X-FABによるGaN-on-Si技術 GaN-on-Siとは何か?単体のGaNとの違いは何か?

この記事で分かること

  • GaN-on-Siとは:窒化ガリウム(GaN)をシリコン(Si)基板上に成長させた構造です。安価なSi基板を利用することで、EVや急速充電器などのパワー半導体の高性能化とコストダウンを両立させます。
  • GaNの成膜方法:窒化ガリウム(GaN)は、主にMOCVD法(有機金属化学気相成長法)で成長させます。ガリウムとアンモニアのガスを使い、高温の基板上で化学反応により結晶を堆積させます。GaN-on-Siでは、Siとの不整合を緩和するバッファ層が重要です。
  • 単体のGaNとの違い:製造コストの削減が可能な反面、Siとの格子不整合による結晶欠陥の多さと、熱伝導率の低いバッファ層があるための放熱性の低さが問題点です。

X-FABによるGaN-on-Si技術

 X-FABは、GaN-on-Si技術を同社のファウンドリサービスに追加しました。これは、特にワイドバンドギャップ(WBG)半導体ソリューションにおける提供範囲を拡大するものです。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/07/news079.html

 この動きは、X-FABがピュアプレイ・ファウンドリとして、SiC (炭化ケイ素) に続くGaNという主要なワイドバンドギャップ材料にも対応することで、多様な顧客ニーズに応え、パワー半導体市場での存在感を高める戦略的な一歩と言えます。

GaN-on-Siとは何か

 はGaN-on-Si(ジーエーエヌ・オン・エスアイ、シリコン基板上の窒化ガリウム)は、次世代のパワー半導体や高周波デバイスを実現するための重要な技術プラットフォームです。


 GaN-on-Siは、パワー半導体材料として非常に優れた特性を持つ窒化ガリウム(GaN: Gallium Nitride)の結晶を、安価で大口径化が容易なシリコン(Si)基板の上に成長させた構造を指します。

 従来のシリコン(Si)半導体の製造インフラ(特に8インチや12インチの大口径ウェーハ)を活用しながら、GaNの持つ優れた電気的特性を引き出すことを可能にします。

  • GaN(窒化ガリウム): SiやSiC(炭化ケイ素)と並ぶワイドバンドギャップ(WBG)半導体の一種です。広いバンドギャップ、高い絶縁破壊電界強度、高い電子移動度を持ち、高耐圧・高速スイッチング・低電力損失といった特性に優れています。
  • Si(シリコン): 従来の半導体の主流材料であり、成熟した製造技術と低コストが特徴です。

GaN-on-Siの主な特徴とメリット

 GaN-on-Siは、Si基板というコスト面での利点と、GaNの優れた性能を組み合わせることで、特に電力変換効率が求められる分野で大きなメリットを提供します。

特徴詳細技術的な効果
高速スイッチングGaNは電子移動度が高く、またデバイスの寄生容量が小さいため、シリコンに比べて遥かに速いスイッチング動作が可能です。スイッチング損失(電力損失)が低減し、電力変換効率が向上します。
小型・軽量化高速スイッチングにより、電源回路で使われるコイルやコンデンサなどの受動部品を小型化できます。また、発熱が少ないため放熱部品(ヒートシンク)も小さくできます。ACアダプタ、電源装置、インバータなどの製品全体の小型化・軽量化に貢献します。
低コストGaN-on-Siは、高価なGaN単結晶基板やSiC基板を使う構造(GaN-on-GaNやGaN-on-SiCなど)と比べ、安価で大口径のSi基板を利用できるため、製造コストを低く抑えることができます。製品への採用の敷居が下がり、普及を後押しします。
高耐圧・低損失Siに比べて高い絶縁破壊電界強度を持つため、高電圧に耐えつつ、導通時の抵抗(オン抵抗)を極めて低くできます。電力損失を大幅に削減し、システムのエネルギー効率を飛躍的に向上させます。

