この記事で分かること
- MetaX(沐曦)とは:2020年に上海で設立された、AI向け高性能GPU(画像処理半導体)を開発する中国のハイテク企業です。元AMD幹部らが創業し、米国の輸出規制下で「脱NVIDIA」を担う国産チップの有望株となっています。
- 好調の理由:米国の輸出規制によりNVIDIA製チップの入手が困難な中、国産代替の「本命」として期待が集中しました。
- エヌビディアとの性能差:NVIDIA最新型には及ばないが、数年前の世界トップクラス(A100級)には肩を並べつつある」という位置づけです。中国国内の需要を満たすには「十分すぎるほど強力な代替品」である
MetaX(沐曦)の上場
2025年12月17日、上海証券取引所の「科創板(スター・マーケット)」で中国のGPU(画像処理半導体)メーカーであるMetaX(沐曦)が上場し、上場初日には、公開価格(約105元)から約570%〜690%高という驚異的な上昇を見せ、一時700元の大台を突破しました。
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2025-12-17/T7E49XT96OSG00
同社は米国NVIDIAの対抗馬として期待されており、米国の半導体規制を背景に、中国国内での需要拡大を狙う「国産チップ」の本命として熱烈な買いが入っています。
MetaX(沐曦)はどんな企業か
MetaX(中国語名:沐曦集成電路 / 沐曦 / Muxi)は、中国の上海に拠点を置く、高性能GPU(画像処理半導体)およびAIチップの設計・開発を行う新興ハイテク企業です。
現在、米国による対中半導体輸出規制(NVIDIA製品などの制限)が強まる中で、「中国国産GPU」の最有力候補の一社として非常に高い注目を集めています。
1. 設立と背景
- 設立: 2020年9月
- 拠点: 上海(本社)、北京、南京、杭州、成都など
- 創業チーム: 米半導体大手AMDの元幹部や、世界的な半導体メーカーで20年以上の経験を持つベテランエンジニアたちが中心となって設立されました。40nmから最先端の7nmプロセスまでのチップ設計経験を持つ強力な技術集団を擁しています。
2. 主な製品と事業
MetaXは、単なるグラフィックス処理だけでなく、AIの学習や推論、クラウド計算などに特化した「汎用GPU(GPGPU)」の開発に注力しています。
- ターゲット分野: データセンター、AI計算プラットフォーム、自動運転、金融、医療、エネルギー、デジタルツイン(クラウドレンダリング)など。
- 独自プラットフォーム: 自社開発のGPUアーキテクチャを持ち、NVIDIAの「CUDA」のようなソフトウェアエコシステムに対抗できる独自の計算プラットフォームの構築を目指しています。
3. 「中国GPU四小龍」の一角
中国国内では、NVIDIAやAMDに対抗しうる有力なGPUスタートアップ4社(通称:GPU四小龍)の一つに数えられています。
- メンバー:MetaX(沐曦)、Moore Threads(摩爾線程)、Biren Technology(壁靭科技)、Innosilicon(芯動科技)
4. 2025年12月の上場と爆発的な注目
直近のニュースでもお伝えした通り、2025年12月17日に上海証券取引所(科創板)に上場しました。
- 市場の反応: IPO価格に対して初日に約570%以上も高騰しました。
- 背景: 米国によるNVIDIA製AIチップ(H100/H200など)の輸出規制により、中国国内のIT大手(アリババ、テンセント、バイドゥなど)は代替品を求めています。MetaXはその「空白」を埋める国産メーカーとしての期待を一身に背負っています。
5. 強みと課題
- 強み: AMD出身者を中心とした「量産経験」豊富なチーム。ゼロから独自IPを開発する高い技術力。
- 課題: NVIDIAが築き上げた広大なソフトウェア互換性(CUDA)の壁をどう乗り越えるか。また、製造プロセスにおいて米国の制裁を回避しつつ、いかに先端プロセスの工場を確保し続けるかが今後の鍵となります。
MetaXは「NVIDIAの代替を目指す、中国で今最も勢いのあるAI半導体メーカー」といえます。

2020年に上海で設立された、AI向け高性能GPU(画像処理半導体)を開発する中国のハイテク企業です。元AMD幹部らが創業し、米国の輸出規制下で「脱NVIDIA」を担う国産チップの有望株として、2025年12月に上海上場を果たしました。
株価が高騰した理由は何か
MetaX(沐曦)が2025年12月17日の上場初日に、公開価格から一時700%超(最終的に約693%高)という異例の高騰を見せた理由には、大きく分けて3つの背景があります。
1. 「中国版NVIDIA」への強烈な期待
米国による対中半導体輸出規制により、中国企業はNVIDIA(エヌビディア)の最新AIチップを自由に入手できません。その「空白地帯」を埋める国産GPUの本命として、MetaXが投資家の期待を一身に浴びました。
- 同社は、NVIDIAのH100に対抗しうる国産チップ(C600など)の開発を進めており、「国家の自給自足戦略」に合致する企業と見なされています。
2. 異例の「争奪戦」となったIPO
上場前の抽選(サブスクリプション)の段階で、個人投資家枠の倍率が約3,000倍(2,986倍)に達しました。
- 抽選に外れた圧倒的多数の投資家が、上場初日に市場で一斉に買いに走ったことが、価格を極端に押し上げる要因となりました。
3. ライバル「Moore Threads」の成功による連鎖
MetaXの上場より約2週間前、同じくGPU開発を手がける競合のMoore Threads(摩爾線程)が上場し、初日に株価が5倍(400%高)になるという大成功を収めていました。
- この「GPU株は儲かる」という市場の熱狂(ブーム)が、MetaXの上場タイミングと完璧に重なり、さらに過熱した形です。
【懸念点】
市場の一部では、この高騰を「AIバブル」と警戒する声もあります。MetaXは現時点で巨額の研究開発費により赤字決算であるため、今後の株価は実際の製品量産(2026年予定)がスムーズに進むかどうかに大きく左右される見込みです。

