ADEKAのMOR用金属化合物の専用プラント MORとは何か?なぜスズやジルコニウムが使用される理由は何か?

この記事で分かること

  • MORとは:半導体の微細化に不可欠な次世代EUVリソグラフィ用フォトレジストの主成分です。金属原子を含み、EUV光の吸収率とエッチング耐性に優れ、高解像度の回路パターン形成を実現します。
  • スズやジルコニウムが使用される理由:EUV光を効率よく吸収し、レジストの感度を上げるためです。また、露光後にできる金属酸化物がエッチング耐性に優れ、高精細なパターン形成を可能にします。

ADEKAのMOR用金属化合物の専用プラント

 ADEKAは、茨城県神栖市にある鹿島化学品工場に、次世代EUV(極端紫外線)リソグラフィ向けMOR(金属酸化物レジスト)用金属化合物の専用プラントを新設することを決定しました。

 https://news.mynavi.jp/techplus/article/20251121-3696949/

 この投資は、半導体のさらなる高集積化・微細化の進展に対応するための戦略的な動きです。

どのような専用プラントなのか

 新設されるプラントの主な詳細は以下の通りです。

項目詳細
所在地鹿島化学品工場(茨城県神栖市東和田29番地)
製造品目次世代EUVリソグラフィ(高NA EUV)向けMOR用金属化合物
投資金額32億円
着工予定2026年4月
営業運転開始予定2028年4月

建設の背景と意義

1. 半導体の微細化とEUV露光技術

 情報通信技術(ICT)社会の進展に伴い、半導体には高速化と低消費電力化が求められ、回路の高集積化(微細化)が進んでいます。

 この微細化を実現するため、半導体の回路パターンを形成するリソグラフィ(露光)工程では、より解像度の高いEUV(極端紫外線)露光装置の導入が進んでおり、特にレンズ開口数(NA)を拡大した高NA EUV露光技術の本格導入が見込まれています。

2. MOR(金属酸化物レジスト)の採用拡大

 高NA EUV露光に対応し、より微細なパターンを形成するため、露光材料であるフォトレジストにも変革が求められています。

  • 現在主流のCAR(化学増幅型レジスト)と併用される形で、新しいコンセプトのMOR(金属酸化物レジスト)の採用が拡大すると予測されています。
  • MORは、EUV光に対する吸収率やエッチング工程での耐性を向上させる特性を持っています。
  • 新プラントで製造される金属化合物は、このMORの性能を向上させるキーマテリアルであり、ADEKAがこれまでALD(原子層堆積)材料で培ってきた金属錯体技術を応用して製品化されました。

3. 将来への対応

  • 新プラントは、今後のMOR用金属化合物の本格的な需要増に対応するための専用製造ラインとなります。
  • 建屋内には将来的な増設スペースも確保され、高NA EUV露光をはじめとする次世代リソグラフィ工程の技術革新を見据えた新規材料の製造も検討されています。

 ADEKAは、この新プラント建設と、2026年1月完成予定の久喜開発研究所(埼玉県久喜市)の新研究棟を通じて、半導体リソグラフィ材料の開発・供給体制を一層強化し、先端半導体技術の進化を素材面から支えていく方針です。

MOR(金属酸化物レジスト)用金属化合物とは何か

 MOR(Metal Oxide Resist、金属酸化物レジスト)用金属化合物とは、半導体の微細な回路パターンを形成するフォトレジスト(感光材)の主成分または重要な添加剤となる有機金属化合物のことです。

 これは、従来の有機ポリマーを主成分とするレジストに代わり、次世代のEUV(極端紫外線)リソグラフィ技術に対応するために注目されている材料です。


1. MOR(金属酸化物レジスト)の仕組み

 MORは、金属原子(スズ(Sn)やジルコニウム(Zr)など)と有機分子で構成される有機金属化合物が主成分です。

  • EUV光の吸収と反応: EUV光が当たると、この金属化合物が光を効率よく吸収し、化学反応(例えば、金属原子間のオキソ結合による架橋)を起こします。
  • パターン形成: この反応によって、露光された部分が金属酸化物を形成して硬化し、現像液に溶けにくくなります(ネガ型の特性)。
  • 金属化合物は、このMORがEUV光と反応して最終的なパターンを形成する上で、極めて重要な前駆体(プリカーサー)としての役割を果たします。

2. 採用される主な金属原子

 MORで使われる主な金属元素としては、スズインジウム 亜鉛 などが知られています。これらの金属は、EUV光に対する吸収率が大きいため、レジストの感度向上に役立ちます。

3. MORの主なメリット

  • 高解像度・低ラフネス: EUV光に対する感度が高いため、光が当たった部分だけをピンポイントに反応させることができ、より微細なパターン形成(高解像度)と、パターンの側壁の凹凸(ラフネス)を抑えることが可能です。
  • 高いエッチング耐性: 露光後に形成される金属酸化物は、従来の有機ポリマーよりもエッチング耐性が非常に高いという特性を持ちます。これにより、レジスト膜を薄くしてもエッチング工程に耐えることができ、パターンの倒れ(細いパターンが倒れてしまう現象)を防ぎ、さらに解像性を向上させることにつながります。

 ADEKAが新設するプラントで製造されるのは、特に次世代の高NA EUVリソグラフィに対応するためのMOR用金属化合物であり、半導体のさらなる微細化に不可欠な素材です。 

MOR用金属化合物は、半導体の微細化に不可欠な次世代EUVリソグラフィ用フォトレジストの主成分です。金属原子を含み、EUV光の吸収率とエッチング耐性に優れ、高解像度の回路パターン形成を実現します。

スズやジルコニウムが使用される理由は何か

 MOR(金属酸化物レジスト)にスズジルコニウム が使用される主な理由は、EUV光の吸収効率の高さと、露光後に形成される金属酸化物の高いエッチング耐性にあります。

 これは、従来の有機ポリマー系レジストが抱えていた、半導体のさらなる微細化(サブ 20 nm以下)における課題を克服するための重要な特性です。


主な採用理由

1. EUV光に対する高い吸収効率 (高感度化)

 EUV(極端紫外線、波長 13.5 nm) は、従来の深紫外光 (DUV) に比べて光のエネルギーが低く、半導体製造で使われるEUV露光装置の出力もまだ低いため、レジストには高い感度が求められます。

  • 高原子番号元素の選択:
    • SnやZrなどの原子番号が比較的大きい金属元素は、有機ポリマーに含まれる炭素 (C) や酸素 (O) に比べて、EUV光(特に 13.5 nm)を効率よく吸収する性質があります。
    • 高い吸収効率は、少ない露光量(低ドーズ量)で必要な化学反応(架橋)を引き起こすことを可能にし、レジストの感度を向上させ、半導体製造のスループット(生産能力)向上に貢献します。

2. 優れたエッチング耐性 (高解像度化)

 回路パターンを基板に転写する際、レジスト膜は下地の材料を削るエッチング工程からパターンを保護する必要があります。

  • 金属酸化物構造の硬さ:
    • Snや Zrなどの金属原子を含む有機金属化合物がEUV光によって露光されると、堅固な金属酸化物のクラスター構造に変化し、硬化します。
    • この金属酸化物は、従来の有機ポリマーを主成分とするレジストに比べてエッチングガスに対する耐性が非常に高く、レジストが薄くてもパターンを保護できます。
  • パターンの高アスペクト比化:
    • エッチング耐性が高いことで、レジスト膜を薄くすることが可能となり、微細なパターンが倒れてしまう現象(パターンコラプス)を防ぎ、より高精細で高アスペクト比(高さ/幅の比)のパターン形成が実現します。

その他の利点

  • 低ラフネス: SnyaZrは原子レベルで均一な金属クラスター構造を形成しやすく、EUV光との反応が均一になるため、パターンの側壁の凹凸(LWR/LER:線幅ラフネス・線端ラフネス)を低減し、解像度パターンの忠実度を向上させます。

これらの特性から、Sn やZr をコアとする金属化合物は、現在のEUVリソグラフィ、そして次世代の高NA EUVリソグラフィにとって、最も有望なMOR材料として研究開発が進められています。

スズ (Sn) やジルコニウム (Zr} は、EUV光を効率よく吸収し、レジストの感度を上げるためです。また、露光後にできる金属酸化物がエッチング耐性に優れ、高精細なパターン形成を可能にします。

金属酸化物レジストはどのように製造されるのか

 金属酸化物レジスト(MOR)は、主にゾルゲル法などの湿式プロセスを用いて、レジスト原料(有機修飾金属化合物)を合成することで製造されます。

 製造されたレジスト原料は、最終的に溶媒に溶解され、半導体ウェハに塗布するためのフォトレジスト液として提供されます。


MORの製造・合成プロセス

 MORは、従来の有機ポリマーレジストとは異なり、主に金属原子のクラスター構造を利用するため、その合成には特殊な技術が用いられます。

1. レジスト原料の合成(湿式プロセス)

 MORの核となるのは、スズ やジルコニウム (Zr) などの金属原子に、有機分子(カルボン酸など)が結合した有機修飾金属化合物です。

  • ゾルゲル法(代表的な合成法)
    • 金属前駆体(例:オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム)を水溶液溶媒に溶解します。
    • この溶液に、有機リガンド(金属原子と結合する有機分子)やを加え、特定の条件下で撹拌・反応させます。
    • この反応により、金属原子と有機分子が結合し、ナノサイズの金属酸化物クラスター(またはその前駆体)が溶液中に生成します(ゾルの状態)。

2. 精製・分離・乾燥

  • 溶液中で生成したナノ粒子(金属化合物)を、遠心分離やろ過などによって分離・回収します。
  • 回収した生成物を洗浄・乾燥させることで、白色粉末状のMOR原料(有機修飾金属酸化物ナノ粒子)が得られます。このプロセスで、不純物や未反応の原料が除去されます。

3. フォトレジスト液の調製

  • 乾燥・精製されたMOR原料の粉末を、半導体製造工程で使用するのに適した溶媒(有機溶剤)に均一に溶解させます。
  • 必要に応じて、レジストの性能を調整するための添加剤が加えられます。
  • 最後に、超精密なろ過を行い、不純物や大きな粒子を徹底的に除去することで、ウェハへの塗布に耐えうる高純度のMORフォトレジスト液が完成します。

その後の工程(ユーザー側)

 完成したレジスト液は、半導体工場で以下の工程で利用されます。

  1. 塗布(スピンコート):ウェハ上に均一に塗布し、乾燥(プリベーク)させてレジスト膜を形成。
  2. 露光:EUV光を照射して、金属化合物が金属酸化物に変化し、硬化(パターン形成)。
  3. 現像:未露光部(未硬化の金属化合物)を除去。

 MORの合成では、得られるナノ粒子のサイズ均一性が、レジストの解像度やラフネス(LWR/LER)に直結するため、上記合成プロセスにおける温度、濃度、反応時間の厳密な管理が極めて重要となります。

ゾルゲル法などの湿式プロセスで、金属原子を含む原料(有機修飾金属化合物)を合成・精製します。このナノ粒子を溶媒に溶解し、超精密にろ過することでフォトレジスト液として調製されます。

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