ロシアLNG増産目標達成を延期 LNG増産の内容と延期する理由は何か?

この記事で分かること

  • LNG増産の内容:2030年までにLNG年間生産量を1億トン(現状の約3倍)に引き上げ、世界シェア20%を目指しています。
  • 延期する理由:ウクライナ侵攻に伴う欧米諸国の強力なエネルギー制裁です。これにより、中核設備の輸入停止による国産化の難航、輸出に不可欠な砕氷タンカーの調達不足、米国によるプロジェクト自体の制裁指定が重なり、建設や販路確保が大幅に遅れています。
  • エネルギー市場への影響:世界的な供給過剰を和らげ、ガス価格の下落を抑制する要因となります。一方で、中国等への割引供給による市場の二極化を招き、日本を含む制裁国にとっては、将来的な調達コストやエネルギー安全保障上のリスクを高める可能性があります。

ロシアLNG増産目標達成を延期

 ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は、2025年12月25日の国営テレビのインタビューで、ロシアが掲げていた「液化天然ガス(LNG)の年間生産量を1億トンに引き上げる」という目標の達成を、数年先送りすることを明らかにしました。

 https://jp.reuters.com/markets/commodities/7DL37BUZTVIJJEBMZUD5NCCLYE-2025-12-25/

 また、欧州がロシア産ガスへの依存を急速に減らし、2027年までの輸入完全禁止を目指している中、ロシアは中国を中心としたアジア市場へのシフトを強めています。しかし、輸送インフラの整備が生産ペースに追いつかない状況が続くと見られています。

ロシア、LNG増産目標の内容は

 ロシアが掲げているLNG(液化天然ガス)増産目標の具体的な内容は、「2030年までに年間生産量を1億トンに引き上げ、世界シェアの20%を確保する」というものです。

 しかし、2025年12月25日のノバク副首相の発言により、この目標達成が数年先送りされることが確実となりました。最新の政府戦略に基づく具体的な数値目標は以下の通りです。


1. 修正後の生産目標(最新のエネルギー戦略)

 ロシア政府が公表した最新の「2050年までのエネルギー戦略」では、時期と数量が以下のように再設定されています。

目標年生産量目標(年間)備考
2030年9,000万 ~ 1億500万トン当初の「1億トン」から幅を持たせ、下限を下方修正
2036年1億1,000万 ~ 1億3,000万トン長期的な成長は維持する姿勢
2050年1億1,000万 ~ 1億7,500万トン世界市場での存在感を維持するための最大目標
  • 現状(2024-2025年): 年間約3,300万〜3,500万トン程度。目標達成には現在の3倍の規模にする必要があります。

2. 目標達成のための主要プロジェクト

 ロシアはこの目標を達成するために、主に4つの地域(クラスター)で増産を計画しています。

  • ヤマル・クラスター(北極圏): 現在主力の「ヤマルLNG」に加え、「アークティックLNG 2」を全面稼働させ、地域全体で6,000万トン規模を目指す。
  • バルト海クラスター(ロシア西部): 「ウスチルガLNG」プロジェクトなどにより、現在の約200万トンから1,500万トンへ大幅増。
  • ムルマンスク・クラスター(北西部): 新たな巨大プロジェクト「ムルマンスクLNG」により2,000万トン規模を確保。
  • サハリン・クラスター(極東): 「サハリン2」の拡張などで1,500万トン規模を目指す。

3. なぜ「1億トン」にこだわるのか

 ロシアがLNG増産を急ぐのは、以下の戦略的理由があるためです。

  • パイプライン輸出の激減: ウクライナ侵攻後、欧州向けのパイプラインガス輸出が激減したため、その損失を補う必要があります。
  • 輸出先の柔軟性: パイプラインと異なり、LNGは船で世界中に運べるため、需要が伸びるアジア(中国・インドなど)への輸出シフトが容易になります。
  • 世界シェアの奪還: 現在約8%の市場シェアを20%まで高め、米国やカタールに対抗する「エネルギー大国」としての地位を維持しようとしています。

ロシアは、2030年までにLNG年間生産量を1億トン(現状の約3倍)に引き上げ、世界シェア20%を目指しています。しかし、欧米の制裁による技術・船舶不足で、達成時期を数年先送りする方針に転換しました。

目標達成を先送りする理由は何か

 ロシアがLNG(液化天然ガス)の増産目標(2030年に1億トン)の達成を数年先送りする主な理由は、「欧米による制裁の長期化と強化」に集約されます。具体的には、以下の3つの深刻な障壁が立ちはだかっています。

1. 技術と設備の調達困難(テクノロジー・エンバゴ)

 LNGの生産にはガスを-162度まで冷却する高度な技術が必要ですが、これまでは米欧企業(米ベーカー・ヒューズや独リンデなど)の設備に依存していました。

  • 現状: 制裁によりこれらの企業が撤退し、基幹設備の保守・調達が不可能になりました。
  • 影響: ロシア自国技術への切り替えを急いでいますが、効率や規模の面で欧米製に及ばず、建設スケジュールが大幅に遅れています。

2. 輸送手段(砕氷タンカー)の不足

 北極圏のプロジェクト(アークティックLNG 2など)からガスを運び出すには、氷の海を進める特殊な「砕氷LNG船」が不可欠です。

  • 現状: 韓国の造船所に発注していた砕氷船が制裁の影響で引き渡されず、代替船の確保が極めて困難になっています。
  • 影響: たとえガスを生産できても、それを市場へ運ぶ「足」がない状態に陥っています。

3. 米国による「プロジェクト狙い撃ち」の制裁

 米国はロシアの将来の収益源を断つため、特定のLNGプロジェクト自体を制裁対象(SDNリスト)に指定しています。

  • 現状: 制裁対象となったプロジェクトに関わると、外国企業も二次制裁を受けるリスクがあるため、中国やインドの企業、海運会社までもが関与に慎重になっています。
  • 影響: 資金調達や販売先の確保が難しくなり、プロジェクト全体の進行が停滞しています。

目標先送りの最大の理由は、ウクライナ侵攻に伴う欧米諸国の強力なエネルギー制裁です。これにより、中核設備の輸入停止による国産化の難航、輸出に不可欠な砕氷タンカーの調達不足、米国によるプロジェクト自体の制裁指定が重なり、建設や販路確保が大幅に遅れています。

ロシアはどう対応するのか

 ロシアは増産目標の遅延に対し、主に「アジアへの販路転換」「技術の国産化」という2つの柱で対抗しようとしています。

1. 輸出先の「東方シフト」を加速

欧州市場を失ったロシアは、制裁に加わっていない国々への輸出を強めています。

  • 中国への過去最高輸出: 2024年から2025年にかけて中国へのLNG輸出を急増させており、一部の月ではオーストラリアを抜いて中国最大の供給国になるなど、依存度を高めています。
  • 割安な価格設定: 西側の制裁リスクを考慮し、市場平均より約10%安い価格で販売することで、インドや中国などの需要を取り込もうとしています。
  • 影の艦隊の活用: 原油と同様に、所有者や保険を不透明にした船舶(いわゆる「影の艦隊」)を利用して、制裁を回避しながらLNGを運搬する仕組みを構築し始めています。

2. 技術・設備の「完全国産化」を推進

 欧米企業の撤退を受け、自国技術による設備開発を急いでいます。

  • 国産冷却技術の開発: ロシア独自のLNG冷却プロセス(「北極カスケード」など)の改良を進め、欧米製に頼らない巨大プラントの建設を目指しています。
  • 自国造船所での砕氷船建造: 韓国に拒否された砕氷タンカーの代わりに、ロシア国内のズベズダ造船所などで建造を試みていますが、技術不足により完成は大幅に遅れる見通しです。

3. 北極海航路(NSR)の活用

 制裁下でも効率的にアジアへ運ぶため、北極海を抜ける最短ルートの整備を国家プロジェクトとして推進しています。これにより、西側の影響が強い海域を避け、中国への直接輸送を安定化させる狙いがあります。


ロシアは中国等への「東方シフト」を強め、割引価格で販路を確保しています。同時に冷却技術の国産化や中国製への切り替えを急ぎ、制裁を回避する「影の艦隊」や北極海航路を活用して輸出網の維持を図っています。

目標先送りのエネルギー市場への影響は

 ロシアのLNG増産目標の達成が数年先送りされることは、世界のエネルギー市場に対して以下のような影響を及ぼすと予測されています。


1. 短期的・中長期的な需給への影響

  • 供給過剰(供給緩和)の遅れ: 2026年以降、米国やカタールの巨大プロジェクトが稼働し、世界的に「LNG余り」が生じると予測されていました。ロシアの増産遅延は、この供給過剰を緩和する方向に働き、市場価格の極端な下落を抑える要因になります。
  • 欧州の脱ロシア加速: EUは2027年までにロシア産ガスの輸入を完全に禁止する方針を固めています。ロシアの供給が不安定になることで、欧州の「脱ロシア」と米国・中東産へのシフトがさらに確定的になります。

2. アジア市場における「二極化」の進展

  • 中国・インドへの割安な供給: ロシアは販路を維持するため、中国などへ市場価格より10%程度安い「割引価格」でLNGを供給しています。これにより、ロシア産を買い続ける国(中国・インド等)と、制裁で買わない国(日米欧)の間で、調達コストの二極化が進みます。
  • 中国の交渉力強化: ロシアがアジアへの依存を強めることで、中国はより有利な条件でエネルギーを確保できるようになり、アジア市場における中国の影響力がさらに強まる可能性があります。

3. 日本への影響

  • 調達コストの不透明感: 日本は「サハリン2」からLNG輸入の約9%を依存しています。ロシアの増産計画が滞ることで、将来的にロシアからの供給が細まれば、日本はより価格の高い代替ガスを国際市場で競り合う必要が出てくるリスクがあります。
  • 投資リスクの再認識: 日本企業が参画していた「アークティックLNG 2」の停滞は、地政学リスクがエネルギー供給に直結することを再確認させ、今後の海外投資判断に慎重な影を落としています。

 

ロシアの増産遅延は、世界的な供給過剰を和らげ、ガス価格の下落を抑制する要因となります。一方で、中国等への割引供給による市場の二極化を招き、日本を含む制裁国にとっては、将来的な調達コストやエネルギー安全保障上のリスクを高める可能性があります。


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