この記事で分かること
- 熱で変形が起こる理由:基板やパッケージを構成する複数の材料(樹脂、銅、シリコンなど)の熱膨張率が異なるためです。温度が変化すると、熱膨張率の差により内部に応力(熱応力)が発生し、その不均一な応力によって全体が湾曲します。
- 測定方法:基板にランダムな白黒パターンを付け、専用のステレオカメラで加熱・冷却中の様子を連続撮影します。画像解析でパターン変位を追跡し、3次元デジタル画像相関法(3D DIC)で高精度に反り量を算出します。
- 変形の測定需要が高まっている理由高集積化でデバイスの発熱が増え、微細なはんだ接合部に大きな熱応力がかかるためです。わずかな反りも接続不良やクラックにつながり、信頼性確保のため需要が高まっています。
エスペックの熱変形計測サービス
エスペック(ESPEC)は、電子基板や半導体パッケージの「熱変形計測サービス」を拡充し、温度変化による変形(反りなど)を測定するサービスを提供しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF089KO0Y5A201C2000000/
これは、電子デバイスの高性能化・高密度化に伴い、発熱量が増加し、基板の熱変形が接続信頼性に大きな影響を与えるため、その対策や設計・検証を支援するために開始・拡充されたものです。
なぜ温度変化で反りが起こるのか
温度変化によって電子基板に「反り」(変形)が発生する主な理由は、異なる材料の熱膨張率の違いと、それに起因する熱応力です。
1. 異なる材料の複合構造
電子基板(プリント配線板)や半導体パッケージは、単一の材料ではなく、以下のような熱膨張率(CTE: Coefficient of Thermal Expansion)が大きく異なる複数の材料で構成された複合構造になっています。
- 基板材料: ガラスエポキシ(FR-4)、ポリイミドなど
- 導体材料: 銅(配線、ビア)
- 半導体パッケージ: シリコン(ICチップ)、封止材(モールド樹脂)、各種はんだ
2. 熱膨張率の違い (CTEミスマッチ)
材料は温度が上昇すると膨張し、下降すると収縮します。この際の膨張・収縮の割合を示すのが熱膨張率です。
- 例: 一般的に、樹脂材料(基板)は金属(銅)やセラミック(シリコン)に比べて熱膨張率が非常に大きいです。
温度が変化すると、熱膨張率の大きい材料は大きく膨張・収縮しようとし、熱膨張率の小さい材料は小さく膨張・収縮しようとします。
3. 熱応力の発生と反り
複合構造の場合、それぞれの材料は単独で膨張・収縮することができず、接合部(例えば、銅箔と樹脂層、チップと封止材など)でお互いを拘束し合います。
- 温度上昇時: 熱膨張率の大きい材料(例:基板の樹脂層)が、小さい材料(例:銅層やICチップ)に引っ張られ、圧縮応力を受けます。
- 温度下降時: 熱膨張率の大きい材料が、小さい材料に押さえつけられ、引張応力を受けます。
この拘束された状態で発生する内部応力を熱応力と呼びます。この熱応力が基板全体で均一ではない場合、力の釣り合いを取ろうとして、全体が湾曲し、目に見える「反り」として現れます。
4. 反りの影響
この反り(熱変形)は、特に製造プロセス(リフロー工程)や製品の使用環境(熱サイクル試験)において、以下のような問題を引き起こすため、計測と対策が重要になります。
- 実装不良: 部品の接合部に隙間ができたり、はんだ付け不良(オープン、ショート)が発生する。
- 接続信頼性の低下: 熱サイクルが繰り返されることで、熱応力によるひずみが蓄積し、はんだ接合部にクラック(亀裂)が発生する。
- 接触不良: コネクタやソケットとの接触不良を引き起こす。
エスペックのサービスは、まさにこの「熱応力による変形」を定量的に測定し、設計を改善するために利用されます。

