東レのPFASフリー再生素材を使用した撥水生地 撥水生地とは何か?PFASフリーを実現できた理由は何か?

この記事で分かること

  • 撥水生地とは:表面に特殊なコーティングを施し、水滴を玉状にして弾く性質を持つ生地です。これにより水濡れや汚れを防ぎます。
  • PFASフリーを実現できた理由:繊維の断面と表面に微細な凹凸構造を作り出し、ハスの葉のように水を弾く「マルチラフネス構造」を形成することで、PFAS(フッ素)フリーの高い撥水性を実現しました。
  • 微細な凹凸の形成方法:複数のポリマー流を極限まで分割・精密に制御し、吐出口で複雑な複合断面を持つ原糸を製造。これにより、生地表面にハスの葉のような微細な凹凸構造を作り出します。

東レのPFASフリー再生素材を使用した撥水生地

 東レは、PFAS(有機フッ素化合物)フリーであり、かつ再生素材を使用した撥水(はっすい)生地の開発に注力しています。

 https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=rvfu20il

環境への配慮と機能性を両立させる素材開発を進めており、特にPFASフリーでリサイクル素材を適用した撥水テキスタイルのラインナップを拡充しています。

撥水(はっすい)生地とは何か

 「撥水(はっすい)生地」とは、生地の表面に特殊な加工を施すことで、水を玉状にして弾き、染み込みにくくした機能性のある生地のことです。

1. 撥水生地の仕組み

 撥水加工は、シリコンやフッ素樹脂(東レの例ではPFASフリーの撥水剤)といった撥水剤を繊維一本一本の表面にコーティングすることで行われます。

  • 水を弾く原理: このコーティングにより、生地の表面張力を水の表面張力よりも低くし、水滴が生地に触れても広がらず、コロコロとした球状になって転がり落ちるようにします。
  • 通気性の維持: 撥水剤は繊維の表面を覆いますが、生地の織り目や編み目などの隙間を完全に塞ぎません。そのため、外部からの水は弾きつつ、内部の湿気や空気は通す通気性が保たれます。これにより、衣服にした際に蒸れにくいという大きなメリットがあります。

2. 撥水生地のメリットと用途

メリット主な用途
水を弾き、濡れにくいレインウェア(傘、レインコート)
通気性が良い(蒸れにくい)アウトドアウェア、ウィンドブレーカー
水溶性の汚れが付きにくいエプロン、作業着、子供服
軽量性・しなやかさバッグ、リュック、テーブルクロス

3. 「撥水」と「防水」の違い

 撥水と防水は似ていますが、機能と仕組みに決定的な違いがあります。

機能撥水(はっすい)防水(ぼうすい)
水滴の動き水を玉状にして弾く水を通さない
水の浸入強い雨や長時間の接触で染み込む可能性がある完全に水の浸入を遮断する
通気性高い(生地の隙間が残るため蒸れにくい)低い(生地の隙間を完全に塞ぐため蒸れやすい)
加工方法繊維表面へのコーティング生地の裏面への膜(フィルム)の貼り付け(ラミネート)やコーティングで隙間を塞ぐ
  • 撥水水滴を弾くことで濡れにくくする(通気性がある)。軽い雨や水濡れ対策に適している。
  • 防水:水圧がかかっても水を通さない(通気性がない、または低い)。大雨や水に浸かる用途に適している。

撥水生地は、表面に特殊なコーティングを施し、水滴を玉状にして弾く性質を持つ生地です。これにより水濡れや汚れを防ぎます。生地の隙間を塞がないため、通気性があり、蒸れにくいのが特徴です。ただし、強い水圧や長時間の接触では水が染み込む可能性があります。

どうやってPFASフリーを実現したのか

 東レがPFAS(有機フッ素化合物)フリーの撥水生地を実現した主な鍵は、撥水剤に頼るだけでなく、繊維そのものの構造を工夫するというアプローチにあります。

 これは、自然界のハスの葉などが持つ、水を弾くメカニズム(バイオミメティクス=生物模倣)を応用したものです。

 東レのPFASフリー撥水ストレッチテキスタイル「DEWEIGHT™(デューエイト)」の実現技術は、以下の2つの柱で成り立っています。


1. 独自の複合紡糸技術「NANODESIGN®」

 これは、ナノレベルで繊維の成分や形状を精密にコントロールする技術です。

  • 原糸断面の精密制御: 複数の原料樹脂を極めて多数の微細な流れに分割し、複合させることで、従来の技術では不可能だった特殊で複雑な断面形態を持つ原糸を高精度に設計・製造します。
  • スパイラル構造の形成: 形態の異なる2種類のスパイラル構造を持つ原糸を開発し、これらを組み合わせることで、テキスタイルの表面に狙い通りの微細な凹凸構造を形成します。

