この記事で分かること
- 4ナノ半導体を検討する理由:AI半導体の処理能力と電力効率への要求が高いためです。当初の予定である6ナノより高性能な4ナノを導入することで、急成長するAI市場の需要に対応し、日本政府からの巨額な補助金と国内サプライチェーン強化を狙います。
- 6ナノと4ナノの製造工程での違い:高性能化のため、4ナノではEUV露光の適用が増え、GAAFETなどの次世代トランジスタ構造への移行が進むなど、製造難易度がさらに高くなります。
TSMC熊本第2工場での4ナノメートル半導体検討
半導体受託生産の世界最大手であるTSMCが、熊本県で建設を検討している第2工場において、当初計画されていた6ナノメートル(nm)よりもさらに先端的な回路線幅である4ナノメートルの半導体、特にAI(人工知能)半導体の生産を検討しているという報道があります。

TSMCの熊本進出は、日本国内の半導体サプライチェーンの強化と、熊本地域の経済・雇用の活性化に大きく貢献すると期待されています。
6ナノと4ナノの製造工程の違いは何か
6ナノメートル(nm)プロセスと4ナノメートル(nm)プロセスは、どちらも非常に微細な先端半導体の製造技術ですが、主に以下の点で技術的な違いと進化が見られます。
1. トランジスタ構造の進化
半導体の性能を左右する最も重要な違いは、電子が流れるスイッチであるトランジスタの構造にあります。
- 6nmプロセス(および従来の先端プロセス)
- 構造: 主にFinFET(フィンFET)構造が用いられます。
- 特徴: FinFETは、シリコンをヒレ(Fin)のように立てることで、ゲート(スイッチ部分)がチャネル(電子の通り道)の3側面を覆い、電流の制御性(リーク電流の抑制)を大幅に向上させた3次元構造です。微細化の限界を大きく押し広げました。
- 4nmプロセス(およびその次の世代)
- 構造: FinFETを基盤としつつ、Gate-All-Around (GAA) FET、またはその一種であるMBCFET (Multi-Bridge-Channel FET)と呼ばれる次世代の構造への移行が始まります。(主要メーカーのTSMCは4nm/3nmでFinFETの改良版を、Samsungは3nmでGAAを導入するなど、メーカーによって移行時期に若干の違いがあります。)
- GAA/MBCFETの特徴: チャネル(電子の通り道)をナノシート状にし、ゲートがこれを全周囲(Gate-All-Around)から完全に覆う構造です。これにより、FinFETよりもさらにリーク電流を抑制し、駆動電流(性能)と電力効率を大幅に向上させることができます。
2. 回路の微細化と集積度の向上
- ナノメートル(nm)の定義: ナノメートルは、トランジスタの回路線幅の世代を表す指標です。数字が小さくなるほど、回路線幅が細くなり、一つのチップにより多くのトランジスタを集積できるようになります。
- 4nmプロセスは6nmプロセスよりもトランジスタをより密に配置できるため、同じ面積でも高性能(トランジスタ数の増加)と低消費電力(電流経路の短縮など)を実現できます。
3. 製造技術(露光技術)の進化
微細な回路パターンをシリコンウェハに焼き付ける「露光」の工程でも、より高度な技術が必要になります。
- 極端紫外線(EUV)露光:
- 6nmや4nmといった先端プロセスでは、従来のArF液浸露光だけでは限界があり、波長が極めて短いEUV(Extreme Ultraviolet Lithography)露光技術の使用が増えます。
- 特に4nmでは、より多くの層にEUV露光を適用する必要があり、製造工程がさらに複雑化し、コストも上昇します。
まとめ
| 項目 | 6ナノメートル (6nm) プロセス | 4ナノメートル (4nm) プロセス |
| トランジスタ構造 | 主にFinFET(第3世代3D構造) | FinFETの改良版、あるいはGAAFETへ移行 |
| チップの性能 | 高性能 | さらに高性能・高効率 (AI半導体向け) |
| 集積度 | 高い | より高い(チップ面積あたりのトランジスタ数増) |
| 製造難易度 | 高い | 非常に高い(EUV適用層の増加など) |
TSMCが熊本第2工場で4nmの生産を検討しているのは、高性能・高効率が求められるAI半導体市場の需要に、最先端の技術で応えるためと考えられます。