温度変化で反りが起こるのは、基板やパッケージを構成する複数の材料(樹脂、銅、シリコンなど)の熱膨張率が異なるためです。温度が変化すると、熱膨張率の差により内部に応力(熱応力)が発生し、その不均一な応力によって全体が湾曲します。
どのように反りを測定するのか
エスペックが提供する電子基板の熱変形計測サービスでは、主に3次元デジタル画像相関法(3D DIC: Digital Image Correlation)という非接触の光学測定技術が用いられます。
この方法は、温度変化中の基板表面全体の変位(反り)を高精度に、そして連続的に測定することを可能にします。
1. 3次元デジタル画像相関法(3D DIC)の原理
3D DICは、ステレオカメラ(2台のデジタルカメラ)を使用して、物体の表面形状と変位を3次元で捉える技術です。
測定のステップ
- ランダムパターンの付与(スペックルパターン)
- 計測対象の基板表面に、コントラストの高いランダムな白黒の模様(スペックルパターン)をスプレーなどで塗布します。
- この模様が、測定時の追跡ポイント(特徴点)の役割を果たします。
- ステレオカメラによる撮影
- 基板を専用の恒温槽や加熱装置内に設置し、温度を変化させます。
- 変形前の初期状態と、温度変化によって変形した後の状態を、2台のカメラで連続的に撮影します。
- 画像解析と変位の計算
- 画像解析ソフトウェアが、撮影された一連の画像を比較します。
- 基板表面の小さな領域(サブセット)ごとに、ランダムパターンの変形前後の位置のズレ(変位)を追跡します。
- 2台のカメラ画像から得られたデータと、事前に校正したカメラ情報(ステレオ法)を用いて、このズレを3次元座標の変化(x, y, z方向の変位)として高精度に計算します。
- このz方向(厚さ方向)の変位が、「反り」として測定されます。
- 結果の可視化
- 測定された3次元変位データに基づき、基板表面全体の反り量(変位分布)やひずみ分布が、色の濃淡で表現されたコンター図として可視化されます。
2. 測定環境の構築
エスペックのサービスでは、温度変化による反りを正確に測定するために、基板をリフロー工程などの実環境に近い熱履歴にさらします。
- 温度制御: スポット冷却加熱装置や専用の恒温槽/チャンバーを使用し、-40℃からリフロー炉の温度である最高260℃までの幅広い温度範囲で、基板の温度を精密に制御します。
- 非接触測定: 3D DICは基板に接触しないため、測定対象に物理的な影響を与えずに、加熱・冷却中の変形プロセス全体を連続的に測定できます。
3. 他の測定方法との比較
以前は以下の方法も用いられていましたが、3D DICは非接触で、かつ面全体の詳細な変位を一度に把握できる点で優れています。
| 測定方法 | 概要 | 特徴 |
| シャドウモアレ法 | グレーティング(スリットガラス)と光の干渉縞(モアレ縞)を解析して高さを測定する。 | 全面測定が可能だが、測定可能温度や精度に制約がある場合がある。 |
| レーザー変位計 | レーザー光を当てて、各測定ポイントの高さを測る。 | ポイントごとの高精度な測定が可能だが、面全体を測定するには時間がかかる。 |
エスペックのサービスは、この3D DICを活用することで、基板の熱変形挙動を定量的に解析し、設計検証や信頼性向上に貢献します。

基板にランダムな白黒パターンを付け、専用のステレオカメラで加熱・冷却中の様子を連続撮影します。画像解析でパターン変位を追跡し、3次元デジタル画像相関法(3D DIC)で高精度に反り量を算出します。
反りの測定需要が高まっている理由は
反り(熱変形)の測定需要が高まっている理由は、主に以下の電子デバイスのトレンドとそれに伴う信頼性の問題に集約されます。
1. デバイスの高性能化と発熱量の増加
- 高密度実装と高性能化: CPU、GPU、メモリなどの半導体チップの高性能化が進み、一つのパッケージや基板に集積されるトランジスタ数が増加しています。
- 発熱の増大: これに伴い、動作時の発熱量が飛躍的に増大しています。基板が晒される温度環境(特にリフロー時や動作時)が厳しくなっています。
2. 接続構造の微細化と信頼性の低下
- パッケージの進化: BGA(Ball Grid Array)やLGA(Land Grid Array)など、半導体パッケージと基板の接合に用いられるはんだボールが、より微細なピッチで多数配置されるようになっています。
- 熱応力の集中: はんだボールが微細化すると、基板やパッケージのわずかな反りであっても、はんだ接合部に加わる熱応力(ひずみ)が極端に集中しやすくなります。
- 信頼性の確保が困難に: わずかな反りが、製造時の接合不良(はんだの未溶融、オープン)や、動作中の熱サイクルによるクラック(疲労破壊)といった致命的な接続信頼性の低下を招きやすくなっているため、許容できる変形量が非常に厳しくなっています。
3. 異種材料の複雑な積層構造
- 複合材料の増加: 基板は、低誘電率材料、高Tg材、フレキシブル材料など、多様な材料が組み合わされた複雑な積層構造になっています。
- CTEミスマッチの増大: 前述したように、これらの熱膨張率(CTE)が大きく異なる材料を組み合わせる機会が増えており、温度変化による変形(反り)が発生しやすい構造になっています。
これらの背景から、設計段階でのCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)シミュレーションの精度を向上させるため、そして製造・評価段階で実機の熱変形挙動を正確に把握し、設計にフィードバックするために、「反り」を定量的に測定するニーズが不可欠となっています。
反り測定は、単なる品質チェックではなく、信頼性を担保するための重要な設計検証プロセスへと位置づけられています。

高集積化でデバイスの発熱が増え、微細なはんだ接合部に大きな熱応力がかかるためです。わずかな反りも接続不良やクラックにつながり、信頼性確保のため需要が高まっています。

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