この記事で分かること
- DRAMに値段がつかない理由:AI向けHBM生産への注力で汎用DRAMの供給が絞られ、メーカーが大幅値上げを提示する一方、コスト転嫁できないPCメーカー側が拒否。「売り手の強気」と「買い手の限界」の乖離が埋まらず、交渉が成立しないためです。
- HBMへの注力でDRAMの供給が少なくなる理由:DRMAとHBMは回路を焼き付ける前工程は共通ですが、HBMはその後、チップに数千の穴を開け垂直に積み重ねる独自の「3Dパッケージング」工程を必要とします。同じ材料を大量に消費するため、HBM優先の増産が汎用DRAMの供給不足を招いています。
- 今後の見通し:AI需要向けのHBM増産が最優先されるため、汎用DRAMの供給不足は2026年前半にかけてさらに深刻化する見通しです。需給の正常化は2027年以降になると予測されています。
DRAMの値段がつかない異例の事態
2025年後半、DRAM市場で「大口取引価格が決まらない(値段がつかない)」という異例の事態が発生しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB19CHG0Z11C25A2000000/
通常、メモリの価格は需給バランスに基づき毎月改定されますが、今回は「売り手(メーカー)」と「買い手(PCメーカー等)」の言い値が乖離しすぎて交渉が成立しないという極めて珍しい状況に陥っています。
この「値段がつかない」状態は、単なる一時的な景気変動(シリコンサイクル)ではなく、AI向けへ産業構造がシフトしたことによる構造的な品不足であると見られています。
DRAMとは何か
DRAM(ディーラム)とは、「パソコンやスマートフォンが作業をするための『机』の役割を果たすメモリ」のことです。
正式名称を Dynamic Random Access Memory(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)といい、私たちが普段「メモリ」や「RAM」と呼んでいるもののほとんどが、このDRAMを指しています。
1. 役割:一時的な「作業机」
コンピュータの中には、データを保存する「倉庫(SSDやHDD)」と、計算を行う「頭脳(CPU)」があります。
DRAMは、その中間にある「作業机」です。
- 倉庫(SSD/HDD): 本や資料がしまってある場所。出し入れに時間がかかる。
- 机(DRAM): 今まさに使っている資料を広げておく場所。サッと手に取れる。
- 頭脳(CPU): 机の上の資料を見て計算や処理をする。
机が広ければ広いほど、いちいち倉庫に資料を取りに戻らなくて済むため、パソコンの動作がサクサク快適になります。
2. 特徴:電源を切ると忘れてしまう
DRAMの最大の特徴は、「揮発性(きはつせい)」です。
- 電源がある時: データを保持し、超高速で読み書きできる。
- 電源が切れた時: 中身がすべて消えてしまう。(保存したいデータは「倉庫(SSD)」に書き込む必要があるのはこのためです)
3. なぜ「ダイナミック(動的)」なのか
DRAMは、内部の小さな「コンデンサ」という器に電気を溜めることでデータを記憶しています。しかし、この電気は放っておくと自然に漏れて消えてしまいます。
そのため、1秒間に何十回も電気を継ぎ足す(リフレッシュという再充電)を繰り返して、記憶を維持し続けています。この絶えず動き続けている様子から「ダイナミック(動的)」と呼ばれます。
DRAMの主な種類
最近のパソコンやスマホのスペック表でよく見る以下の言葉は、すべてDRAMの規格です。
| 規格名 | 主な用途 |
| DDR4 / DDR5 | 現在の一般的なパソコン用メモリ |
| LPDDR4 / LPDDR5 | スマホやノートPC用の省電力メモリ(LP=Low Power) |
| GDDR6 | グラフィックボード(GPU)用の画像処理特化型 |
| HBM | AIサーバーなどに使われる、超高密度・超高速な最新メモリ |

DRAMとは、コンピュータがデータを一時的に広げて処理するための「作業机」にあたる半導体メモリです。電源を切るとデータが消える特性を持ちますが、高速な読み書きが可能で、PCやスマホの快適な動作に欠かせない主要部品です。
なぜ値段がつかないのか
2025年後半、DRAMの「大口取引価格が決まらない(値段がつかない)」という異常事態が起きている理由は、「売り手と買い手のパワーバランスが完全に崩壊し、交渉がデッドロック(膠着状態)に陥っているため」です。
1. 売り手(メーカー)の「強気すぎる値上げ」
SamsungやSK Hynixなどのメーカー側は、前年比で2倍〜3倍、中にはそれ以上の大幅な値上げを提示しています。
- 理由: 生成AIブームにより、超高性能メモリ(HBM)の需要が爆発しており、普通のDRAMを作らなくても利益が出るどころか、HBMを作るために普通のDRAMの生産ラインを潰している状態だからです。
- メーカーのスタンス: 「高く買わないなら、ラインをAI向けに回すだけなので売らなくていい」という極めて強気な姿勢をとっています。
2. 買い手(PCメーカー等)の「限界突破」
対して、DellやHP、LenovoといったPCメーカーや家電メーカーは、これほど急激なコスト上昇を製品価格に転嫁できません。
- 買い手の窮状: 「そんな値段で買ったら、PC1台の価格が数万円上がってしまい誰も買わなくなる」と抵抗しています。
- 交渉の決裂: 提示された価格が「ビジネスとして成立しないレベル」であるため、合意に至らず、本来決まるはずの「今月の指標価格」が空白のまま取引が止まっています。
3. 「AIによる買い占め」が相場を破壊
さらに事態を悪化させているのが、OpenAIなどの巨大テック企業によるウェハー(原材料)の先行確保です。
- 世界の供給能力の大部分がAIインフラ用に「予約」されてしまい、一般向けのDRAMに回る分が物理的に足りなくなっています。
- これにより、市場全体が「いくら出せば確実に手に入るのか」という基準を見失い、パニック的な相場(時価)だけが先行して、公式な「契約価格」が機能しなくなっています。
「AI向けに売りたいメーカー」が提示する超高値と、「PCを売りたいメーカー」が払える限界値の溝が埋まらず、商談が成立しない状態となっています。

