Western Digitalの増収増益 好調の理由は何か?熱アシスト磁気記録技術とは何か?

この記事で分かること

  • Western Digitalの特徴:世界的なデータストレージデバイス企業です。かつてはHDDとフラッシュメモリ(SanDisk)の両方を手掛けていましたが、2025年2月に分社化し、現在はHDD事業に特化しています。
  • 好調の理由:AIとクラウドによるデータセンター向け大容量HDDの需要急増です。WDは高容量ドライブに注力し、供給制約下での価格改善と出荷エクサバイトの増加により、収益と利益率が大幅に向上しました。
  • 熱アシスト磁気記録技術とは:レーザー光で記録媒体を一時的に加熱し、保磁力を下げてからデータを書き込む技術です。これにより高保磁力材料の使用が可能になり、HDDの記録密度を飛躍的な向上を実現します。

Western Digitalの増収増益

 HDD大手Western Digital(WD)は、直近の四半期決算において前期比で増収増益を達成しました。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/10/news038.html

 最新の2026年度第1四半期(2025年10月3日まで)の業績は2四半期連続で前期(2025年度第4四半期)を上回る増収増益となりました。また2026年度第2四半期(次四半期)の見通しについても、さらに増収を見込んでおり、需要の強い環境が続くとされています。

Western Digitalはどんな企業か

 WD、ことWestern Digital Corporation(ウエスタンデジタル)は、世界をリードするデータストレージデバイスとソリューションを提供するアメリカの企業です。

 長年にわたり、データの取得、保存、アクセス、変換といったデータサイクル全体を支える技術革新を行ってきた企業として知られています。


企業概要と主な事業

 WDの事業は、主に以下の2つの領域で構成されていますが、現在は分社化のプロセスを完了し、それぞれの事業に特化した企業に分かれています。

1. ハードディスクドライブ (HDD) 事業

  • 製品: HDD(ハードディスクドライブ)は、回転するディスクに磁気でデータを記録する大容量ストレージです。
  • 用途:
    • データセンター/クラウド: 特に、AIやビッグデータに対応するための大容量ニアラインドライブで高いシェアを持ち、増収増益の牽引役となっています。
    • コンシューマー向け: PCの内蔵ドライブや外付けドライブとしても知られています(例: WD Blue, WD Blackなど)。

2. フラッシュメモリ (NAND/SSD) 事業

  • 製品: SSD(ソリッドステートドライブ)、USBフラッシュドライブ、SDカード、組み込み用フラッシュメモリなど。
  • ブランド: 2016年に買収したSanDisk(サンディスク)やG-Technologyといったブランドを通じて展開されてきました。
  • 特徴: キオクシアホールディングスと提携し、世界最先端のNAND型フラッシュメモリの開発・生産を日本(四日市・北上)で共同で行っています。

重要なトピック:分社化

 WDは、HDD事業とフラッシュメモリ事業を分離し、それぞれを独立した上場企業とする分社化(スピンオフ)を計画し、2025年2月に完了しました。

  • 旧WD(Western Digital Corporation): HDD事業に特化します。
  • 新会社(SanDisk Corporation): SSDを含むフラッシュメモリ事業を移管し、Sandiskとして再独立しました。

 この分社化の主な目的は、技術や市場特性が大きく異なる両事業が、それぞれ独自の戦略で効率的な運営を行い、それぞれの市場におけるリーダーシップを強化することです。

 WDは、HDDとフラッシュメモリという、データストレージの根幹を成す両技術を提供できる数少ない企業でしたが、分社化により、今後はそれぞれの専門性を活かした競争を進めることになります。

Western Digital(WD)は、世界的なデータストレージデバイス企業です。かつてはHDDとフラッシュメモリ(SanDisk)の両方を手掛けていましたが、2025年2月に分社化し、現在はHDD事業に特化しています。主にデータセンター向け大容量ドライブに強みを持っています。

好調の理由は何か

 WDが2四半期連続で前期比の増収増益を達成した最大の理由は、データセンター市場における大容量ストレージソリューションに対する旺盛な需要の継続です。特に以下の3点が好調の主な要因として挙げられます。


1. クラウドとAIによるデータ需要の急増

  • データ生成の加速: AI(人工知能)の普及と、クラウドサービス全体の利用拡大により、保存すべきデータ量が指数関数的に増加しています。
  • データセンターの投資: クラウドプロバイダーやハイパースケーラー(大規模データセンター事業者)が、この爆発的なデータ増に対応するため、大容量のニアラインHDDへの投資を積極的に行っています。
  • 売上構成: 最新の決算では、クラウド部門からの収益が総収益の約89%を占めており、これが成長の主要な原動力となっています。

2. 大容量ドライブへの戦略的注力

  • WDは、HDD事業の収益性が高い大容量ドライブ(特に20TB以上)の出荷に注力しています。
  • 技術的な優位性: HAMR(熱アシスト磁気記録)技術などの次世代技術を導入することで、競合他社に対する製品競争力を高めています。
  • 出荷エクサバイトの増加: 四半期に出荷したデータの総量(エクサバイト)が前年同期比で23%増加するなど、出荷量の増加が収益に直結しています。

