに配線を接続できます。
  • 小型・軽量化:リジッド基板と比べて非常に薄く軽いため、製品全体の軽量化と薄型化に大きく貢献します。
  • 省スペース化:曲げて立体的に配置できるため、機器内部のわずかな隙間を有効活用できます。

主要な用途

 FPCの特性を活かし、可動部分や高密度実装が求められるあらゆる電子機器に使用されています。

  • モバイル機器:スマートフォン、タブレット、ウェアラブルデバイスのヒンジ部やカメラモジュール内部
  • 車載機器:ディスプレイ、センサー、バッテリー監視システム
  • その他:医療機器、ハードディスクドライブ(HDD)のアーム部、プリンターのヘッドなど

 FPCは、配線として使われるだけでなく、直接電子部品を実装(搭載)してフレキシブルな回路基板としても利用されています。

フレキシブル基板(FPC)とは、ポリイミドなどの柔軟なフィルムを基材とし、曲げたり折り曲げたりできる回路基板です。電子機器の小型・薄型化や、可動部での配線接続を可能にし、省スペース化に不可欠な技術です。

FPCで微細化が必要な理由は何か

 FPC(フレキシブル基板)で微細化が必要な理由は、主に電子機器の小型・薄型化、高機能化、および高速信号伝送への対応という、市場からの強い要求に応えるためです。


FPC微細化が必要な3つの理由

1. 機器の小型化・高密度実装の実現

  • 小型・薄型化: スマートフォン、ウェアラブルデバイス、医療機器など、現代の電子機器は常により小さく、より薄くなることが求められています。
  • 高密度実装: FPCの配線幅を微細化することで、同じ面積により多くの回路パターンを詰め込むことが可能になります。これにより、小さなスペースに多くの電子部品(ICチップ、コネクタなど)を実装でき、機器全体の小型化に直結します。

2. 高機能化への対応

  • 部品点数の増加: 高機能化に伴い、機器内部で処理する信号の種類や数が増え、搭載しなければならないICやセンサーの数が増加しています。
  • 配線経路の確保: 微細化されたFPCは、これらの増えた部品間の接続配線(インターコネクト)を、限られた内部空間で効率的かつ複雑に引き回す経路を確保するために不可欠です。

3. 高速・大容量通信への対応

  • 信号伝送品質の向上: 5G/6G時代の高速通信や、高性能プロセッサ間の大容量データ伝送では、信号の遅延やノイズ(伝送損失)を極限まで抑える必要があります。
  • 配線特性の改善: 微細配線技術(特にMSAPなどで形成される矩形断面)は、配線インピーダンスを安定させ、高速信号の品質を維持するために重要です。配線が太すぎると、信号の伝送特性に悪影響を与えることがあります。

 FPCの微細化は、「軽く、薄く、曲がる」というFPC本来の利点(省スペース性)を最大限に活かしつつ、現代の電子機器に不可欠な「高密度・高速処理」を実現するための土台となる技術なのです。

FPCの微細化は、スマートフォンやウェアラブル機器小型・薄型化に必須です。また、高密度な電子部品の実装を可能にし、高速・大容量信号の伝送品質を確保することで、機器の高機能化を支えるため必要とされます。

どうやってこれまでよりも微細化したのか

 太洋テクノレックスがフレキシブル基板(FPC)で0.03mm(30μm)という微細配線を実現できた最大の要因は、従来の主流であったサブトラクティブ法(エッチング法)から、MSAP(Modified Semi Additive Process:修正セミアディティブ法)へと製造技術を転換・高度化したことにあります。

 この技術転換により、微細配線を阻害していた従来の課題を克服し、高精度な回路形成を可能にしました。


従来の工法(サブトラクティブ法)との違い

 微細化を難しくしていた従来のサブトラクティブ法(エッチングで銅を削る方法)と、微細化を可能にしたMSAP法の根本的な違いは以下の点です。

特徴従来のサブトラクティブ法MSAP(修正セミアディティブ法)
回路形成の原理厚い銅箔から不要な部分を化学的に溶解(エッチング)して削り取る。薄いシード層の上に電気メッキで銅を析出・積層させて回路を形成する。
微細化の限界エッチング時に銅の側面も削られ(アンダーカット)、細線化に限界があった。メッキで配線を積み上げるため、アンダーカットが少なく、高精度なパターン形成が可能。
配線断面形状台形になりやすく、配線幅が不安定になりやすい。矩形(四角形)に近く、均一で安定した配線幅(30μm)を実現しやすい。
配線抵抗・高周波特性断面が細くなり抵抗が大きくなりやすい。矩形断面により、伝送損失を低減し高周波特性に優れる

微細化を可能にした核心技術

  1. 電気メッキによる析出制御:MSAP法では、配線をメッキで積層させるため、エッチング液の浸透による側面削れ(アンダーカット)の懸念が大幅に減少します。これにより、露光で設定したパターン形状を、より忠実に、30μmという狭い幅で実現できるようになりました。
  2. 高精度な露光技術:微細な回路パターンをレジスト上に正確に描画するための高精細な露光装置とプロセスの採用・開発が必須です。この技術により、30μmという極小のパターンを開口部に正確に形成できます。
  3. 薄いシード層の採用とフラッシュエッチング:配線となる銅メッキを形成した後、配線間に残った非常に薄いシード層だけを、瞬間的に(フラッシュ)溶解除去することで、微細な回路を傷つけることなく、電気的な分離(絶縁)を完璧に行います。

 太洋テクノレックスは、これらの技術を組み合わせることで、フレキシブル基板という素材の特性(柔軟性)を保ちながら、高密度な電子部品の実装に必要な超細線高密度FPCの製造を可能にしました。

これまでよりも微細化(0.03mm)できたのは、従来のエッチング法に代わり、MSAP(修正セミアディティブ法)を導入したためです。これは、高精度な露光技術と電気メッキで配線を積層することで、エッチングによる側面の削れ(アンダーカット)を防ぎ、高密度で均一な細線を実現しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました