この記事で分かること
- メモリ事業復調の理由:AI需要の爆発により、高付加価値なHBM(高帯域幅メモリ)の供給が本格化したことが最大の要因です。あわせて、AIサーバー向けDRAM等の需給逼迫による販売価格の急騰が、利益を劇的に押し上げました。
- ファウンドリー市場苦戦の理由:先端プロセス(3nm/2nm)の歩留まり(良品率)低迷が最大の理由です。製造トラブルによる性能不足や納期遅延への懸念から、NVIDIAやApple等の大口顧客がTSMCに集中し、顧客確保に苦戦しています。
- GAA技術とは:電気の通路をゲートが全周囲から囲む新構造です。従来の3面構造より電気の漏れを抑え、「超省電力・高性能」を実現します。サムスンが先行導入しており、2nm世代でのシェア逆転を狙う切り札です。
サムスン電子の半導体部門の好調
サムスン電子の半導体部門は、2025年後半から2026年にかけて売り上げ高が最高を記録するなど好調となっています。その中身は「メモリ事業の劇的なV字回復」と「受託生産(ファウンドリ)事業の苦戦」という、明暗が分かれる状況にあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM066JE0W6A100C2000000/
メモリ事業は、AIブームに伴う高付加価値製品の需要爆発により、驚異的な回復を遂げている一方で、他社から設計図を預かって製造する「ファウンドリ」は、まさに「道半ば」の厳しい状況です。
メモリ事業回復の理由は何か
サムスンのメモリ事業が劇的な回復を遂げた理由は、「AI(人工知能)が引き起こした空前のメモリ不足と価格高騰」です。
2026年現在、メモリ市場は「スーパーサイクル(超好況期)」に突入しており、以下の4つの要因が複雑に絡み合っています。
1. HBM(高帯域幅メモリ)の供給本格化
これまで競合のSKハイニックスに先行を許していたHBM(高帯域幅メモリ)分野で、サムスンが巻き返しに成功しました。
- NVIDIAへの供給開始: 2025年後半からNVIDIAのAIアクセラレータ向けに「HBM3E」の大量供給が始まり、業績を大きく押し上げました。
- 次世代「HBM4」のリード: 2026年中に投入予定の次世代規格「HBM4」においても、主要顧客(Google、Amazon、MicrosoftなどのASIC企業)からの受注を確実にしており、占有率は前年の16%から35%程度まで倍増する見通しです。
2. DRAM/NANDの「価格暴騰」
AIサーバーの需要が一般向けのメモリ供給を圧迫し、深刻な供給不足を招いています。
- 価格上昇: 2025年第4四半期から価格上昇が加速し、2026年第1四半期には前四半期比で50%以上の高騰を見せる製品も出ています。
- 利益率の改善: 汎用製品(DDR5など)の価格が100%以上引き上げられたケースもあり、これがそのまま営業利益に直結しています。
3. 先端プロセスの歩留まり安定
一時期苦労していた1bナノ(第5世代10nm級)DRAMなどの先端プロセスにおいて、製造の歩留まり(良品率)が安定しました。これにより、コストパフォーマンスの高い製品を大量供給できる体制が整い、利益率が劇的に向上しました。
4. 「AIインフレ」による波及効果
AIはデータセンターだけでなく、PCやスマートフォンにも波及しています。
- AI PC / AIスマホ需要: オンデバイスAI(端末内で処理するAI)を搭載するために、従来の2倍以上のメモリ容量が必要となり、スマートフォン向けのLPDDR5Xなどの需要が底上げされました。
- 供給制限: 各メーカーが利益率の高いHBMの生産にラインを割いているため、通常のDRAMの供給が絞られ、結果として市場全体の価格が下がりにくい構造になっています。
数値で見る回復のインパクト(2026年1月時点の予測)
| 項目 | 状況 |
| 営業利益 | 2025年第4四半期だけで20兆ウォン(約2.2兆円)突破の予測 |
| 成長率 | 前年同期比で200%〜300%増という驚異的な伸び |
| 市場シェア | HBM占有率が前年の約2倍(16%→35%)へ拡大 |
サムスンのメモリ事業回復は、単なる景気循環ではなく「AIによる構造的な需要変化」を捉えた結果です。
2026年内は「高値安定」が続くと見られており、この間に稼いだ巨額の利益を、遅れている「受託生産(ファウンドリ)」や「2nmプロセス」の研究開発にどれだけ効率的に投資できるかが、次の焦点となります。