主な応用分野

 GaN-on-Siデバイスは、主に数百ボルト(V)クラスの中〜低電力領域で、高速かつ高効率が求められる用途で活用が広がっています。

  • 急速充電器・ACアダプタ: スマートフォンやノートPC向けの高出力・小型の充電器。
  • データセンター・サーバー電源: サーバーの電源ユニットの電力効率向上と小型化。
  • 車載用電源: 電気自動車(EV)の車載充電器(OBC)やDC-DCコンバータの一部。
  • 産業用電源: UPS(無停電電源装置)や産業機器の電源。

 GaN-on-Siは、高周波特性に優れる「横型GaN」の構造を取ることが多く、650V程度の耐圧の製品が主流ですが、今後さらなる高耐圧化も期待されています。

GaN-on-Siは、窒化ガリウム(GaN)をシリコン(Si)基板上に成長させた構造です。高耐圧・高速スイッチング・低損失を実現し、安価なSi基板を利用することで、EVや急速充電器などのパワー半導体の高性能化とコストダウンを両立させます。

どうやって窒化ガリウムを成長させるのか

 窒化ガリウム(GaN)の結晶を成長させる主な方法は、その用途(基板か薄膜か)や求める品質によって異なりますが、半導体デバイス、特にGaN-on-Si(シリコン基板上のGaN)の製造で最も一般的に使われるのはMOCVD法(有機金属化学気相成長法)です。


GaNを成長させる主要な技術

 GaNの結晶成長技術は大きく分けて、薄膜成長(デバイス層の形成)とバルク成長(GaN基板自体の製造)があり、それぞれ異なる手法が用いられます。

1. MOCVD法(有機金属化学気相成長法)

 GaN半導体デバイスの薄膜(トランジスタなどの機能層)を形成する上で、最も広く普及し、成熟した技術です。

  • 原理: トリメチルガリウム(TMGa)などの有機ガリウム化合物と、アンモニア(NH3)を原料ガスとして使用します。これらを高温(約 1000℃ )に加熱した基板(Si、サファイア、SiCなど)の表面に送り込み、化学反応によってGaNの結晶を堆積(成長)させます。
  • 特徴:
    • 薄膜の品質: 結晶の品質(欠陥密度、不純物制御)と膜厚の均一性に優れており、デバイス作製に不可欠です。
    • 制御性: 膜厚やドーピング濃度(不純物の添加)を原子層レベルで高精度に制御できます。
    • GaN-on-Siでの役割: シリコン基板とGaNとの間の格子定数熱膨張係数の大きな違いを緩和するためのバッファ層(中間層)の成長にも必須の技術です。

2. HVPE法(ハイドライド気相成長法)

 厚いGaN層大型のGaN単結晶基板を製造するために用いられます。

  • 原理:塩化ガリウム(GaCl)アンモニア(NH3)を原料とし、高温の反応炉内で反応させてGaNを成長させます。
  • 特徴:
    • 成長速度: MOCVDに比べて非常に速い成長速度(100μm/h以上)を実現できます。
    • 用途: 高速成長を活かし、サファイアやSiCなどの異種基板上に厚いGaN層を成長させた後、剥離して自立型GaN基板を作る用途に主に使われます。

GaN-on-Si特有の課題と解決策

 GaNをシリコン(Si)基板の上に成長させる(GaN-on-Si)際には、克服すべき大きな課題があります。

課題:格子不整合と熱膨張係数の差

 GaNとSiは、結晶の格子定数(原子の並びの間隔)と熱膨張係数(温度変化による伸び縮みの度合い)が大きく異なります。

  1. 格子不整合: 結晶構造が大きく違うため、GaNを直接Si上に成長させると、結晶に多くの欠陥(転位)が発生し、デバイス性能を劣化させます。
  2. 熱膨張係数の差: 成長時の高温(約 1000℃)から室温に戻る冷却過程で、SiとGaNの収縮率の違いにより、GaN層に大きな引張応力がかかり、クラック(ひび割れ)が発生しやすくなります。

