東レの帯電防止性に優れたABS樹脂 ABS樹脂とは何か?どのように帯電性を向上させるのか?

この記事で分かること

  • ABS樹脂とは:アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3成分からなるプラスチックです。「頑丈で割れにくい」「加工しやすく表面が美しい」「熱や油に強い」という特徴を併せ持っています。
  • 帯電性の向上方法:界面活性剤等を吹き付ける表面塗布、 材料に練り込む内部添加、高分子型制電ポリマーの利用などの方法があります。
  • 帯電性向上のメリット:「精密部品の故障防止」「ホコリの吸着抑制」「生産トラブルの防止」が挙げられますで静電気による放電は半導体を破壊し、帯電は表面にゴミを付着させ美観や品質を損ねます。これらを防ぎ、歩留まりと安全性を高めるために必要です。

東レの帯電防止性に優れたABS樹脂

 東レは、2025年12月に、ABS樹脂の帯電防止性能(制電性能)を飛躍的に高めた新素材の開発を発表しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC164NJ0W5A211C2000000/

 この開発は、特に半導体や電子デバイスの製造工程における課題解決を目的としており、従来の限界を超えた性能を実現しています。

ABS樹脂とは何か

 ABS樹脂(アブス樹脂)は、私たちの身の回りにあるプラスチック製品の中で最も広く使われている「優等生」な素材の一つです。

 正式名称はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂といいます。その名の通り、性質の異なる3つの成分を組み合わせることで、非常にバランスの取れた性能を実現しています。


1. 3つの成分とそれぞれの役割

 ABS樹脂は、以下の3つのモノマー(単量体)の頭文字をとったものです。これらを組み合わせることで、「硬いのに割れにくい」「見た目がきれい」といった特徴が生まれます。

成分名役割・特徴
A:アクリロニトリル剛性・耐油性・耐熱性を高める。
B:ブタジエンゴムのような性質。耐衝撃性(割れにくさ)を高める。
S:スチレン加工のしやすさ・表面の光沢を高める。

2. ABS樹脂の主なメリット

  • 衝撃に強い: 叩いても割れにくく、タフな素材です。
  • 見た目が美しい: 表面にツヤがあり、色を塗ったりメッキを施したりするのに適しています。
  • 加工しやすい: 複雑な形に成形しやすく、3Dプリンターのフィラメントとしても人気です。
  • 温度変化に強い: 低温でももろくなりにくく、一定の耐熱性も備えています。

3. デメリットと注意点

  • 紫外線に弱い: 直射日光に長時間当たると、色が黄色くなったり(黄変)、強度が落ちたりします。
  • 有機溶剤に弱い: シンナーやガソリンなどが付着すると、ひび割れ(ケミカルクラック)を起こすことがあります。

4. 具体的な用途例

 非常に汎用性が高いため、家の中を見渡せば必ずと言っていいほど見つかります。

  • 家電製品: テレビの枠、掃除機、エアコンの外装、ドライヤー
  • 自動車部品: フロントグリル、インストルメントパネル、内装材
  • おもちゃ・文具: レゴブロック(LEGO)、プラモデル、ボールペンの軸
  • その他: パソコンのキーボード、スーツケース、楽器(リコーダー)

 東レの新素材は、このABS樹脂の「静電気が溜まりやすい(ほこりが付きやすい)」という唯一に 近い弱点を、独自の技術で克服したものです。

ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3成分からなるプラスチックです。「頑丈で割れにくい」「加工しやすく表面が美しい」「熱や油に強い」という特徴を併せ持ち、家電や玩具、車など幅広く使われます。

ABS樹脂の帯電防止性能を高める方法は

 ABS樹脂の帯電防止性能を高める方法は、大きく分けて「後から塗る」「混ぜる」「樹脂そのものを変える」の3つのアプローチがあります。


1. 表面に塗布する(外部帯電防止剤)

 製品の表面に界面活性剤などの薬品をスプレーやディッピングで付着させる方法です。

  • メリット: 最も安価で、既存の製品にすぐ実施できる。
  • デメリット: 水拭きや摩擦で剥がれてしまい、効果が一時的。
  • 用途: 輸送時の一時的なホコリ付着防止など。

2. 材料に練り込む(内部添加)

 ABS樹脂を成形する前の原料段階で、特定の物質を混ぜ込む方法です。主流なのは以下の2つです。

A. 界面活性剤の練り込み

  • 仕組み: 樹脂内部から表面に成分が染み出し(ブリードアウト)、空気中の水分を吸着して電気を逃がします。
  • 注意点: 湿度が低いと効果が落ち、時間の経過とともに表面がベタつくことがあります。