AI需要の爆発により、高付加価値なHBM(高帯域幅メモリ)の供給が本格化したことが最大の要因です。あわせて、AIサーバー向けDRAM等の需給逼迫による販売価格の急騰が、利益を劇的に押し上げました。
ファウンダリ事業苦戦の理由は何か
サムスンの受託生産(ファウンドリ)事業が苦戦している主な理由は、「最先端プロセスの歩留まり(良品率)低迷」と、それに伴う「主要顧客の流出」という悪循環にあります。
1. 先端プロセス(3nm/2nm)の歩留まり問題
最も深刻なのが、チップを製造する際の成功率を示す「歩留まり」の低さです。
- 3nmの苦戦: 世界で初めて導入した新技術「GAA(Gate-All-Around)」構造の3nmプロセスにおいて、歩留まりが20%〜30%程度に留まり、量産レベルの基準(60%以上)に届かない時期が長く続きました。
- 2nmへの影響: 2025年末時点で2nmの歩留まりは50〜60%まで改善したとの報道もありますが、依然としてTSMC(70%以上)に対して劣勢であり、信頼を完全に取り戻すには至っていません。
2. 「TSMC一強」による主要顧客の独占
歩留まりや電力効率の不安から、Apple、NVIDIA、Qualcommといった「超大口顧客」のほとんどが、製造委託先をTSMCに絞っています。
- Qualcommの離脱: 以前はサムスンに委託していたSnapdragon 8シリーズも、発熱や性能のばらつきを理由にTSMCへ移行してしまいました。
- テキサス工場の稼働延期: 顧客を確保できないまま工場を稼働させるリスクを避けるため、米テキサス州テイラーの新工場の本格稼働を2026年まで延期せざるを得ませんでした。
3. 「競合兼顧客」という構造的課題
サムスンは自社でスマホ(Galaxy)やチップ(Exynos)を開発する「IDM(垂直統合型)」企業です。これが、受託生産においては足かせになる場合があります。
- 利益相反の懸念: 委託側(AppleやGoogleなど)からすると、「自社の最新設計情報が、ライバルであるサムスンのスマホ部門に漏れるのではないか」という懸念を拭いきれず、独立したファウンドリ専業のTSMCが選ばれやすい土壌があります。
サムスンは現在、赤字を出しながらも、TSMCが2nmから本格導入するGAA技術で先行しているという「先行者利益」に賭けています。2026年は、この技術的優位性を活かしてAMDやテスラといった顧客をどれだけ引き戻せるかの正念場となります。