3. 供給制約と価格改善

  • 市場全体でHDDの供給制約が続いている中、WDは戦略的な製品ミックスと顧客交渉により、製品の平均販売価格(ASP)を改善することができました。
  • 粗利益率の向上: 売上高の増加に加えて、この価格改善と効率的な操業により、非GAAPベースの粗利益率も大幅に改善し、利益の伸びを後押ししています。

 これらの要因は、WDが分社化(フラッシュ事業の分離)を行い、HDD事業に経営資源を集中させた後の戦略が功を奏していることを示しています。

好調の主因は、AIとクラウドによるデータセンター向け大容量HDDの需要急増です。WDは高容量ドライブに注力し、供給制約下での価格改善と出荷エクサバイトの増加により、収益と利益率が大幅に向上しました。

熱アシスト磁気記録技術とは何か

 熱アシスト磁気記録技術(HAMR:Heat-Assisted Magnetic Recording)は、HDDの記録容量を飛躍的に高めるために開発された次世代の書き込み技術です。

 これは、従来のHDDの記録密度(面密度)の限界を突破するために、「熱」の力を利用するのが特徴です。


HAMRの仕組み

 HDDの記録密度を上げるには、データを記録する磁性粒子をより小さくする必要があります。しかし、単に粒子を小さくすると、室温で磁気が不安定になり、データが自然に消えてしまう現象(熱揺らぎ)が発生します。

 これを防ぐには、高い保磁力(磁化の状態を保つ力)を持つ材料を使わなければなりませんが、保磁力が高すぎると、HDDの書き込みヘッドの磁力だけではデータを書き込むことができません。

H AMRはこのジレンマを解決します。

  1. 高保磁力媒体の採用: 熱揺らぎを防ぐため、非常に高い保磁力を持つ特殊な磁気記録媒体(プラッタ)を使用します。
  2. レーザー光による加熱: データを書き込む直前、ごく微小なスポットレーザー光を当てて、記録媒体の温度を一時的にキュリー温度近くまで上昇させます。
  3. 保磁力の一時的な低下: 磁性体は温度が上がると保磁力が低下する性質(熱磁気効果)があります。これにより、通常では書き込めない高保磁力媒体を、書き込みヘッドの磁力で容易に磁化反転(データの書き込み)できるようになります。
  4. 冷却と固定: 書き込みが終わると媒体はすぐに冷却され、元の高い保磁力に戻るため、データは熱揺らぎの心配なく安定して保持されます。

WDとHAMR

  • ライバルであるSeagateはHAMRを主力として実用化を進めていますが、Western Digital(WD)はこれまで、MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録技術)を主力技術として採用し、製品化してきました。
  • しかし、WDも次世代のさらなる大容量化(50TB以上)に向けて、HAMRの活用を計画しており、将来的には両技術の組み合わせや、用途による使い分けが進む可能性があります。

 この技術により、HDDは将来的に100TBを超える容量も視野に入ってきており、AI時代の大規模データセンターのニーズに応える鍵となっています。

熱アシスト磁気記録(HAMR)は、レーザー光で記録媒体を一時的に加熱し、保磁力を下げてからデータを書き込む技術です。これにより高保磁力材料の使用が可能になり、HDDの記録密度を飛躍的に向上させ、大容量化を実現します。

熱アシストは機器の発熱の要因にはならないのか

 HAMR技術におけるレーザー加熱は、HDD全体の発熱の主要な要因にはなりません。その理由は、レーザー加熱がごく微小な範囲に、ごく短時間(ナノ秒単位)のみ行われるためです。


🔬 レーザー加熱と発熱の影響

1. 限定的な加熱範囲と時間

  • 局所的な加熱: レーザーは、実際にデータを書き込む記録ビットのみをピンポイントで加熱します。ディスク全体の温度を上げるわけではありません。
  • 瞬間的な動作: 加熱時間は、ヘッドが記録媒体上を通過する数ナノ秒(10億分の数秒)という極めて短い瞬間です。
  • 急速な冷却: 加熱されたスポットは、書き込みが完了するとすぐに周囲の磁性体やプラッタによって冷却され、瞬時に元の温度に戻ります。

2. 消費電力と全体の発熱

  • 低出力レーザー: 書き込みに必要な温度上昇は数百度ですが、そのためのレーザーの出力は非常に低く抑えられています。
  • 消費電力への影響: HAMRに必要なレーザーや制御機構の電力消費は、HDD全体の総消費電力に対してはわずかな増加にとどまります。例えば、現在のエンタープライズ向けHDDの消費電力は通常10W~20W程度ですが、HAMRの追加による増加は数ワット以下です。
  • 冷却設計: データセンターで使用されるHDDは、元々高い回転速度や複数のプラッタによる熱が発生するため、適切な冷却設計が施されています。HAMRによる熱は、この既存の冷却システムで十分に管理可能です。

 HAMRは記録容量の向上という大きなメリットをもたらす一方で、機器の動作に影響を及ぼすような過度な発熱を引き起こす心配はないとされています。

HAMRによるレーザー加熱は、極めて微小な範囲ナノ秒単位で行われ、すぐに冷却されるため、HDD全体の主要な発熱要因にはなりません。消費電力への影響も小さく、既存の冷却システムで管理可能です。

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