4ナノは6ナノより回路線幅が細く、より多くのトランジスタを集積できます。高性能化のため、4ナノではEUV露光の適用が増え、GAAFETなどの次世代トランジスタ構造への移行が進むなど、製造難易度がさらに高くなります。
4ナノの検討を進める理由は何か
TSMCが熊本の第2工場で、当初計画の6ナノからさらに先端の4ナノプロセスの導入を検討する最大の理由は、AI(人工知能)半導体市場の爆発的な成長と、それに伴う最先端チップの需要増に対応するためです。
1. AI半導体の高性能化と需要の急増
- 高性能・高効率の追求: AIの処理、特に大規模言語モデル(LLM)のような複雑な演算を高速かつ低消費電力で行うには、極めて集積度が高く、高性能なチップが必要です。4ナノプロセスは、6ナノよりもトランジスタをより多く、より密に配置できるため、AIチップ(GPUやASICなど)の性能と電力効率を大幅に向上させることができます。
- 市場の牽引: AI半導体市場は2030年までに年間成長率30%以上を記録すると予測されており、半導体メーカーにとって最先端技術を投入してでも注力すべき、最も成長性の高い分野となっています。
2. サプライチェーンにおける戦略的意義
- 国内最先端技術の確保: 日本国内で4ナノの量産体制を整えることで、日本政府が推進する経済安全保障の観点からも、国内での先端半導体のサプライチェーンを強固にすることができます。
- 顧客(AI関連企業)の要求対応: TSMCは、世界中の主要なAIチップ設計企業(NVIDIA、AMDなど)の製造を一手に引き受けています。これらの顧客は常に最新・最速のプロセス技術を求めており、4ナノの提供は顧客基盤の維持・強化に不可欠です。
3. 日本政府からの支援
- 巨額の補助金: TSMCがより高度な技術(4ナノ)を日本に導入する場合、日本政府は最大9,000億円規模の巨額の補助金を検討していると報じられています。この支援策も、TSMCが日本で先端プロセスの導入に前向きになる大きな後押しとなります。
これらの要因から、TSMCは熊本第2工場を「AI時代を支える最先端の製造拠点」として位置づけ、世界的な競争力を高めるために4ナノプロセスの導入を検討していると考えられます。

AI半導体の処理能力と電力効率への要求が高いためです。6ナノより高性能な4ナノを導入することで、急成長するAI市場の需要に対応し、日本政府からの巨額な補助金と国内サプライチェーン強化を狙います。
第一工場の状況はどうか
TSMCの日本法人であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が運営する熊本県菊陽町の第1工場は、計画通りに稼働しており、現在、量産体制に入っています。
1. 稼働・量産開始の状況
- 建屋完成: 2023年12月に建屋が完成しました。
- 開所式: 2024年2月に開所式が挙行されました。
- 量産開始: 2024年12月に計画通りに量産を開始したことが公表されています。
2. 生産技術と用途
- 回路線幅: 12~28ナノメートル(nm)のロジック半導体を生産しています。
- 主な用途: イメージセンサー、車載半導体(自動車制御/自動運転システム等)、民生機器などです。
- 生産能力: 月産5.5万枚(12インチウェハ換算)を予定しています。
- 出資企業への供給: ソニーグループやデンソーといった出資企業へ供給される見込みです。
3. 環境への取り組み
- 水資源: 半導体製造に不可欠な水の利用については、排水を高度に処理し、平均約75%の水をリサイクルする取り組みを進めており、取水量の100%以上を地下水涵養(かんよう)で還元しています。
4. 投資と支援
- 総投資額: 約1兆3,000億円です。
- 日本政府の補助金: 日本政府は最大4,760億円の補助金を提供しています。
T SMC熊本工場は、量産開始後初めて、工場内部の一部をメディアに公開し、水処理の取り組みを強調しました。

2024年2月に開所式が行われ、2024年12月に量産を開始しています。12〜28ナノメートルの技術で車載用や民生用の半導体を生産し、日本国内の安定供給に貢献しています。

コメント