この記事で分かること
- チップレットとは:大規模な半導体を機能ごとに分割した複数の小さなチップ(ダイ)を、一つのパッケージ内で高速に接続・統合する技術です。これにより、従来の単一チップよりも製造効率(歩留まり)が向上し、高性能かつ柔軟なカスタム設計が可能になります。
- 市場拡大の理由:AIやHPC(高性能計算)の爆発的な需要に対し、チップレットが最適な製造プロセスを組み合わせた高性能で柔軟な設計を可能にするためです。
- 実現できた理由:複数のチップ間を高速・低遅延で接続する技術開発や、異なるメーカーのチップを統合するための共通規格(標準)、および良品チップ(KGD)の保証とテストの方法確立などが挙げられます。
チップレット市場の拡大
DKI Analytics(SDKI)が発表したレポートによると、チップレット市場の規模は2035年までに1,454億米ドルに達すると予測されています。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/19/news048.html
チップレット技術は、次世代の半導体設計において、高性能化とコスト効率を両立させるための重要なソリューションとして注目されています。
チップレットとは何か
チップレット(Chiplet)とは、半導体設計における革新的なアプローチを指し、複数の小さな半導体チップ(ダイ)を組み合わせて、一つの大きな高性能なチップとして機能させる技術のことです。
チップレットの基本的な仕組み
従来の半導体(モノリシックチップまたはSoC: System on Chip)は、全ての機能を単一の大きなシリコンダイに集積して製造されていました。
これに対し、チップレットは以下の仕組みで動作します。
- 機能ごとの分割:CPUコア、GPU、メモリコントローラ、I/O制御、AIアクセラレータなど、チップの持つ機能を役割ごとに小さなモジュール(チップレット)に分割して個別に設計・製造します。
- パッケージ内での統合:個別に製造されたこれらのチップレットを、インターポーザ(高密度な配線層を持つシリコン基板)などの先進的なパッケージング技術を用いて、一つのパッケージ内に高密度に配置・接続します。
- 高速接続:チップレット間は、マイクロバンプやTSV(スルーシリコンビア)といった技術により、高速かつ低遅延でデータをやり取りできる特別な配線でつながれており、全体として一つのシステムとしてシームレスに動作します。
チップレットを採用する主なメリット
チップレットは、従来のモノリシックチップが抱える課題を解決し、高性能化とコスト効率を両立させるために重要な役割を果たします。
- 歩留まりの向上とコスト削減
- 大規模なチップを製造する際、わずかな製造欠陥でもチップ全体が不良品(廃棄)となるリスク(歩留まりの低下)が高まります。チップレットは一つ一つが小型であるため、製造時の欠陥リスクが低く、良品率(歩留まり)が大幅に向上します。
- ヘテロジニアス・インテグレーション(異種統合)の実現
- 機能ごとに最適な製造プロセス(ノード)を選択できます。例えば、高性能が必須なCPUコアには最新の微細プロセス(例:3nm)を適用し、それほど微細化が必要ないI/Oコントローラなどにはコスト効率の良い成熟したプロセス(例:28nm)を利用できます。
- 設計の柔軟性とスケーラビリティ
- 必要なチップレットを組み合わせるだけで、特定の用途(例:データセンター向け、自動車向けなど)に最適化されたカスタムチップを迅速に設計できます。また、必要な性能に応じてチップレットの数を増減(スケーリング)することが容易になります。
- 開発期間の短縮
- すでに設計・検証済みのチップレットを再利用できるため、新製品の開発期間を短縮できます。
チップレット技術は、特に高性能コンピューティング(HPC)やAI、データセンター向けのプロセッサで採用が進んでおり、半導体業界の次世代技術として非常に注目されています。

