この記事で分かること
- マレーシア事業内容:半導体を製品化する「後工程」(組立・パッケージング・テスト)であり、先進パッケージング技術の重要なグローバルハブです。また、ソフトウェア開発や各種サポート機能も担っています。
- 追加投資の理由:微細化の限界に対応するため、FoverosやEMIBなどの先進パッケージング技術を強化中です。マレーシアは、この技術を用いた後工程のグローバルハブとして戦略的地位が高まっているため、AIチップなどの需要増に対応するため追加投資を行います。
- FoverosやEMIBとは:どちらもインテルが開発した先進パッケージング技術です。Foverosはチップを縦方向(3D)に積層し、EMIBはチップ間で高密度・高速接続を実現するシリコンの小さな橋をパッケージ内部に埋め込む技術です。
インテルのマレーシアへの追加投資
インテルがマレーシアでの事業に対して、8億6,000万リンギット(約2億800万米ドル、約310億円相当)規模の追加投資を行う計画が報じられています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-12-02/T6MLVCKK3NY900
マレーシアは、インテルにとって米国以外で最大の拠点の一つであり、これらの投資を通じて、半導体の製造・パッケージングにおけるグローバルなハブとしての役割をさらに強化していくと見られます。
インテルのマレーシアでの事業内容は
インテルがマレーシアで展開している事業は非常に多岐にわたり、同社にとって米国以外で最大の拠点となっています。
主な事業内容は、半導体製造の「後工程」と、研究開発・サポート機能である「グローバル・サービス・センター(GSC)」の2つに大別されます。
1. 半導体の「後工程」製造
マレーシアの工場(主にペナンとクダ州クリム)では、半導体製造プロセスのうち、製品を完成させるための最終工程を担っています。
| プロセス | 詳細 |
| ダイシング | ウェハーから個々の半導体チップ(ダイ)を切り出す工程。 |
| ダイソート | 切り出されたダイの品質と性能を検査し、どのCPU製品(SKU)になるかを決定する極めて重要な検査工程。 |
| アセンブリ | ダイを基板に搭載し、熱伝導材の塗布やヒートスプレッダ(放熱用の蓋)の貼り付けなどを行い、最終的なCPUの形に組み立てる工程。 |
| パッケージング | アセンブリの一部として、ダイを保護し、外部との接続を可能にするためのパッケージに封入する工程。特にマレーシアは、高度な技術を要する「Advanced Packaging(先進パッケージング)」技術の重要な拠点を担当しています。 |
| テスト(試験) | 完成したCPUが正常に動作するかどうか、さまざまな条件で最終確認を行う工程。 |
インテルにとって、マレーシアは「Advanced Packaging」を含む後工程すべてを担当している数少ない、または唯一の地域であり、その重要性が高まっています。
2. グローバル・サービス・センター(GSC)
マレーシアには、半導体製造以外の多様な機能を集約したグローバル・サービス・センター(GSC)も設置されています。
- 研究・開発 (R&D): 半導体および関連コンピューターデバイスの研究、設計、開発。
- コーポレート機能: 財務、人事(HR)、IT、調達(購買)など。
- ビジネス・サポート: 製造、物流、倉庫保管、営業サービスに関連したサポート活動。
このように、インテルのマレーシア拠点は、単なる製造拠点にとどまらず、グローバルなオペレーションを支えるハイテク製造とサポートサービスの複合的なハブとしての役割を果たしています。

主な事業は、半導体を製品化する「後工程」(組立・パッケージング・テスト)であり、先進パッケージング技術の重要なグローバルハブです。また、ソフトウェア開発や各種サポート機能も担っています。
追加投資する理由は
インテルがマレーシアでの事業に追加投資を行う主な理由は、半導体の「後工程」の重要性が世界的に高まっていることと、マレーシアがその分野のグローバルハブとして戦略的に優位であるためです。理由は大きく以下の3点にまとめられます。
1. 「後工程(パッケージング)」の技術革新への対応
- ムーアの法則の限界: 半導体の回路線幅を微細化して性能を向上させる(前工程)ことが難しくなっています。
- 3Dパッケージング技術の台頭: そこで、複数の異なるチップ(CPU、グラフィックス、メモリなど)を一つのパッケージ内で立体的に積み重ねたり、横に並べて接続したりする「先進パッケージング(Advanced Packaging)」技術が、次世代チップの性能向上の鍵となっています。
- マレーシアの役割: インテルは、この高度な3Dパッケージング(例:Foveros)などの技術をマレーシアの拠点に集約し、最先端チップの量産体制を強化しています。
2. 世界的な半導体サプライチェーンの再構築
- リスク分散と地政学的リスク: 特定の地域に製造が集中するリスクを避けるため、米中どちらにも偏らない政治的に安定したマレーシアを、製造・組立の重要拠点として強化する狙いがあります。
- AIチップへの需要増加: AI向けチップなどの高度な半導体は、複雑なパッケージングと厳密なテストが求められます。マレーシアの拠点を強化することで、急増する高性能チップの需要に対応しようとしています。
3. マレーシアの優位性
- 優遇措置: マレーシア政府は、新規投資企業に対して長期の法人税免除などの手厚い優遇措置を提供しており、初期投資コストの削減に繋がります。
- インフラと実績: インテルは長年にわたりマレーシアで事業を展開しており、実績のあるインフラと熟練した人材の蓄積があるため、生産能力を迅速かつ確実に拡大できます。

インテルは、微細化の限界に対応するため、FoverosやEMIBなどの先進パッケージング技術を強化中です。マレーシアは、この技術を用いた後工程のグローバルハブとして戦略的地位が高まっており、AIチップなどの需要増に対応するため追加投資を行います。
インテルの後工程の特徴は
インテルの後工程(組立・パッケージング・テスト)の最大の特徴は、複数の異なる半導体チップを一つのパッケージに統合する「先進パッケージング技術」にあります。
これは、従来の「微細化(前工程)」の限界を克服し、性能を向上させるための重要な戦略です。
1. 先進パッケージング技術の採用
インテルは特に以下の2つの技術を強みとしています。
- Foveros(フォベロス):
- 複数のロジックダイ(チップ)を縦方向(3D)に積層する技術です。
- CPUやNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)など、異なる機能を持つチップを立体的に統合することで、小型化と高性能化を同時に実現します。
- EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge):
- 巨大なシリコン基板(インターポーザ)全体を使う代わりに、チップ同士をつなぎたい必要な部分にだけシリコンの小さな「橋(ブリッジ)」を埋め込む技術です。
- これにより、従来の技術(TSMCのCoWoSなど)に比べて製造コストを低く抑えつつ、高密度・高速な接続を実現できる優位性があります。
2. 後工程の戦略的地位の向上
- 「システム・オン・パッケージ」への移行:
- これらの技術により、インテルは、単一の大きなチップではなく、複数のチップレット(小さな機能別チップ)をパッケージ上で組み合わせる「システム・オン・パッケージ」という設計アプローチを可能にしています。
- この戦略は、今後のAIチップなど、巨大化・複雑化する高性能チップ製造において、性能を左右する「主戦場」になると位置づけられています。
マレーシアは、この先進パッケージング技術と、その後の複雑なテスト(最終検査)を行うためのグローバルな中核拠点としての役割を担っています。

インテルの後工程は、先進パッケージング技術であるチップを縦に積層するFoverosや、ブリッジで接続するEMIBによって、微細化の限界を超える高性能なシステム・オン・パッケージを実現する戦略的中核です。

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