この記事で分かること
- スケール拡大を目指す製品:高性能なAI/HPC向けSoCテスタやHBMなどのメモリテスタが主軸です。これに加え、テストの複雑化に対応するシステムレベルテスト(SLT)ソリューションや周辺装置の拡大を目指しています。
- SoCテスタとは:CPUやメモリなど複数の機能を集積したSoC(System-on-a-Chip)の機能と性能を検査する自動試験装置です。
- 単一チップのテスタとの違い:SoCテスタはCPUやGPUなど多様な機能を集積した複雑なチップを、デジタル・アナログ・RFの複合的な能力で総合的に試験します。一方、単一チップのテスタは、メモリなど特定の機能に特化して試験します。
アドバンテストの中期経営計画
アドバンテストのダグラス・レフェーバーCEOが中期経営計画(MTP3:FY2024-FY2026)の後半で「スケール拡大に注力」とコメントしています。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/NJ7LQG3DOVPC7M45RLYYJBWTLY-2025-11-17/
「スケール拡大」は、半導体市場の構造的な成長と、アドバンテストの事業機会の拡大に対応し、市場におけるリーダーシップを確固たるものにするためのものです。
アドバンテストはどんな企業か
株式会社アドバンテストは、半導体試験装置(半導体テスタ)の世界的なリーディングカンパニーです。「先端技術を先端で支える」を企業理念に掲げ、現代社会のあらゆる機器に不可欠な半導体の品質と信頼性を「はかる」技術で支えている企業です。
1. 主力事業:半導体試験装置(テスタ)
- 事業内容: スマートフォン、PC、自動車、AI/HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)などに搭載される、あらゆる種類の半導体(ロジックIC、メモリIC、アナログICなど)が、設計通りに高性能かつ安定して動作するかを高精度・高効率でテストするシステム(テスタ)を開発・製造・販売しています。
- 市場シェア: 特にメモリテスタや、SoC(System-on-a-Chip)テスタの分野において、世界トップクラスの市場シェアを誇ります。
2. 半導体製造プロセスにおける役割
- 半導体の製造プロセスにおいて、アドバンテストのテスタは、設計評価、製造プロセス評価、そして量産品の良否判定(スクリーニング)という重要な工程で使われます。
- 近年、AIやIoTの進化により半導体がさらに複雑化・高性能化する中で、その品質を保証するテスト技術の重要性がますます高まっており、アドバンテストの技術がこの課題を解決しています。
3. メカトロニクス関連事業
- テストシステムだけでなく、テスト工程全体をサポートする周辺装置も手掛けています。
- テスト・ハンドラ: テスタに半導体チップを自動で搬送し、試験後に良品・不良品を自動で分類する装置。
- デバイス・インターフェース(ソケットなど): テスタと半導体を電気的に接続する部品。
- 電子線(EB)計測装置: 半導体ウェハやフォトマスク上の微細な回路パターンを高精度に測定・レビューする装置。
4. グローバル企業としての側面
- 日本の企業ですが、顧客である半導体メーカーが世界中にいるため、売上の大半(9割超)を海外で上げています。
- グローバルな開発・生産・サポートネットワークを持ち、世界中の顧客のニーズに迅速に対応できる体制を構築しています。
アドバンテストは、まさに半導体産業の縁の下の力持ちとして、デジタル社会の安全と進化を支える極めて重要な役割を担っている企業です。

半導体試験装置で世界的な大手メーカー。スマートフォンやAIチップに使われる半導体の性能と品質を検査するテスタを製造・販売しており、デジタル社会の発展を基盤から支えるグローバル企業です。
どんな製品のスケール拡大を目指すのか
アドバンテストが中期経営計画(MTP3)の後半で「スケール拡大」を目指す主要な製品とソリューションは、以下の分野に集中しています。
スケール拡大の主要な製品・ソリューション
アドバンテストのスケール拡大は、主に「高性能・高付加価値なテスタ」と「テストソリューション全体」の2つの軸で推進されています。
1. HPC/AIデバイス向けハイエンド・テスタ
最大の注力分野であり、成長のドライバーです。
- 製品プラットフォーム:V93000 EXA Scale™ をはじめとする、ハイエンドSoC(System-on-a-Chip)テスト・システムのプラットフォーム。
- ターゲットデバイス: AIアクセラレーター(GPU、ASICなど)、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)用途のCPU、データセンター向け半導体など、極めて高い性能が要求されるデバイス。
- これらの半導体は、チップレット・デザインや高帯域メモリ(HBM)の搭載によりテストが非常に複雑化しており、アドバンテストの究極のスケーラビリティを持つテスタの需要が急増しています。
2. メモリ向けテスタ
- ターゲットデバイス: 大容量化・高速化が進むDRAM(特にHBMを含む)やNANDフラッシュメモリなど。
- AIやサーバーの需要がメモリの高性能化も牽引しており、この分野でも確固たる市場シェアと技術リーダーシップをさらに拡大することを目指しています。
3. テスト・エコシステム全体(周辺分野・新規事業)
コアのテスタ事業の周りで、顧客のテストフロー全体を取り込むことでスケールを拡大します。
- システムレベルテスト(SLT)ソリューション: 量産前後の最終的な動作環境に近い形で半導体をテストするソリューション。高性能チップのテスト時間が長期化する中、SLTの重要性が高まっています。
- テスト・ハンドラ / デバイス・インターフェース: テスタと組み合わせて使用される自動搬送装置(ハンドラ)や、半導体とテスタを電気的に接続するソケットなどの周辺機器。
- 電子線(EB)計測装置: 半導体設計・製造プロセスにおける微細パターンの計測・評価に不可欠な装置。
アドバンテストの「スケール拡大」は、単なる台数増加だけでなく、AI/HPC市場で圧倒的なシェアを持つハイエンドテスタを核に据えつつ、周辺のテストソリューションまでカバーすることで、半導体テスト市場全体における影響力と事業規模を拡大することを目指していると言えます。