先端プロセス(3nm/2nm)の歩留まり(良品率)低迷が最大の理由です。製造トラブルによる性能不足や納期遅延への懸念から、NVIDIAやApple等の大口顧客がTSMCに集中し、顧客確保に苦戦しています。
GAA技術とは何か
GAA(Gate-All-Around)技術とは、「次世代の超低電力・高性能なトランジスタ構造」のことです。
現在の微細化の限界を突破するために開発された技術で、サムスンが世界で初めて3nm(ナノメートル)プロセスから実用化しました。
1. 構造の違い:3面から4面へ
半 導体は、電気を流す「通路(チャンネル)」と、そのスイッチの役割をする「門(ゲート)」で構成されています。
- 従来のFinFET(フィンフェット): ゲートが通路を「3方向(上・左・右)」から囲んでいる構造です(魚のヒレのような形)。
- 新技術GAA: ゲートが通路を「4方向(全周囲)」から完全に囲む構造です。通路がゲートの中に浮いているような状態になります。
2. GAAのメリット
通路を全方向から包み込むことで、電気の流れをより正確にコントロールできるようになります。
- 圧倒的な省電力: 電気が漏れる「リーク電流」を最小限に抑えられます。
- 処理能力の向上: 低電圧でも高速に動作するため、AI処理などに最適です。
- 小型化: 同じ性能でもチップの面積を大幅に小さくできます(サムスン発表では5nm比で面積16%削減)。
3. サムスンの独自技術「MBCFET」
サムスンはGAAの中でも、通路を「ナノシート(薄い板状)」にする独自のMBCFETという技術を採用しています。これにより、用途に合わせて通路の幅を調整でき、より柔軟な設計が可能です。
なぜサムスンにとってGAAが重要なのか
最大のライバルであるTSMCは、3nmまでは従来のFinFETを使い、2nmからGAAに切り替える予定です。
一方、サムスンは3nmからすでにGAAを導入しており、「新構造の製造ノウハウを数年分リードしている」というのが彼らの主張です。この先行者利益を活かし、2nm世代でTSMCから顧客を奪い返すことがサムスンの大戦略となっています。

GAAは、電気の通路をゲートが全周囲から囲む新構造です。従来の3面構造より電気の漏れを抑え、「超省電力・高性能」を実現します。サムスンが先行導入しており、2nm世代でのシェア逆転を狙う切り札です。
ファウンドリ事業巻き返しの方法は
サムスンのファウンドリ事業巻き返しに向けた戦略は、「TSMCが技術を切り替える2nm世代での先行逃げ切り」と「地政学的リスクを逆手に取った顧客確保」の2点に集約されます。
1. 2nm世代での「技術的優位」の確立
サムスンは、TSMCより数年早く新構造のGAA(Gate-All-Around)を導入しました。
- 習熟度の差で勝負: TSMCが2nmから初めてGAAを導入して苦戦する間に、既に3nmからGAAを量産しているサムスンが「安定した歩留まり」を提供し、顧客を奪い返す戦略です。
- 歩留まりの改善: 2025年末に2nmの歩留まりが約60%に達したとの報道もあり、信頼性が向上しています。
- 自社チップでの実績作り: 次期フラッグシップスマホ用のExynos 2600(2nm)を成功させ、自社製品で性能を証明しようとしています。
2. 「脱TSMC」を狙う大口顧客の獲得
TSMCに注文が集中し、納期遅延や価格高騰が起きている現状をチャンスと捉えています。
- マルチファウンドリ戦略の促進: Qualcomm(Snapdragon 8 Elite Gen 5等)やAMD、テスラに対し、供給リスク分散のための「第二の委託先」として猛烈な営業をかけています。
- 大型受注の成功: 2025年、テスラから165億ドル規模の次世代AIチップ受注を獲得しており、これが反撃の狼煙となっています。
3. テキサス工場の戦略的活用(地政学リスク対応)
米国のテキサス州テイラー工場を、4nmから一気に2nmへアップグレードして稼働させます。
- 米国産チップの需要: 米中対立の中、米国内で最先端チップを作りたいNVIDIAやGoogleなどの「ビッグテック」に対し、地産地消のメリットを提示しています。
4. 日本市場・研究拠点との連携
横浜に新設した先端パッケージングの研究拠点などを通じ、日本の装置・材料メーカーと密接に協力しています。これにより、製造プロセスの安定化と次世代技術(1.4nmなど)の開発スピードを加速させています。

TSMCに先んじて導入した新構造GAAの熟練度を武器に、2nm世代でのシェア奪還を狙っています。TSMCの価格高騰や供給不足を背景に、テスラやクアルコムなどの大口顧客を「第二の供給源」として取り込む戦略です。

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