2. 生物模倣による「マルチラフネス構造」の形成

 この技術によって、生地の表面に以下のような構造が再現されます。

  • 微細な凹凸構造(マルチラフネス):繊維の精密な形状と織り方により、生地の表面に細かな凹凸(マイクロメートル、ナノメートルスケール)が形成されます。
  • 空気層の保持: この凹凸構造が、水滴と生地の間に微細な空気層を作り出します。
  • 水滴が転がり落ちる: 水滴が表面に触れた際に、接触面積が極めて小さくなるため、水が表面に張り付かず、玉状のままコロコロと滑り落ちるように水滴除去性を発揮します。

 PFASなどのフッ素系撥水剤を使わずとも、繊維と生地の構造(形状)の力で水滴を弾くため、環境負荷の低い撥水性を実現しています。さらに、この構造により、環境低負荷な撥水剤を併用した場合でも、優れた撥水耐久性を発揮できるとされています。


 この構造的なアプローチは、単に撥水剤を代替するだけでなく、撥水効果をより長持ちさせることにも貢献しています。

東レは、独自の「NANODESIGN®」技術で繊維の断面と表面に微細な凹凸構造を作り出し、ハスの葉のように水を弾く「マルチラフネス構造」を形成することで、PFAS(フッ素)フリーの高い撥水性を実現しました。

どうやって繊維の断面と表面に微細な凹凸構造を作るのか

 東レがPFASフリー撥水生地「DEWEIGHT™」のために、繊維の断面と表面に微細な凹凸構造を作り出す技術が、革新的な複合紡糸技術「NANODESIGN®(ナノデザイン)」です。

 これは、従来の技術では不可能だったレベルで、繊維の内部構造や表面形状をナノメートル単位の精度で制御する技術です。


 NANODESIGN®のプロセスは、主に「ポリマーの流れの極限までの分割」と「複合断面の精密設計」にあります。

1. ポリマーの流れの極限までの分割

  • 原料の分割と合流: 複数の原料樹脂(ポリマー)を、紡糸の過程で極めて多数の微細な流れに一旦分割します。この細分化された流れを、独自のプロセスで吐出口(口金)から一気に吐出・合流させます。
  • 「点」で断面を形成: 従来の繊維は、口金の「穴の形状」で断面が決まっていましたが、NANODESIGN®はポリマー流を数万分の1の細さに分割し、これらの流れを精密にコントロールすることで、断面を「点」で形成するようなイメージです。

2. 複合断面の精密設計

  • 複雑な断面の実現: この極限まで制御されたポリマーの流れにより、従来技術では到達できなかった、複雑で特殊な複合断面形態を、ナノメートルレベルの精度で任意に設計・製造することが可能になります。
    • PFASフリー撥水用途では、この技術で形態の異なる2種類の特殊なスパイラル構造を持つ原糸などが開発されています。

3. 撥水性につながる凹凸構造の形成

  • 表面の凹凸(ラフネス): 特殊な断面形状を持つ繊維をテキスタイルとして織る、または編むことで、生地の表面全体に微細な凹凸(マルチラフネス構造)が形成されます。
  • ハスの葉の原理の再現: この微細な凹凸が、水滴と生地の間に空気の層を作り出し、水滴が表面に張り付かず転がり落ちる、ハスの葉の撥水原理(ロータス効果)を再現します。

 この技術により、東レはフッ素系の撥水剤に頼らず、繊維の「構造の力」だけで高い撥水性能と耐久性を実現しています。


 この技術は、撥水性以外にも、シルクのような風合いや新たな機能性を持つ繊維の開発にも応用されています。

東レは「NANODESIGN®」という独自の複合紡糸技術を使います。複数のポリマー流を極限まで分割・精密に制御し、吐出口で複雑な複合断面を持つ原糸を製造。これにより、生地表面にハスの葉のような微細な凹凸構造を作り出します。

どのような再生素材を使用しているのか

 東レのPFASフリー再生生地「DEWEIGHT™(デューエイト)」シリーズでは、主に回収ペットボトル由来の再生ポリエステルが使用されています。

使用されている再生素材

 東レが2025年11月に発表した「DEWEIGHT™ PS(デューエイト・ピーエス)」では、具体的に以下の再生素材を適用しています。

  • 再生ポリエステル材料: 回収ペットボトル由来の原料を約50%使用しています。
    • この再生ポリエステルは、従来のポリエステルと同様の物性を保ちつつ、バージン原料(新規の石油由来原料)の使用量を削減することに貢献します。

再生素材を使用する目的

 再生素材の使用は、東レが掲げる環境への取り組みの一環であり、以下の目的があります。

  1. 資源循環の促進: 廃棄物(ペットボトル)を原料として再利用することで、プラスチックごみの削減資源循環に貢献します。
  2. CO2排出量の削減: 再生原料を使用することで、石油から新規にポリエステルを製造する工程に比べ、製造時のCO2排出量を削減することができます。

 このように東レは、環境配慮型の再生素材を使いながらも、独自の「NANODESIGN®」技術によるPFASフリー撥水性を両立させ、サステナブルな製品開発を進めています。


東レは主に回収ペットボトル由来の再生ポリエステルを使用しています。2025年11月発表の「DEWEIGHT™ PS」では、原料の約50%にこの再生素材を適用し、資源循環とCO2削減に貢献しています。

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