住友ベークライトによる京セラのケミカル事業買収 買収する事業の内容は何か?京セラの売却理由は?

この記事で分かること

  • 買収する事業内容:京セラの「ケミカル事業」です。具体的には、半導体を衝撃から守る「封止材」、チップを固定する「ボンディングペースト」、自動車等に使われる「工業用樹脂」の製造販売事業が対象で、中国の子会社を含む国内外の拠点も承継します。
  • 京セラの半導体封止用材料の特徴:「高放熱・高耐熱」と「低反り」に優れた技術が特徴です。特に車載やパワー半導体向けに強みを持ち、過酷な環境下での高い信頼性と、薄型・大型チップを安定して保護する精密な設計が評価されています。
  • 売却理由:業価値向上のための事業ポートフォリオ刷新を理由としています。経営資源を注力分野へ集中させる「ノンコア事業の整理」の一環であり、専門性の高い住友ベークライトへの譲渡が、事業のさらなる成長に最適だと判断しました。

住友ベークライトによる京セラのケミカル事業買収

 住友ベークライトは、京セラが手がけるケミカル事業のうち、半導体封止用材料などの事業を約300億円で取得することを決定しました。

 https://jp.reuters.com/markets/global-markets/USGQXIVFVNOQPGNKJ4PYKNUB54-2026-01-22/

 今回の対象事業の売上高(2025年3月期)は約232億円規模であり、住友ベークライトにとっては中核事業をさらに盤石にする大きな補強となります。

どのような事業を買収するのか

 住友ベークライトが買収するのは、京セラの「半導体部品セラミック材料事業本部」が手掛けているケミカル事業(化学材料事業)です。具体的には、以下の3つの主要製品群とその製造・販売体制が対象となります。

1. 買収対象の主な製品

  • 半導体封止用エポキシ樹脂成形材料: 半導体チップを外部の衝撃や湿気から守るためのプラスチック材料。
  • 半導体用ボンディングペースト: 半導体チップを基板などに固定するための接着剤。
  • 工業用樹脂・コンポジット製品: 自動車や電子機器、一般産業向けに使われる高機能な合成樹脂材料。

2. 買収に含まれる資産・拠点

  • 国内拠点: 国内3か所の生産・開発拠点。
  • 海外拠点: 中国にある製造販売子会社(KYOCERA (Wuxi) Electronic Materials Co., Ltd.)の全持分。
  • 新会社への承継: 京セラが一度これらの事業を新会社(神奈川県川崎市に設立予定)に分割・集約し、その新会社の全株式を住友ベークライトが譲り受ける形をとります。

 「半導体のパッケージングに不可欠な化学材料事業」をまるごと買い取る形です。

住友ベークライトが買収するのは、京セラの「ケミカル事業」です。具体的には、半導体を衝撃から守る「封止材」、チップを固定する「ボンディングペースト」、自動車等に使われる「工業用樹脂」の製造販売事業が対象で、中国の子会社を含む国内外の拠点も承継します。

京セラの半導体封止用材料の特徴は

 京セラが展開している半導体封止用材料(主に旧東芝ケミカルから引き継いだ事業)には、長年の技術蓄積に基づいたいくつかの顕著な特徴があります。

 住友ベークライトが今回の買収で特に高く評価していると思われる、主な特徴は以下の通りです。

1. 優れた「高放熱・高耐熱」特性

 京セラの封止材料は、パワー半導体や車載用半導体など、熱制御が極めて重要な分野に強みを持っています。

  • 高熱伝導: チップから発生する熱を効率よく外部へ逃がす技術に長けており、デバイスの安定稼働に寄与します。
  • 高耐熱性: エンジンルーム付近などの過酷な環境下で使用される半導体を保護するための、高い信頼性を備えています。

2. 「低反り(低応力)」技術

 半導体パッケージの薄型化・大型化が進む中で、材料の熱膨張による「反り」は大きな課題です。

  • 京セラの材料は、樹脂の硬化収縮を抑える設計や、フィラー(充填剤)の配合技術により、基板との密着性を保ちつつ反りを最小限に抑える特徴があります。これにより、製造工程での歩留まり向上に貢献します。

3. モールドアンダーフィル(MUF)への対応

 近年の先端パッケージ(フリップチップ実装など)で用いられる、狭い隙間に樹脂を流し込む「モールドアンダーフィル」技術においても高い実績があります。

  • 流動性が高く、微細な配線の間にも気泡を残さず充填できるため、高性能なプロセッサなどの封止に適しています。

4. 環境対応(グリーン材)

 ハロゲンフリーなど、環境負荷の低い材料開発において業界内でも先行しており、グローバルな環境規制に適合したラインナップを揃えています。


京セラの半導体封止用材料は、「高放熱・高耐熱」「低反り」に優れた技術が特徴です。特に車載やパワー半導体向けに強みを持ち、過酷な環境下での高い信頼性と、薄型・大型チップを安定して保護する精密な設計が評価されています。