AI向けHBM生産への注力で汎用DRAMの供給が絞られ、メーカーが大幅値上げを提示する一方、コスト転嫁できないPCメーカー側が拒否。「売り手の強気」と「買い手の限界」の乖離が埋まらず、交渉が成立しないためです。
HBMとDRAMの製造ラインは共通なのか
HBM(High Bandwidth Memory)とDRAMの製造ラインは、「半分は共通、半分は全く別物」と言えます。
HBMは単独の新しい部品ではなく、「DRAMチップを何枚も縦に積み重ねたもの」だからです。この構造の違いが、現在の供給不足の大きな原因になっています。
製造プロセスの比較
製造工程は大きく分けて2つの段階があります。
| 工程 | 内容 | 共通性 | 解説 |
| 前工程 (FEOL) | ウェハー上に回路を作る | ほぼ共通 | HBM専用の設計は必要ですが、既存の先端DRAM(DDR5など)の生産ラインを転用可能です。 |
| 後工程 (BEOL) | チップを切り出し、重ねる | 全く別物 | HBMはチップに数千の穴を開ける(TSV)特殊工程や、精密に積層する「3Dパッケージング」という高度な専用ラインが必要です。 |
なぜ「ラインの奪い合い」が起きるのか?
製造ラインが一部共通しているからこそ、深刻な問題が起きています。
- ウェハーの消費量が3倍:HBMは1つの製品を作るためにDRAMチップを8枚〜12枚も積み重ねます。同じ枚数のウェハーを投入しても、完成品として出荷できる数は普通のDRAMの3分の1以下になってしまいます。
- 面積効率の悪さ:HBM用のDRAMチップは、接続用の端子をたくさん配置するため、普通のDRAMチップよりサイズが大きくなります。1枚のウェハーから取れるチップの数自体が少なくなります。
- 設備投資の偏り:メーカーは限られた予算と土地(クリーンルーム)を、利益率が高いHBM専用の「積層ライン」に優先的に割り当てています。その結果、「普通のDRAMを作る場所」が物理的に減らされているのです。

回路を焼き付ける前工程は共通ですが、HBMはその後、チップに数千の穴を開け垂直に積み重ねる独自の「3Dパッケージング」工程を必要とします。同じ材料を大量に消費するため、HBM優先の増産が汎用DRAMの供給不足を招いています。
今後の見通しは
今後のDRAM市場の見通しは、結論から言うと「2026年前半にかけてさらに厳しさを増し、PCやスマホの価格にも深刻な影響が及ぶ」と予測されています。
1. 2026年前半まで「最悪の時期」が続く
現在起きている「価格が決まらない」ほどの混乱は、2026年の前半にピークを迎えるという見方が強いです。
- 供給不足の深刻化: 主要メーカー(SK Hynix等)は、2026年末までの生産枠がすでにAI向け(HBM)で予約済みであると明かしています。
- 価格高騰: メモリ製品の価格は、2026年半ばまでに2025年比で50%以上、一部では数倍に跳ね上がると予測する調査会社もあります。
2. PC・スマホ本体の「大幅値上げ」が不可避に
部品としてのDRAMが入手困難・高騰するため、完成品の価格に跳ね返ります。
- メーカーの警告: Dell、HP、Lenovoなどの大手PCメーカーは、2026年モデルの価格を最大15〜20%引き上げる可能性を示唆しています。
- スペックの停滞: コストを抑えるために、本来なら16GB搭載すべき新型スマホやPCが、あえて8GBや12GBに据え置かれる「スペックダウン」の動きも懸念されています。
3. 解消は2027年以降か
この「メモリ冬の時代」が終わるには、物理的な増産が追いつくのを待つしかありません。
- 新工場の完成待ち: SamsungやMicronなどが建設中の新工場が本格稼働し、供給が安定するのは2027年〜2028年頃になると見られています。
- AI需要の落ち着き次第: AI企業のインフラ投資が一巡(「消化局面」)に入れば、余ったラインが汎用DRAMに戻される可能性がありますが、2026年中にそれが起きる兆しは今のところありません。

AI需要向けのHBM増産が最優先されるため、汎用DRAMの供給不足は2026年前半にかけてさらに深刻化する見通しです。価格高騰によりPCやスマホの本体価格も上昇が続き、需給の正常化は2027年以降になると予測されています。

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