解決策:バッファ層の活用

 この問題を解決するために、MOCVD法を用いて、Si基板とGaN層の間にいくつかの中間層(バッファ層)を挟みます。

  • 目的: 結晶の不整合と熱応力を段階的に緩和し、クラックの発生を防ぎつつ、GaN層の結晶性を高めます。
  • 材料の例: AlN(窒化アルミニウム)AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)などが、バッファ層としてよく用いられます。これらの層の組成を調整することで、SiからGaNへの構造的な変化を段階的に繋いでいます。

 このバッファ層技術とMOCVD法の組み合わせが、GaN-on-Siパワー半導体の量産を実現する鍵となっています。

窒化ガリウム(GaN)は、主にMOCVD法(有機金属化学気相成長法)で成長させます。ガリウムとアンモニアのガスを使い、高温の基板上で化学反応により結晶を堆積させます。GaN-on-Siでは、Siとの不整合を緩和するバッファ層が重要です。

窒化ガリウム単体と比較した際のデメリットは何か

 GaN-on-Si(シリコン基板上の窒化ガリウム)は、GaN単体(GaN基板上に成長させたGaN、通称GaN-on-GaN)と比較すると、主に結晶の品質放熱性能においてデメリットがあります。

GaN-on-Siは、安価なSi基板を利用できるという最大のメリットと引き換えに、以下の課題を抱えます。

1. 結晶の欠陥密度が高い

 GaN-on-Siデバイスでは、性能を決定づけるGaN層の品質が、GaN単体(GaN-on-GaN)に比べて劣ります。

  • 格子不整合: GaNとSiは、結晶構造の格子定数(原子の並びの間隔)が大きく異なります(約17%)。
  • 影響: この大きな不整合を緩和するために中間層(バッファ層)を用いますが、完全に解消することはできず、GaN層に貫通転位と呼ばれる結晶欠陥が多数発生します。
  • 結果: この欠陥は、デバイスの電流リークを増やしたり、高温・高電圧環境下での信頼性や寿命に悪影響を及ぼしたりする原因となります。GaN-on-GaNは、この欠陥が極めて少ない(100倍以上少ない)高品質な結晶を実現できます。

2. 熱伝導率が低い

 GaN-on-Siでは、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)が問題となる場合があります。

  • Si基板の熱伝導率: Si自体の熱伝導率は悪くありませんが、熱伝導率の低いバッファ層がGaN層とSi基板の間に存在します。
  • 影響: デバイスで発生した熱が効率よく外部に逃げにくくなるため、高電力密度での動作大電流・大電圧を扱う用途では、自己発熱による性能低下(電流コラプスなど)や信頼性確保が難しくなる場合があります。
  • 比較: GaN単体(GaN-on-GaN)は、GaN基板自体が比較的高い熱伝導率を持ち、さらにバッファ層がないため、放熱性能に優れています

3. 耐圧性能の限界(横型構造が一般的)

 GaN-on-Siのほとんどは、電気が基板に対して横方向に流れる横型構造を採用しています。

  • 課題: 横型構造では、高耐圧化と低オン抵抗化を両立させることが難しく、一般的に650V級までの電圧帯が主流です。
  • 比較: GaN-on-GaNは、電気が基板に対して縦方向に流れる縦型構造が可能で、理論的には10kVを超える超高耐圧デバイスの実現が期待されています。

まとめ(コストとのトレードオフ)

特徴GaN-on-Si(シリコン基板上)GaN単体(GaN-on-GaN)
最大の強み製造コストが安い(Si基板が安価)高性能・高信頼性(結晶品質が高い)
結晶品質欠陥密度が高い極めて高い(低欠陥)
熱放散バッファ層のため熱が逃げにくい優れている(基板の熱伝導率が良い)
耐圧・構造650V級までが主流(横型)超高耐圧が可能(縦型)

 GaN-on-Siは、これらのデメリットを許容できる650V級以下の中・低電力用途(充電器、サーバー電源など)で、低コスト量産性という最大の強みを発揮します。

最大のデメリットは、Siとの格子不整合による結晶欠陥の多さと、熱伝導率の低いバッファ層があるための放熱性の低さです。これにより、高信頼性や高電力密度の実現が難しくなります。

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