この記事で分かること
- TEMの試料作成方法:金属や半導体ならFIB(イオンビーム)やイオンミリング法で精密に削り出し、樹脂や生体組織ならミクロトームで薄くスライスします。
- FIBとは何か:細く絞ったイオンビームで試料をナノ単位で削る加工技術です。狙った特定部位をピンポイントで切り出し、マニピュレーターで回収して100nm以下まで仕上げることが可能です。
- イオンビームを細く絞る方法:鋭い針先から引き出したイオンを、静電レンズ(電気の力)を使って屈折させ、一点に集中させます。さらにアパーチャ(小さな穴)で余分な外側のビームをカットすることで、ナノ単位の細いビームを実現しています。
TEMの試料作成法
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は、透過電子顕微鏡、TEMの試料作製に関する記事を書きました。
TEM試料の作成方法は
TEM試料の作成は、観察したい材料の種類や状態によって、主に4つの代表的な手法が使い分けられます。共通のゴールは「100nm以下の薄片にすること」です。
1. 物理的に薄く削り出す方法
金属や半導体などの硬い材料でよく使われます。
- FIB(集束イオンビーム)法: イオンのビームで「彫刻」のようにピンポイントで削り出します。特定の場所(故障箇所など)を狙って取り出すのに最適です。
- イオンミリング法: アルゴンイオンをぶつけて全体的に薄く削ります。広い範囲を観察したい場合に適しています。
- 機械研磨・電解研磨: 物理的に磨いたり、電気化学的に溶かしたりして薄くします。
2. 包丁のように薄く切る方法
高分子(プラスチック)や生物組織など、柔らかい材料に使われます。
- ミクロトーム法: ダイヤモンドナイフを備えた特殊な装置で、試料を薄い「かつら剥き」のようにスライスします。
3. 微粉末にして載せる方法
粉体やナノ粒子などの場合に使われます。
- 懸濁法(滴下法): 試料を溶媒に混ぜて分散させ、薄い膜が張られた「グリッド(専用の網)」の上に一滴垂らして乾燥させます。
4. 生体試料のための特殊な方法
- 樹脂包埋(じゅしほうまい): 柔らかい細胞などを樹脂で固めてから、ミクロトームでスライスします。
- クライオ法: 試料を液体窒素などで急速凍結させ、生に近い状態で観察します。
作成方法の比較表
| 手法 | 適した試料 | 特徴 |
| FIB法 | 半導体、金属 | 狙った場所を高精度で取り出せる |
| ミクロトーム | 生物、ポリマー | 柔らかいものを薄くスライスする |
| イオンミリング | 金属、セラミックス | イオンの衝突で広範囲を薄くする |
| 懸濁法 | ナノ粒子、粉末 | 溶媒に溶かしてグリッドに載せるだけ |
TEMは「試料作りが8割」と言われるほど、この工程が観察の成否を分けます。

TEM試料作製は、試料を100nm以下まで薄くすることが目的です。金属や半導体ならFIB(イオンビーム)で精密に削り出し、樹脂や生体組織ならミクロトームで薄くスライスします。粉末の場合は溶媒に分散させ、専用の網(グリッド)に載せて乾燥させます。
FIB法とは何か
FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)法とは、イオンのビームを細く絞って試料にぶつけ、表面をナノ単位の精度で削り取る技術です。
TEM観察においては、特定の場所をピンポイントで切り出す「微細な彫刻」のような役割を果たします。
1. 原理と特徴
- 砂嵐で削るイメージ: 重いイオン(主にガリウムイオン)を加速させて試料に衝突させ、表面の原子を弾き飛ばす「スパッタリング」という現象を利用します。
- ピンポイント加工: ビームを非常に細く絞れるため、半導体チップの故障箇所や、材料の特定の境界線など、狙った場所(数百ナノメートル範囲)を正確に狙い撃ちできます。
- リアルタイム観察: 加工中に発生する二次電子を捉えることで、いまどこを削っているかをモニター(SIM像)で確認しながら作業できます。
2. TEM試料作製の流れ(マイクロサンプリング)
- 保護膜形成: 削りすぎを防ぐため、狙った場所にプラチナなどの保護膜を蒸着します。
- 溝掘り: 狙った場所の周囲を掘り下げ、薄い壁(板)のような状態にします。
- 摘出: 微細な針(マニピュレーター)を板に接着させ、試料を切り離して持ち上げます。
- 仕上げ: 摘出した板を専用の土台(グリッド)に貼り付け、電子が透過できる厚さ(100nm以下)までさらに薄く削り込みます。