B. 導電性フィラー(カーボンなど)の添加

  • 仕組み: 炭素粒子(カーボンブラック)や金属繊維などを混ぜて、樹脂の中に「電気の通り道」を物理的に作ります。
  • メリット: 湿度に左右されず、非常に高い効果(導電性)が得られる。
  • デメリット: 製品が黒色に限定される、樹脂が脆くなる、カーボンが脱落して周囲を汚す(発塵)可能性がある。

3. 高分子型(持続型)制電ポリマーを用いる

 東レの新技術もこのカテゴリーに属します。ABS樹脂の中に、電気を流しやすい別のプラスチック(親水性ポリマー)をナノレベルで網目状に組み込む技術です。

特徴持続型制電(高分子型)従来のカーボン練り込み
持続性半永久的(洗っても落ちない)半永久的
見た目透明や自由な着色が可能黒色のみ
クリーン度粉塵が出ない(半導体工程向き)カーボンの粉が出るリスクあり
湿度依存ほとんどない全くない

選び方の目安

  • 「とりあえず安く、今ある製品のホコリを防ぎたい」 → 表面塗布
  • 「見た目は問わないが、確実に静電気をゼロにしたい」 → カーボン練り込み
  • 「きれいな色にしたい、かつ半永久的に性能を維持したい」 → 高分子型(東レなどの新素材)

ABS樹脂の帯電防止性能を高めるには、主に3つの手法があります。

  1. 表面塗布:界面活性剤等を吹き付ける安価な方法ですが、摩擦で効果が落ちます。
  2. 練り込み:カーボンや金属を混ぜて導電路を作る方法。強力ですが色が黒に限られます。
  3. 高分子型(持続型):東レの新技術のように、樹脂内部に制電ポリマーの網目構造を作る方法。透明性や着色が維持でき、効果も半永久的です。

帯電防止を高める理由は何か

 ABS樹脂の帯電防止性能を高める理由は、主に「製品の故障防止」「外観の維持」「生産効率の向上」の3点に集約されます。

 ABS樹脂は本来、優れた電気絶縁体(電気を通さない素材)であるため、摩擦などで発生した静電気が逃げ場を失い、表面に溜まりやすいという性質があります。これを解決するために帯電防止性能が求められます。


1. 電子部品の破壊を防ぐ(静電破壊対策)

 半導体やICチップなどの精密部品は、ごくわずかな静電気の放電(パチッという火花)でも内部回路が焼き切れて故障してしまいます。

  • 理由: 製造工程で部品を運ぶトレイやケースがABS樹脂製の場合、そこから放電が起きないよう電気をゆっくり逃がす必要があります。
  • 最新動向: 半導体の微細化が進むほど、より高い帯電防止性能(抵抗値の低さ)が求められています。

2. 異物やホコリの吸着を防ぐ(美観・品質維持)

 静電気を帯びたプラスチックは、周囲のホコリやゴミを磁石のように引き寄せてしまいます。

  • 理由: * 家電・日用品: テレビの枠やエアコンの外装にホコリが溜まると清潔感を損ないます。
    • 塗装工程: 塗装前にホコリが付くと、仕上がりに凹凸(ブツ)ができて不良品になります。
    • 透明容器: 中身が見えるケースでは、内部に粉塵が付くと商品価値が下がります。

3. 生産トラブルと安全性の確保

 工場などの製造現場では、静電気が物理的なトラブルを引き起こします。

  • 吸着トラブル: 成形品が金型や搬送ベルトにペタッと張り付き、自動ラインが止まる(チョコ停)原因になります。
  • 電撃の防止: 作業者が触れた際に痛みを感じたり、驚いて手を離し二次災害につながるのを防ぎます。
  • 防爆: 粉体(粉末状の原料)を扱う場所では、静電気の火花が粉塵爆発を引き起こすリスクがあるため、帯電防止が必須です。

静電気対策が必要な理由

理由具体的なメリット
品質保護精密機器の故障を防ぎ、製品の歩留まり(良品率)を上げる。
美観維持ホコリの付着を防ぎ、清掃の手間を減らす。
生産性向上製造ラインでの部品の張り付きや誤作動を防ぐ。
安全確保火災・爆発リスクや、作業者への不快な電撃を減らす。

 東レが開発した新素材は、特に「1. 電子部品の保護」「2. 異物の排除」を極限まで突き詰めるために開発されました。

主な理由は「精密部品の故障防止」「ホコリの吸着抑制」「生産トラブルの防止」です。静電気による放電は半導体を破壊し、帯電は表面にゴミを付着させ美観や品質を損ねます。これらを防ぎ、歩留まりと安全性を高めるために必要です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました