この記事で分かること
- 還元作用を持つ理由:窒素酸化物の強い結合を断ち切り、窒素原子を表面で結合させて窒素分子(N2)として放出する能力が極めて高い金属です。酸素が混在する環境でも、NOxを選択的に還元できる唯一無二の特性を持ちます。
- NーO結合を解離する力が強い理由:ロジウムの電子がNOxの分子軌道に効率よく入り込み、NとOの結合を弱める「逆供与」が起きるためです。さらに、引き剥がしたN原子を表面で安定して保持できる高い親和性を持つため、結合を断ち切る力が強力なのです。
- ロジウム触媒の問題点:産出量が極めて少なく価格が極めて高価で不安定な点です。また、長時間の高温使用で粒子が固まり性能が落ちる「シンタリング」や、オイル成分等が付着して反応を妨げる「被毒」への対策も課題です。
三元触媒のロジウム触媒
触媒とは、それ自身は変化せずに、化学反応を促進させる物質のことです。反応に必要なエネルギーの壁(活性化エネルギー)を下げることで、通常よりも低い温度や短い時間で効率よく反応を進める役割を担っています。
現代の化学工業のプロセスの約90%に何らかの触媒が関わっていると言われているなど、私たちの生活のあらゆる場面で活躍しています。
今回は自動車の排気ガス浄化触媒のロジウムに関する記事となります。
ロジウムが還元作用を持つ理由は何か
ロジウム(Rh)が優れた還元作用を持つ理由は、主に「窒素(N)と酸素(O)の強力な結合を断ち切る能力」と、「窒素分子(N2)として速やかに放出する性質」にあります。
1. N-O結合を「引き剥がす」力
窒素酸化物(NOx)を無害な窒素に変えるには、窒素と酸素の非常に強い結びつきをバラバラにする必要があります。
ロジウムの表面は、NOx分子が吸着した際に、窒素と酸素の間の結合を弱めて引き剥がす(解離させる)力が、他の金属よりも圧倒的に強いのです。
2. 窒素を「くっつけ、離す」絶妙なバランス
NOxから引き剥がされた「窒素原子(N)」は、ロジウムの表面で2つ並ぶと結合して窒素分子(N2)になります。
- 吸着: 窒素原子を表面に保持し、ペアになるまで待つ場を提供します。
- 脱離: 窒素分子になった後は、ロジウム表面がそれを「追い出す」ように速やかに放出します。この「キャッチして、ペアにさせ、すぐリリースする」という一連のスピードが速いため、連続して還元反応が起こります。
3. 酸素に対する「鈍感さ」
三元触媒の内部には、一酸化炭素(CO)などを酸化させるための酸素も存在します。
プラチナやパラジウムは酸素を好んで捕まえてしまいますが、ロジウムは酸素がある環境下でも、NOxを優先的に還元するという特殊な選択性を持っています。このため、酸素が混在する複雑な排気ガスの中でも、NOxを狙い撃ちで浄化できるのです。

ロジウムは、窒素酸化物の強い結合を断ち切り、窒素原子を表面で結合させて窒素分子(N2)として放出する能力が極めて高い金属です。酸素が混在する環境でも、NOxを選択的に還元できる唯一無二の特性を持ちます。
N-O結合を解離させる力が強い理由は何か
ロジウムが窒素酸化物(NOx)の N-O結合を引き剥がす(解離させる)力が強い理由は、ロジウムの持つ電子の状態(d電子)が、NOx分子の「結合を壊すための軌道」に電子を送り込みやすいからです。
1. 逆供与(バックドネーション)による結合の弱体化
NOx分子がロジウムの表面に吸着すると、ロジウムの豊富な電子が、NOxの「反結合性軌道」という場所に流れ込みます。
- 反結合性軌道: ここに電子が入ると、NとOの結びつきが不安定になり、結合が弱まる性質があります。
- ロジウムはこの電子の受け渡しが非常にスムーズなため、NとOの「手」を強引に離させることができます。
2. N原子との強い親和性
ロジウムは酸素(O)だけでなく、窒素(N)に対しても非常に強い親和性(くっつく力)を持っています。
分子の結合を壊すには、壊した後の原子を安定して保持する必要がありますが、ロジウムはバラバラになったN原子を表面でしっかり捕まえておくことができるため、解離反応がスムーズに進みます。
他の金属との違い
例えばプラチナも酸化には強いですが、ロジウムほど「N-O結合を壊してN原子を保持する」バランスが良くありません。
ロジウムはこの「壊す力」と「窒素として放す力」のバランスが絶妙なため、代替が難しいとされています。

