NCTの酸化ガリウムウエハーの製造コスト削減 酸化ガリウムウエハーとは何か?製造方法コストの削減方法は?

この記事で分かること

  • 酸化ガリウムウエハーとは:酸化ガリウムウエハーとは、次世代パワー半導体を作るための基板です。シリコンより劇的に省エネで、SiC等よりも高電圧に強いのが特徴です。
  • 製造方法コストの削減方法:、原料を溶かす容器(るつぼ)に不可欠だった超高価な貴金属「イリジウム」を一切使わない新製法(DG法)を開発したことです。容器代や保守費という最大のコスト負担をゼロにしたことで劇的な低価格化を実現しました。
  • 高電圧に強い理由:エネルギーの溝である「バンドギャップ」が非常に広いためです。電子を動かすのに大きなエネルギーが必要なため、強烈な電圧(電界)をかけても電子が飛び出さず、絶縁状態を保てる物理的な強さを持っています。

NCTの酸化ガリウムウエハーの製造コスト削減

 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー(NCT)が、酸化ガリウム(β-Ga2O3)ウエハーの製造コストを「10分の1」にする画期的な技術を発表しています。

 この技術が実用化されれば、EVの航続距離が伸びたり、急速充電器が小型化されたりと、私たちの生活にも大きな恩恵をもたらします。

酸化ガリウムウエハーとは何か

 酸化ガリウム(Ga2O3)ウエハーとは、次世代の「パワー半導体」を作るための基板(土台となる薄い円盤)のことです。

 現在の主流であるシリコン(Si)や、普及が進んでいる炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)を性能面で凌駕するポテンシャルを持っており、「究極の次世代半導体」の有力候補として世界中で研究されています。


1. 酸化ガリウムウエハーの3つの凄さ

 酸化ガリウムが次世代材料と言われる理由は、その優れた物理的特性(物性値)にあります。

  • 圧倒的な「耐圧性」:高い電圧をかけても壊れにくい性質(絶縁破壊電界)が非常に強く、シリコンの約10倍、SiCやGaNの約2倍以上の性能を持ちます。これにより、デバイスをより薄く・小さく作ることができます。
  • 「電力ロス」の極小化:電気を流す際の抵抗(オン抵抗)を非常に低く抑えられるため、熱として逃げてしまうエネルギーのムダを劇的に減らせます。
  • 「安く作れる」可能性:SiCなどは結晶を作るのに極めて高い温度と時間が必要ですが、酸化ガリウムはシリコンと同じく「融液成長法(液体から固める方法)」で作れるため、本来は大型のウエハーを安価に大量生産できる素質を持っています。

2. 他の半導体材料との比較

 性能の指標となる「バリガ性能指数(数値が高いほど低損失)」で比較すると、その圧倒的な実力がわかります。

材料バンドギャップ (eV)絶縁破壊電界 (MV/cm)バリガ性能指数 (Si比)
Si (シリコン)1.10.31
SiC (炭化ケイ素)3.32.5約440
GaN (窒化ガリウム)3.43.3約900
Ga2O3(酸化ガリウム)4.88.0約3,000

3. 主な用途

 酸化ガリウムウエハーから作られる半導体は、主に「高い電圧をコントロールする場所」で活躍します。

  • 電気自動車(EV): インバーターを小型・高効率化し、航続距離を伸ばす。
  • 鉄道・送電網: 数千ボルトという超高電圧を扱う装置の省エネ化。
  • 再生可能エネルギー: 太陽光発電などの電力を効率よく家庭用電流に変換する。
  • 家電・通信: エアコンの省エネ化や、5G基地局などの電源。

酸化ガリウムウエハーとは、次世代パワー半導体を作るための基板です。シリコンより劇的に省エネで、SiC等よりも高電圧に強いのが特徴です。安価な製造法も可能で、EVや電力系統を革新する究極の素材として期待されています。

なぜコストを下げることができたのか

 コストを1/10に下げられた最大の理由は、「イリジウム」という超高価な貴金属を一切使わない製造方法を開発したからです。

 これまで、酸化ガリウムの結晶を作るには、原料を溶かすための「るつぼ(容器)」が必要でしたが、ここに大きなコストの壁がありました。


1. 「るつぼ」のコスト問題(従来:EFG法)

 従来の製造方法(EFG法)では、1,800℃を超える高温で原料を溶かす必要があり、その熱に耐えられる素材として貴金属のイリジウムが必須でした。

  • イリジウムは超高価: 金よりも高価な時期があり、非常に希少な金属です。
  • 消耗品である: 高温で使用するため、使っているうちに削れたり傷んだりし、定期的に高額なメンテナンス費用がかかります。
  • コストの6割: ウエハーの製造コストのうち、実に60%以上がこのイリジウム関連の費用でした。

