SKハイニックスのEUVフォトレジストの国産化 EUVフォトレジストとは何か?国産化を検討する理由は?

この記事で分かること

  • EUVフォトレジストとは:最先端半導体の超微細回路形成に必須の感光性化学材料です。波長13.5nmの極端紫外線(EUV)を使い、シリコンウェーハにナノスケールのパターンを描画します。
  • 製造法と難しい部分:精密に合成した高分子や光酸発生剤を超高純度に配合・ろ過して製造されます。難しい点は、感度・解像度・線幅の均一性(3 R)を両立させ、超微細異物を除去することです。
  • 国産化を検討する理由は:EUVフォトレジストは日本が90%以上のシェアを持っているため、特定の国への依存リスク低減とサプライチェーンの安定化が目的です。これにより、国際情勢に左右されない技術的自立と半導体産業の競争力強化を図ります。

SKハイニックスのEUVフォトレジストの国産化

 SKハイニックスは、EUV(極端紫外線)フォトレジストの国産化に本格的に着手しています。

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/recordchina/world/recordchina-RC_965802

これは、先進半導体材料のサプライチェーン強化と、半導体製造における競争力向上を目指した取り組みです。

EUVフォトレジストとは何か

 EUV(極端紫外線)フォトレジストは、最先端の半導体製造に不可欠な感光性材料(化学薬品)です。

 これは、従来の光(紫外線)よりもはるかに波長の短い極端紫外線(Extreme Ultraviolet, EUV、波長13.5ナノメートル)を利用して、シリコンウェーハ上にナノメートルスケールの超微細な回路パターンを描くために使用されます。


EUVフォトレジストの役割

 フォトレジストは、半導体製造の中核であるフォトリソグラフィ(写真製版)工程で使用されます。

  1. 塗布: シリコンウェーハの表面に液体状のフォトレジストを均一に薄く塗布します。
  2. 露光(EUV照射): フォトマスク(回路の原版)を通して、EUV光をレジスト膜に照射します。
  3. 化学変化: EUV光が当たった部分(または当たらなかった部分)のレジストで化学反応が起こり、溶解性が変化します。
    • ポジ型:露光された部分が溶解しやすくなる。
    • ネガ型:露光された部分が溶解しにくくなる(硬化する)。
  4. 現像: 専用の現像液で処理することで、溶解性が変化した部分だけを除去し、マスクの回路パターンを忠実にウェーハ上に形成します。
  5. エッチング: レジストで保護されていない部分のウェーハを削り、回路を定着させます。

 EUVフォトレジストは、このプロセスを通じて、最先端の7nm、5nm、3nmといった微細な回路を実現するための「描画インク」のような役割を果たしています。


EUVフォトレジストの仕組みと組成

 従来のフォトレジストと異なり、EUVフォトレジストはEUV光の特性に対応するための特殊な組成と仕組みを持っています。

1. 化学増幅型レジスト(CAR: Chemically Amplified Resist)

 現在主流のEUVレジストで、以下の主要な構成要素を持ちます。

  • ベース樹脂(ポリマー): パターンを形成する骨格となる高分子。膜の強度やウェーハへの密着性を担います。
  • 光酸発生剤(PAG: Photo Acid Generator): EUV光を受けてを発生させる成分。
  • クエンチャー: 発生した酸を中和し、酸の拡散を精密に制御してパターンの均一性(解像度)を高める添加剤。
仕組み

 EUV光がレジストに当たると、レジスト中のポリマーがイオン化し、二次電子を放出します。この二次電子がPAGに吸収されることで酸が発生します。

 その後、熱処理(PEB: Post Exposure Bake)を行うと、この酸が触媒となってポリマーの溶解性を変化させる連鎖的な増幅反応を引き起こします。これにより、わずかなEUV光のエネルギーでも十分な化学変化を起こし、高感度を実現しています。

2. メタルレジスト(金属含有レジスト)

 次世代の有力候補として開発が進められているのが、スズ(Sn)ハフニウム(Hf)などの金属原子をレジストに含有させたものです。

特徴
  • 金属原子がEUV光を効率よく吸収するため、感度が大幅に向上します。
  • 薄い膜厚でも高いエッチング耐性を持ち、パターンの倒れを防いで解像度の向上に貢献します。

産業における位置づけ

E UVフォトレジストは、高い技術的難易度から、その研究開発と製造は日本企業が世界的に圧倒的なシェアを占めています。韓国をはじめとする各国が、サプライチェーン安定化のために国産化を目指している、戦略上極めて重要な核心素材です。

EUVフォトレジストは、最先端半導体の超微細回路形成に必須の感光性化学材料です。波長13.5nmの極端紫外線(EUV)を使い、シリコンウェーハにナノスケールのパターンを描画します。

EUVフォトレジストの製造方法と難しい点は

 EUV(極端紫外線)フォトレジストの製造は、高度に精密な化学合成と配合技術を要します。

E UVフォトレジストの製造プロセスは、主に原料となる化合物の精密合成と、それらを組み合わせた最終的なレジスト液の配合・精製に分けられます。


EUVフォトレジストの主要な製造工程

 EUVフォトレジストは、主に化学増幅型レジスト(CAR)が使われます。その製造は、複数の構成要素の合成と配合から成ります。

1. 各構成要素の合成

 EUVフォトレジストは、主に以下の3つの主成分から構成されます。

構成要素役割と合成のポイント
ベース樹脂(ポリマー)EUV光に反応する光酸発生剤(PAG)と反応して溶解性が変化する高分子。高解像度とエッチング耐性を両立させるため、精密な分子設計と重合反応による合成が必要です。
光酸発生剤 (PAG)EUV光のエネルギーを吸収し、触媒となるを効率よく発生させる分子。純度熱安定性が重要です。
クエンチャー発生した酸の拡散を極めて精密に制御し、パターンの線幅の均一性を向上させる添加剤。
2. 最終製品の配合・精製
  1. 溶解・混合: 合成されたベース樹脂、PAG、クエンチャーを、特定の溶剤に均一に溶解し、混合します。
  2. 超高純度ろ過: フォトレジストは、ナノメートルレベルの回路形成に使われるため、不純物や異物(パーティクル)が極めて厳しく制限されます。このため、多段階の精密ろ過が不可欠です。数ナノメートル単位の異物を除去するため、特殊なフィルターとクリーンな環境が必要です。
  3. 品質管理: 配合されたレジスト液の粘度、感度、解像度などの性能を厳しく測定し、均一性が保証されたものだけが出荷されます。

製造の難しい点(技術的な課題)

 EUVフォトレジストは、半導体製造の限界を押し広げる素材であるため、従来のフォトレジストにはない非常に難しい技術的課題があります。

1. パターン精度の限界(LER/LWRの克服)
  • LER (Line Edge Roughness) / LWR (Line Width Roughness): これは、回路パターンの端(エッジ)の粗さや、線幅の不均一さを指します。線幅が細くなるほど、わずかな粗さが回路性能に与える影響が無視できなくなります。
  • 課題: EUV光がレジストに当たって酸が発生し、溶解性が変化するプロセスが統計的に不均一になる(ランダム性を持つ)ため、どうしてもパターンエッジが粗くなります。このランダム欠陥を最小限に抑える材料設計とプロセス制御が極めて困難です。
2. EUV光への感度と解像度のトレードオフ

EUVフォトレジストは、以下の3つの要素(「3 R」)すべてを同時に満たすことが非常に困難です。

要素課題
感度 (Sensitivity)EUV露光装置は非常に高価であり、製造速度(スループット)を高めるため、わずかなEUV光で十分反応する高感度が求められます。
解像度 (Resolution)微細な線幅(例:3nm、5nm)を正確に分離して描き出す分解能が求められます。
ラフネス (Roughness)前述のLER/LWRを低く抑える必要があります。

 一般的に、感度を上げると、酸の拡散距離が大きくなり解像度ラフネスが悪化しがちです。逆に解像度を追求すると、高エネルギーの露光が必要となり感度が低下します。この「3 R」の同時最適化が、EUVフォトレジスト開発の最大の壁です。

3. 超高純度化と安定性の確保
  • 異物管理: ナノメートルスケールの回路に影響を与える数nmの異物でも致命的な欠陥となるため、原料の合成、溶剤、そして最終製品のろ過工程すべてにおいて、極限まで純度を高める必要があります。
  • 長期安定性: フォトレジストは製造されてから使用されるまでの間に、性能が変化しないよう高い化学的安定性が求められます。

これらの高度な技術的障壁のため、EUVフォトレジストは特定の日本企業が世界市場を独占している戦略的な先端材料となっています。


EUVフォトレジストは、精密に合成した高分子や光酸発生剤超高純度に配合・ろ過して製造されます。難しい点は、感度・解像度・線幅の均一性(3 R)を両立させ、超微細異物を除去することです。

国産化を進める理由は何か

 SKハイニックスや韓国政府がEUVフォトレジストなどの半導体素材の国産化を進める主な理由は、サプライチェーンの安定化技術的自立の確保による国家的な競争力強化にあります。


サプライチェーンの安定化とリスク回避

 半導体製造に必要な主要な素材や部品を、特定の国、特に日本からの輸入に100%依存している現状は、韓国の半導体産業にとって最大のリスクです。

  • 輸出管理リスク: 2019年7月に日本政府がフッ化水素、フッ化ポリイミド、そしてEUVフォトレジストを含む主要3品目の対韓輸出管理を厳格化した際、韓国の半導体メーカーは供給停止の危機に直面しました。国産化は、こうした政治的・外交的な要因による供給途絶のリスクを根本的に排除します。
  • 地政学リスク: 国際情勢や貿易摩擦の影響を受けにくくし、安定した原材料調達ルートを確保することが可能になります。

技術的競争力の強化とコスト削減

 国産化は、単にリスクを回避するだけでなく、技術的な優位性を高める目的もあります。

  • 技術の自立: 核心素材の技術を自国内で保有し、研究開発を進めることで、海外メーカーの技術動向に左右されず、自社の半導体微細化の要求に合わせて柔軟かつ迅速に素材を開発・改良できるようになります。
  • コスト競争力: 長期的には、輸入コストやライセンス費用を削減し、製造コスト競争力を高めることができます。
  • 協力体制の構築: 半導体メーカーと素材メーカー(SKハイニックスと東進セミケムなど)が緊密に連携し、試作品のテストや改良を素早く行う垂直連携の強化につながります。

国家戦略としての推進

 半導体産業は韓国経済の屋台骨であり、その競争力維持は国家の最優先事項です。

  • 韓国政府は「素材・部品・装置(ソブジャン)」産業の育成を国家戦略として掲げており、大規模な研究開発投資や税制優遇を通じて、半導体サプライチェーンの自給率向上を強く後押ししています。

 国産化は「万が一の供給リスクをなくす」ための保険であると同時に、「未来の技術競争に勝ち抜く」ための戦略的な投資なのです。

主な理由は、特定の国への依存リスク低減サプライチェーンの安定化です。これにより、国際情勢に左右されない技術的自立半導体産業の競争力強化を図ります。

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