細く絞ったイオンビームで試料をナノ単位で削る加工技術です。狙った特定部位をピンポイントで切り出し、マニピュレーターで回収して100nm以下まで仕上げられるため、半導体や金属の欠陥解析に不可欠です。
なぜガリウムが使用されるのか
FIB(集束イオンビーム)装置のイオン源にガリウム(Ga)が選ばれるのには、主に「扱いやすさ」と「加工効率」の2つの観点から明確な理由があります。
1. 装置として扱いやすい(物理的特性)
ガリウムには、精密装置の中で利用するのに理想的な性質が揃っています。
- 低融点: 融点が約30℃と非常に低いため、少し温めるだけで簡単に液体になります。液体状にすることで、イオンを安定して引き出しやすくなります。
- 低い蒸気圧: 真空中でも蒸発しにくいため、装置内の真空を汚さず、イオン源としての寿命も長く保てます。
- タングステンとの相性: イオンを引き出す針(タングステン製)に対して「濡れ性」が良く、反応して壊すこともないため、非常に安定したイオン源を作れます。
2. 「削る力」のバランスが良い(加工特性)
- 適度な重さ: 電子に比べてガリウム原子は重く、大きなエネルギーを持っています。このため、試料にぶつかったときに表面の原子を効率よく弾き飛ばす(スパッタリング)ことができます。
- 細く絞れる: 重い一方で、ビームを非常に細く(ナノ単位)絞る能力に優れているため、極めて精密な加工が可能です。
ガリウムは非常に優秀ですが、加工中に試料へガリウムが混入(汚染)したり、特定の金属を脆くしたりする欠点もあります。そのため、最近ではより広範囲を高速に削るためのキセノン(Xe)プラズマFIBなども登場し、用途によって使い分けられています。

ガリウムは融点が約30℃と低く、真空中でも安定した液体として扱えるため、精密なイオン源に適しています。また、適度な質量を持ち、ビームを極細に絞れるため、試料をナノ単位で効率よく削るのに最適だからです。
どうやってイオンのビームを細く絞っているのか
イオンのビームを細く絞る仕組みは、基本的には「静電レンズ」という電気の力(電界)を利用したレンズシステムによるものです。
光学顕微鏡が「ガラスのレンズ」で光を屈折させるように、FIBは「電気を帯びた金属板」でイオンの進路を曲げて一点に集めます。
1. 「発生」段階でまず細くする
ガリウムが塗られた鋭いタングステン針の先に強い電圧をかけると、ガリウムが引き出されて「テイラーコーン」と呼ばれる極めて鋭い円錐形を作ります。このコーンの先端(わずか数ナノメートル)からイオンが飛び出すため、スタートの時点でビームの「種」は非常に小さくなっています。
2. 静電レンズで絞り込む
イオンはプラスの電荷を持っているため、電気の力で反発したり引きつけられたりします。装置内にある複数の静電レンズがこの性質を利用します。
- 集束レンズ: 飛び出したイオンを平行に近いビームに整えます。
- 対物レンズ: 最後にビームを試料表面の一点(スポット)に急激に絞り込みます。
3. アパーチャ(絞り)で余分なビームをカットする
レンズの途中に「アパーチャ」と呼ばれる小さな穴の空いた板があります。ここで中心から外れた「ボヤけたビーム」を遮断し、中心の最も鋭い部分だけを通過させることで、最終的な加工精度をナノレベルまで高めています。
この「細く絞る技術」のおかげで、特定の原子数個分を削り取るような精密な加工が可能になっています。

鋭い針先から引き出したイオンを、静電レンズ(電気の力)を使って屈折させ、一点に集中させます。さらにアパーチャ(小さな穴)で余分な外側のビームをカットすることで、ナノ単位の細いビームを実現しています。
なぜテイラーコーンが発生するのか
テイラーコーンが発生する理由は、液体の表面に働く「表面張力」と、電気による「静電力(静電斥力)」という2つの相反する力が均衡(バランス)を取ろうとするためです。
1. 2つの力のせめぎ合い
- 表面張力: 液体(ガリウムなど)が、自身の表面積を最小にして「丸くなろう」とする力です。
- 静電力: 高電圧をかけることで、液体の表面にプラスの電荷が溜まります。電荷同士は反発し合うため、外側へ「引き伸ばそう」とする力が働きます。
2. 円錐形への変形
電圧を上げていくと、ある一点で静電力が表面張力を上回ります。 すると、丸かった液滴が電圧の高い方向(外側)へ引きずり出され、鋭い先端を持つ円錐形へと形を変えます。これが「テイラーコーン」です。
3. 先端でのイオン放出
テイラーコーンの先端は極限まで細くなっており(半径数ナノメートル)、そこに電界が集中します。この強烈な電界によって、先端にある原子が次々と「イオン」として引き剥がされ、高速で飛び出していくのです。

液体の「丸くなろうとする表面張力」と、高電圧による「引き伸ばそうとする静電力」が均衡するために発生します。電圧が一定を超えると液滴が鋭い円錐形になり、その先端に電界が集中することで、イオンが連続的に放出されます。

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