この記事で分かること
- 第一三共の特徴:ADC(抗体薬物複合体)技術を強みに、がん領域で世界をリードする研究開発型企業です。主力薬「エンハーツ」が世界的に大ヒット中。英アストラゼネカ等との大型提携により、高い成長性と創薬力を誇ります。
- 抗体薬物複合体とは:がん細胞を狙い撃つ「抗体」に強力な「薬物」を結合させた薬剤です。抗体がミサイルのように標的へ運び、細胞内で薬物を放出するため、正常組織への影響を抑えつつ高い治療効果を発揮します。
第一三共の第3四半期決算
第一三共が2025年10-12月期(第3四半期)決算を発表しています。
主力のがん治療薬「エンハーツ(Enhertu)」などが引き続き好調で、売上自体は非常に力強い成長を維持したものの、市場予想の962億円には届きませんでした。
第一三共の特徴は何か
第一三共は、現在の日本の製薬業界において「最も勢いのある、研究開発主導型(R&D)のグローバル企業」と言えます。
かつては高血圧治療薬などの「生活習慣病領域」が主力でしたが、現在は「がん領域」への劇的なシフトに成功し、世界中の投資家から注目を集めています。
1. 独自の技術「ADC(抗体薬物複合体)」の世界的リーダー
第一三共の最大の特徴は、ADC(Antibody Drug Conjugate)という技術において、世界トップクラスの精度を誇っていることです。
- ADCとは: ガン細胞を狙い撃ちする「抗体」に、強力な「抗がん剤(薬物)」をくっつけた薬剤です。「がん細胞へのミサイル」に例えられます。
- エンハーツ(Enhertu): 同社を象徴する主力製品です。乳がんや胃がんなどの治療において、これまでの常識を覆すほどの高い治療効果を示しており、世界的な標準治療(スタンダード)になりつつあります。
- 後続パイプライン: エンハーツで培った技術(DXd-ADC技術)を横展開し、複数の次世代がん治療薬を同時並行で開発しています。
2. 強力なグローバル戦略とアライアンス(提携)
自社開発の薬を、世界中の患者に届けるための戦略が非常に巧みです。
- アストラゼネカ(AZ)との提携: 英AZ社と巨大な提携を組み、開発費の分担や強力な販売網を活用することで、スピード感を持って世界展開を行っています。
- MSDとの提携: 2023年には米MSD(メルク)とも大規模な提携を発表。これにより、莫大な契約金(最大で約3.3兆円規模)を獲得し、それをさらなる研究開発へ再投資する好循環を生んでいます。
3. 「国内首位級」の研究開発費
第一三共は、稼いだ利益を惜しみなく次の研究に投じる姿勢が鮮明です。
- 日本の製薬会社の中でも、売上高に対する研究開発費の比率が非常に高く、「技術の第一三共」としてのプライドが経営方針に表れています。
- かつての三共(メバロチン等)と第一製薬(クラビット等)が合併した歴史を持ち、伝統的な創薬力に、最新のバイオ技術が融合した形です。
第一三共を理解するためのキーワード一覧
| キーワード | 内容 |
| DXd-ADC | 同社独自のADC技術プラットフォームの名前。 |
| パテント・クリフ | 将来的な特許切れ対策。次々と新薬を投入してこれを克服しようとしています。 |
| 3DX | 「3つのDXd-ADC」を主力製品に育てるという経営目標。 |
「日本発の技術で、世界のがん治療のルールを変えようとしている会社」です。

独自のADC(抗体薬物複合体)技術を強みに、がん領域で世界をリードする研究開発型企業です。主力薬「エンハーツ」が世界的に大ヒット中。英アストラゼネカ等との大型提携により、高い成長性と創薬力を誇ります。
抗体薬物複合体とは何か
抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)とは、ミサイル機能を備えた抗がん剤です。
従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまうため副作用が強いという課題がありましたが、ADCはその弱点を克服するために開発されました。
1. 構成要素
- 抗体(ミサイルの誘導装置): がん細胞の表面にある特定の目印(抗原)にだけくっつく性質を持っています。
- 薬物(爆弾): がん細胞を殺す強力な「毒(抗がん剤)」です。単体では毒性が強すぎて使えないような強力な薬物も、ADCなら運ぶことができます。
- リンカー(つなぎ目): 抗体と薬物をつなぐ鎖です。「がん細胞の中に入るまでは絶対に外れない」という高い安定性が求められます。
2. 仕組み(どうやって効くのか)
- 狙い撃ち: 体内に入ったADCが、がん細胞の目印を見つけて結合します。
- 取り込み: がん細胞がADCを自分の細胞内へ取り込みます。
- 爆発: 細胞内でリンカーが外れ(または分解され)、強力な薬物が放出されます。
- 死滅: ピンポイントで薬物が作用し、がん細胞を内側から破壊します。
3. 第一三共がなぜ凄いのか
第一三共のADC技術(特に「エンハーツ」)が革命的と言われる理由は、「バイスタンダー効果」にあります。
ADCが取り込まれたがん細胞だけでなく、その周りに潜んでいる「目印のないがん細胞」まで道連れにして攻撃する性質のことです。これにより、がん細胞が混ざり合っている複雑な腫瘍でも高い効果を発揮できます。
この技術により、第一三共は現在、世界中のがん治療のスタンダードを塗り替えようとしています。