米国の輸出規制によりNVIDIA製チップの入手が困難な中、国産代替の「本命」として期待が集中しました。個人投資家の抽選倍率が約3,000倍と極めて高く、上場後に買いが殺到したことも暴騰の要因です。
Moore Threadsとの違いはどこか
MetaX(沐曦)とMoore Threads(摩爾線程)は、どちらも「中国版NVIDIA」を目指す有力候補ですが、その「出自(DNA)」と「製品戦略」に明確な違いがあります。
1. 出身チームの違い(AMD vs NVIDIA)
最大の物理的な違いは、創業メンバーが「どの陣営の技術を熟知しているか」です。
- MetaX(沐曦): 創業者の陳維良氏をはじめ、主要メンバーの多くが米AMDの元幹部・エンジニアです。AMDで培った「高性能GPUの設計」のノウハウをベースにしています。
- Moore Threads(摩爾線程): 創業者の張建中氏は米NVIDIAの元中国法人総経理(GM)です。NVIDIAの「ビジネスモデル」や「エコシステム(CUDAなど)」の強みを熟知したチームです。
2. 製品戦略の違い(AI特化 vs 汎用性)
ターゲットとしている市場の広さが異なります。
- MetaX(沐曦): 「AI・計算特化型」。主にデータセンター、AIの学習(トレーニング)や推論に特化したGPGPUにリソースを集中しています。
- Moore Threads(摩爾線程): 「フル機能(汎用)型」。AIだけでなく、3Dグラフィックス(ゲーム用ビデオカード)や動画エンコードなど、NVIDIAのようにコンシューマーからサーバーまで幅広くカバーする製品群(MUSAアーキテクチャ)を展開しています。
3. 上場時期と投資家の反応
- Moore Threads: 2025年12月初旬に上場。初日に株価が約5倍(400%高)になりました。
- MetaX: その約2週間後(12月17日)に上場。Moore Threadsの成功を見た投資家がさらに熱狂し、初日に約7倍(700%高)という、より大きな暴騰を記録しました。
比較表
| 比較項目 | MetaX(沐曦) | Moore Threads(摩爾線程) |
| ルーツ | AMD出身者が中心 | NVIDIA出身者が中心 |
| 得意分野 | AI計算・データセンターに集中 | ゲーム・3D・AIまで幅広くカバー |
| 最新製品 | C600(AI学習用・HBM3e搭載) | MTT S80(ゲーミング用)/ S4000(AI用) |
| 上場市場 | 上海・科創板(2025/12/17) | 上海・科創板(2025/12初旬) |
「AI計算の専門職」のようなMetaXに対し、「NVIDIAのように何でもこなす万能選手」を目指すMoore Threads、というキャラクターの違いがあります。

ルーツの面では、MetaXはAMD出身者が中心で、AMD流の設計思想を継承。一方、Moore ThreadsはNVIDIA元中国代表が設立し、NVIDIAのエコシステムを熟知しています。
戦略面ではMetaXはデータセンター向けのAI計算(GPGPU)に特化していますが、Moore ThreadsはAIに加え、ゲーム用グラフィックスなどの汎用性も重視しています。
MetaXとエヌビディア、AMDのGPU性能差はどれくらいか
MetaXの最新GPU「Xi Yun(曦雲)C600」の性能は、NVIDIAの1世代〜2世代前のトップモデルに近い水準にあります。
- MetaX C600: NVIDIA A100(2020年発売)とH100(2022年発売)の中間程度の性能とされています。
- 最新世代との差: NVIDIAの最新型「H200」や「Blackwell(B200)」、AMDの「Instinct MI300X」と比較すると、計算能力やメモリ帯域で2倍〜4倍以上の開きがあるのが実状です。
2. 主要スペック比較表
| 項目 | MetaX C600 (中国) | NVIDIA H100 (米国) | AMD MI300X (米国) |
| 主な用途 | AI学習・推論 | AI学習・推論 (世界標準) | AI学習・推論 |
| 演算性能 (FP16) | 約160〜200 TFLOPS | 1,979 TFLOPS (Sparse) | 1,300 TFLOPS+ |
| メモリ (容量) | 64GB – 128GB HBM3 | 80GB HBM3 | 192GB HBM3 |
| メモリ帯域 | 約2.0 – 2.5 TB/s | 3.35 TB/s | 5.3 TB/s |
| 製造プロセス | 7nm相当 | 4nm | 5nm/6nm |
3. 具体的な「差」のポイント
- 単体性能の壁: MetaXのチップ単体では、NVIDIA H100に対して純粋な計算速度で数分の一程度に留まります。しかし、中国国内でH100が入手不可能な現状では、十分「実用圏内」の性能と評価されています。
- エコシステム(CUDA)の壁: 性能以上に大きいのが「使いやすさ」の差です。世界中のAI開発者はNVIDIA専用のソフト(CUDA)を使っており、MetaXが独自のソフト環境でどれだけスムーズに動作を代替できるかが課題です。
- スケーラビリティ: NVIDIAは数千枚のGPUを連結して「一つの巨大な脳」にする技術(NVLink等)が圧倒的です。MetaXも独自の相互接続技術(MetaX-Link)を開発中ですが、大規模運用での安定性は未知数です。

MetaXは、「世界最強(NVIDIA最新型)には及ばないが、数年前の世界トップクラス(A100級)には肩を並べつつある」という位置づけです。中国国内の需要を満たすには「十分すぎるほど強力な代替品」であることが、株価高騰の裏付けとなっています。

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