この記事で分かること
- ネクスペリア問題とは:オランダ政府による中国系半導体企業ネクスペリアへの介入に対し、中国側が報復として半導体の輸出を停止しました。これにより、自動車制御用チップが不足しています。
- 現在の状況:中国は一部の半導体輸出を再開し供給は一時緩和しました。しかし、ネクスペリア欧州本社と中国子会社間で激しい対立が継続し、依然として供給網の安定は不確実な状況です。
- ボッシュの状況:ネクスペリアのチップ不足により、ドイツのザルツギッターなど欧州3工場で生産中断に直面しています。
ボッシュ、ネクスペリア問題で生産調整
ネクスペリアのチップの輸出停止により、ボッシュが製造する自動車部品の生産に必要な部品が不足しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR18C2I0Y5A111C2000000/
オランダ政府がネクスペリアの経営権を掌握したことに対し、ネクスペリアの親会社である中国のウィングテック・テクノロジー(Wingtech Technology)が報復措置として、中国からの半導体製品の輸出を停止したことで多くの自動車部品メーカーや自動車メーカーの生産に深刻な影響を与えています。
輸出再開に向けた外交的な交渉が行われており、中国側が一部の輸出禁止措置に例外を認める動きも見られますが、状況は依然として予断を許さない状態が続いています。
ネクスペリア問題とは何か
ネクスペリア(Nexperia)問題とは、オランダを拠点とする半導体メーカー、ネクスペリアの経営権を巡るオランダ政府と中国の親会社との対立が、中国からの半導体製品の輸出停止を引き起こし、世界中の自動車産業を含むサプライチェーンに深刻な混乱をもたらしている問題です。
これは、単なる企業間の問題ではなく、米中対立の地政学的な緊張が、欧州の経済安全保障と世界のサプライチェーンの安定性に直接影響を与えた事例として注目されています。
問題の内容と経緯
| 項目 | 詳細 |
| 企業 | ネクスペリア (Nexperia):旧フィリップス系のオランダの半導体メーカー。主に自動車などに使われる汎用的なトランジスタやダイオードなどの基本的な電力制御チップ(ディスクリート半導体)を製造。 |
| 親会社 | ウィングテック・テクノロジー (Wingtech Technology):2019年にネクスペリアを買収した中国企業。 |
| オランダ政府の介入 | オランダ政府は、「ガバナンス上の深刻な欠陥」や「技術流出のリスク」「国家安全保障上の懸念」を理由に、緊急権限を発動し、ネクスペリアの意思決定に対する監督・統制権限を掌握しました(物資確保法に基づく異例の介入)。 |
| 中国側の報復 | オランダ政府の介入に対し、ネクスペリアの中国法人および親会社であるウィングテックは猛反発。中国国内の工場から、ネクスペリア製品の対外輸出を禁止または厳しく制限しました。 |
| サプライチェーンへの影響 | ネクスペリアの製品は、製造工程の多く(特に最終のパッケージング工程)を中国で行っています。中国からの輸出が停止したことで、ボッシュ、フォルクスワーゲン(VW)、ホンダなど、ネクスペリアのチップを使用する世界の自動車メーカーや部品サプライヤーに部品不足が発生し、生産ラインの一部停止や一時帰休に追い込まれています。 |
なぜこの問題が深刻なのか?
- 汎用半導体の重要性: ネクスペリアが製造するのは、高度な演算チップではなく、自動車の多くの電子制御ユニット(ECU)に不可欠な「基本的な」電力制御チップです。この安価な汎用部品が一つでも欠けると、自動車全体の生産がストップしてしまいます。
- 地政学リスクの現実化: 米中対立が、特定のハイテク企業だけでなく、世界の基幹産業を支える一般的な部品のサプライチェーンを通じて、各国経済に直接的な打撃を与えるという地政学リスクの現実的な脅威を示しました。
- 欧州の脆弱性: 欧州の主要産業である自動車産業が、重要な部品においてアジア(特に中国)への過度な依存を抱えていたという構造的な脆弱性を露呈しました。
この問題は、各国の経済安全保障政策の強化と、重要部品のサプライチェーンにおける「脱・特定国依存」の動きを加速させるきっかけとなっています。
この件について、特定の自動車メーカーへの影響など、さらに詳しく知りたい点はありますか?

オランダ政府による中国系半導体企業ネクスペリアへの介入に対し、中国側が報復として半導体の輸出を停止しました。これにより、自動車制御用チップが不足し、ボッシュなど世界の自動車部品・メーカーの生産ラインに深刻な混乱をもたらしている地政学的なサプライチェーン危機です。
ネクスペリア問題の現状はどうか
ネクスペリア問題の現状は、中国側による輸出再開の動きが見られる一方で、ネクスペリアの欧州本社と中国子会社との対立(「内戦」状態)が継続しており、サプライチェーンの抜本的な解決には至っていません。
1. 中国からの輸出再開の兆し
- 輸出許可の動き: 中国商務省は、一部のネクスペリア製品について「民生利用に限定した規制の免除措置」を講じ、輸出再開を許可したと報じられています。
- 欧州企業による受領: ドイツのコンチネンタルなどの欧州企業が、ネクスペリアの中国工場から半導体の供給が再開され、製品を受領したことを明らかにしています。
- 期待と懸念: これにより、特に危機的な状況にあった欧州の自動車産業における部品不足が一時的に緩和されることが期待されていますが、全面的な解除か、限定的な再開なのかは不明確であり、恒久的な解決には至っていません。
2. ネクスペリア内部の対立の激化
- 泥沼の「内戦」状態: オランダ政府の介入を受けたネクスペリアの欧州新経営陣と、中国の親会社ウィングテックおよび中国子会社との間で対立が激化しています。
- ウエハー供給の停止: ネクスペリアヨーロッパは、中国子会社に対し、支払いの不履行を理由にウェハー(半導体の基板)の出荷を正式に停止したと報じられています。これに対し中国側は猛反発し、両者の主張は真っ向から対立しています。
3. 自動車産業への継続的な影響
- 影響の継続: 一部の輸出再開の動きがあるものの、ボッシュを含む自動車部品メーカーや自動車メーカー(VW、日産、ホンダ、GMなど)は、引き続き部品の在庫確認、代替調達の検討、そして生産ラインの一部減産・停止に追い込まれています。
- ボッシュの対応: ボッシュは、ネクスペリアの輸出規制が長期化した場合、ドイツの工場(ザルツギッターなど)で従業員の一時帰休を実施する計画を継続しています。
この問題は、単なる貿易規制ではなく、オランダ政府によるネクスペリアの経営支配権を巡る地政学的な対立が根底にあり、根本的な解決には欧州と中国間の外交的な合意が必要な状況です。

オランダ政府の介入に対し、中国は一部の半導体輸出を再開し供給は一時緩和しました。しかし、ネクスペリア欧州本社と中国子会社間で激しい対立が継続し、依然として供給網の安定は不確実な状況です。ボッシュや日産、ホンダなどが減産や一時帰休の影響を受けています。
ボッシュの状況はどうか
ボッシュ(Bosch)は、ネクスペリア問題の影響を最も大きく受けている企業の一つであり、現在も生産調整と一時帰休を余儀なくされている状況が続いています。
ボッシュは、ドイツの世界最大の自動車部品メーカーで、電動工具や家電、産業技術も手掛ける多角的なテクノロジー企業です。自動車技術ではECU、ブレーキ、センサーなどでトップシェアを持っています。
1. 生産活動への具体的な影響
- 影響を受けた拠点: ドイツ国内のザルツギッター工場とアンスバッハ工場、およびポルトガルのブラガ工場を含む3つの主要拠点で生産中断の影響を受けています。
- 一時帰休の実施: 部品の供給不足による生産の減速を受け、従業員を一時的に休ませる一時帰休(Furlough)措置を実施しています。
- ザルツギッター工場: 1,300人の従業員のうち、必要に応じて300~400人を対象に一時帰休措置を使用。
- アンスバッハ工場: 2,500人のうち、約650人を対象に一時帰休措置を使用。
- ブラガ工場: 約2,500人の従業員が、一時的な勤務時間の調整や一時帰休の影響を受けています。
- 警告: 同社は、輸出規制が緩和されなければ、生産停止に直面する可能性があると繰り返し警告しています。
2. ボッシュの対応策
ボッシュは、顧客への影響を最小限に抑え、生産の停止を回避・最小化するために、以下のような対策を講じています。
- 代替サプライヤーの模索: ネクスペリア以外の半導体メーカー(インフィニオン、NXP、テキサス・インスツルメンツなど)からの代替調達を急いでいます。ただし、自動車部品の認証プロセスには時間がかかるため、迅速な切り替えは困難です。
- 在庫の最適化: 世界的な生産ネットワーク全体で在庫の最適化を図り、緊急の需要に対応しようとしています。
- 政治的な解決の要望: 自動車業界団体を通じて、欧州と中国の政治家に対し、この問題の早期解決に向けた交渉を促すよう求めています。
3. 継続的な課題
中国側が一部の輸出を免除する動きを見せ、供給に一時的な緩和の兆しはあるものの、ネクスペリアの欧州本社と中国子会社との対立が継続しており、安定的な供給の再開には至っていません。このため、ボッシュは依然として部品調達に関する高い不確実性に直面しています。
ボッシュが製造するエンジン制御装置(ECU)などにネクスペリアのチップは不可欠であり、この問題の長期化は、ボッシュだけでなく、同社をサプライヤーとするフォルクスワーゲン(VW)、BMW、メルセデスなどの自動車メーカーの生産にも直接的な影響を与え続けています。

ボッシュはネクスペリアのチップ不足により、ドイツのザルツギッターなど欧州3工場で生産中断に直面しています。従業員数千人が影響を受け、一時帰休を「必要に応じて」実施中です。中国からの供給再開の兆しはありますが、代替調達は難しく、生産継続のため努力していますが依然として不確実な状況です。

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