この記事で分かること
- 強化ガラスとは:通常の板ガラスに熱処理(または化学処理)を施し、強度を通常の3〜5倍に高め、安全性を向上させたガラスです。
- 熱処理で強度が向上する理由:ガラス表面が先に固まり、後から収縮する中心部に引っ張られて表面に強い圧縮応力が発生します。この圧縮応力が、ガラス表面の傷から生じる破壊的な力を打ち消すため、強度が強くなります。
強化ガラス
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回は網入りガラスに関する記事でしたが、今回は強化ガラスとは何かに関する記事となります。
強化ガラスとは何か
強化ガラス(Tempered Glass)とは、通常の板ガラスに熱処理や化学処理を施し、以下のように強度を高め、安全性を向上させたガラスのことです。
1. 高い強度
一般的なフロートガラス(通常の板ガラス)に比べ、3倍から5倍の耐風圧強度や耐衝撃強度を持っています。これは、加工によってガラス表面に強い圧縮応力、そして中心部に引っ張り応力を発生させることで実現されています。
2. 安全性(割れ方)
最大の安全性は、割れたときの状態にあります。
- 通常のガラスは、鋭利な大きな破片になって危険ですが、強化ガラスは衝撃などで割れると、瞬時に全体が粉々に砕け散り、角のない小さな粒状になります。
- これにより、破片による深刻な怪我のリスクを大幅に減らすことができます。
3. 耐熱性
通常のガラスよりも熱衝撃(急激な温度変化)に強く、約200℃の温度変化に耐えることができます。
製造方法(熱処理強化法が一般的)
強化ガラスは、主に熱処理強化法(風冷強化法)によって作られます。
- 加熱: 板ガラスを約650℃~700℃の軟化点近くまで均一に加熱します。
- 急冷: 加熱されたガラスの表面全体に、冷たい空気を吹き付けて急激に冷却します。
- 応力発生: 表面だけが急激に冷えて固まる(収縮する)のに対し、中心部はまだ高温で軟らかいままです。その後、中心部が冷えて固まろうとすると、すでに固まっている表面が引っ張られ、結果としてガラスの表面に強い圧縮応力が発生します。この圧縮応力が、ガラスの強度を高める源となります。
ただし、強化加工を施した後は、切断、穴あけ、縁削りなどの加工は一切できません。 加工しようとすると、応力のバランスが崩れて瞬時に粉々になってしまいます。そのため、すべての加工は強化処理の前に行われます。
主な用途
安全性が求められる場所や、風圧に耐える必要がある場所で使われます。
- 建築: ショーケース、店舗の入り口ドア、学校・病院などの窓ガラス、手すりのパネル。
- 車両: 自動車のサイドガラスやリアガラス(フロントガラスは合わせガラスが使われます)。
- 家庭: ガラス製のテーブルトップ、シャワールームの扉、電子レンジやオーブンのガラス部品。

強化ガラスは、通常の板ガラスに熱処理(または化学処理)を施し、強度を通常の3〜5倍に高め、安全性を向上させたガラスです。最大の特性は、割れた際に鋭利な破片ではなく、角のない小さな粒状になるため、破片による怪我のリスクを大幅に減らせる点です。
なぜ熱処理で強度が強くなるのか
熱処理によってガラスの強度が強くなる最大の理由は、ガラスの表面に圧縮応力(ちぢめようとする力)を人工的に発生させることにあります。
この圧縮応力の「バリア」が、外部からの衝撃や曲げようとする力(引張応力)を打ち消すことで、通常のガラスよりも高い強度(約3〜5倍)を発揮します。
強度が向上するメカニズム
熱処理強化ガラス(物理強化ガラス)は、以下の手順でこの応力構造を作り出します。
1. 加熱と急冷による応力の発生
- 加熱: 通常のガラス(フロートガラス)を、約650℃〜700℃の軟化点近くまで均一に加熱します。この温度ではガラスの内部応力は解消されます。
- 急冷(風冷): 加熱後、すぐにガラスの表面全体に冷たい空気を均一に吹き付けて急激に冷却します。
- 表面の固化: 表面は急激に冷やされてすぐに固まります(収縮して固定されます)。一方、ガラスの中心部はまだ高温で軟らかいままです。
- 内部の収縮と応力: その後、遅れて中心部が冷え始めて収縮しようとしますが、すでに固まって動かない表面に引っ張られます。この引っ張られる力への反作用として、ガラスの表面には強力な圧縮応力が、そして内部には引張応力が発生します。
2. 圧縮応力によるバリア効果
ガラスが割れる原因のほとんどは、表面に生じたわずかな傷(マイクロクラック)が、外部からの衝撃やたわみによる引張応力で引き伸ばされ、拡大することです。
これにより、表面の傷が拡大してガラス全体が破壊されるのを防ぐため、通常のガラスよりもはるかに割れにくくなるのです。
しかし、強化ガラスの表面にはあらかじめ強い圧縮応力がかかっています。
外部から衝撃が加わり、その部分に引張応力が発生しても、元からある強い圧縮応力がその引張応力を相殺(キャンセル)します。

熱処理で急冷すると、ガラス表面が先に固まり、後から収縮する中心部に引っ張られて表面に強い圧縮応力が発生します。この圧縮応力が、ガラス表面の傷から生じる破壊的な力を打ち消すため、強度が強くなります。
なぜ割れたときに角のない小さな粒状になるのか
強化ガラスが割れたときに全体が粉々に砕け散り、角のない小さな粒状になるのは、ガラス内部に蓄えられた強い応力が一気に解放されるためです。
粉々に砕け散るメカニズム
強化ガラスは、製造過程で表面に強い圧縮応力、そして中心部に強い引張応力という、互いに引っ張り合う大きな力(内部応力)を人工的に閉じ込めています。
- 破壊の開始: ガラスの表面の圧縮応力を上回るほどの強い衝撃(またはエッジ部分の傷など)が加わると、その一点でガラスの応力バランスが崩れて破壊が開始します。
- 引張応力の解放: 表面の圧縮応力が破られると、中心部に閉じ込められていた非常に強い引張応力(引っ張って広げようとする力)が、瞬時に解放されます。
- 高速な破壊の伝播: この解放されたエネルギーは、ガラス全体を非常に速いスピードで内部から引き裂いていきます。この破壊の伝播速度は、通常のガラスよりもはるかに速いです。
- 微細な破片の生成: 破壊のスピードが速すぎるため、破壊の際に生じるガラスの破断面に均一な力が加わりません。その結果、ガラスは大きな破片になる暇もなく、鋭いエッジを持つ大きな亀裂を形成することなく、小さな、応力が緩和された粒状に細かく砕け散るのです。
この現象は、あたかも圧縮されていたバネが一瞬で弾けるようなもので、エネルギーが全体に均等に分散される結果、安全な粒状の破片になります。これが、強化ガラスが「安全ガラス」と呼ばれる最大の理由です。

割れると、内部に閉じ込められた強い引張応力が一気に解放されます。このエネルギーがガラス全体を非常に速い速度で引き裂くため、ガラスは大きな破片になる暇もなく、角のない小さな粒状に粉砕されるのです。

コメント