ロジウムの電子がNOxの分子軌道に効率よく入り込み、NとOの結合を弱める「逆供与」が起きるためです。さらに、引き剥がしたN原子を表面で安定して保持できる高い親和性を持つため、結合を断ち切る力が強力なのです。
反結合性軌道とは何か
反結合性軌道とは、そこに電子が入ると、原子同士の結びつきを弱めてバラバラにしようとする軌道のことです。
1. 「波」の打ち消し合いで考える
電子は「波」の性質を持っています。2つの原子が近づいて結合を作ろうとする際、電子の波が重なり合います。
- 結合性軌道: 波が「強め合う」重なり方。原子の間に電子が集中し、接着剤のような役割をして結合を安定させます。
- 反結合性軌道: 波が「弱め合う(打ち消し合う)」重なり方。原子と原子の間に電子がいない「節(ふし)」ができ、原子同士が反発して不安定になります。
2. エネルギーの状態
- 安定(結合性): 元の原子の状態よりエネルギーが低く、ハッピーな状態。
- 不安定(反結合性): 元の原子の状態よりエネルギーが高く、無理やりくっついているストレスフルな状態。
通常、分子はエネルギーの低い「結合性軌道」から順に電子を埋めて安定しようとします。しかし、外部から強いエネルギー(光や熱)を与えられたり、他の物質から電子を押し込まれたりして、
この反結合性軌道に電子が入ると、結合の強さが相殺されて、最後には結合が切れてしまいます。

電子の波が打ち消し合うことで生じる、高エネルギーで不安定な軌道のことです。ここに電子が入ると、原子間の結合を弱める力が働きます。触媒はこの仕組みを利用して、有害物質の強い結合を効率よく切断しています。
ロジウム触媒の問題点は何か
ロジウム触媒は、排気ガス浄化、特に窒素酸化物(NOx)の還元において「代えのきかない王者」ですが、いくつかの深刻な問題点も抱えています。
1. 劇的な価格高騰と不安定な供給
ロジウムは「世界で最も高価な金属」の一つとして知られています。
- 希少性: 地殻に含まれる量が極めて少なく、年間生産量はプラチナの10分の1程度、金(ゴールド)の数百分の一しかありません。
- 価格の乱高下: 需要のほとんどが自動車触媒であるため、環境規制が強まると価格が跳ね上がります。過去には1kgあたり数千万円という、プラチナの10倍以上の価格がついたこともあります。
2. 「シンタリング(粒成長)」による劣化
高温の排気ガスにさらされ続けると、触媒の表面にあるロジウムの微粒子が移動し、互いにくっついて大きな塊になってしまう現象(シンタリング)が起こります。
- 反応面積の減少: 触媒は「表面」で反応させるため、塊になると有効な面積が減り、浄化性能が落ちてしまいます。
3. 被毒(ひどく)による機能停止
排気ガス中に含まれる特定の成分が、ロジウムの表面を覆ってしまうことで反応を邪魔する現象です。
- リン(P)や硫黄(S): エンジンオイルや燃料に含まれるこれらの成分がロジウムと強く結びつき、NOxを捕まえるための「席」を塞いでしまいます。

最大の問題は、産出量が極めて少なく価格が極めて高価で不安定な点です。また、長時間の高温使用で粒子が固まり性能が落ちる「シンタリング」や、オイル成分等が付着して反応を妨げる「被毒」への対策も課題です。

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