日本製鋼所の新たな研究開発拠点 どんな研究開発を行うのか?日本製鋼所のGaN開発における強みは何か?

この記事で分かること

  • 行う研究開発:主にGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体の開発に注力します。電力効率を高めるパワー半導体向けに、GaN基板製造技術などを研究し、環境負荷低減に貢献することを目指します。
  • 日本製鋼所のGaN開発の強み:超高温・超高圧に耐える大型圧力容器(オートクレーブ)を自社で設計・製造する高い技術力です。これを応用し、高品質なGaN単結晶基板を量産可能な独自の製造プロセスを確立しています。

日本製鋼所の新たな研究開発拠点

 日本製鋼所は、千葉県柏市の柏の葉キャンパスエリアに新たな研究開発拠点となる「中央研究所(仮称)」を設置すると発表しました。

 https://www.jsw.co.jp/ja/news/details/20251110102843.html

 この中央研究所は、既存事業の枠を超えた新規事業創出を主な目的としています。

日本製鋼所はどんな企業か

 株式会社日本製鋼所(にほんせいこうしょ、The Japan Steel Works, Ltd.)は、「素形材・エンジニアリング事業」と「産業機械事業」を二つの柱とする、日本の鉄鋼・機械メーカーです。


企業概要

  • 創業: 1907年(明治40年)に、兵器の国産化を目的に日本と英国の合弁事業として北海道室蘭の地で創立されました。
  • 事業の特長: 創業以来培ってきた素材技術(素形材)機械製造技術(産業機械)を組み合わせた独自のものづくりを強みとしています。
  • 経営理念:Material Revolution®』の力で、社会課題を解決し、世界を持続可能で豊かにする企業を目指しています。

主な事業セグメントと製品

 同社は、私たちの日常生活で直接目に触れる機会は少ないものの、社会インフラやものづくりの根幹を支える製品・技術を提供しています。

1. 素形材・エンジニアリング事業

 同社の原点である「鋼」の分野です。世界最大級のプレス設備などを駆使し、高度な技術で特殊な製品を製造しています。

  • 主要製品:
    • 発電用部材: 発電プラント向けの大型シャフトやタービン、原子力関連部材など。世界でも製造できる企業が限られる大型鋳鍛鋼品です。
    • クラッド鋼板: 異なる鋼種を重ね合わせた特殊な鋼板で、石油精製プラントなどで使用されます。
    • 水素蓄圧器などのエネルギー関連製品。

2. 産業機械事業

 主にプラスチック関連の製造・加工機械において、世界有数の総合樹脂機械メーカーとしての地位を確立しています。

  • 主要製品:
    • 樹脂製造・加工機械: プラスチック原料(ペレット)を製造する大型造粒機(世界で数社しか製造できない)、高機能フィルム・シート製造装置(リチウムイオン電池向けセパレータフィルム製造装置など)。
    • プラスチック射出成形機: 自動車部品や家電部品、ペットボトルなどを成形する機械。
    • エキシマレーザアニール(ELA)装置: スマートフォンやPCの高精細ディスプレイ製造に不可欠な装置。
    • 防衛関連機器: 創業以来の歴史をもち、戦車や艦艇などの火砲・ミサイル発射装置の設計・製造を行っています。

日本製鋼所は、鉄鋼の素形材・エンジニアリング事業と、プラスチック製造加工機械半導体ディスプレイ製造装置などを手掛ける産業機械事業を柱とする日本の重工業メーカーです。世界最大級の鋳鍛鋼品と高度な樹脂機械技術で、社会インフラを支えています。

どんな半導体材料を開発するのか

 日本製鋼所が新しい中央研究所で開発を強化する半導体材料として、特に注力しているのはGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体に関連する技術です。


主な開発対象:GaN(窒化ガリウム)

 GaN(窒化ガリウム)は、パワー半導体を実現するための重要な材料です。

  • パワー半導体とは?
    • 電力の変換や制御に使われる半導体で、GaNを使うことで、従来のシリコン(Si)製に比べて高効率高耐久性小型化が可能になります。
  • 開発の狙い:
    • GaNを使用したデバイスやシステムの普及により、消費電力の削減に貢献し、環境負荷の低減を目指しています。
    • 具体的には、GaN基板製造技術の研究開発が挙げられます。