チップレットとは、大規模な半導体を機能ごとに分割した複数の小さなチップ(ダイ)を、一つのパッケージ内で高速に接続・統合する技術です。これにより、従来の単一チップよりも製造効率(歩留まり)が向上し、異なるプロセスや性能のチップを組み合わせて高性能かつ柔軟なカスタム設計が可能になります。
市場拡大の理由は何か
チップレット市場が急激に拡大している主な理由は、従来の半導体(モノリシックチップ)の限界と、高性能コンピューティング(HPC)への爆発的な需要の二つに集約されます。
1. モノリシックチップ(従来の単一チップ)設計の限界
- 歩留まりとコストの課題
- 回路線幅が微細化(例:3nm、2nm)するほど、一つの大きなチップ(モノリシックチップ)を欠陥なく製造することが極めて困難になり、良品率(歩留まり)が低下します。歩留まりの低下は製造コストを大幅に押し上げ、ビジネスとして成立しにくくなっています。
- チップレットはダイ(チップ)を小型化することで、製造時の欠陥リスクを抑え、歩留まりを向上させ、結果的にコスト効率を高めます。
- 物理的なサイズの制限(レチクル限界)
- 製造装置(ステッパー)で露光できる領域の最大サイズ(レチクルサイズ)に、チップの大きさが制限されることがあります。チップレットは複数のダイに分割することで、この物理的な限界を超えた超大規模なチップシステムの構築を可能にします。
2. 高性能コンピューティング(HPC)とAIの需要増
- AI、データセンター、5Gなど高性能化の要求
- AI、機械学習、ビッグデータ解析、クラウドコンピューティング、5G/6G通信などの分野で、従来をはるかに超える処理能力と電力効率が求められています。
- チップレットは、複数の処理ユニット(CPU、GPU、AIアクセラレータなど)を一つのパッケージ内で高速に接続し、高いスケーラビリティと性能密度を提供することで、この需要に応えています。
- 異種統合(ヘテロジニアス・インテグレーション)の優位性
- チップレットは、異なる機能(例:コア、メモリ、I/O)をそれぞれ最適な製造プロセス(ノード)で作り、統合できます。最新の微細プロセスを性能が重要な部分に限定することで、性能とコストのバランスを最適化できます。
3. 開発の柔軟性と迅速な市場投入
- モジュール型設計とIP再利用
- 機能ごとにモジュール化されているため、特定の用途(自動車、HPC、コンシューマー向けなど)に合わせたカスタムチップを、既存の検証済みチップレットを組み合わせるだけで迅速に開発できます。これにより、市場投入までの時間を大幅に短縮できます。
- 先進パッケージング技術の進化
- IntelのFoverosやAMDの3D V-Cacheなどの3D統合技術をはじめとする先進的なパッケージング技術が普及し、チップレット間の高速かつ高密度な接続を可能にしています。
これらの要因が組み合わさることで、チップレット技術は半導体業界の次世代の標準として受け入れられ、市場の急拡大を支えています。

市場拡大の理由は、従来の単一チップの歩留まり低下とコスト増加の限界を克服し、AIやHPC(高性能計算)の爆発的な需要に対し、チップレットが最適な製造プロセスを組み合わせた高性能で柔軟な設計を可能にするためです。
なぜ、これまで実現が難しかったのか
チップレット技術は理想的ですが、これまで実現が難しかった主な理由は、複数のチップ(ダイ)をあたかも一つのチップのようにシームレスに機能させるための技術的課題が非常に大きかったからです。
1. 高速・高密度インターコネクトの難しさ
- チップ間通信の課題: チップレット間で大量のデータを高速かつ低消費電力でやり取りするための超高密度な配線技術(インターコネクト)の実現が極めて困難でした。
- 従来のパッケージング技術では、チップ間の配線が長くなり、遅延(レイテンシ)が増加したり、消費電力が増大したりして、モノリシックチップ(単一チップ)の性能に到底及びませんでした。
- ブレイクスルー: 近年、インターポーザ、TSV(Through Silicon Via)、そして特にハイブリッド接合などの先進パッケージング技術が成熟・確立したことで、この超高速接続が可能になりました。
2. テストと良品保証(KGD)の課題
- テストの複雑性: 複数のチップレットを組み合わせる前に、一つ一つが間違いなく良品であること(Known Good Die:KGD)を保証するテスト技術の確立が難題でした。
- 不良時の影響: 組み合わせたチップレットの中に一つでも不良品(ダイ)が混ざっていると、パッケージ全体が不良となり、他の良品のチップレットまで無駄になってしまうリスクがありました。
3. 設計・検証の複雑化
- 設計ツールの不足: 複数の異なる製造プロセスで製造されたチップレットを統合し、全体として一つのシステムとして動作させるための共通の設計・検証(EDA)ツールが十分に整備されていませんでした。
- 標準規格の不在: 異なるメーカーが製造したチップレット同士を接続するための共通のインターフェース規格が存在しなかったため、技術的な連携やエコシステムの構築が進みませんでした。
- ブレイクスルー: 現在は、Intel、AMD、Arm、TSMCなどの主要企業が参加するUCIe (Universal Chiplet Interconnect Express)などの共通規格が策定され、この課題を解消しつつあります。
これらの技術的・標準化の課題がブレイクスルーを迎えたことで、チップレット技術は急速に実用化・普及の段階に入りました。

これまでチップレット実現が難しかったのは、複数のチップ間を高速・低遅延で接続する技術(インターコネクト)や、異なるメーカーのチップを統合するための共通規格(標準)の不在、および良品チップ(KGD)の保証とテストの複雑性という技術的障壁があったためです。
UCIeとは何か
UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)は、チップレット時代における半導体業界の革新的な共通接続規格であり、それを推進する業界団体(コンソーシアム)の名前でもあります。
UCIeの概要と目的
UCIeは、複数のメーカーや異なる製造プロセスで製造されたチップレット(小さな半導体ダイ)を、一つのパッケージ内でシームレスに結合し、あたかも一つの高性能チップ(SoC)のように機能させることを目的としたオープンな標準規格です。
1. 「半導体のレゴ」の実現
- UCIeは、チップレットの「物理的な接続(I/O)の仕様」や「通信プロトコル(データのやり取りのルール)」などを標準化します。
- これにより、あるメーカーが作ったCPUチップレットと、別のメーカーが作ったI/Oチップレットやメモリチップレットを、簡単に組み合わせてカスタムチップを開発できるようになります。これは、子どもがおもちゃのレゴブロックを自由に組み合わせてものを作るようなイメージです。
2. オープンエコシステムの構築
- Intel、AMD、Arm、TSMC、Samsung、Google Cloud、Microsoft、Metaなどの業界の主要企業がコンソーシアムに参加し、規格の策定を主導しています。
- この幅広い参加企業によって、業界全体で標準化されたエコシステムが構築され、チップレット技術の採用が加速しています。
UCIeの技術的な役割
UCIe規格は、主に以下の層を定義することで、チップレット間の高速・高効率な通信を実現します。
- 物理層(PHY): 実際の電気信号、データレート、バンプ(接続点)の位置など、ハードウェアの仕様を定義し、チップレット間で高帯域幅、低遅延、高電力効率の通信を可能にします。
- プロトコル層: 既存の業界標準であるPCI Express (PCIe)やCXL (Compute Express Link)などのプロトコルを活用し、チップレットがパッケージ内でこれらの高速通信プロトコルをシームレスに使用できるようにします。
UCIeは、チップレット時代の基盤技術として、半導体設計の柔軟性向上、開発期間の短縮、そしてコスト効率の改善に不可欠な要素となっています。

UCIeは、「Universal Chiplet Interconnect Express」の略で、異なるメーカーやプロセスで製造されたチップレットを、一つのパッケージ内でシームレスに高速接続するためのオープンな共通規格です。これにより、半導体の設計柔軟性が向上し、カスタムチップを効率的かつ迅速に開発できるようになります。

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