高性能なAI/HPC向けSoCテスタやHBMなどのメモリテスタが主軸です。これに加え、テストの複雑化に対応するシステムレベルテスト(SLT)ソリューションや周辺装置の拡大を目指しています。
SoCテスタとは何か
SoCテスタ(SoCテスト・システム)とは、System-on-a-Chip(システム・オン・チップ)と呼ばれる複雑な半導体チップの機能、性能、および信頼性を検証するための自動試験装置(ATE:Automatic Test Equipment)です。
1. SoCとは?
- SoCは、CPU(中央演算処理装置)、メモリコントローラ、グラフィックス処理機能(GPU)、アナログ回路、RF(無線周波数)回路など、一つの電子システムに必要な複数の異なる集積回路を一つの半導体チップに集約したものです。
- スマートフォン、PC、AIアクセラレーター、車載制御装置など、多機能なデジタル機器の頭脳として広く使われています。
2. テスタの機能
SoCテスタの主な役割は、この複雑なSoCチップが設計通りに動作するか、そして品質と信頼性を満たしているかを、製造プロセス(試作評価から量産まで)の各段階で確認することです。
- デジタル機能試験: チップに入力パターン(信号)を与え、出力される信号が事前に定義された期待値と一致するかを高速で比較し、論理回路(ロジック)の正常性を確認します。
- アナログ/RF試験: チップに組み込まれている電源制御、センサーインターフェース、無線通信などのアナログ/RF回路の電気的特性(電圧、電流、周波数など)を測定します。
- 高精度・高速性: 複雑化・高速化する半導体に対応するため、テスタ自身にも超高速なデータレートと高精度な測定能力が求められます。
- 並列テスト(マルチサイト・テスト): 大量のチップを効率的にテストするため、同時に複数のチップ(サイト)をテストできる能力(並列テスト)を持っています。
3. アドバンテストにおける位置づけ
アドバンテストは、このSoCテスタの分野で世界的に高いシェアを持っています。特に、AI/HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)向けの高性能なSoCテスト・システム(例:V93000プラットフォームなど)は、同社の主要な成長ドライバーとなっています。
SoCテスタは、「複数の臓器を持つ人間」の健康診断を、設計書に基づいて正確かつ迅速に行うためのハイテクな医療機器のようなものです。

SoCテスタは、CPUやメモリなど複数の機能を集積したSoC(System-on-a-Chip)の機能と性能を検査する自動試験装置です。スマホやAIチップの品質と信頼性を保証する役割を担い、アドバンテストの主力製品です。
単一のチップのテスタの違いは何か
SoCテスタと単一機能のチップ(IC)テスタの主な違いは、テスト対象のチップの「構成要素の数」と「機能の多様性」にあります。簡単に言えば、単一チップのテスタは専門医、SoCテスタは総合病院の役割を担います。
主な違い:複雑性と対応範囲
| 比較項目 | SoCテスタ (System-on-a-Chip Tester) | 単一機能ICテスタ (Memory Tester, Analog Testerなど) |
| テスト対象 | SoC(CPU、GPU、メモリコントローラ、通信、アナログ回路などが集積された複雑なチップ) | 単一機能のIC(DRAM、NAND、特定の電源IC、シンプルなロジックICなど) |
| テストの複雑性 | 極めて高い。複数の異なる機能の組み合わせテストが必要。 | 比較的低い。特定の機能(例:データの書き込み/読み出し、電圧変換)に特化。 |
| 求められる能力 | 多様なテスト能力の統合(デジタル、アナログ、RF、高速データ通信の同時テスト)。 | 特定のテストにおける深さとスピード(例:メモリの高速かつ大容量のデータテスト)。 |
| 主な用途 | スマートフォン、AIアクセラレーター、車載コントローラなど、多機能な機器の頭脳。 | メモリ製品、パワーマネジメントIC、通信用部品など、特定の機能部品。 |
1. 統合されたテスト能力
- SoCテスタ: SoCにはデジタル(ロジック)、アナログ、RF(無線通信)など、全く異なる種類の回路が混在しています。SoCテスタは、これらすべてを同時に、かつ高速でテストするために、デジタル、アナログ、RFなどの複数のテスト計測ユニットを統合して搭載しています。
- 単一チップのテスタ: 例えば、メモリテスタであれば、データの高速な書き込み・読み出しに特化しています。アナログテスタであれば、正確な電圧や電流の測定に特化しており、SoCテスタほどの多様な統合は必要ありません。
2. データレートとピン数
- SoCテスタ: 高性能なSoC(特にAI/HPC向け)は、外部とのデータ転送速度が非常に速く、接続ピンの数も膨大です。そのため、SoCテスタは極めて高いデータレートと多数のピンチャネルに対応できるスケーラビリティが求められます。
- 単一チップのテスタ: 専用のテスタは、そのチップの特定の要求に合わせて設計されていますが、SoCテスタのような機能横断的な高速・多ピン対応の要求は比較的少なくなります。
3. システムレベルの検証
SoCテスタは、単に各機能が動くかだけでなく、それらの機能がチップ内部で連携して、全体として設計通りのシステム動作をするか(例:CPUがメモリコントローラを介してメモリに正しくアクセスできるか)を検証する能力も重要になります。単一チップのテスタでは、このようなシステム全体としての検証は行いません。

SoCテスタは、CPUやGPUなど多様な機能を集積した複雑なチップを、デジタル・アナログ・RFの複合的な能力で総合的に試験します。一方、単一チップのテスタは、メモリなど特定の機能に特化して試験します。

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