開発の方向性

 中央研究所では、GaNをはじめとする金属プラスチックなどの新機能材料全般と、それらの製造プロセスに関する新技術・製品の研究開発を包括的に行う計画です。

 同社の強みである素材技術機械製造技術を組み合わせ、既存事業の枠を超えた新規事業創出を目指す中で、半導体関連技術は重点分野の一つとされています。

日本製鋼所は、主にGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体の開発に注力します。電力効率を高めるパワー半導体向けに、GaN基板製造技術などを研究し、環境負荷低減に貢献することを目指します。

窒化ガリウムに注力する理由は何か

 日本製鋼所が窒化ガリウム(GaN)に注力する最大の理由は、高効率で小型軽量次世代パワー半導体を実現し、脱炭素社会への貢献と新規事業創出を目指すためです。


GaNに注力する主な理由

 GaNは、従来のシリコン(Si)を用いた半導体と比較して、優れた物性を持つため、特に電力の変換・制御を行うパワー半導体の分野で革新をもたらすと期待されています。

1. 圧倒的な省エネルギー効果(環境負荷の低減)

  • 低損失・高効率: GaNはSiよりもオン抵抗が低く高速スイッチングが可能です。これにより、電力変換時のエネルギー損失(発熱)を大幅に削減し、電力変換効率を飛躍的に向上させることができます。
  • カーボンニュートラルへの貢献: 世界の電力需要の多くを占めるモーター駆動やデータセンターの電源などの損失を減らすことで、CO2排出量削減に大きく貢献します。

2. 製品の小型化・軽量化

  • 高周波動作: GaNは高い周波数で動作できるため、電源回路に使用されるコイルやコンデンサといった周辺部品を小型化・軽量化できます。
  • 放熱性: 熱伝導率が高いため、冷却ファンや大きなヒートシンクが不要になる場合があり、ACアダプターや電源機器のさらなるコンパクト化を実現します。

3. 新規事業創出と技術的優位性

  • 高純度基板の製造技術: GaN半導体の実用化には、高品質で大型のGaN単結晶基板の安定製造が技術的な難点とされてきました。
  • 日本製鋼所は、高圧設備に関する高い技術力(圧力容器用材料の開発など)を応用し、このGaN基板の量産技術開発に注力しており、これが同社の新規事業の柱の一つとなることを目指しています。

窒化ガリウム(GaN)は、従来のシリコンより電力損失が少なく高効率次世代パワー半導体を実現します。これにより、機器の小型化・省エネに繋がり、脱炭素社会への貢献新規事業創出を目指すためです。

日本製鋼所の窒化ガリウム開発での強みは何か

 日本製鋼所が窒化ガリウム(GaN)開発で持つ最大の強みは、超高温・超高圧に耐える「大型圧力容器(オートクレーブ)」の設計・製造技術、およびその技術を応用した結晶成長プロセスにあります。


1. 圧力容器(オートクレーブ)の設計・製造技術

  • 国内シェア100%のノウハウ: 日本製鋼所は、人工水晶(クオーツ)製造などに使われる圧力容器(オートクレーブ)において、国内で圧倒的なシェアを持ち、製造実績も豊富です。
  • 大型化と信頼性: GaN結晶を製造する「アモノサーマル法」は、高温・高圧の過酷な環境下で長期間稼働する大型の圧力容器が不可欠です。同社の技術は、この大型容器の安全性、耐久性、量産性を担保する根幹となっています。
    • ポイント: GaN基板を低コストで量産するには、製造設備を大型化し、一度に製造できる枚数を増やす必要があります。同社はその大型化を可能にする世界でも有数の技術を持っています。

2. 独自の結晶成長プロセス技術

  • 低圧酸性アモノサーマル法(SCAAT™-LP)の採用: 共同開発しているこのプロセスは、従来の技術に比べて比較的低い圧力条件(約半分)でGaN単結晶を成長させることができます。
    • 優位性: 低圧で稼働できるため、圧力容器の肉厚を薄く設計することが可能になり、大口径化(4インチや将来的な6インチ)および量産化に適した製造設備の実現に繋がります。
  • 高品質・低欠陥: この技術により、結晶欠陥が非常に少なく(従来品の1/100~1/1000)、透明度の高い高品質なGaN単結晶基板の製造に成功しています。

 日本製鋼所は、「ものづくり」の根幹である特殊な製造装置(大型圧力容器)を自社で設計・製造できるという圧倒的な優位性を活かし、次世代半導体材料の量産化という技術的な難題を解決しようとしています。

日本製鋼所の強みは、超高温・超高圧に耐える大型圧力容器(オートクレーブ)を自社で設計・製造する高い技術力です。これを応用し、高品質なGaN単結晶基板を量産可能な独自の製造プロセスを確立しています。

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