抗体薬物複合体(ADC)とは、がん細胞を狙い撃つ「抗体」に強力な「薬物」を結合させた薬剤です。抗体がミサイルのように標的へ運び、細胞内で薬物を放出するため、正常組織への影響を抑えつつ高い治療効果を発揮します。
なぜ営業増益が予想下回ったのか
2025年10-12月期の営業利益が、前年比で46%も増益したにもかかわらず市場予想に届かなかった理由は、主に以下の3点に集約されます。
1. 研究開発費(R&D)の前倒し投入
第一三共は現在、複数の次世代ADC(抗がん剤)の開発を並行して進めています。
- 治験の進捗が想定より早く、それに伴う試験費用や外部への委託費がこの四半期に集中して発生しました。
- 将来の成長のための「先行投資」ではありますが、短期的には利益を押し下げる要因となりました。
2. 販売管理費(SG&A)の増加
主力薬「エンハーツ」の適応拡大や、新薬のローンチに向けた体制整備のコストがかさみました。
- グローバルでの販売網強化や広告宣伝費、人件費などが、市場が想定していた水準よりも膨らんだことが影響しています。
3. 円安の追い風を上回る「期待値」
海外売上比率が高いため、円安は利益を押し上げるプラス要因でした。
- しかし、投資家側は「これだけの円安なら、もっと利益が出るはずだ」と予測をさらに引き上げていました。
- 結果として、実力(実績)は伸びたものの、膨らみすぎた期待(予想)との間にギャップが生じてしまいました。
「稼ぐ力(売上)」は非常に好調でしたが、「次の薬を作るための投資」と「売るための準備費用」が想定以上に先行したことが、予想を下回った直接的な原因です。

大幅な増益でしたが、研究開発費や販売促進費の投入額が市場の想定を上回ったことが主な要因です。新薬開発の加速やグローバル展開に伴うコストが先行し、円安による利益押し上げ効果を相殺した形となりました。
次世代ADC(抗がん剤)の開発の内容は
第一三共が進めている次世代ADC(抗がん剤)の開発は、現在世界的にヒットしている「エンハーツ」の技術をベースに、「標的(狙い撃ちする目印)」を変えた新薬を次々と投入するという戦略です。
主な次世代ADCと開発状況
| 開発コード / 一般名 | ターゲット(標的) | 主な対象がん種 | 特徴・状況 |
| Dato-DXd (ダトロポタマブ) | TROP2 | 肺がん、乳がん | 「第2のエンハーツ」として期待。アストラゼネカと共同開発中。 |
| HER3-DXd (パトリツマブ) | HER3 | 肺がん、乳がん | メルク(MSD)と提携。HER3を標的とする世界初の薬剤を目指す。 |
| I-DXd (イフィナタマブ) | B7-H3 | 小細胞肺がん等 | 難治性のがんに対して有望なデータが出ており、開発が加速中。 |
| R-DXd (ラルドタツグ) | CDH6 | 卵巣がん等 | 婦人科がん領域での新たな選択肢として期待。 |
開発の3つのポイント
1. 「DXdプラットフォーム」の横展開
エンハーツで成功した「薬物(DXd)」と「リンカー(つなぎ目)」の組み合わせが非常に優秀であるため、「抗体(ミサイルの頭脳部分)」だけを差し替えることで、異なるがん種を次々と狙い撃ちしています。
2. 巨大資本との提携(アライアンス)
英アストラゼネカや米メルクといった世界的大手と提携し、数兆円規模の資金と膨大な治験データを活用しています。これにより、単独で開発するよりも圧倒的に早いスピードで世界中の承認取得を目指しています。
3. 「がんの早期治療」への進出
現在は「既存の治療が効かなくなった末期患者」向けが中心ですが、現在は「手術前後の補助療法」や「最初の治療(一次治療)」など、より早い段階の患者への適応拡大を進めています。これが成功すれば、患者数が増え、市場規模がさらに数倍に膨らみます。
第一三共は単なる「エンハーツの会社」ではなく、「ADCというプラットフォームを量産できる工場」のような強みを持っています。

成功を収めた「エンハーツ」の技術を基盤に、「抗体(標的)」を付け替えて異なるがんを狙い撃つ戦略です。肺がん標的のDato-DXdなど複数の新薬を同時開発中で、米メルク等との提携により世界市場での早期承認とシェア拡大を加速させています。

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