なぜ反りが発生するのか

 半導体パッケージで「反り」が発生する主な理由は「熱膨張係数(CTE)の差」「樹脂の硬化収縮」という2つの物理的な現象にあります。

1. 熱膨張係数(CTE)の差

 半導体パッケージは、シリコン(チップ)、金属(配線)、樹脂(封止材)、基板など、異なる素材が層のように重なっています。

  • 現象: 素材ごとに「熱による膨張・収縮のしやすさ」が異なります。
  • 結果: 加熱・冷却時に、よく伸び縮みする素材とあまり動かない素材が引っ張り合うため、バイメタルのように全体が反り上がってしまいます。

2. 樹脂の硬化収縮

 封止材として使われるエポキシ樹脂は、液体から固体へ固まる(硬化する)際に、分子同士が結合して体積がわずかに減少します。

  • 現象: 樹脂がギュッと縮まろうとする力が、動かないチップや基板に対してストレス(応力)として働きます。
  • 結果: この「縮む力」がパッケージを歪ませる原因になります。

反りがもたらす問題

  • 接続不良: 基板とチップの接合部(バンプ)が剥がれたり、断線したりします。
  • 実装エラー: パッケージが反っていると、マウンター(実装機)が吸着できず、後の工程で組み立てができなくなります。

反りは、パッケージを構成する「素材ごとの熱膨張率の差」「樹脂が固まる際の収縮」によって発生します。加熱・冷却時に各素材が異なる割合で伸び縮みし、互いに引っ張り合うことで全体が歪んでしまうのです。

半導体封止用材料で反りを抑制できたのはなぜか

 半導体封止材料において「反り」を抑制できた理由は、主に材料の配合バランスを分子レベルで精密にコントロールしたからです。具体的には、以下の3つのアプローチが組み合わされています。

1. 「フィラー(充填剤)」による熱膨張の調整

 樹脂そのものは熱で大きく伸び縮みしますが、そこにシリカ(二酸化ケイ素)などの無機フィラーを大量に混ぜ込みます。

  • 仕組み: シリカは熱による膨張が極めて小さいため、これを限界まで高充填(樹脂の中にぎっしり詰める)することで、封止材全体の熱膨張率を、中に入っているシリコンチップの数値に限りなく近づけます。

2. 「低応力剤」の添加

 樹脂が硬化する際に発生する「縮む力」を逃がすために、柔軟性のある成分を配合します。

  • 仕組み: シリコーンオイルなどのゴム成分を微細に分散させることで、樹脂内部にクッションのような役割を持たせ、硬化時の歪み(ストレス)を吸収・緩和させます。

3. 硬化収縮の抑制(化学的アプローチ)

 エポキシ樹脂が化学反応を起こして固まる際の分子の組み換えを制御します。

  • 仕組み: 反応のスピードや分子構造の密度を調整し、固体になった瞬間の体積変化を最小限に抑える設計がなされています。

反りを抑制できたのは、シリカフィラーの高充填化により熱膨張率をチップに近づけ、さらに柔軟なゴム成分を配合して硬化時の歪みを吸収したからです。この「硬さと柔らかさ」の絶妙な配合技術が、低反りを実現しています。

京セラが売却する理由は何か

 京セラがケミカル事業(半導体封止用材料など)を住友ベークライトへ売却する理由は、「経営資源の集中と選択(ポートフォリオの刷新)」です。

1. 「ノンコア事業」の整理とリソース集中

 京セラは現在、グループ全体で「ROE 7%以上・PBR 1倍以上」の達成を目指す経営改革を進めています。その中で、売上高2,000億円規模にのぼる「ノンコア事業(非注力事業)」の整理を公言しており、今回の売却はその計画の一環です。

  • 背景: ケミカル事業は、2002年に旧東芝ケミカルを買収して継続してきたものですが、現在の京セラの主力(ファインセラミックスや電子部品)との相乗効果が薄いと判断されました。

2. 事業の「親和性」を重視した成長戦略

 京セラ単独でこの事業を抱え続けるよりも、世界シェア首位の専門メーカーである住友ベークライトの傘下に入る方が、技術開発や販路拡大において事業の価値を最大化できると判断しました。

  • 京セラ側は「住友ベークライトからの提案を受け、対象事業のさらなる成長と発展につながる」と説明しています。

3. 巨額投資の資金確保

 京セラは現在、AI向け半導体パッケージやコンデンサなど、「コア事業」への巨額の設備投資を継続しています。

  • 採算性や成長の爆発力が相対的に低い事業を約300億円で売却することで、その資金をより高い成長が見込める注力分野へ振り向ける狙いがあります。

京セラにとっては「不採算ではないが、自社で持つより専門家に任せて資金を回収する方が得策」という、極めて合理的な経営判断といえます。

京セラは、企業価値向上のための事業ポートフォリオ刷新を理由としています。経営資源を注力分野へ集中させる「ノンコア事業の整理」の一環であり、専門性の高い住友ベークライトへの譲渡が、事業のさらなる成長に最適だと判断しました。

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