この記事で分かること
- 加速度センサー:加速度センサーは、慣性力を利用して物体の加速度を測定するデバイスです。内部の錘が動く変位を電気信号(主に静電容量の変化)に変換し、傾きや衝撃の検知にも使われます。
- 変異を電気信号に変える方法:変位は、主にセンサー内部の電極間距離の変化として捉えられます。この距離変化により静電容量(C) が変化するのを回路で測定したり、部材の歪みによる電気抵抗の変化として捉え、電圧信号に変換します。
- 直接接合の利用方法:可動部の保護のため、MEMS検出素子をガラスやシリコンのカバーウェハで気密封止する際に直接接合が使われます。また、検出部とCMOS回路の積層にも利用され、小型化と高性能化に貢献しています。
加速度センサー
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はMEMSデバイスに関する記事でしたが、今回はMEMSデバイスの加速度センサーに関する記事となります。
加速度センサーとは何か
加速度センサー(Accelerometer)は、物体の加速度を計測するためのデバイスです。加速度とは、単位時間あたりの速度の変化率のことで、自動車や電車が加速・減速するとき、または方向転換するときに発生する「動きの変化」を検出します。
基本原理
加速度センサーは、慣性の法則を利用して加速度を測定します。
- 錘(おもり)の設置: センサーの内部には、錘(マス)がばねによって支えられた構造があります。
- 慣性力の発生: センサー全体に加速度(a)が加わると、慣性の法則により錘には加速度と反対方向に慣性力(F = m × a)がかかります。
- 変位の検出: この力によって錘が変位(移動)します。この微小な変位の量を電気信号として測定することで、加速度を算出します。
主流な方式と用途
現在のスマートフォンやIoT機器に使われている小型の加速度センサーのほとんどは、MEMS(微小電気機械システム)技術を用いて製造されています。
| 特徴 | 詳細 |
| 重力の検出 | 地球上にある物体には常に重力加速度(約 9.8 m/s2)がかかっているため、このセンサーは傾きや姿勢の検知にも使われます。 |
| 検出方式 | 最も一般的で高精度なのは、錘の変位による電極間の静電容量の変化を検出する静電容量型です。 |
| 主な用途 | スマートフォンでの画面の自動回転、ゲームコントローラーの動き検出、自動車のエアバッグの衝突検知、建物の振動・傾斜測定など、非常に幅広い分野で活用されています。 |
加速度センサーは物体が「どのように動いているか(加速、減速、傾き、振動)」を感知する慣性センサーの一種です。

加速度センサーは、慣性力を利用して物体の加速度を測定するデバイスです。内部の錘が動く変位を電気信号(主に静電容量の変化)に変換し、傾きや衝撃の検知にも使われます。
加速度センサーはどのような構造なのか
スマートフォンや自動車などに広く使われているMEMS(微小電気機械システム)静電容量型加速度センサーの基本的な構造は、主に3つの物理要素と電子回路から成り立っています。
1. 検出素子部(機械構造)
加速度を物理的な変位に変換する核となる部分です。シリコンなどのウェハに微細加工(マイクロマシニング)で形成されます。
- 錘(おもり / Proof Mass, m)
- 役割: 慣性力を受け、加速度に応じて変位する質量体です。
- 構造: センサーの中心に配置される比較的大きな構造体で、この質量が大きいほど、より大きな慣性力が働き、感度が高くなります。
- ばね(Springs / Flexible Elements, k)
- 役割: 錘を所定の位置に保持し、変位した錘を元に戻そうとする復元力を提供します。
- 構造: 錘を支える細い梁(はり)や、くねくねした形状(サーペンタインスプリング)の構造体で、その硬さ(ばね定数 k)がセンサーの測定レンジや応答性を決定します。
- 電極(Electrodes)
- 役割: 錘の変位を静電容量の変化として捉えるための電極です。
- 構造: 錘に固定された可動電極と、基板に固定された固定電極が櫛歯状(コームドライブ型)に組み合わされています。加速度により錘が動くと、電極間の距離が変化し、静電容量が変化します。
2. 信号処理回路(ASIC/IC)
検出部で生じた微小な静電容量の変化を計測・処理する電子回路です。
- 役割: 検出電極の微細な容量変化を読み取り、ノイズを除去して増幅し、加速度に比例したデジタル信号(またはアナログ電圧)に変換します。
- 集積: MEMS構造体とこの信号処理回路(ASIC)は、ウェハ直接接合などの技術を用いて、一つのチップに一体化されています。
3. パッケージ(気密封止)
- 役割: 検出部の微細な構造を、湿気、塵埃、および外部からの衝撃から保護し、性能の安定性を保ちます。
- 構造: 検出素子部は、別のウェハ(シリコンまたはガラス)を直接接合することで、内部を真空または特定のガス環境で気密封止されています。
この機械(MEMS)と電気(CMOS)を融合させた構造が、スマートフォンなどに搭載可能な小型で高精度な加速度センサーを実現しています。

MEMS加速度センサーは、錘(おもり)とばねの機械構造をシリコンに微細加工し、錘と一体の可動電極と固定電極で構成されます。これらをCMOS回路と直接接合で一体化し、気密封止されています。
直接接合が使用されているのか
加速度センサー、特に高性能なMEMS(微小電気機械システム)加速度センサーの製造には、ウェハの直接接合が不可欠な技術として使用されています。
直接接合の主要な用途
直接接合は、主に以下の2つの目的でMEMS加速度センサーに利用されます。
1. センシング構造の気密封止(パッケージング)
加速度センサーの中心となる微細な可動部(錘や電極)は、非常にデリケートで環境の影響を受けやすい構造です。
- 信頼性の確保: 直接接合により、これらの構造を真空または不活性ガス環境下でウェハレベルで完全に密閉(気密封止)します。
- 性能の安定化: 湿気や空気中の異物から構造体を保護し、長期的な信頼性や安定した性能を保証します。特に高精度なセンサーでは、真空封止により空気抵抗(ダンピング)を制御し、動作特性を最適化します。
2. 検出部と信号処理回路の積層
高性能な加速度センサーは、物理的な動きを捉えるMEMS構造体(検出部)と、電気信号を処理するCMOS集積回路(信号処理部)を一体化して作られます。
- 小型化と高速化: 直接接合技術を用いることで、これらの異なるウェハを高精度に積層できます。これにより、チップの小型化(フットプリントの削減)を実現し、MEMS部とCMOS部間の配線距離を最短にすることで、信号の高速化やノイズの低減に貢献します。
接着剤などの中間層を使わない直接接合は、高い接合強度と長期的な安定性を提供するため、自動車や医療機器など、高い信頼性が求められる加速度センサーにとって特に重要な技術となっています。

加速度センサーでは、可動部の保護のため、MEMS検出素子をガラスやシリコンのカバーウェハで気密封止する際に直接接合が使われます。また、検出部とCMOS回路の積層にも利用され、小型化と高性能化に貢献しています。

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