2. 解決策:DG法(Drop-fed Growth)

 ノベルクリスタルテクノロジーが新たに開発した「DG法」は、この「るつぼ」そのものを使わない画期的なアイデアです。

  • るつぼレス: 容器を使わず、原料を液滴(ドロップ)として直接供給し、その場で結晶化させます。
  • メンテナンス費の激減: 高価なイリジウムを購入・修理する必要がなくなるため、設備維持にかかるコストがほぼゼロに近くなります。
  • 大口径化も容易: 容器のサイズに縛られないため、より大きなウエハー(6インチなど)を効率よく作ることができ、量産効果でさらに1枚あたりの単価が下がります。

 これまでは「高い材料を作るために、もっと高い容器が必要だった」という矛盾を、「容器を使わずに作る」という逆転の発想で解決したことが、10分の1という劇的なコストダウンの正体です。

これにより、これまで高価で手が出せなかった酸化ガリウムが、「シリコン並みの安さで、SiC以上の超高性能」という理想的なパワー半導体として市場に出回る準備が整いました。

最大の要因は、原料を溶かす容器(るつぼ)に不可欠だった超高価な貴金属「イリジウム」を一切使わない新製法(DG法)を開発したことです。容器代や保守費という最大のコスト負担をゼロにしたことで劇的な低価格化を実現しました。

バリガ性能指数とは何か

 バリガ性能指数(BFOM: Baliga Figure of Merit)とは、一言で言えば「その材料がパワー半導体としてどれだけ優秀か」を数値化したモノサシのことです。

 数値が大きいほど、「高い電圧に耐えつつ、電気のロスを極限まで減らせる」ことを意味します。


1. バリガ性能指数の意味

 パワー半導体にとって最も重要なのは、以下の2点を両立することです。

  1. 高耐圧: 高い電圧をかけても壊れないこと。
  2. 低損失: 電気を通す時の抵抗(オン抵抗)が小さく、熱が出にくいこと。

 通常、耐圧を上げようとすると抵抗が増えてしまいますが、バリガ性能指数が高い材料ほど、この「トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)」を打ち破り、「超高耐圧なのに超低抵抗」なデバイスを作ることができます。

2. なぜ酸化ガリウムは数値が高いのか?

 計算式には「絶縁破壊電界(電圧への強さ)」が含まれますが、この値が3乗で効いてくるため、電圧に非常に強い酸化ガリウムは指数が爆発的に高くなります。

バリガ性能指数の簡略式: BFOM = ε×μ×Ec3

  • ε:誘電率
  • μ:電子移動度(電気の通りやすさ)
  • Ec:絶縁破壊電界(電圧への強さ)

バリガ性能指数は、いわば「半導体界の偏差値」のようなものです。酸化ガリウムはこの偏差値が桁違いに高いため、実用化されれば「世界で最も効率よく電気を操れる材料」になると期待されています。

絶縁破壊電界に優れる理由は何か

 酸化ガリウムがシリコンの20倍以上もの絶縁破壊電界を持つ理由は、その「バンドギャップ」が圧倒的に広いからです。

 一言でいうと、「電子を動かすのに必要なエネルギーが非常に大きい」ため、強い電圧をかけても電気が勝手に流れ出す(壊れる)ことがありません。


1. バンドギャップの広さが「強度」を決める

 半導体には、電気が流れない「禁止帯(バンドギャップ)」というエネルギーの溝があります。

  • シリコン: 溝が狭い(約1.1 eV)。少しの電圧で電子が溝を飛び越えてしまい、高い電圧には耐えられません。
  • 酸化ガリウム: 溝が非常に広い(約4.8eV)。シリコンの4倍以上の広さがあるため、強い電圧(強電界)をかけても電子が溝を飛び越えず、絶縁状態を維持できます。

 これを「ウルトラワイドバンドギャップ」と呼びます。

2. 「雪崩」が起きにくい(アバランシェ降伏の抑制)

 強い電圧がかかると、半導体の中の電子が加速し、他の原子にぶつかって次々と電子を叩き出す「雪崩(アバランシェ現象)」が起きて壊れます。 

 酸化ガリウムはバンドギャップが広いため、電子を叩き出すのにより大きなエネルギーが必要になります。その結果、強い電界がかかっても雪崩が起きにくく、シリコンの約20倍という高い電界に耐えることができるのです。


「バンドギャップが広い」から「電子が飛び出しにくい」。そのため「高電圧(強い電界)でも壊れない」。 この物理的なタフさが、次世代半導体としての最大の武器になっています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました